一三話 悠里、屋敷に帰宅する
魔力体は空気を裂くような轟音を響かせ、地面を大きく削りながら、速度を緩めることなくウバに向かって突進していった。
「魔力を全解放する魔法!」ウバは魔法を唱え、身体に纏った膨大な魔力を一つの方向に集中させた。分散することなく、その全てが彼の武器である大鎌に注がれていく。
カトレアの放った魔力体と、ウバが集めた膨大な魔力を吸収した大鎌が衝突し、強力な衝撃波が周囲に広がった。空気が震え、景色が揺れ、その瞬間に生まれた閃光が周囲を一瞬で照らし出した。
ウバは魔力体に亀裂を入れることに成功したが、その亀裂から魔力体の波が押し寄せてきた。彼は抵抗する術もなく、その波に飲み込まれてしまった。
カトレアは魔力体が消滅したことを確認すると、ウバの様子に目を向けた。彼の周囲には、惨状が広がっていた。ウバは幻想世界から脱出した直後、幻想虚無の魔力体に対処しきれず、左半身に激しい損傷を受けていた。
「驚いた、幻想虚無を受けても正気を保っているなんて。」
ウバの左半身は魔力体に飲み込まれ、残されたのは右半身だけとなっていたが、その右半身もかなり傷んでいるようだった。
「俺の負けだ。もう、魔力は残っていない……」
ウバは弱々しい声で呟いた。その言葉には、身体の再生が遅れていることが滲み出ていた。喪失した部分以外からも徐々に消滅が始まっており、このまま何もしなければ完全に消え去ってしまうのは明らかだった。
「それにしても……俺の最後の一撃をものともせずとは、もう打つ手がない……」ウバは苦痛をこらえながら呟いた。
「さっきの魔法が序盤に発動していたら、詰んでいたわ。」カトレアは冷静に指摘した。
「その魔法は俺の切り札さ……そう何度も発動できるものじゃない。」
「消滅する前に、あなたが持っている情報の全てを吐く気になったかしら?」
「魔王様に誓って、情報を漏らすつもりはないぜ。」ウバは毅然とした表情で答えた。
「立派ね。些細なことでも良いわ、嘘偽りがなければ。」カトレアは明るい笑顔で言った。
「ここまで恐怖に満ちた笑顔を見たのは、生まれて初めてだ。」ウバは内心で感じた。
「そうだわ、魂を分断する魔法の発現条件について教えてもらえない?」カトレアはさらに追及した。
異世界で魔法を使うためには、イメージ、適性、魔力の三つの要素が必要で、これらは相互に関連している。いずれかが欠けると魔法を発動できず、イメージが不明確では効果を思い描けず、適性がなければ使用が困難になり、魔力が不足すれば発動に必要なエネルギーが足りなくなる。したがって、これらの要素はすべて重要である。
また、魔法を使うためには発現条件も存在する。アールグレイ家の幻想魔法は相伝魔法であり、先祖代々子孫に継承されてきた強力な魔法である。このような相伝魔法は、特定の条件や儀式を満たすことで発動可能となることが一般的だ。もちろん、精神魔法を扱うアフタヌーン家もその例に漏れない。
「魔法は使えても、魔法の発現条件を教えられない。」ウバは落ち着いた口調で、何の忌憚もなくキッパリと答えた。
「ん?聞き間違いかしら?寿命を縮めるような言動は控えた方がいいわよ。」
「事実だ……正確には、魔法の発現条件が分からないんだ。」
「分からないということは……でも待って、あなたの魔法なら魔女たちの魔法を奪って意のままに振るうことができるのでしょう?」
「殺した生物の異能を引き継ぐ魔法は使えるが、魂を分断する魔法は俺の手によって得たものではない。」
「なら、その魔法を教えてちょうだい。」カトレアは促したが、ウバはその要求に警戒心を抱き、簡単には口を開かなかった。そんな中、彼は魔力を失ったのか、身体の再生を断念したようで、次第に消滅し始めた。右半身だけが残った状態から、とうとう首元まで消えてしまった。
「最後に、あなたが死んだら今後何が起きるかしら?」
「そうだな……魔女狩りの二つ名を持つ俺が幻想の魔女にやられたと知れば、魔王軍は恐れおののいて身を引くだろう。中には、俺のように戦法を変えて襲撃を企てる者も出てくるかもしれないから、しっかり警戒した方がいい。」
「ご忠告、感謝するわ。さようなら。」
「ああ……先に地獄で待っている……ぜ。」ウバは最後の言葉を残し、やがてその身体は静かに消滅した。
カトレアはウバの消滅を見届けた後、魔力と体力が尽き果て、倒れそうになった。そんな彼女を支えたのはアイリスだった。アイリスは優しく肩を貸し、カトレアの腕を後ろに回して支えた。「大丈夫じゃありませんよ…師匠。」
カトレアは疲労のため瞳を閉じながら返答した。時間を巻き戻す魔法をアイリスが唱えると、修復不可能と思われた学園のグラウンドは、徐々に元通りに復元されていった。
「もし師匠が助けてくれていたら、こんなことにはならなかったのに。」
「私がいなかったら、どう対処するつもりだったのかな?」
「申し訳ありませんでした。」
「それでこそ、私の愛弟子だ。」アイリスは微笑みながら言い、優しくカトレアの頭を撫でた。そのまま目的地に移動する魔法を使って、別の場所へ転移した。
転移先はアールグレイ家の屋敷の玄関前だった。カトレアは周囲を見渡し、ほっとした安堵の表情を浮かべた。
「師匠、ブルームにはまだアメリアやルピシアが残っていて…」
「彼女たちはすでにこの屋敷に戻っているよ。」
「そうですか…それなら安心ですね。」カトレアは心の奥の不安が徐々に薄れるのを感じた。
屋敷の中に入ると、アメリアとルピシアが二人を迎えた。「お帰りなさい、アイリスさん、カトレア!」アメリアが明るい声を上げた。「ご無事でよかったです!」ルピシアも続けた。
「ただいま。心配をかけてごめんなさい。」アメリアとルピシアは重傷を負っていたが、アイリスの治療によって元気を取り戻していた。二人の表情には、戦いの影響を感じさせない明るさが溢れていた。
屋敷の中には、再会を喜ぶ温かな雰囲気が広がっていた。




