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フジキの差し入れ

 風馬は次の試合へと準備をする。試合は深夜にまで及ぶ事もある。

 勝ち進めば勝ち進む程、試合の疲れと言うものもまた色濃く残る。

 例え、達人同士でも──否、達人級の侍同士だからこそ、互いにその神経を磨り減らすのだ。

 故に座禅室と言うのが設けられている。

 座禅室ではリラックス効果のある香が焚かれ、座禅して瞑想、またはイメトレする為に用意された休憩室である。

 試合を済ませた侍はここで静かに精神を回復させ、次の試合へと挑む。

 風馬もまた座禅室で瞑想し、猛る意識を落ち着かせる。

 その横で狼十もまた瞑想する。

 試合は一試合で終わる事はなく、侍の精神力と霊力、体力が続く限り、繰り返して行われるのだ。

 八百万の神々は元々が戦の神などである事も多い為に神々が満足するまで続けられる。

 神々の満足する為だけにただ、ひたすらに侍は剣技を磨き、霊力をより高い質へと昇華する。

 挫折などがつきまとう根比べの試合だが、故に乗り越えた侍は名を馳せる程の武神の恩恵を得られると言われている。

 実際、活躍する侍達はこの試合を乗り越えた者である事もざらではない。


「先生」


 そんな風馬にフジキが声を掛ける。

 座禅室で話す事は厳禁ではないが、下手に話をしたがる者は少ない。

 緊張感がピークである以上、余計な会話を持ち込む者はいない。

 フジキもそんな侍達の緊迫感に気圧されつつ、風馬の前に弁当箱を置いて、その場を去る。


「一言くらい礼を言っても良かったんじゃないか?」


 そんな風に一言も発する事なく瞑想し続ける風馬に狼十が声を掛ける。

 風馬はゆっくり瞼を開けると弁当箱を拾い、中身を開ける。


「・・・敵に囲まれた中で会話する事をあんたはどう思う?」

「理屈は解る」

「だろ?──つまり、そう言う事だ」


 風馬はそう言うと弁当箱に入っていた握り飯を頬張る。


「では、敵に囲まれた中、食う食事はどうだ?」

「それは負けた嫌がらせか、何かか?」

「そう捉えたのなら謝ろう。単純に興味本意だ」

「なら、俺からも質問だ。この殺気だっている中であんたは暢気に飯が食えると思うか?」

「時と場合による」

「だろ?──つまり、そう言う事だ」


 風馬はそう言って立ち上がると弁当箱を手に座禅室を後にする。

 そんな風馬が出て行ってから狼十はひとり笑う。


───


──



 風馬はフジキを探し、辺りを見渡す。

 そして、目当ての人間を見付けて、ゆっくりと歩み寄る。


「フジキちゃん」

「──あ。先生」

「すまん。座禅室について話すのを忘れていた。弁当ありがとうね」

「もう食べ終わったんすか?」

「あんな場所じゃあ、安心して食えないからね。でも、フジキちゃんの手作りなのは分かったよ」


 フジキは俯いたまま、風馬から弁当箱を受け取ると空を見上げながら風馬に背を向ける。


「・・・来年」


 なんとも気まずい雰囲気の中、フジキがポツリと呟く。


「来年は二人で落ち着いて食べれる場所を教えて下さいね?」

「それ、告白?」

「まさか、私はお嬢一筋っすよ」


 そう言うとフジキは振り返りながらいたずらっぽく笑って舌を出す。

 そんなフジキに風馬も笑い、座禅室へと戻ろうとする。


「先生」


 フジキの声に風馬は歩みを止め、耳だけ傾けて聞く。


「先生の無手勝流の真髄・・・是非、私に見せて下さい」

「・・・やれやれ。一番弟子に頼まれたら断れないな」


 風馬はフジキとそんなやり取りをすると再び座禅室へと戻って行く。

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