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考え無し女神に召喚された結果

作者: 冷めたメヒカリの天麩羅

連載で詰まってしまい、息抜き序での何となく思い付きで。

 気が付くと硬い地面の上に寝ていた。上には岩肌の天井。昨夜は仕事を終えて外で夕食を済ませ、帰って一風呂浴びて、確かに布団に潜り込んで寝たはず。

 そう思い出して彼は違和感を抱く。


 何故なら―


「なんでパジャマじゃなくてジャージ? それに俺……俺? 俺は何者なんだ?」


 自分の名前はおろか、家族構成や友人知人が居たかすら思い出せない。

 日本で生活し、何を仕事にしていたか、世界情勢等々は思い出せる。政治家や芸能人など、自分に直接関わりの無かった人物の事も思い出せない。

 しかし、自分の身近に居たはずの人々の記憶だけがスッポリと抜け落ちているのだ。

 それに普通ならパニックに陥っていてもおかしくない状況なのに、意外にも冷静な自分を不思議に思う。


「なんだか気味が悪いな」


 辺りを見回して、そう一人ごちる。

 その時に、また違和感を感じた。周りを岩壁に囲まれているのは良いとして、いや良くはないが、光源が一切無いのに『見えている』のだ。

 そして、岩壁で囲まれた部屋の中央に自分が居り、壁の一面にそれがあるのを確認する。


「大画面モニター?」


 そこに在ったのは八十インチ以上はあろうかという見慣れた16:9のアスペクト比のワイドモニターである。

 なんでこんな物が、と彼はしげしげと眺めながら、リモコンとか電源は何処かと探す。

 そして偶然、画面に手が触れた。


「うおっ、眩し!」


 モニターに明かりが点ったのだ。驚いて彼は数歩飛び退く。


「タッチパネル式?」


 目を眇め、明るさに慣れると恐る恐るモニターに近付いて行く。すると画面上にブロックノイズが走ったかと思うと、そこには美しい女性の姿が映し出された。


「なっ!」


 驚き、彼は再びモニターの前から飛び退く。


『驚かせてしまいましたね。はじめまし、私はこの世界を管理を任されている女神です。お願いがあって貴方を召喚しました』


「まさかの異世界召喚だった件」


 思わず彼は呟き、ラノベのタイトルかよと心の中で自分に突っ込みを入れて苦笑する。異常な状況ではあるが、パニックを起こさない自分に安堵していた。

 それよりも今は目の前に映る女神を名乗る女性だ。彼女は続けてこうも言った。


『質問があれば、どうぞ』


「聞きたい事は色々とありますが、まずはその『お願い』と言うのを話して頂けませんか」


 自称女神は訥々と語る。

 自分は幾つかの世界の管理を上位の神から任されている事。

 その世界で知恵を持つ生き物を育む事を使命として与えられている事。

 そして知恵を持つ生き物の文明・文化を発達・発展させる事もそれに含まれる。


『そして、私を含めて神々が管理する世界で、知恵を持つ生き物の文明・文化の発達・発展が途中で停滞してしまうのです。そこで、どうしてなのかを調べる為に、私の管理する世界が選ばれ、貴方を召喚したのです』


 俺の意思は関係無しですか、そうですかと内心やさぐれていると自称女神が言う。


『そちらの神々の許可は得ております。召喚するにあたっての対価も支払っていますので』


「モニター越しでも心が読めるんですか。それで具体的に私にどうしろと?」


『停滞しているこの世界の文明・文化の発展の手助けをして欲しいのです。その為のスキルを貴方に与えてあります』


「スキル?」


『心の奥に意識を集中してみて下さい。自ずと分かるようにしてあります』


 記憶ばかりではなく、何か色々と弄られているらしい。そう思いつつも彼は言われた通りにしてみる。すると脳裏に文字が浮かんだ。


・国立国会図書館

 日本国立国会図書館の全ての所蔵物の閲覧が可能。随時更新あり。


・計測分析

 全ての物質とその構成、全ての物理量・化学量などについての正確な情報を得る事が可能。


・能工巧匠

 あらゆる物を正確に加工出来る。


「……質問良いですか? 何故に国会図書館?」


『貴方の住んでいた国のあらゆる出版物が集められていると、あちらの神々から聞いて選びました』


 確か国会図書館には国内出版物は全て納める事が法律で決められている。それこそ専門書から新聞雑誌までありとあらゆる全てである。理念は『真理がわれらを自由にする』だ。


「後の二つをそれを生かす為って事ですか……」


 確かに、具体的に色々と示せれば説得力もあるであろう。

 とは言え、彼は自称女神が管理している世界の事は何も知らないのだ。その辺りを突っ込んでみると、そこまで気が回らなかったと意外にも素直に謝られた。

 そこで色々と質疑応答の結果、よくある中世的世界観のファンタジー世界である事が知れた。

 人やエルフやドワーフに獣人等の知的種族、一括りに人類と呼ばれる存在が居て、魔法があり、モンスターが跋扈している世界である。

 自称女神が管理している他の世界や、他の神々の世界も似たり寄ったりらしい。


「生存競争が激し過ぎるのと、特権階級や宗教勢力が強すぎて新しい概念や技術が生まれ難い、広がり難い世界ですかね」


『恥ずかしながら……』


 そして、一つ気になる事を聞いてみた。

 彼は読書ではSFやファンタジー物を好んで読んではいたが、常々疑問に思っていた事がある。


「魔法ってエネルギー保存の法則から外れてません?」


 それに対しての自称女神の答えはこうだ。


「創造神様がそう創られましたから」


 彼は気付く。自称女神が言っている世界とは宇宙ではなく、生命が棲む惑星かそれに準じる物じゃないかと。そして、宇宙全体でエネルギー保存の法則が破れているのでは、と。


「魔法って何か法則性とかあるんですか?」


『いいえ。感情やイメージの想起によって具現化する現象です。そこには使う者の意思と魔力しか介在しません』

 新たなキーワードの出現である。魔力とは何ぞや? それも彼は常々思っていた事である。物語によってはその話の中で様々に解釈される不確定な物であり、世界観を構築するのにも使われたりもする。


『精神の持つエネルギーです』


 どうやら、精神と言う形而上の物も、この宇宙では物理的に存在するらしい。彼は不安になり、ある一つの質問をする。


「例えばですが、石ころ一個生み出すのに、どれくらいの精神エネルギーが必要になりますか」


『適性を持つ術者なら、殆ど使いません。そうですね、例えを変えれば、適性があり鍛えている者であれば、貴方の今居る空間を埋める位の大岩を出して精神エネルギーを消費しても、食事をして一晩眠れば回復するでしょう』


 彼は思った。これはヤバい、と。真空からエネルギーを物質として取り出せる。しかも、飯食って一晩眠れば回復するとかヤバ過ぎると。


「女神様、非常に言い難いのですが」


『何でしょうか? 是非とも話して下さい』


「文明の発達・発展は諦めた方が良いと思いますよ」


『何故ですか?』


「何故も何も、科学、特に物理学の発展が問題になりますよ。この世界と言うか宇宙全体の物理法則が私の居た世界と同じような物であれば、ですが」


『殆ど同じだからこそ、貴方を召喚したのです』


 ああ、この自称女神は分かっていないと彼は思う。


「私の居た世界では、物理学は物質の本質を解き明かす事を目的とする部分もありましてね。素粒子物理学とか量子物理学とか呼ばれる分野です。先程、貴女は仰いましたよね。魔法はイメージの想起によって起こる法則性を持たない現象だと。そして大岩を出して消費した分は一晩で回復可能だと」


『はい、そうですね』


「この世界は、私の居た世界と物理法則は殆ど同じと仰いました。と言うことは核分裂や核融合、物質と反物質の対消滅もある、と言う事ですよね。ここまで言えばお分かりになるでしょう」


 画面の向こうで自称女神は、はっと何かに気付くと、その顔を青ざめさせた。


『ど、どうしましょう?』


 狼狽える自称女神に彼は肩を竦めて言う。


「どうにもなりません。知れば試したくなるのが人間てもんです。最悪は世界が吹っ飛んで終わりですね」


 画面の向こう側で自称女神ががっくりと肩を落とした。


『他の神々と一度協議する必要がありますね』


「そうして下さい。それと、私を元の世界に戻す事は」


『それは出来ません。彼方には既に対価を支払っていますし、貴方はこちらで働いて貰う為に変えてしまいましたから』


 嫌な予感はしたが彼は聞かずにいられなかった。


「変えたとは?」


『長く続けて貰う為に、不老不死となる種族にしました。ダンジョンマスターです』


「ダンジョン? まさか、人に試練や恩恵を与えたり、あるいは人を宝でおびき寄せて罠に嵌めたりとかするアレですか?」


『はい、前者の理解で合ってます。そこの管理者ですね。食事も排泄も不要ですよ』


 どうやらこの自称女神は、知識を恩恵として与えるダンジョンを作り、彼に運営させようと考えていたらしい。


『貴方に与えたスキルを十全に使って貰うには、人の一生では足りませんし、それに地上に出ては生き残れない可能性が高いですから。では、これから他の神々との協議をしなくてはなりません。暫くそこで待っていて下さい』


「あ、ちょ」


 自称女神は言うだけ言うと、画面から消えた。点灯したままのモニターには何も表示されていない。


 そして彼は待たされた。どうやらダンジョンマスターにされた為か、彼の精神が病む事は無かっし、彼のスキル『国立国会図書館』がある為に退屈はしなかった。ただ、どれほど待たされているのか彼自身も既に分からなくなっている。



 ダンジョンの語源は地下牢。

 彼は永遠の囚われ人となったのである。


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