エミのスタートライン5
「で?」
「で?」
「兄ちゃんはなんで巨乳が良かったの?」
妹は自身の胸を、「よっこら、せいっ!」と寄せて持ち上げてウインクをする。
「妹に欲情する兄はこの世にいないぞ? アニメの世界か大人のビデオの世界だけだ」
「ふっ。兄ちゃん、股間を押さえている奴に説得力はないぜ?」
「勃ってねーよ!?」
妹はため息を吐いて、
「全国的美少女を捕まえてそれは無いぜ?」
「やれやれ。高品質の美少女にお褒めの言葉は無いのかい?」
持ち上げた胸をテーブルに乗せて、また、ため息を吐く妹。
「お前は兄に何を求めているんだ?」
「自分の胸に聞きな? というか股間が真実を伝えてくれているよ? 素直になれよ? ほれほれ」
テーブルの下では、股間を守る兄と責める妹の攻防戦が始まった。
「なかなか防御が固いね? お兄様! 可愛い姫が突いているのに!」
「例えお前が血のつながっていない妹でも俺からしたら実の妹にしか見えないんだっ!?」
テーブルが音を立てる午前六時半。
テーブルの食器がぶつかり合い音を立てる。
「仕方ない。今日はここまでにしてやるさ? お兄ちゃん」
優子はテレビのリモコンを手に取りテレビの電源を付ける。
「仕方ないじゃない!? お前、妹という自覚は無いのかっ!?」
「あなた様の嫁としてなら自覚はあるけど?」
「その自覚は持たんでいいからな!?」
「幼いころ、あなた様に助けられたあの日から、優子はあなた様しか見ていないんだよ?」
「お前なー、あれは違うと」
「そうかしら? 優子を守った後も一生懸命になって走り回っていたけど? カッコよかったな~? あのときのあなた様は?」
「思い出さんでいい。あの頃の俺は死んだ。いまはクソみたいな人間だ」
「死んでいるようには見えないけどな~? 時折見せるヒーローみたいな目は、な・に・か・な~?」
「見詰めんな」
顎を両手で支えて見詰める妹から目を背けて、テレビに意識を集中させる。
テレビでは、今年も抱かれたくない芸人ナンバーワンとなった残りかす二人と争う「ちーちく」コスザキが、美人女優の朝蜜みゆに抱かれたい男ナンバーワンのイケメン俳優と比べられてスタジオで発狂して全裸になり走り回っていた。
「残りかすって確か昔童ティーボーイズっていうドラマ出てなかった?」
「コスザキは裏番組でボッキーズっていう青春ドラマ出てたよね?」
コスザキは、クズ芸人と呼ばれていて、テレビ番組に出る度にスタジオの悲鳴声をお茶の間に届ける芸人だ。
一方、朝蜜みゆは、抱きたい女優ランキングで毎年一位を取り、ショートヘアでブラウンの瞳に二重、微笑む姿は高価な額縁に納めなければいけない、とファンから絶大な支持を獲得している女優だ。
「あんなのになるの? お兄ちゃんは?」
「なる訳ないだろうっ!? アレと一緒にするなっ!?」
「でも、未来なりそうだよね~? あんなのに」
「なぜに・・・・・・っ!?」
「将来魔法使いになりそうだから」
「いつか狂いだすと思うんだ。だからいましよっ?」
「な・・・・・・っ!?」
妹は胸元のボタンを三つ外して挑発する。
優志の意思とは別に、朝の挨拶をしようとする股間を押さえて、
「やめろっ!? やめるんだっ!? クソっ! 言う事を聞くんだっ!? 息子! お前だけは裏切って欲しくないんだっ!?」
「これはこれは。これ、クラスの女子に見せないと~!」
スマホのシャッター音が鳴り下を覗けば、口の端を釣りあげた妹が、スマホで朝の挨拶をする股間の写真を撮っていた。
「何を、するって・・・・・・?」
「優子の胸を見てー、勃起したお兄ちゃんの股間の写真をー、クラスの女子に見せるのー!」
「冗談、だよね?」
「冗談だよ!」
「だよねー!?」
「どうしようかー? ——この写真!」
スマホの画面を見せて揺すろうとする妹。
「今年のお年玉、全額ちょーだいっ!」
「何言ってんすかっ!? 朝蜜みゆさんっ!?」
ちーちくの、後輩みたいに先輩が無茶な要求や質問をしてくるのに対してツッコむ、持ちネタを言った優志に対して、
「何言ってんすかっ! コスザキさんっ!」と切り返した妹。
「なんで優子を美人と褒めたのに俺は抱かれたくない芸人ナンバー2と呼ばれるんだっ!? ど畜生っ!」
★
数分後。
「毎度あり~! またせびるね~! またのお越しをお待ちしていますは?」
「二度と来るなっ!? こん畜生がっ!?」
朝に『後ろの人は大丈夫です!』を読んでくれてありがとうございます! そして、おはようございます!
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涙は悔し涙や後悔の涙、辛いときに流す涙、嬉しいときに流す涙と様々ですが、悔し涙や後悔の涙、辛いときに流す涙は、嬉しいときに流す涙とは違います。
苦しんだときに流す涙は、助けてのサインです。
助けても言えない涙ほど悲しい涙はありません。
早めに辛いなら辛いと言ってくれた方が自分としては嬉しいです。頼られていますからね。
誰かに頼らない弱さは捨てた方がいいです。
支えになろうと涙で濡れている子に大丈夫か? と声をかけてください。
大丈夫か、でも泣いている人にとっては、自分の支えになろうとしてくれていると安心しますので。
我慢した涙の数だけ強くなろうとしないでいいです。というかそれは、間違いですからね? 泣くのを我慢するのは。
涙の数だけ誰かに助けてと気持ちを伝えてください。
勇気をもらって立ち上がり泣いている誰かの支えになれるような素敵な子になってね?
誰かに貰った優しさは別の誰かに分け与えてください。そんなあなたが誰かを笑顔にさせるのですから。
泣いた分だけ助けてもらい立ち上がって誰かに貰った優しさを泣いている子に分け与える。流した涙の数だけ優しさをもらい誰かと手を繫ぎ幸せの輪になるのですよ?
誰かに優しさをもらうだけで終わらせないでね?
大丈夫! あなたは立ち上がった優しい、いい子! 誰かのために立ち上がれ! そんなあなたの心は泣いている誰かを守れる温かい心の持ち主なんだよ!
では! いい夜を!
いい明日を!
みんなで輪になって幸せを分け与える素晴らしい毎日に!
さいなら~!!