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とある茶番劇の華麗ならざる舞台裏  作者: 海野宵人


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エピローグ

 夏休みが終わり、三年生となったレーナは学院の寮に戻ってきた。

 いつもと違い、それなりに忙しい夏休みだった。


 一週間前には、アロイスとの婚約式があった。大粒のダイヤモンドがついた婚約指輪を贈られたが、もちろん寮には持ってきていない。自宅の宝石箱に大事にしまってある。


 祖父母は、シーニュ国王に対して正式に爵位を辞退した。

 残り少ない余生は、家族のいるこの国で過ごしたいからと、そう言って爵位の返上を願い出たそうだ。もはや二十年以上もこの国で暮らし、息子たちはこの国で生活基盤を築き上げている。しかも孫娘は、この国の貴族との結婚がすでに決まっている。そうした家族をこの国に残して、自分たちだけで故国に戻りたいとは思わない。

 そう伝えると残念がられはしたが、シーニュ側は祖父母たちの言葉を受け入れて諦めた。


 一方で父ヨゼフは、なんと伯爵位の叙爵が決まった。

 今回の一連の事件での活躍が評価された、というのが叙爵の理由だ。

 本人は「別にいらないんだけどなあ」などと不敬極まりないことをぼやいていたが、国王リヒャルトから直々に「王家にも世間体があるので、受けてくれ」と言われて、押し問答の末に受けたらしい。


 国王の最後の一手は次のようなやり取りだったと聞いて、レーナは笑ってしまった。


「叙爵が嫌なら、海軍大臣に任命するのでもいいぞ」

「ありがたく伯爵位を拝命いたします」


 ヨゼフの「大臣だとか言って、仕事増やすのは勘弁してくれ」という声が聞こえてくるようだ。

 大臣か伯爵位か選ばなくてはならないなら、ヨゼフにとっては伯爵位のほうがましだったらしい。

 今までは領地のない爵位のみの貴族だったが、今度の叙爵では領地がついてくる。今回の事件で取り潰しになった貴族の領地をそのまま受け継ぐ形だ。その領地はヨゼフが自分で経営する気などさらさらなく、祖父母に丸投げの予定だ。


 ハーゼ領の家令の教育が終わり、王都で楽隠居を決め込もうとしていた祖父母たちは苦笑いしていたが、ヨゼフはぬけぬけと「仕事しないと老け込むから、ちょうどいいだろ」などと言っている。

 ただし祖父母たちも、以前のように領地にこもりきりになることはなく、行ったり来たりの生活をするつもりだと言っていた。


 叔父のノアも、拠点をハーゼ領から王都に移すことになった。

 今までハーゼ領を拠点にしていたのは、シーニュから身を隠すためという、ただそれだけの理由だった。しかし、輸出入はやはり王都経由のものが圧倒的に多い。事業のことを考えれば、王都を拠点にするほうが断然都合がよいのだ。


 兄ヴァルターは、ハインツやアロイスとともに大学に進学した。

 もちろん入学式には、レーナも両親たちと一緒に参列した。ハインツは約束どおり、特等席のボックス席を用意してくれた。


 舞台袖のボックス席からは、観客席もよく見える。だから舞台近くの前方に席がある新入生がよく見えたし、新入生代表として挨拶するアロイスの横顔もしっかり堪能できた。芝居の鑑賞にはあまりよい席ではないのかもしれないが、こうした行事の参列席としては、ハインツが言っていたとおりの特等席だった。


 卒業してしまったアロイスとは会う機会が減るだろうと思っていたのに、相変わらずレーナは寮の談話室でアロイスに勉強を教わっている。ほとんど毎週のように、週末になるとやって来るのだ。なぜかしばしばハインツとヴァルターも一緒に。

 ハインツはもちろんイザベルを呼び出して一緒に勉強しているし、ヴァルターはいつの間にかアビゲイルと親しくなっていたようだ。


 自分たちの勉強は大丈夫なのかと心配になるが、レーナたちの勉強を見つつ、自分たちは自分たちで大学の宿題である小論文を書いていたりするので、問題はないらしい。

 お陰で三年生になってからも、レーナはずっと模範生のままだ。



 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 そんな風に、新しい学年での生活が当たり前になってきた頃のこと。

 レーナはどこか覚えのある、何とも言えない不安な気持ちで目が覚めた。


「はぁ……」


 女子寮内の自室で、起き抜けのレーナは深いため息をついた。


「おはよう、レーナ」

「アビー、おはよう」


 すでに先に起きて制服に着替え、鏡の前で手際よく髪を編み込みにしていたアビゲイルは、レーナのため息を耳にするといったん手をとめて振り返った。


「朝から元気ないわね。もしかして、またアレ?」

「うん。アレ」


 彼女たちの言う「アレ」とは、以前は「呪われたシナリオ」の夢のことだったが現在は違う。三年生になって少し経った頃から、レーナは再び鮮明な夢を見るようになったのだ。

 その夢は、南側の隣国パルドから季節外れの留学生がやって来るところから始まる。


 例によってストーリー仕立てなのを面白がったアビゲイルが、レーナから話を聞くたびにノートに記録している。しかも記録に使用しているノートは「呪われたシナリオ」をまとめたのと同じものだ。不吉すぎるので、できれば別のノートを使用してほしいとレーナは思うのだが、アビゲイルは「だってまだ半分以上ページが残ってるのに、もったいないじゃない」と、まったく意に介さない。


「あらら。どんな内容だったの? 何か新しいことあった?」

「今日はなかった、と思う」

「なら、いいわ。────ほら、のんびりしてないで早く着替えて! 朝食の時間に遅れちゃう」


 しっかり者のアビゲイルにせき立てられながら身支度をすませ、食堂ホールに向かおうと部屋の扉にアビゲイルが手をかけた瞬間、扉をノックする音がした。返事をして扉を開けると、そこには女子の監督生が立っていた。


 監督生の用事なら、相手は模範生のレーナだろう。アビゲイルは一歩退いて、レーナに場所を譲る。監督生は微笑んでアビゲイルに「ありがとう」と礼を言った。


「朝の忙しいときに、ごめんなさいね。でも、学院長先生から急な言づてなの。三年生の模範生は午後三時に談話室奥の図書室にお越しなさい、とのことです」

「午後三時に、談話室奥の図書室ですね。わかりました」

「何でも、季節外れの留学生を編入したから、その紹介らしいわ。よろしくね」

「はい。連絡ありがとうございました」


 監督生に礼を言った後、呆然とした様子のレーナはアビゲイルと顔を見合わせた────。

これにて完結です。

思わせぶりな終わり方をしてますが、今のところ続きは何も考えていません。

きっと彼女たちはこれからも事件にあふれた学校生活を続けていくことでしょう。

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▼ 童話風ラブファンタジー ▼
金色に輝く帆の船で
― 新着の感想 ―
[良い点] 面白かったです!一気に読んでしまいました。 ミミのお話とミラーのお話も呼んだのですが、作者様のお話は話の展開が斬新だし、キャラクターも魅力的です。 これからスピンオフも読んできます!
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