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とある茶番劇の華麗ならざる舞台裏  作者: 海野宵人


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第五回シナリオ対策会議 (1)

 冬休みが終わり、学院に戻ったレーナの最初の仕事は、期末試験の成績確認だ。

 シナリオの存在により、模範生に選ばれることはわかっていたが、張り出された成績優秀者の一覧を見て、レーナは自分の目を疑った。なぜなら総合で一位だったからだ。


 模範生なのだから学年一位なのは当たり前のように思われるが、実は違う。なぜなら模範生は男女別に一位のものが選ばれるが、成績の順位は男女の別なくつけられるからだ。

 男子は女子の四倍という男女比もあり、上位十位以内に入る女子の人数はたいてい一、二名で、多いときでも四名ほどだ。

 そして首位は、男子のことが多い。


 にもかかわらず、今回のレーナの成績は二位に結構な点差をつけての首位だったのだ。

 びっくりである。


 ひと仕事終えて寮の自室に戻ると、さっそくアビゲイルから冬休みの出来事を尋ねられた。


「ずいぶん騒ぎを起こしたみたいじゃない?」

「え。なんで知ってるの」


 レーナのギョッとした顔に、アビゲイルは得意そうに鼻を鳴らした。


「もちろん独自の情報網から────と言いたいところだけど、憲兵隊がうちの店にも来たのよ。レンホフ家のお嬢さまの行方を探しているから、もし手掛かりがあれば教えてくれって」

「うわ……」


 いったいどれだけ大々的に捜索されたのか。めまいがした。

 興味津々に目を輝かせているアビゲイルに根掘り葉掘り質問され、気がついたときには、アロイスと外乗に出たときの出来事をほとんど洗いざらいしゃべってしまっていた。


 憲兵隊へひとりで向かったくだりでは、アビゲイルが爆笑した。


「え、レーナひとりで行っちゃったの? アロイスさまを置いて? 行き先も言わずに?」

「う、うん」

「ひどい。レーナ、ひどいわ」

「うん。反省してる」


 ひどいひどいと繰り返しながら笑い転げるアビゲイル。


「なるほど、それで捜索隊が組まれちゃったわけね。いや、それにしてもこの子ったら、本当にひどいわ。急ぐにしても、もっとこう、何か言いようがあったでしょうに」

「うん。自分でもそう思う」


 アビゲイルにどれほど大笑いされても自分では笑えず、レーナはしょんぼりとうつむいた。その姿にアビゲイルは苦笑して、話題を変える。


「で、憲兵隊に通報してどうなったの?」

「最初は、馬車の事故だと憲兵は動けないって言ってたんだけど、逃げた男が実は憲兵が追ってる容疑者らしいことがわかって────」


 レーナは、その日の出来事を語って聞かせた。もちろん差し支えのある部分、つまりアロイスから求婚を受けた前後の部分は割愛して。


「大変だったのねえ。まあでも、最終的に捕まえられてよかったじゃない」

「うん」

「しかも捕まえたのが憲兵じゃなくヨゼフ卿だなんて、すごいわ。さすが英雄よね」

「う、うーん。そうなのかな」

「そうよ。英雄譚の逸話がまたひとつ増えたじゃないの」


 そこでアビゲイルはいったん話を切り、意味ありげな笑みを浮かべてじっとレーナを見つめた。


「アビー、どうしたの?」

「ねえ、レーナ。他にも何か、話すことがあるんじゃない?」

「え」


 視線をそらしてしらを切ろうとするくせに、ほんのりと頬にさした赤味が正直すぎるレーナに、アビゲイルは吹き出した。


「船の集合場所で、ずっとアロイスさまと一緒だったでしょ」

「ずっとじゃないもん。アビーが来るまでの間だけよ」

「さようでございますか。で?」


 すっかりお見通しのアビゲイルに、レーナは白旗を揚げて白状した。


「まだ内々の話だけど、婚約することになりました」

「あら、おめでとう。思ったより早かったわね」

「思ったよりって、どういうこと?」

「ふたりともじれったいほどのんびりしてるから、いいとこ卒業夜会頃かなって予想してたのよ」


 そんなものの予想を立てないでほしい。

 レーナが呆れた目でにらんでもアビゲイルはどこ吹く風で、婚約のいきさつについて知りたがる。


「求婚されたのは、いつなの?」

「ええっと……」


 できればあまり語りたくない内容だが、うまく話をそらす話術を持たないレーナは結局正直に話してしまった。


「憲兵隊に通報に行った後、戻ってきて合流したとき」

「え、あの日のあの流れで求婚なの?」

「うん」

「アロイスさまってもっと繊細なかたかと思ってたのに、実は傑物だったのね」

「そう?」

「うん。人は見た目によらないって言うけど、すごいわ」


 アビゲイルが何にそんなに感心しているのか、レーナにはさっぱりわからない。首をかしげるレーナを見てアビゲイルはまた笑ったが、それ以上詳しく説明してくれることはなかった。


 その日は夕食後、久しぶりに談話室に集まっての話し合いが持たれた。

 みんなが集まると、ハインツはまずレーナをねぎらった。


「模範生おめでとう。数学の平均点ががた落ちだった中で、ひとりだけ満点だったって聞いたよ。よく頑張ったね」

「ありがとうございます。ご指導がよかったおかげです」

「今回は何ごとも起きなくて、本当によかったよ」


 イザベルだけでなくアビゲイルまで目を丸くして、声に出さずに「おめでとう」と伝えてくるので、何だか面映ゆかった。

 続いてハインツは、みんなが気になっていたことを告げた。


「冤罪の調査の件だけど、やっと少し進展があったんだ」


 もちろんこの「進展」とは、冬休み中にレーナも関わった、例の間諜の大捕物のことだ。

 進展について説明する前に、ハインツは参加者の顔を真剣な顔で見回してから、重要な前置きを伝えた。


「これから話すことは報道規制もかけている重要機密なんで、この部屋を出たら決して口外しないでほしい」


 参加者たちが全員、同意してうなずくのを確認してから、ハインツは話し始める。


「発端は、オペラ座で窃盗犯の取り締まり強化をしたことだったんだ」


 置き引きを疑われて拘束された男が、窃盗犯ではなかった代わり、シーニュの間諜の内通者であることが取り調べにより判明した。間諜と内通者は、オペラ座のボックス席が情報の受け渡し場所として利用していた。


 これにより間諜の存在が明らかになったため、身柄を確保するために憲兵による潜入捜査が行われたが、作戦を見抜かれて逃走された。


 逃走中の容疑者は馬車の事故を起こした上に「ジーメンス公ゆかりの者」であると騙ったが、偶然その場にアロイスとレーナが居合わせたため、嘘を看破した。その場から逃走した容疑者を追うため、ふたりは手分けして憲兵隊に通報した。アロイスは東側地区管轄の第一分隊に、レーナは西側地区管轄の第二分隊に。その通報を受けて憲兵隊は王都内の捜索と、主要街道での検問を実施した。


 それと同時にレーナの父ヨゼフが、容疑者が海路で逃走することを危惧して港へ赴き、最終的にはヨゼフが容疑者の身柄を確保するに至った。


 ────というハインツの説明を聞いて、レーナは何とも言えない気持ちになった。彼女のやらかした諸々の経緯がざっくり割愛された結果、まるでレーナが容疑者確保の立役者のひとりみたいな話になってしまっている。


 もう十分反省はしているので、やらかした話を広められたくないとは思うものの、これはこれで何か違う。どうにも割り切れない思いで、内心レーナは頭を抱えた。

 そんな彼女の気持ちを知ってか知らずか、わかったような顔で片目をつぶってみせるハインツが何だかとても憎たらしかった。我ながら理不尽だと、レーナも思う。

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