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とある茶番劇の華麗ならざる舞台裏  作者: 海野宵人


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期末試験

 剣技大会が終われば、次はひと月後に行われる期末試験だ。

 これから一か月間、レーナは最後の追い込みをかけなくてはならない。


 剣技大会の翌日の夕食後、いつものようにアロイスと図書室で落ち合うと、アロイスはレーナに手書きの紙束を差し出した。


「今日から少しずつ、これを解いていこう」

「これは、何ですか?」

「過去二年分の期末試験の問題集だよ」


 知り合いをあたって集めたらしい。

 その日から、通常の復習に加えて毎日一教科ずつ模擬試験の形で問題集を解くことになった。解き終わるとその場でアロイスが採点し、解けなかった問題は解説つきで正解を教える。


 ひと月かけて、問題集を二回ずつ解いた。

 さすがに同じ問題で二回目ともなれば、すべて満点が取れるようになる。アロイスは満点の結果を見て、満足そうにうなずいた。


「うん、これならもう大丈夫だね」

「そうですか? 本番でもこうだといいんですけど」

「大丈夫」


 アロイスに太鼓判を押されても、レーナの不安はまだ拭いきれない。


 試験前の週末は、二日間みっちりアロイスの作った予想問題集で模擬試験を行った。歴史と政治でいくつか誤答した以外は満点だったおかげで、かなり気持ちに余裕ができた。レーナひとりではとてもここまでの勉強はできなかっただろうから、本当にアロイスには感謝しかない。


 けれども何よりもレーナを安堵させたのは、試験前日に何も事件が起きなかったことだ。レーナ自身が直接被害に遭ったわけではないとはいえ、前回の試験前日のような怖い思いをするのはもう二度とごめんである。


 そうして始まった期末試験では、ほとんどの教科でアロイスの予想が見事に的中した。おかげで何度も繰り返し解いた問題ばかりだったから、もはや解答を書くのさえとても作業的に感じられる。


 一方で、まったく予想の外れた教科もあった。それは数学だ。

 しかしそれは、レーナにとっては楽になる方向に外れていた。どういうことかというと、応用問題が減らされて、これまで出題されたことのなかった「公式を導き出せ」というような、公式を丸覚えしていても解けない問題に置き換わっていたのだ。

 公式を覚えられずに導き出し方をたたき込まれていたレーナにとっては、これ以上ないほど楽勝な問題だった。


 試験の最終日、最後の教科が終わると、やりきった達成感でレーナは全身の力が抜けていくような気持ちを味わった。寮の部屋に戻ると、レーナは大きくため息をつく。


「やっと終わった……」

「お疲れさま。試験の仕上がりはいかがですか、レーナ女史」

「つまらない勘違いでもしてない限りは、たぶん大丈夫────の、はず。だといいな……」

「ちょっと、しっかりしてよ」


 試験の首尾を尋ねたアビゲイルは、レーナの答えが尻すぼみになっていくのを聞いて吹き出した。

 当のレーナはベッドに腰掛け、枕をかかえて顔をうずめて背中を丸めている。全力を出し切った実感はあっても、自信はないらしい。


「大丈夫よ。何か起きるなら、もうとっくに起きてるはずだもの。無事に終わったんだから、結果は保証されたも同然でしょ」

「そうかな」

「そうよ」


 何はともあれ試験は終わったわけで、ふたりは帰省の準備を始める。

 期末試験後は、すぐに冬休みに入るのだ。


 通常は、定期考査が終わった後から週末までが試験休みとなるのだが、前期の期末試験の場合はそのまま三週間の冬休みへと続く。レーナは翌日から家に戻る予定で、母からは秋休みのときと同様に、船を出すので乗るようにと指示する手紙が届いていた。


「レーナは、冬休みはどうする予定?」

「今年はずっと王都」

「ハーゼ領には行かないの?」

「うん」


 昨年の冬休みにはハーゼ領にいる祖父母たちを訪ねたのだが、その祖父母たちが今年は不思議なことにずっと王都に滞在している。だから今年は、わざわざハーゼ領へ赴く理由がないのだ。


「アビーは?」

「うちは、いつもどおり」

「親戚の方々が集まるんだっけ?」

「うん。もうね、客室もベッドも数が足りないから、ソファーまで総動員よ」

「わあ。すごい」


 レーナには親戚が少ないので、いとこだけでも十人以上いるというその賑やかさは、想像を絶するものがある。レーナにしてみたら兄ふたりと叔父と祖父母がいるだけでも、ずいぶん賑やかに感じられる。その何倍もの人数の親戚が集まるとなると、聞くだけでも大変そうだ。けれども同時に、何だかうらやましくもあるのだった。


 アビゲイルには言わなかったが、レーナには冬休み中にちょっとした予定が入っていた。

 アロイスに誘われて、前回あまり落ち着いて読むことのできなかった目録を読みに、またジーメンス邸を訪問する約束になっているのだ。別に内緒にするようなことではないのだけれども、アビゲイルに話すとまたからかわれそうな気がしたので、あえて話題にせず口をつぐんでいた。


 帰りの船の乗客は、秋休みのときとほぼ同じ顔ぶれだった。レーナが誘ったのは、前と同じ三人。一方ヴァルターは今回も大々的に募集したと見え、前回と同じような顔ぶれが応募してきたようだった。話が広まったのか、前回よりも若干人数が多いかもしれない。


 例によって寮の玄関ホールで待ち合わせてから、船に向かう。しかしこのときハインツの様子がレーナは少し気になった。何だかそわそわとして落ち着きがないように見えるのだ。その理由は、船着き場に到着したときに明らかになる。

 船が視界に入ると、ハインツは驚いたように声を上げた。


「あれ。タラップが前と違う」

「ああ。王族を迎えるのにありゃまずいだろってんで、客船用のに替えたんだわ」

「今度こそと思ったのに……」


 ヴァルターの説明に対して、ハインツがあからさまにがっかりした声を出すので、レーナは吹き出しそうになった。今度こそあの吊り橋風の簡易タラップを揺らさずに渡ってみせようと、意気込んでいたようだ。きっと密かに練習もしていたに違いない。


 ハインツのこんな風にしつこくこつこつ頑張るところは、嫌いじゃない。それをレーナの絵に対して発揮しようとさえしなければ。

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▼ 童話風ラブファンタジー ▼
金色に輝く帆の船で
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