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とある茶番劇の華麗ならざる舞台裏  作者: 海野宵人


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第三回シナリオ対策会議

 シナリオ第三部についての話し合いは、アビゲイルが医務室から戻った翌日、試験休みの最終日に行われた。


 集まる顔ぶれは、レーナとアロイスをのぞいて全員が追試組だ。そうなったのがレーナのせいとまでは思わないけれども、居たたまれない気持ちにはなる。

 何となく椅子の上で身を縮こませていると、アロイスが慰めの声をかけた。


「レニー、事故のことなら気にしないで。特に大橋のほうは、いつ事故が起きても不思議がないと言われ続けていたものだからね。むしろ、あれほどの事故だったのに、巻き込まれて亡くなった人がいないことを喜んでいいくらいだよ」

「そうなんですか?」


 アロイスによれば、大橋を掛け替える話はだいぶ以前から出ていて、数年前には新しい橋の外観デザインを公募するまでに話が進んでいたのだそうだ。ところが採用となったデザインをもとに設計する段階になって、建築家がそれを拒否した。採用されたデザインでは十分な強度を保証できないというのが、その理由だ。

 新しい橋の建設に着手できないまま、ずるずると放置され続けた挙げ句の事故だったというわけだ。


「えええ。ひどい……。ダメとわかったなら、次点のデザインで設計を進めればいいのに」

「ね」


 次点のデザインが採用されなかったのは、そもそもこの公募方式でよいのかという、デザイン以前の問題で議会が紛糾してしまったからだ。公募への応募資格を強度設計までできる建築家に限るべきでないかとの声も上がり、公募をやり直すのか、はたまたすでに行われた公募の中から繰り上げるのかで意見が対立し、決着がつかないまま計画が頓挫していた。

 争点が、この上もなくくだらない。


 政治においてしばしば起こりがちなこととはいえ、王都に暮らす市民の立場からすれば、実に迷惑極まりない話であった。


 これが本当にシナリオにより引き起こされたのだとすれば、確かにあのシナリオは呪われているとしか言いようがない。

 しかし、今この瞬間にレーナを最も悩ませているのは、レーナが模範生に選ばれる第二部ではなく、実は第三部の内容だった。


 できれば第三部は欠番にしてほしい。かなうことなら配布された印刷物を回収して黒塗りし、なかったことにしたいくらいだ。これが父の手にまで渡っているかと思うと、毛布を頭からかぶって膝をかかえて泣きたいような気持ちになる。


 なぜ第三部がそんなにも悩ましいのかというと、まるで安っぽい恋愛小説のごとく、男子学生との逢瀬が続くのだ。しかもその相手というのが、ヴァルター、アロイス、ハインツの三人。ヴァルターなど、プロポーズまがいの言葉を口にする。ありえない。


 このシナリオを目にしたすべての人々に、レーナは切に、切に訴えたい。これは決してレーナの願望が反映されたものではない。中でも特にハインツはありえない。別に嫌いではないけれども、レーナにとってのハインツとは「もうひとりの愚兄」のような存在でしかないのだ。だって、顔を合わせれば「これをちょうだい」「それを見せて」「あれを描いて」と何かをねだるばかりで、うるさいし、うっとうしい。いや、別に嫌いではないのだけれども。


 レーナがもんもんとしている間に参加者がそろい、会議が始まっていた。


「レーナ、お前のいつもの順位ってどれくらい?」

「え?」


 憂鬱な気分で考え事をしていたら、突然ヴァルターから名指しで質問されて戸惑った。

 それも、できることなら黙秘したい情報を求められている。この場にいる学生たちはレーナをのぞいて全員が成績優秀者の常連だから、明らかにレーナの成績は飛び抜けて低い。そんな人たちの前で、自分の順位を口にするのは非常に抵抗があった。が、会議の趣旨からみて必要な情報であることはわかるので、渋々ながら正直に答える。


「だいたい二十番台前半で、一番よかったのが十二番、出来が悪いときは二十番台後半です……」

「そうか」


 言いながら、悲しくなった。

 本当ならレーナの成績は、特別よくはないものの、決して悪くもないはずなのだ。ただ、この場にいる者たちと比較すると、疑う余地なく最下位というだけで。ヴァルターはその返事を聞いて呆れるでも馬鹿にするでもなく、話を続けた。


「こいつはこれでも真面目で、今でも十分頑張ってるからさ、ただ頑張れって言っても自分じゃこれ以上点数の上げようがないと思うんだ。そこでアロイス、相談なんだけど」

「うん?」


 突然ヴァルターに話を振られたアロイスは、首をかしげた。


「こいつの勉強見てやってくれない? 自力で一位とれるように、つきっきりで。それこそ噂になるくらいにさ。たぶんアロイスに見てもらうのが、一番上がるんだわ」

「なるほどね。了解、最善を尽くそう」


 ヴァルターの提案は、レーナの試験対策をすることで、シナリオ第三部にある「レーナとアロイスがよく会っていると噂になる」という部分を実現してしまおうというものだった。


「俺とハインツは場所が決まってるみたいだから、そこで勉強を見てやろう」

「うん。それが効率よさそうだよね」


 レーナが口をはさむ余地もなく、あれよあれよと言う間にヴァルターとハインツの役割分担までが決まっていく。

 安っぽい恋愛小説めいた筋書きだったはずが、いつの間にか学院を舞台にした成り上がりもの風におもむきを変えつつあった。いや、成り上がりものならまだしも、根性ものになりそうな気配さえある。さきほどまで感じていたのとはまた違ういやな予感に、レーナはぶるりと身体を震わせた。


 こうして今回の会議は、レーナの心配とはうらはらに、あっさり終わってしまった。

 さっそく夕食後にアロイスと談話室で落ち合う約束をしたが、どこか心細く感じるレーナは自室に戻るとため息をついて、弱音を吐いた。


「アビーと一緒に行ったらダメかな」

「ダメに決まってるでしょ」


 アビゲイルにぴしゃりと否定され、レーナはベッドに倒れ込んで枕に突っ伏した。


「あのね。アロイスさまがしなくちゃいけないのは、私たちの学力の底上げじゃないの。レーナが先頭を独走できるようにすることなのよ」

「世の中には、やれば出来ることと、どうやっても無理なことがあると思うの……」

「やる前から諦めてないで、頑張ってよ。私はもう、食あたりは二度とごめんだからね?」

「う、うん。がんばる」


 鬼気迫るアビゲイルの圧力に負けて、レーナは弱々しくうなずいた。

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金色に輝く帆の船で
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