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第7章 初めてのキス

日もとっぷりと暮れ、夕食もすんだ。

アルはソファでゆったりと書類に目をとおしている。


杣梨は、いたたまれない.........。


(そりゃ、アルが超絶イケメンで優良物件なのはわかってる。大抵の女の子なら、こんな人が婚約者なら有頂天になるだろうけど、さ.........)


杣梨の初恋は10歳の時、そだった施設の職員のお兄さんだった。

穏やかな顔立ちの優しい青年で、子供心にほのかに憧れていた。

その年頃の、ほんのりした淡い恋心を抱いただけの出逢いで、青年は他の施設に異動していった。


その後、仕事で軽く唇が触れ合う程度のキスシーンは何度か経験したが、そこまで。

年齢柄、いわゆる「濃厚な濡れ場」と言うような場面は与えられなかったし、オファーがあったところで事務所がNGをだしていた。


(困ったな.........)


さっさと寝てしまう、と言うのが一番手っ取り早いのだろうが、同じ部屋に異性がいるとなると、それはそれで本能的に、怖い。

結果、杣梨は部屋の中を何周もうろうろと彷徨うことになっている。


そんな杣梨を眺めながらアルはくすっ、とわらった。


「なにをそんなに緊張しているの?」

「え.........?」

「今日は午後からずっと.........って言うか、ここに着いてからずっと、落ち着かないね?疲れたかな?」


杣梨は真っ赤になる。

自分の心の中を見透かされた様な、そんな気分だった。

うろたえた結果、虚勢を張ってみた。


「べ、別に!移動で疲れただけです!」


アルが可笑しそうにわらった。


「そうか。まぁ、午前中いっぱい馬車にゆられた長旅だったからね」


書類をテーブルの上に置くと、アルは立ち上がり部屋の中をぐるぐる回っていた杣梨の傍に来た。

160センチの杣梨は、正面に立ったアルを見上げると首が痛くなる。


「私達は経緯あって許嫁者同士だけれどね、まだお互い出逢って幾日もたっていない。ソマリはこの運命を受け入れてはくれたけれど、きっと心の中ではいろんな葛藤があるんだと思う」


アルは杣梨の手をとると、その甲にくちびるをあてた。


「アル.........!」


反射的に手を引っ込めようとした杣梨はますます真っ赤になる。


「そんなに緊張しないで」


見れば見るほど、アルは美しい男性だった。

蒼と碧の混じった煌めく瞳が、まるで上質なパライバトルマリンの様に輝く。

杣梨はさっきまでとは違う意味で、あかくなる。


「私は心の準備もできていないソマリをどうにかしようとは思っていないから、安心しなさい」


杣梨の顔は熟れすぎた柿のように、赤くなった。


「いや、そんな、あの.........」


やはり見透かされていた心を隠すように、視線を泳がせてしどろもどろになる。

その杣梨の様子を見て、またアルが笑う。


「そんなに赤くなって.........。どんな想像をしていたのかな?」


アルの男性にしては細く長い指が杣梨の顎にかかる。

杣梨の顔を上にむかせると同時に、腰に手がかかり抱き寄せられた。


(はわっ.........えっ.........?)


状況が飲み込めないまま、杣梨の唇はアルの唇にからめとられていた。


(え.........?いや、あ.........)


それは、今までの、何回か経験したことのある仕事でのキスとは比べ物にならない、膝から崩れ落ちそうな、そんなくちづけだった。


(これが.........本物のキス.........?)


杣梨はアルの支えている腰を支点にまさに崩れ落ちた。


「ソマリはねんねだね」


アルが優しく笑う。

そのまま、お姫様抱っこでベッドに運ぶとそっと寝かせてブランケットを掛けた。


「今日は疲れているのだから、余計なことは心配しないでゆっくりお眠り。おやすみ」


どうやら気絶してしまったらしい杣梨にはきこえていないだろう優しい声で、囁いた。


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