プロローグ 異世界
異世界ものを書いてみたく、チャレンジしてみました。
割と声優ヲタなので、各キャラクターに私の中での声のイメージをつけ、「あの声優さんにこんなセリフを言って欲しい!」と言うミーハー100%で書いています。
いつか、その私の中でのキャスティングを発表出来ればなー、と思っています。
読んでいただければ幸いです(^ ^)
プロローグ
朝、5時に始まった収録の1本目がようやく終わった。
2本目が始まるまでのつかの間の時間、控え室の椅子に座ると一気に眠気と、疲れが押し寄せてくる。
「三枝さん、10分だけ、寝ていい?」
一ノ瀬杣梨は、マネージャーに問いかけた。
三枝さん、と呼ばれた中年の女性は、やれやれ、と言う顔をした。
「もう、丸2日、ろくに寝てないもんね。わかった。10分たったら起こす」
仕方なさそうに苦笑した、三枝のその声が、杣梨の耳にはすでに夢の中だった。
気がついたら深い深い霧の中にいた。
「おかしいな、楽屋で寝ていたはずなのに.........」
彼女、一ノ瀬杣梨は現在売り出し中の女優。整った顔立ちに、スタイルもよく、人気急上昇中だった。
今日も、再来月から始まる大型歴史ドラマの撮影中で、つかの間の空き時間に10分だけ、と言う約束でうたた寝をしていたはず.........。
「夢?.........かな?.........」
そう思ったが、本能的に、これは夢ではない、と感じている。
目をこらすと深い霧の中に、湖が見える。たぶん、白樺の樹の幹が、湖の蒼と碧に映えそれは美しい風景だった。
先月、グラビア撮影で行ったスイスの森によく似た木立だ、と思った。
足元の小枝がペキペキ子気味のいい音を立てる中、湖にむかって歩いてみる。
その音や、肌に感じる空気感が、これは夢ではない、と、あらためて感じさせた。
「ソマリさま、いらっしゃいませ」
いきなり、声をかけられた杣梨は、反射的に「ひっ!」と飛び上がった。
恐る恐る振り返ると、子供の頃持っていた絵本の魔女によく似た老婆が立っていた。
「私を.........知っているの?」
「はい、良く存じております」
(まぁ、テレビに出演してるしね。こんなお婆さんでも私のことは知ってるか.........)
「ここはどこ?私の夢の中なの?」
「いいえ、夢ではございません」
老婆はゆっくりと首を振った。
「じゃあ、どこなの?」
「左様でございますねぇ.........。ソマリさまたちの世界で言うところの【異世界】と申しましょうか、そんなところでございます」
「はぁ?」
「ご信じ頂けないのも無理もございません。ソマリさまたちの認識ではそのようなものは想像の中の産物でしかなかったことでしょうから」
「はぁ?【異世界】?」
いや、今異世界ブームなのは杣梨とて知っている。
しかし、まさにそれは想像の中のもの、物語の中のもの、でしかない。
「だって!私は自分の楽屋で寝てたんだよ?!なんで?高いビルのエレベーターでボタンを押した訳では無いし、変な呪文を唱えた訳でもない!なにより、私は【異世界】に行きたいなんて思ってないんですけど!」
老婆に言いながら、自分がドラマの衣装のままであることに気が付き、その滑稽さに少し顔を赤くする。
おすべらかしの鬘を外していたのはせめてもの幸い。
そんな杣梨に、老婆は慇懃に頭を下げた。
「申し訳ございません。このわたくしめが召喚いたしました」
「はぁー?!」
「こちらの勝手ではございますが、どうしてもソマリさまにお力を貸して頂きたいことがあり、わたくしの魔力の最大値を使い、この世界にお呼びいたしました。申し訳ございません」
へなへなと杣梨は地面に座り込んだ。
湖畔のしっとりした土の感触が、十二単越しに伝わり、これが夢ではなく現実であること、老婆が嘘を言っている訳では無いこと、を否が応でも実感させた。
「.........何が目的?」
諦めたように杣梨は老婆を見つめた。
「わざわざその召喚とやらをした、ってことは私になにか重大な事をして欲しいんでしょ?私だって漫画やら小説やら読むこともあるからね。こういう時はだいたい、厄介事を押し付けられる、って相場が決まってるわ」
初めて老婆が笑顔を見せた。
しかし、笑顔と言うよりは、不気味な雰囲気しかかもしださない表情だった。
「ソマリさまは察しが良くていらっしゃる。本当に助かります。この状況でしたら泣き叫ばれても仕方ないこと、と覚悟しておりました」
「まぁね。だてに芸能人はやってないわよ。で、なに?」
「ソマリさまには、我が国の王に嫁いでいただきたいのです」
「はぁー?!」
あまりの驚きに座り込んだまま飛び上がってしまった。
「王に?嫁ぐ?この私が?」
老婆はにやりとわらった。
「わが王は御歳23歳、それはそれは頭脳明晰、眉目秀麗、非の打ち所のない素晴らしい男性でございます。必ずや、ソマリさまも王には好意を寄せられるものと確信しております」
「いやいやいや、そういうことじゃなくてさ.........」
呆れた、と言う声を出す。
「あのね、私はまだ18歳だけど仕事もあるし、毎日充実して生活してるの!何が悲しくて【異世界】で嫁に行かなきゃならないの?!」
「この絵姿をご覧くださいませ」
抗議する杣梨の言葉を遮って、老婆は1枚の絵を差し出した。
「え?これ、私のブロマイド?」
「王の許嫁者、公爵令嬢の、マリナさまでございます」
「私にそっくり.........」
「はい、髪の毛の一筋まで瓜二つでございます」
「いや、許嫁者がいるならさ、私が嫁入りする必要ないんじゃない?この、私のそっくりさんと結婚したら?」
「マリナさまは10日前に出奔されました。婚礼を一月後に控えて」
「はぁー?!」
「おばば、召喚の儀は成功したのか?」
すぐ近くで、低いけれど心地よい、男性の声がした。
「わが王でございます」
老婆がそっと耳打ちした。
霧の中から男性3人が現れた。
そのうち、2人は中年の小太りと、貧弱なガリガリ長身で、漫画やドラマならば家老とか、悪代官とかがふさわしそうな外見だったが、「おばば」と老婆に声をかけたと思しき男性は.........。
長身で、背中まで伸ばした絹糸のようなプラチナブロンドの髪を無造作に束ね、湖のような蒼と碧のエメラルドグリーンの瞳に上質なメレダイヤを散りばめた様な力強い輝きをたたえ、ギリシャ彫刻のように美しく均整のとれた容姿をしていた。
(やばい!ちょっと惚れるかも!)
「わが王、ハインリッヒさまでございます」
老婆が言うより早く、小太りな中年の方がいきなり杣梨を抱きしめた。
「マリナ!心配したよ!無事でよかった!」
「あ、いや、あの.........」
「婚礼を前にしていきなり家を出るなんて!陛下にも失礼だろう!なんてことを!」
中年が杣梨に平手打ちをしようとしたところで、ハインリッヒが中年の腕を掴んだ。
「この娘はマリナではない。乱暴は許さない」
はっ、と我に返った中年は、ちょっとバツが悪そうに腕をひっこめた。
「宰相どの、粗忽ものですなぁ」
悪代官(?)が、人をイライラさせる様な、嫌味な笑い方をした。
「そなたの娘御は、とうに奴隷男と駆け落ちしたではないか」
物語の中の卑劣感そのままの、下卑た笑いを浮かべながら、その悪代官は杣梨の顎に手をかける。
「ほぉー.........。さすがおばばどのが、三千世界から探しただけのことはある。マリナどのにそっくりだ」
(つまり、この宰相とやらがマリナさんの父親か.........。で、この鶏ガラみたいなのはジャファーなわけね.........)