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あの場所が大好きだった


 子供の頃、君と秘密基地を作って遊んだね。僕はあの場所が大好きだったんだ。まだ、残っているのかな? 大事なものや見せたくないものをあそこに隠したっけ。辛いとき、一人になりたいとき、あの場所で泣いたな。また泣きに行こうかな。大声で泣きたいな。もう、ずっと隠れていたいよ。僕がかくれんぼしたら、君は探しに来てくれるかな? 君を待っていてもいいかな。





 弘と麻央は二人でベンチに座った。木製の古いベンチだ。


 無邪気な笑顔を見せる弘とは反対に、緊張で顔の筋肉が引きつっている麻央。


 橋本はそんな二人にカメラを向ける。


「私、笑えないよ……」


「いいんじゃない、笑えなくても。橋本さんはさ、いつもありのままの自分を撮ってくれるから」


「ありのまま?」


「そ、ありのまま」


 そのありのままを撮影する橋本は既に何回もシャッターを切っていた。緊張している麻央の姿、準備をしている姿、二人が何気ない会話をしている姿。全て自然体の二人を切り取っている。路上での撮影とはまた違ったかたちだ。


「二人とも、いい表情してるよ」橋本は笑顔で投げかける。


麻央は少し恥ずかしそうに微笑んだ。


 雑誌のモデルとして撮影されていることより、弘と二人で写真に写ることが嬉しかったのだ。


 今までも仲良くしてきた友達はいた。だけど、弘は別格だった。容姿やミステリアスな部分が気に入っている訳ではない。


 ただ一目見たとき、この人の側にいたいと感じたのだ。


 それは魔法のような、発作のような体験したことのない感覚だった。


 弘の側にいると心地がいい。麻央はいつも思っていた。


 古びたベンチの上で二人は笑顔を交えながらくだらない話をした。


 橋本はそれをずっとカメラに落とし込んでいった。


 ほどなくして撮影は終わり、二人は橋本と別れた。橋本は最後に麻央の肩を優しく叩き、「弘をよろしくな」と小声で告げた。


 くすぐったい気持ちと共に二人は若者の街に飛び出した。


 どちらからともなく手を繋いで歩く二人。クールな印象から少女的な雰囲気に変わった弘は、あどけない笑顔ではしゃいでいた。


「私、原宿って久しぶりなんだ」


 緊張から解放された麻央は修学旅行生のように瞳を輝かせている。


「だったら、たくさん遊ぼうよ」


 言葉通り、二人は仲良く街を巡ることになった。


 流行のスイーツ店の行列に並び、おしゃれな雑貨屋で可愛い小物を購入する。いわゆる原宿系ブランドのショップで可愛い服からかっこいい服まで試着し、お互いに似合う物を探してみるが財布の事情で購入を断念。それでも二人は笑っていた。楽しかった。


「あ、プリクラ撮りたいな」麻央が言うと弘は頷きながら笑った。


「さっきまで写真撮ってたのに……嫌がってたじゃん」


「それとは別なの!」


 麻央に導かれて二人はプリントシール機の中へ入った。


「へー、最近のってこんなに進化してるんだ」


「弘、知らないの?」


「一人じゃ撮らないからね」


 音声ガイドにしたがってポーズを取る。雑誌の撮影とは反対に、麻央は手慣れた感じに、弘はぎこちなく写し出された。


「目、デカすぎじゃない?」


「もともと目の大きな人は宇宙人みたくなるんだよね。落書きのところで加工すればいいよ」


 二人は顔を寄せ合ったり、変顔をしたり、色々な仲良しポーズを繰り返した。


 落書きブースでもキャッキャッとはしゃぐ声が外にもれていて、普通のどこにでもいる女子高生と同じであった。


 特別なことはなにもなく、ただ今が楽しい。


 弘はそれを麻央から与えられ、友達になり、素顔を取り戻そうとしていた。


 しかし麻央は、弘が周りに人を寄せ付けなかった本当の理由を知らない。「一人が好き」というのが嘘であることを感じる程度だった。


 だから、弘が特別な存在であることに気付かなかった。


 そして弘も、特別な出来事を忘れかけていた。


 そのときはまだ平和で、キラキラした友情に目がくらんでいたのだ。


 明るい方を向いていれば、影が見えないように、足下に忍び寄る陰さえも見えなかった。





 


 僕はずっと待ってるんだ。だから早く探しに来てよ。君ならきっと解ってくれるはず。だって君はあの世界では主人公の勇者なんだから。もしものときのためなんだ。僕はそんなつもりないけど。でも、最近何かを感じるんだ。あの世界には続きがあって、この世界にもって。君は頭のいい人だから解ってくれるよね。


 

第一章 終わり。

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