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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
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理不尽ファンタジー

03 近未来DMMO【完】

作者: 辺愛 V・ルール

 高度に発達した科学技術によって大国は増長し、人民の生命が(いちじる)しく安くなった。

 自由と平等などはなから無いも同然。恩恵にあやかれるのは一部の者のみ。

 そんな荒廃したも同然の時代。

 娯楽と呼べるものは年々減少していき、街並みは過去の軍事国家の如く灰の匂いが立ち込めていた。

 国家の繁栄に不必要なものはどんどん排除され、抗う者を『国家安全法』によって駆逐し、諸外国からの抗議は『内政干渉』の一言で遮断する。

 ――そんな風潮が一国だけならば良かったのだが、疲弊する人民の増加により他の国家も同調するようになった。その中には日本国も含まれる。

 激動の時代の中で一時期流行した『MMORPG』の発展型、フルダイブ型(DMMORPG)と呼ばれる娯楽が生まれた。

 通常は据え置き型ゲームのように画面を通してゲームコントローラーでキャラクターを操作するのが一般的だった。

 フルダイブ型は人間一人の意識をそのままゲーム内のキャラクターと同調させて遊ぶ体感型である。

 元々は創作上の存在であったが技術の向上によって寝台型にまで発展させてきた。当然、安い代物ではない。

 家庭用の多くはヘルメットのような形をしている。最初は脳が焼き切られる、と危惧された。事実、そういう創作物があったからなのと機能的に殺傷が可能であることが証明されている。


 企業の造る物に安全なものは無い。


 それでも犠牲者が少なければ利用者は意外と多い。そして、危惧されても技術はどんどん発展していき、大きな事故が起きない限り使用を控える機会というものは少ない。

 ただ、ゲーム内に転移、ないしゲームのような世界に転移するようなトンデモ現象は今のところ確認されていない。――証明するすべが無いから絶対に無いとは言い切れないが。

 世界が混迷していても緩やかに時間は流れていく。

 あまりにも力を持ち過ぎた国家はついにある法律を作り上げた。

 人権が家畜並み――またはそれ以下――になった事によって出来てしまった悪法ともいえるが、この時代ではそれほど目立った騒ぎは起きなかった。

 不要な人民を取り締まる上で起こりうる問題の一つは罪人の生活だ。税金で養うのも無駄としか言いようがない。

 そこで病死を装って平和的に死んでもらう方がお互いの利益になるのではないか、と()()が考えた。もちろん、これは特定の一国が提唱したものではなく、大国と呼ばれる多くの国々が抱えていた問題であった。

 国家の利益になる事になると思えば各国の行動はとても迅速になる。そして――


 安楽死を合法的に可能とするDMダイブ・マッシブリー・MOマルチプレイヤー・オンライン用の機材が発明された。


 いや、安楽死というか死刑そのものであるが死刑廃止論者の顔色を窺う意味で言い換えたに過ぎない。

 従来のゲーム機と同様に罪人に娯楽を楽しんでもらう意味でヘルメットを被せる。後は適当な時期に脳を焼き切る信号を送るだけ。

 表向きには心臓麻痺で死んだことにされる。薬殺より平和的で死体の損壊も少ない。なにより医師の負担が少なく済むし、遠隔操作で事足りるくらい簡単な仕組みだ。

 対象者はいつ死ぬか分からないが、運が良ければ遊んでいるゲーム内に意識だけ存在し続けられ、その世界を救う勇者になる事も可能。――それに現実に戻って嫌な思いをする事もない。

 恐怖心についてもゲーム中の死を現実の死と直結させない事で緩和している。

 遊べるゲームも膨大にある。アップデートこそ見込めないが、かつて創作の中だけの概念がこの時代では安易に手に入る。

 ゲーム自体は外部のユーザーも参加して遊べるようになっている。殺傷能力があるのは特別なヘルメットだけで一般のものには備わっていない。

 こういう仕組みが作られると国家の陰謀に抗う者が出てきそうなものだが、この時代は抵抗するだけ無駄、あるいは徒労であると国民は思い知っていた。

 一国の問題であれば良かった。そうではないからどうしようもない。

 収監された罪人のその後を気にする者など関係者の家族以外に居ない。もちろん、万が一の対処も国が迅速に整えてしまう。


 家族構成によって処理を変えればいい。


 罪人全てを一様に処理するわけではない。ゲームプレイ中に心臓麻痺した事例が多くなれば怪しまれる事は分かっている。

 あくまで平和的に――

 生きていて不都合な者を優先して――

 国家は邪魔者の処理ができ、罪人は永遠の異世界生活が約束される。――運が良ければそうなる、という謳い文句があるが本当にゲーム内で長期間暮らしている、という証拠が実のところ無い。


     § § § § §


 死んだ後、ゲーム内に意識が残っているのであれば他のプレイヤーと交流している筈だ。だが、実際にはキャラクターが動かなくなった後、運営によって適時処理される。

 だから――半永久的にゲームの世界で暮らすなど不可能である。それが自然な流れだ。

 邪魔なアカウントを見つければ削除する。それに異を唱える一般ユーザーは居ない。

 ゲームにはゲームの規則や規約があるのだから。

 それにゲームサービスも長くは続かないし、ユーザーも新しいゲームを待ち望んでいる傾向がある。

 三年から五年を目途に新しいゲームが作られ、過去のゲームはプレイ動画に残される事を除けば人々の記憶からもデータサーバからも消されていく。

 この時代の人の尊厳はその程度の価値しかない。

 創作物の主人公であれば世界を変えるほどの力を行使し、この世界の(ことわり)を変革できるかもしれない。――そんな者が居るとも思えないが。

 それに現実世界とゲーム――異世界も含む――の世界、どちらが住み良いだろうか。

 現実から解放された者達の末路を知る(すべ)は無いが、本当にゲームの様な異世界があるのならば――とても興味深い事である。


   『終幕』


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