【88】クロ殿下と傲魔
――――スイランのおかげで闇魔法も光魔法も通じないモンスターにも対抗できる。
通常攻撃が通じるモンスターにも応戦、階層を下りまた応戦。階層を下り随分下まで来たかも。
「そういえばスイラン。闇魔法も光魔法も通じないモンスターってダンジョンにはよくいるの……?」
「いや……通常のダンジョンにはほぼ存在しない。我らのようなものの多くは人間が魔法を手にする前から存在していた鬼道を扱う人外の物」
「きどう……?」
「鬼の道という意味だ」
鬼の道……?昔話の鬼族や大鬼族を思い出してしまった。
「その多くは魔法の理の外にあり、通常は魔法が通じない。通じるとすればヴェイセルのようなSS級まで上り詰めた冒険者やS級がパーティーを組んで挑めばかろうじて……」
そういえばたつきさんにはヴェイセルの魔法が通じてなかったっけ。
大鬼化……大鬼族の姿で勝利したようなもんだ。元来、鬼族や大鬼族、鬼道を扱うスイランのようなモンスターには魔法が通じないのかもしれない。
「通常のダンジョンにはほぼ存在しないが、闇ダンジョンと呼ばれる未開のダンジョンの中にはそのような理の外にいるあのようなモンスターが存在する」
「ということはダンジョンボスにも警戒したほうがいいということでしょうね」
とセナさん。ダンジョン攻略には避けて通れぬ道だ。
「あぁ。通常の階層にも出てくるほどだから」
スイランの表情が曇る。やはり同じ理の外にあるというスイランでも厳しいんだろうか。
――――そこは、荘厳な扉のあるフロアだった。
「ここって……」
「いわゆるボスの間ですね」
さらりと言うセナさん。そうだよね。こういう扉出てきたらボス部屋だよね。ついに来たか、ボス部屋!
そういえばヴェイセルたちはどうなったんだろう……?あの強さだしもう突破してるかな……?
「たのも――――!!!」
ばしぃぃぃっっんっ!
「ちょ……っ!スイラン!?」
「こういうのは勢いだから、クロ殿下」
「そうっすよ、クロ殿下」
りょ……リョクタまで……。ボス部屋は広々とした無機質な空間だった。確かスイランのボス部屋は荘厳な神殿みたいな作りだったな。
「闇ダンジョンはやはり殺風景だ……」
スイランが嘆息する。これが闇ダンジョンの普通なのか。
「まぁ、ボスの趣味にもよるけど」
……あの神殿みたいなのって、スイランの趣味だったんだ。似合ってるけど。
『ゴオオオォォォォォッッ』
咆哮……!?対にボスモンスターが現れた!?ボスモンスターは大角に牛の巨体を持つ二足歩行のいかついモンスターだった。
『ふはははははは……っっ!愚かな人間どもめ。ここまで来れたことをまずは褒めてやろう』
前世のゲームで聞いたことあるな、こういう口上。
『しかし無念だったな。この我は魔法も通じぬ理の外にいるモンスター……』
やっぱりか。
『ふふふ……理の外にいるということが理解できないらしいな……くくく』
あ、いや……それはさっきスイランに聞いたんだけど。
『ならば!その身で味わうがいい!理の外にある人外の……ふふふ、お前らで言うところのS級モンスターの神髄を!』
え……S級って。でも闇魔法も光魔法も通じないモンスター相手ならスイランを頼るしかない。けどスイランって何級なんだ?理の外にあるって言ってた以上、S級以上ではあるのかもしれないけど、もしかしたら互角……?
「クロ殿下。ここは私にお任せを。クロ殿下には負担をかけると思うけど……」
「大丈夫だよ。俺の方こそスイランに頼りっきりなんだから……」
「……いいえ。お役に立てるのであれば」
スイランは俺に一礼し、ダンジョンボスに向かい合う。
「ほう……モンスターが相手か。ふふふ……二度と召喚などできぬようひねりつぶしてくれよう!ここは闇ダンジョン……倒されれば復活も救済もないのだからな!」
ユキメ領のダンジョンはモンスターが倒されても特殊な空間魔法で復活できたけれどここではそれがない……!?
なら……スイランが!
「スイラン……!」
「大丈夫、クロ殿下」
うん……大丈夫だよね……?スイランの返事は迷いなどない力強いものだった。スイランだってSS級冒険者全員を相手にできるほど強いんだから……!
「愚かな人間などに従属し、身の程もわきまえぬ愚かなモンスターだ」
「貴様こそ、実力の差もわからぬ下等なモンスターであろうが」
「我を愚弄するか!ぐおおおぉぉぉぉっっ!」
ボスが雄叫びを上げ拳をスイランめがけて放つ。
「我が主を愚弄した貴様に、容赦などない」
スイランの身体から、先ほどと同じ翡翠色の風が巻き上がる。しかしそれは先ほどの物とは規模も力も桁違いだった。無機質なボス部屋の天井をボスごと突き抜けボスが一瞬にして消え去る。
『ぐああぁぁぁぁぁっぁあっっ』
ボスモンスターの悲鳴がこだまし、ダンジョンの天井には青空がのぞいていた。
勝った……?
一瞬で……?
やっぱり、スイラン……すごい。あれ……身体が……。
「クロ殿下!」
「クロ殿下しっかり!」
「クロ!?」
皆の声が遠くに聞こえる……でも身体に力が……。
「早く転移魔法陣へ……ダンジョンを脱出する」
スイランの声がして身体が抱きかかえられる。
「あっちだ!」
「走れ!」
抱きかかえられ、ものすごい速さで移動しているのがわかる。そして光に包まれていくのを見てふっと意識が途切れた……。
――――side:リョクタ
ダンジョンの転移陣で抜けた先は、見知らぬ土地だった。温かい気候の南部連合王国にいたはずなのにどこか肌寒い。まるでエストレラの今時期の気温だが、そこはどこかエストレラと違う感じがした。ここは見知らぬ土地だと獣人族特有の本能が告げている気がした。
「クロ殿下は……」
スイランに抱きかかえられぐったりとしている。スイランは優しく岩陰にクロ殿下を下ろす。
「恐らく私の召喚により負担がかかっている」
「確かにS級モンスターを一瞬で撃破されていましたし……」
「あまり負担をかけたくなく、一瞬でしとめたのだが……」
「MPや体力をかなり消耗していますね……」
「一旦、召喚を解除すればその分負担が軽減する」
「そうですね……しかし召喚解除には召喚者の意思で返す必要が……後は、召喚者が力尽きた時……」
「そんな、クロ殿下が力尽きるのを待つっすか!?」
だけどクロ殿下はとでもじゃないけど、しゃべれるような状態じゃない。呼吸が荒く、目もおぼろげだ。
「強制解除なら、俺が」
ニマが急いで魔法陣を描いていく。
「スイランさんは中央に立って。リョクタさん、クロをここへ。ナイフか何か、無いですか」
「あぁ……」
ニマに携帯用ナイフを差し出し、クロ殿下を抱きかかえニマに指示された場所へと運ぶ。ニマはクロ殿下の手をつかみ、魔法陣にかざす。
「ごめんね、クロ。ちょっと痛いけど……」
ニマがクロ殿下の指先に亀裂を入れ、そこから血が一滴、魔法陣に吸い込まれる。
「召喚解除!」
魔法陣が赤い光を帯びる。
「すい……らん……?」
クロ殿下がおぼろげにスイランに手を伸ばす。スイランもその手に竜のような手のひらを重ねる。
「またいつでも呼んで。クロ殿下が呼ぶのなら、またいつでもはせ参じよう」
そういうとスイランは魔法陣の中へと吸い込まれるように消えていく……。魔法陣の赤い光が消え、再びクロ殿下は目を閉じていた。
「とにかくポーション飲ませないと……」
「いえ、ニマくん。この状態ではクロ殿下に負担がかかります。闇属性を持つ者の多くは光魔法やその類で作るポーションは負担になるのです。ある程度体力のある場合は回復し、負担も微々たるものですが、この状態で使えば回復はおろか、更に体力やMPが削られます」
「じゃぁ……どうすれば……?」
「エストレラ産のポーションなら闇属性の者にも負担がなく回復すると思いますが……」
「ポーションはクロ殿下のマジックバックの中っすよ」
ヴェイセルが本人以外には使えぬようロックをかけていたはずだ。旅の途中で落としたり盗まれたりするわけにはいけないから。
「私が持っているのは連合王国産ですから……今のクロ殿下には。とにかく、近くの町の薬屋でエストレラ産のを探すか負担の少ない薬草を探すしかありません」
「ここがエストレラである可能性は……?」
「ここは、何となく空気が違うっす」
「空気……?」
「……私もそのような気がします。エストレラと同じく、北方の国である気はしますが……」
「おい、エストレラと同じ北方の国っていやぁ……」
北部魔王国、もしくは……。
ピロロロロロロロロロロロ……
「クロ殿下の通信機ですか……?」
セナさんがクロ殿下のポケットから身分証兼端末を取り出す。スイッチを入れると画面に映し出されたのはシュテルン公爵ことエリック様とクォーツ州を治めるクォーツ公爵だった。




