【85】クロ殿下と行き先
――――side:北魔王城
「……それで、召喚勇者どもは東北砦の鬼王子が連れ帰ったと」
北部魔王城魔王の間には人影が2つ。その内の玉座に座する幼い少女が嘆息する。少女は薄い金色の絹のようにつややかな長い髪を低い位置でツインテールにしている。
そして目の前の男と同じく、頭には白く短い歪んだ角が生えており褐色の肌をしている。普段はぱっちりと丸くかわいらしいだいだい色の瞳は怪訝そうに目の前の男を見ている。
「……えぇ……まぁ……」
そう答えるのは先ほどまで北部魔王国国境で勇者らを迎え討っていた北部魔王四天王が一人ツルギである。
「しかし……偵察に赴けとは言ったが、アンデッドはやりすぎじゃ」
ツルギの目の前の少女……北部魔王アンズは顔を顰める。
「え?奴らに目にもの見せてくるんじゃなかったのか?」
「バカ!それは召喚勇者のほうじゃ!……奴ら、宣託で……ムヅラをケガさせ……ううん、何でもない!」
そういう北部魔王の頬は少し赤らんでいた。
「……お嬢……?」
そんな北部魔王の反応にツルギは首を傾げるだけだった。
――――side:クロ殿下・東北砦
「何かいろいろと大変なことに巻き込んでしまってすまなかった」
いやいや、そんな!スバルは申し訳なさそうな顔をしている。
「いや、ほとんどムヅラさんがすぱっと解決してくれたんだし……俺は大丈夫」
「そうなんだ!兄上はいつもかっこよくて強くて何でもできて……は……っ!何でもない……」
スバルは隣にいるムヅラさんがいることを思い出し、顔を赤くして背けていた。す、スバルってもしかしてやっぱり、お兄ちゃん大好きなのか!?俺も他人のこと言えんけど!!!
「これからどうする?」
と、ムヅラさん。
「エリック父さんが北部に滞在しているので、そこで合流してエストレラに帰ります」
エリック父さんは先に王城で所用を済ませ北部に滞在していると連絡が入った。通信画面には何故かクォーツ公爵が一緒にいたけれど王都から北部まで移動するには暫くかかるから、やはりあの人の空間魔法で移動したんだろうか……?
因みにキラさんとエーベルハルトさんは一度東方魔王国に報告に行ってから帰るらしい。
「それじゃぁ、道中お気をつけて」
「……ん」
スバル、ムヅラさんたちに見送られて、俺たちクロ殿下ご一行はヴェイセルのゲートをくぐる。
「また来ような」
そういうとヴェイセルも頷く。
「そうだね。スバルはクロと同じ転生者だから、きっとクロとも話が合うと思うよ」
ヴェイセルが他のメンバーには聞こえないよう耳元でささやく。
「……へ?」
今、何て……?スバルが転生者?じゃぁ温泉文化のない南部連合王国内でスバルの領地に温泉があったのも、香辛料を使った異国情緒の溢れる料理が多い南部連合王国でスバルの領地に和食が食べられたのも……スバルもおんなじ転生者だったから……?
「スバルは俺が転生者だって知ってるの……?」
「うん、ロリショタスコープでスバルが転生者なのはすぐわかったからね。俺もそうだよって話してあるし……クロの騎士になってから、クロも転生者だよ~~って話したけど?」
……。
……その情報もっと早く欲しかったあぁぁぁぁっっ!何かずっと引っかかってた答えが今まさにここに!もうゲートを越えて、ヴェイセルがゲートを消して、北部の人里離れた山の中だよもう!さすがに一般市民の前でゲートを突然開けるとビビられるので人目のつかないところに出してもらっている。
事前にそのことを知っていたらもっと転生者あるあるの話とかできたかもしれないな……。いやでも、今度会った時にとっておくか。王子同士、また会う機会があるかもしれないしスバルはSS級冒険者だ。極夜祭の時にどうせユキメ領に来るのだし、会いに行ってみるのも悪くはない。
「さて、早速合流を……セナ殿は我々と一緒に来てよかったのですか……?」
紅消がリョクタのしっぽをもふっているセナさんを見やる。そ、そういえば……!?というかリョクタのふわもふに夢中でつい、ついて来てしまった的な?でもセナさんってどうして北部魔族に捕まっていたのだろう……?そもそもセナさんってどこから来たの?ここはヴェイセルに頼んでセナさんを故郷やお家に送るくらいはしないと。
「えぇ!構いませんよ。むしろクロ殿下のこと気に入りましたから!」
俺の両手をつかんでキラッキラ目で俺に微笑むセナさん。何だろう、セナさんって同類の匂いがするぞ。ジョブもふり師とかじゃないよね……?
いつの間にかセナさんがご一行に加わり、エリック父さんの待つ宿屋(最高級)に向かおうとしたのだが……突然周囲が暗転した。
「まずい!クロ……っ!……み、……ジョン!」
とぎれとぎれのヴェイセルの声がわずかに耳に届いた。
え……?
何……?……み……じょん?
何て言おうと……?
そして俺は意識を失った。
――――side:南部連合王国北部宿屋(最高級)
「遅いな……ヴェイセルがついているはずだからそろそろついてもおかしくはないんだが一体何をしているんだ?」
エリックは滞在中の宿屋でもせっせと書類を片付けながら時計を見上げる。
「あ……忘れてた」
「何をだ、フィーア」
エリックは自分の前でくつろぎ惰眠をむさぼっていたクォーツ公爵ことフィーア・フォン・クォーツを見やる。
「ヴェイセルにね、伝えとくの忘れてた。闇ダンジョンのこと」
「闇ダンジョン……?未開のダンジョンの一種のことか」
人の手が入らず、調整も行っていない突破者のいないダンジョンのことを未開のダンジョンと言う。
その中でも規格外の規模を誇り、通常の冒険者たちでは太刀打ちができない恐ろしいダンジョンを……闇ダンジョンという。
「昔、ここらの闇ダンジョンに巻き込まれてね。ダンジョン内すべからくコテンパンに叩きのめして突破したからダンジョンボスに怨まれているんだった」
規格外のクォーツ公爵の突破した規格外の闇ダンジョンは闇ダンジョンの理を外れ例外的に未開ダンジョンと呼ばれる。というかその規格外ダンジョンでさえ、クォーツ公爵やSS級冒険者以外知るものは少ない。
何故なら危険だから。興味本位で挑まれたらそれこそ本末転倒、救助に駆り出されるSS級冒険者も大変だ。だからこそ一般には秘匿されるのだという。
「ヴェイセルは空間魔法が使えるしぼくと魔力の波長も似てるから、もしかしたら間違われてまた挑まれるかも……?」
「フィーア!それを早く言わんか!」
エリックは慌ててクロやヴェイセルに通信をつなごうとするがつながらない。
「大丈夫、ヴェイセルも紅消君も……それにリョクタくんも一緒なんだよね?皆一緒なら、内部は安心」
「ばらばらになってたらどうすんだ……」
「ん……?ヴェイセルなら何とかするよ。多分ダンジョン内は内部にいるもの同士、通信ができるはずだし……出口ならわかっている」
「どこに出るんだ……?」
「……」
フィーアの答えを聞いて、エリックは愕然とする。
「……嘘だろう……?そんな……っ」




