【84】クロ殿下と鬼王子
―――南部連合王国王室には確執があるらしい。
「第3王子と第1王女の母親は第2妃なんだ。第2妃が身ごもった後、しばらくして俺たちの母が兄上を身ごもった」
スバルのお母さんって確か第3妃だったな。
「しかし第2妃の産んだ子供は王女だったんだ。そして俺たちの母第3妃の産んだ子供が王子だった。本来であれば妃の順に王子が産まれるはずだったのに、その計画が崩れ第2王子が第3妃の王子である兄上になったしまった」
そういう順番って割と決まってそうだからなぁ。南部連合王国は男子継承制だ。エストレラは全く気にしてないというか、ゴーシュ父さんには王女のエメラ姉さんしかいないけどどうしても世継ぎの王子がほしい!という感じじゃない。
「第2妃の恨みを肌で感じてきた第3王子と第1王女は兄上が憎くて憎くてたまらない。そして功をあげようとして焦ってるんだ」
そう語るスバルの面持ちは暗く、重たい。お兄さんが大好きで尊敬しているけれど、お兄さんがそんな恨みを一心に受けているのがつらいんだろうな。
「あ、見えてきたよ!勇者ご一行。魔族らしき面々と戦ってる」
とヴェイセル。
本当だ。勇者ご一行はいかにもな聖剣を持ったチャラ男系少年と魔法使いっぽい格好をした女の子、そして……。
「あ、あのさ……スバル。こういうのってものすごーく失礼なんだけど……聖女兼第1王女様っておいくつ……?」
「……クロ、言いたいことはよく分かる」
少年少女は16~7歳といったところだ。けれど第1王女は……。
「26歳だよ。王太子が27歳、兄上が25歳。間に第3王子や妹を挟んで、俺と兄上は10歳くらい歳が離れているんだ」
そっか、スバルはお兄さんと結構歳が離れているんだな。俺とアスラン兄さん、エル兄さんみたいだ。
しかし少年少女と10歳も違うのか?いや違ったらダメなわけじゃないけど、年齢気にするのは失礼だけど。聖女と名乗る第1王女は物凄くけばっけばで……やばかった。
「……イケメン好きだって聞いたことがある」
「ムヅラさんもイケメンだと思うけど」
「兄上はかっこいいけど、角がダメだって。意味が解らない」
スバルが不満げに吐き捨てる。
「でもあの勇者は女性とみれば構わず声をかけるけど、年上ってだけで金ヅルとしか見ていないから」
ちょっと、ニマくん!?何でそんなこと知ってるの?!
「ニマは地球で知り合いだったんだね」
「うん。俺、巻き込まれた形だから……近くにいたら一緒に引き込まれた」
……ん?引き込まれた?
「実は勇者召喚を行ったときに近くにいたニマが一緒に引き込まれてしまったんだ。ニマは半分この世界の人の血を受け継いでいるからね」
ニマくんってクォーツ公爵の息子だけど……。
「世界違うよね。クォーツ公爵って異世界を行き来できるとか?」
「うん、空間魔法でできないこともないって。ものすっごく疲れるみたいだけどね。でもニマが産まれたのはこっちの世界。お母さんが元召喚勇者だったんだよね」
……はい!?召喚勇者の息子!?
「いろいろあって地球に戻っていたんだけど、もともとニマが15歳になったらこちらの世界に連れてくるって計画だったんだって。少し早まっちゃったね」
「うん」
一度召喚されて元の世界にも戻れて、再び来られるってこと?クォーツ公爵……何者なんだあの人、本当に!!!
「あの……ヴェイセルさん。その召喚勇者と言うのは?」
「スバルは聞いたことがあるかもしれないね。勇者サラ」
「知ってます!前回勇者召喚時に東方魔王と手を組んで召喚勇者を倒して休戦に持ち込んだって言う……我が領では英雄です!」
そ……その勇者だったんかい!しかも英雄なの!?
「え……そんなんじゃないって」
ニマくんは遠慮しているが、スバルは種族と国を越えてエーベルハルトさんと勇者サラさん大喝采を始めてしまった。あ、クララさんとカロクさんも混ざっている。
「地球ではキラとも一時過ごしました」
「……キラさんも?」
「クロ、キラの母親は元召喚聖女だったんだよ。地球に戻った後、事情があってキラとそのお母さんは早めにこちらの世界に戻ってきたんだけどね」
んななななななっ!やけに異世界物あるあるに詳しいと思ったらモロ地球の知識だったの!?
「ちなみにその聖女様はどこのパーティだったの?」
「え?サラさんだよ?」
やっぱりかあぁぁぁぁっっ!てことは聖女が東方魔王と手を組んだ?あれ、確かキラさんのお父さんって先代東方魔王……手ぇ組んだってか、仲良く結婚してんじゃねぇかっ!!
――――ズドオォォォォォォッン!!!
突如画面の向こうからすごい音が響いてくる。
『よくもコケにしてくれたな……』
ひいぃぃぃっっ!
まるで鬼がご降臨されたかのように、ムヅラさんの頭から角が生えて見えるぅっ!あ、いや……あれ本物の角だ……。かわいそうなことに勇者は既に伸びていて、魔法少女が恐怖で泣き叫んでいる。
ムヅラさんと対峙して顔をこわばらせている自称聖女第1王女。そしてそれを見てドン引きしている北部魔族の皆さん。
よく見ると先日元魔の森で遭遇した四天王もいる。
『わ……わかっているのですか。あなた……自分のしていることを!魔王を討伐に赴く私たちを阻み、攻撃を仕掛けるということは……っ!魔族に与すると同じ事!』
そう告げたのは第1王女だ。
『お前こそわかっているのか?自国の最重要砦を破壊し、王子にケガを負わせ、他国を侵略しようと画策している。俺は砦破りなどという蛮行を働き、一般市民に危害を加え、王族にケガを負わせた罪人どもを連れ戻しに来ただけだ』
『罪人ですって!?聖女であり第1王女であるわたくしを侮辱する気ですか!?』
『聖女……?お前が?お前が天啓で授かったジョブは……※※ピー(効果音)※※女だろう』
あれ?ピーの部分、聞き取れない。モニター生中継なのに何でピー音入ってんの?
『な……何故それを……いえ、何の根拠があって……っ!侮辱です!わたくしへの侮辱です!』
『まぁ、罪人であることには変わりない。どうせ王族としての身分もはく奪される』
『そんなことは……っ!わたくしの母は連合王国でも権威のある第2妃なのですから!』
『どうでもいい。この機会を逃す王太子ではない……』
『ひっ!』
ふと、ムヅラさんが北部魔王国砦の方角を見る。
『そうだ……この罪人どもの処分引き渡しと引き換えに、お前らが魔の森に偵察を放ちアンデッドを放った罪は見逃してやろう』
『げ……っ!何で知ってんだ……』
……とあの時の四天王。やっぱりこの人どこまで知ってんの!?完っ全にクォーツ公爵!クォーツ公爵級じゃないか!?
――――そして砦から追ってきた恐怖の鬼は第1王女ともども縛り上げ、荒野を引きずって北部魔王国国境砦を後にするのだった。
――――side:南部連合王国城
「……そうか。予測通りだな。今回、捕縛回収作業は第2王子が行ったが、第1王子である王太子が陰でいろいろと動いていたようだ」
そう報告を受けたのはシュテルン公爵ことエリックである。
「第1王女、第3王子は失脚、第2妃も故郷に返されたんだってね」
その目の前で含んだ笑みを見せるのは彼の腐れ縁であり神出鬼没な男……フィーアである。
「……勇者召喚についてはどうするつもりだ?」
「別にどうも。ウチの子を回収できたから、ぼくはそれでいいよ」
「元の世界に帰したりはしないのか?」
「嫌だよ。異世界渡りは疲れるし、この世界で犯した罪はこの世界で償うべきだよね……?」
「……まぁ、そうだな。そこまで善人である必要はない」
「君はそろそろ帰るんだろう?エリック」
「あぁ、近衛騎士隊たちと北部に移動して、クロたちを回収して帰る。お前はどうするんだ?フィーア」
「うーん……何か忘れてる気が……まぁ、いいか。ついでに送ってあげるよ?」
フィーアことクォーツ公爵はいつもの食えない微笑みを浮かべ、ゲートを出現させるのだった。




