【80】クロ殿下と聖なる森
――――カロクさんとリョクタの感じた腐臭。その正体を紅消が言い当てる。
「まずい!アンデッドの群れです!」
うおおぉぉぉっ……まじか。エストレラではまず遭遇しないもの……それがアンデッド。シズメさまの鎮守の力のおかげと言われているが、外国ではその力が及ばないので普通にいるのだ。この世界にもいるのだ。俺、ホラー物とか苦手なんですけど……。
「ヴェイセルさん、炎魔法ですね。俺も援護を」
「ありがとう、スバル」
さすがどっちもSS級。物怖じもせずにきびきびとしている。カロクさんは鼻に手を当てて、リョクタと同じように悶えていると言うのに。
「カロクさん……ひょっとして碧ろ……」
カロクさんのターバンがほどけ、リョクタとおんなじ緑色の小さめな狼耳が露になった。まじか、カロクさんもふわもふだった!!!
「それじゃ……炎の精霊魔法……浄化の……」
「ちょま――――っ!?ヴェイセル!森を燃やすの!?」
「残念だけど、あの数のアンデッドを相手にするには俺の極大精霊魔法・浄化の炎が一番だから」
いや、確かに技名からしてアンデッドに効きそうだけれども!
「クロ。もともとこの森はモンスターが溢れ、周辺の領地に被害をもたらす魔の森なんだ。この機に燃やして消滅させるのも……一つの手だ」
そんな、スバル……。確かに魔の森ってネーミングは恐いけど、だからって森ごと燃やすなんて。クリスタで森の精の言葉を聞いたからだろうか……?何故か、それがひどく嫌で……恐くて……。エストレラのようにシズメさまみたいな鎮守の力の恩恵を受けられない場所では仕方ないんだろうか。
ん……?鎮守の精霊の力……?
俺、使えんじゃん。
マジックバッグからシズメさまの槍を取り出しスイッチオン。んーと、どうやって使うんだ?地面に槍をストンとあてて……。
「……クロ殿下?」
たんたんが不思議そうに俺を見る。そういえばたんたんの前で使ったのは初めてか。やり方がいまいちわからないけど。
うぅ~。シズメさま~シズメさま~やり方教えて~。
――――クロ……?
ん?シズメさまの声がする……?
――――ん、大丈夫……。
何故かはわからないけど、頭の中で鐘の音が響いた気がする。大地は青白い光に包まれ、それが周囲に呼応していくのが分かった。
「クロ……それは……?」
ヴェイセルとスバルは魔法を使おうとするのを止めて驚いたように俺を見る。遠くでアンデッドたちが光の粒子になって消えていくのがわかる。苦しんでいる声は聞こえない。ただ……静かに、清らかに……消えていく。
――――ありがとうなのれすー
――――森を守ってくれたのれす
――――クリスタの子たちが言っていた通りなのれす?
えっと……今の声はもしかして……この森の精なのか……?というかクリスタの森の精たちと知り合い!?話とか情報交換とかもしてるのか……?俺はそんなことを考えながら……意識を手放した。
大丈夫だって。何せSS冒険者2人に精鋭ぞろいなんだから。
※※※
――――目を開けると、そこは木漏れ日がキラキラと揺らめき清らかな空気に小鳥のさえずりが聞こえる明るい森だった。
「ここ……どこ?」
目を開けるとそこには紅消の顔があった。紅消に膝枕されてる……?ヴェイセルじゃなくて……良かったかも。ヴェイセルだったら俺の寝顔をニタニタしながら眺めるに違いないから。
「クロ殿下、お目覚めですね」
「……うん」
「クロ、あの後急に倒れちゃって……シズメさまの力を借りた反動かもね」
「……ヴェイセル!ところでここは?」
「元魔の森」
元って何だ。
「クロ殿下。サーチしたところ、ここは既に聖なる森となっています」
たんたんのサーチ能力はそんな便利機能付きだったのか!?いわゆるマップ!マップ情報までサーチできんの!?
「クロがここを聖なる森に変えてしまったんだ」
「え……」
マジで……?あ、でもここってスバルの領地では……!?他国の王子の領地に勝手に手ぇ出しちゃった!?お、怒られる!?
「ご、ごめんなさいっ!!!」
「く……クロ!?どうして謝るの!?」
スバルが驚いている。
「だって俺……勝手に聖なる森に変えちゃった……」
「あ、いや……むしろお礼を言わせて。聖なる森にもモンスターは多少いるけど、魔の森時代のようなひどい被害は減るし、これなら領地へのアクセスも容易になるから……領主としてもありがたいよ」
す、スバル……いい人だ。この人いい領主になるよ。うん。
「クロが目を覚ましたから、早速領地へ行こうか」
「うん!」
俺のせいで足止めさせちゃったかな……いや、紅消……お姫様だっこはいいから。そこ!ヴェイセルと紅消!お姫様抱っこ争奪戦始めない!
「スバル……」
「どうした?カロク。鼻はもういいのか?」
「ん……」
腐臭に悶えてたからな。鼻がいいのも考え物だな。
「……だがその碧狼族を連れて行くのは反対だ」
……へ?その碧狼族って……リョクタ?見るとリョクタは少し離れたところでうつむいていた。隣にはセナさんがおり、心配してくれているのか、ただもふりたいだけなのか、リョクタのお耳をふにふにしていた。……俺だってふにふにしたいっ!……じゃなくて。
「リョクタが碧狼族だからか?リョクタは悪いことなんてしない!」
「それは、大丈夫。ウチのカロクも碧狼族だし」
あ、そうか。
「確かに碧狼族の犯罪組織のせいで種族的な偏見はあるけど……ウチの領地には人族も碧狼族も、兎耳族も、竜人族も差別はしていない。皆この僻地で協力し合って暮らしている」
「じゃ……じゃぁ、何で?」
ステータスカードに前科マークがあるからか?カロクさんってそういうのを見破るスキルを持っているのか?でもステータスカードには更生済マークもついているはずだ。
「カロク。彼はクロの従者なのだからちゃんとした理由があるんだろう?」
「俺の記憶が間違っていなければ……先ほど魔族に使用していた能力を見る限り、名前も年齢的にも碧狼族の忌み子だ」
忌み子って……何?
「どういうこと?」
エストレラ勢はヴェイセルも含めてきょとんとしている。しかしスバルとクララは顔を顰めていた。何だ?忌み子って……忌み……忌み付き……何だかイラッとしてきたぁっ!!
「おい、いくら獣耳しっぽのふわもふだからってそれは無いんじゃないか!?」
「……く……クロ!?いい子だから落ち着いて……」
止めるなヴェイセル。今だけは!
「どいつもこいつも自分らに都合が悪かったり偶然よくないことが起こったり、自分らの基準で不吉だって判断して勝手に忌み子だの忌み付きだのほざくのはどういうリョーケンだっつーの!」
カロクさんもスバルも目を丸くしている。
「いい加減にしろよ!こっちはな、そんな不名誉な呼び名つけられて侮蔑されるために産まれてきたんじゃねーんだよっ!勝手にそんな呼び名つけんな!リョクタは俺らの大事な仲間だ!それを忌み子だの、忌み付きだのほざくんなら……氷漬けにしてやる!!!」
ひゅおおおおおぉぉぉぉっっ。
「クロ、落ち着こうか。若干、クロの私怨も入ってるよね?」
ヴェイセルら熱を感じるのは俺の氷の吹雪を相殺しようとしているからか。
「スバル殿下はSS冒険者では……?力押しは難しいかと」
冷静な分析を、紅消め。確かにそうだけど。
「こういうのは気合が大事なのでは?ほらクロ殿下。無敵笑顔」
と、たんたん。そ……そうだねっ!ナイスたんたん!!
……にっこおおおおおおぉぉぉぉぉっっ???
ひゅおおおおおぉぉぉぉっっ。
何故か辺りが凍り付いた気がした。木漏れ日がとても麗らかなのだが。
「大変失礼をいたしました。クロ殿下」
「あう、スバル!?頭を上げて!クロでいいから……」
「いえ……供の者が貴方の従者を貶したことに違いはない。カロク。例え真実がどうあれ、俺たちはクロ殿下を怒らせるようなことを言ってしまったのだ。カロクからも謝罪を」
「……申し訳ありませんでした。クロ殿下」
「わ……分かってくれたのなら……」
そう言いかけたが。
「だが、スバル!」
クララさんは未だ不満なようだ。恐らく彼女は、スバルのためにそうしているのだ。彼女に悪気はない。分かるよ。エメラ姉さんに憧れてくれる子は、みんないいこだ。
「クララ、失礼をしたのはこちらだ。退きなさい。それに我々の領地は様々な事情を抱えた者が集まっている。領地のルールを守ってくれれば、種族、性別、年齢、事情を問わず……だ。だからこちらの勝手な推測で阻害してはならない。それに彼らは大切なお客様だよ」
「……分かった」
クララさんが引き下がる。うん、やっぱり。
「クロ殿下。我々は、リョクタさんを含め、皆さまを歓迎します」
「ありがとう……スバル」
俺は早速リョクタの頭をなでなでし、お耳をふにふに。ほら、元気出せ。
「く……クロ殿下。もう大好きっす!一生ついて行くっす!」
うおぉっ!リョクタの抱擁……割と筋肉系の強さだ……っ!




