【79】クロ殿下と魔族
――――突如現れた男に、俺はついつい呟いた。
「……ま、魔人族?」
「クロ、ここはエストレラじゃないんだから」
ヴェイセルが困ったように告げると。
『魔族でしょうに……』
皆にハモられた。
「テメェら、南部連合王国の人間どもだな!」
に……人間?そういえばいつきたちもそう呼んでたけど……この世界ではあんまり聞かない表現だ。魔族の中では一般的なんだろうか。
「イイエ、ワタシタチ、エストレラ人デース」
何でカタコトの外国人風なんだよヴェイセル!いや俺たち外国人だけど!この世界の言葉はほぼ世界共通!もちろん古代語や訛りとかはあるけれど!
「俺も今ではエストレラ国籍っす」
あ、国籍取得したんだ。
「……まぁこの国にももともと戸籍はなかったっすけど……(ボソッ)」
だーかーらー!リョクタ!さっきの食べ物衣類の話からもこの国でお前はどんなすさんだ暮らしを送ってたんだ……っ!!!
「何をわけわからんことを。人間だ!人間がいんぞ!」
「な……っ!仲間を呼ばれた!」
「ふっ……大丈夫だよ、クロ。俺がかなわない魔人族は……アーサーお兄様だけだ」
……え?アーサーさんって角あったっけ。あ、でも確かアーサーさんも先代魔人王のルビーさんの息子だったっけ。
「えぇ、毎日魔人族相手に調合してますから」
……何の調合だ、紅消。それ、正当な回復ポーションだよね……?そうと信じたい。
「俺だって、毎日魔人族のザック副隊長や隊員たち、巨人族の兄たち相手にしてますんで」
近衛騎士隊にも体力魔力自慢の魔人族、多いよね。
「リョクタは?」
「黒狼アニキとか、茶狼アニキとか……クリスタはあんまり魔人族いねぇっすよ。いるとすればドロシー姐さんくらいっすね」
「……だよね」
多分、俺がクォーツで稽古してもらった魔人族の方が多い。
「リョクタはクロをお願い」
「分かったっす。ヴェイセルさん!」
リョクタが俺を後ろに庇った瞬間であった。
「やれ!」
「かかれ!」
一斉に魔人……違った魔族の皆さんが飛び出してくる。何か皆恐そうだし!皆、白っぽい髪に、色黒の肌……何となく野性的で凛々しい身体つきだ。
「うるああぁぁぁぁっっ!!」
「どりゃあぁぁぁぁっっ!」
すごい雄たけびで俺は完全に蚊帳の外だ。
「何だ、お前は戦えねぇのか?」
しかしその時俺たちの前に、ひと際大きな魔族が現れた。
「クロ殿下、後ろに」
「殿下だぁ……?そいつ、南部連合の王子か何かか?」
「イイエ、ワタシハエストレラ人デェス」
やべ。俺もカタコトになってるぅ――――!!!
「何をわけわからんことを……」
「殿下、ここは……」
「待って、リョクタ」
こんな時こそ……レベル712の氷魔法をくらえ!
「アイスブリザ―――――ッド!!!」
「く……っ!」
効いたか……?
バリイィィィィンッ!!!
わ……割られた……?粉々に砕かれた……?
「かなりの威力だが俺様にゃぁ効かねえよ。俺様ぁなぁ、金属性と氷属性の使い手だ!氷にゃぁ耐性があんだよ!」
なぬっ!?氷と金は相性悪かった!?しかも同じ氷属性!!耐性ある上に弱点属性を……あれ、俺も同じの持ってなかったっけ?
「この北部魔王四天王の俺様にゃぁ効かねえんだよ!!!」
へ……?四天王?北部魔王……?四天王の男が拳に物凄い光を纏わせてこちらに突進してくる!皆、他の魔族を相手にしてるし……。
「クロ!」
ヴェイセル!ヴェイセルが魔族を蹴散らし、こちらに……リョクタを連れて一旦逃げ……っ。
『対象を捕捉。捕縛』
――――ひどく機械的な音声だった。
『対象を捕捉。捕縛』
リョクタの目が青白い光を帯びたと思うと、ふわりと風が舞い、帽子が外れてリョクタの狼耳が露になる。向かって来ると思った北部魔王四天王の男は青白く光の魔法陣の上でピクリとも動かない。
「ぐ……っ!これは……っ!お前……碧狼……年齢からみても、お前は……っ!」
四天王の男はリョクタを知っているのか?ハッとしたリョクタは我に還ったようで、青白い光と魔法陣が消え四天王の男は地に膝をついて崩れる。
「てめぇ……まだこの国にいたとはな……っ」
リョクタはぴくりと怯えたように身体を震わせる。
「ヴェイセルさん!」
魔族との戦闘区域に、先日であったスバルさん、クララさん、カロクさんが飛び込んでくる。
「退くぞ!お前ら!厄介な奴がいる!」
四天王がそう叫ぶと、魔族たちが一斉に退却しだす。
「待て!我が領地に潜入するとは何者だ!」
「はんっ!教えるかよっ!領主様よ」
……いや、さっき聞いたんすけど。後で話すからね?魔族たちは地面に浮かんだゲートのようなもので一瞬で離脱する。あれはヴェイセルの空間魔法とおんなじものか……?
『一つ言い忘れていたが、みやげを残してやったからな……はっはっは!』
うわ、何!?その悪役気取りの捨てゼリフは!?
「一体何だったんだろうね……それにしてもスバル、助かったよ」
ヴェイセルがスバルに歩み寄っていく。
「まさかとは思ったけれど魔の森を突っ切ってくる気かもと心配になり、念のため見にきたんですよ、ヴェイセルさん」
うん、当たってた――――。
「んもうっ!スバルたんったら~~!そんなにお兄さんに会いたかった?も~~っ!」
相変わらずのショタコン剣聖がっ!雰囲気台無しっ!!!ズクシッ!!!
「ぐはっ!く……クロ……っ」
よし、ショタコンが大人しくなったところで。
「……もうひとり、誰かいる……」
カロクさんがそう言って草むらを掻き分ける。覗いてみるとそこにいたのは。
「瑠璃色の毛並み……?」
「へぇ……いろいろ見て回ってるけどこれは初めて見たなぁ……」
ヴェイセルがそういうのならかなり珍しいのだろう。そこには拘束されて気を失っている瑠璃色の獣人族の青年が横たわっていた。
拘束を解き、紅消が回復ポーションを飲ませるとしばらくして青年が目を覚ましたようだ。
「大丈夫ですか……?」
「ん……?あれ……魔人族は……?」
「もういないですよ……って魔人族?」
「えっと、エストレラ人ですか?」
「……エストレラ?私は南部連合王国出身ですが」
何で南部連合王国民がエストレラ人お約束のボケ魔人族を口走ってんの!?
「えっと、俺はここの領主をしているスバルといいます。あなたのお名前は……?」
「……セナです」
「セナさんは、どうしてこちらへ……?」
「えぇっと……その、いろいろあって魔人族に捕まって連れて行かれそうになったのです」
いろいろの部分を詳しく聞きたいんだが……。
「セナさん。魔人族じゃなくて、アノヒトタチ、マゾクデース」
ヴェイセル、いい加減そのしゃべり方やめろ。ちょっとムカついてきた。
「……そうでした。というか、魔人族とは何でしょう?私ったら何を言って……」
知らんのかい!!!しょうがないなぁ、もう……。
「……魔人族は、エストレラに住む角のある種族だけど」
「まぁ、よく似た種族がいるのですね!」
よく似た……っていうか、角の形状と種族名の呼称が違うだけらしいんだけど。
「とにかくウチの領で一時保護します。あなたもついてきてください」
「は……はい。感謝極まりないです」
「それにしても、さっきのおきみやげ的な捨てゼリフ、何だったんだろう?」
俺はヴェイセルを見るがきょとんとしている。
「クロ殿下、サーチに何かが大量に引っかかっています」
え、たんたん、すごっ!
「うぷ……っ」
ずっと黙っていたリョクタだが……いきなりどうした?気持ちが悪いのか?
「これは……腐臭だ」
え……っ!カロクさん、匂いを探知した……?そして何故かカロクさんはリョクタを訝し気なまなざしで見つめていた。




