【78】クロ殿下と魔の森
――――お勉強スケジュールに驚愕しつつも、無事南部魔王城についた俺たちは控室で準備中だ。
「クロ、あいさつ回りの順番は私が先導する」
「うん、エリック父さん」
「……父上」
「……」
「……父上」
「はい、ち、ちちちちちちちちちちちち……うえ」
「……言葉の使い方もお勉強科目に加えるか」
だって!しょうがないじゃん!恥ずかしいんだもん!むぅーっっ!!!
まさか俺が礼装をしてこんなきらびやかな王族貴族の社交場へ繰り出すことになろうとは。父上呼びを迫られるとは。本日の装いは赤紫のアスコットタイにゴシック調の飾りやボタンをあしらったベストと上着。上着は燕尾服のようなデザインだが、背広の襟ではなくちょっとおしゃれ目なコートのような立襟だ。そして上着の袖下からはひらひらとしたシャツの袖がのぞいている。
何かアイドルの王子コスプレみたいでちょっと恥ずかしい。いや王子なんだけども、アイドル風ってのがこそばゆい。
うん。でも大丈夫。
エリック父さ……ち、ちちちちちちちち……上……がついているんだし、ヴェイセルもついているし紅消やたんたんも影ながらついている。リョクタは何かあった時に困るため控室でお留守番だ。
エリック父さ……ち、ちちちちちち父上に続いて0円スマイルを振りまきつつ聞いているふり、聞いているふり。
「クロムウェル……王太子殿下だ。あいさつを」
「あ……はい!エストレラ王国第4王子クロムウェルと申します。本日はお会いできて光栄です」
今日はこのセリフをルーティング。
「こちらこそ。クロムウェル殿下。南部連合王国王太子ルドルフと申します。本日は我が国へようこそ。どうぞ楽しんで行かれてください」
ルドルフ王太子は金色ウェーブがかった髪にダークグレーの瞳。そしておしゃれな髭をフェイスラインに沿って顎から頬にかけてさわやか風に整えているお兄さんだ。
スバルやカロクさんのように和風っぽい名前が多いのかと思ったのだが、必ずしもそうではないらしい。
「はい!ありがとうございます」
にこっ!必殺0円スマイル!
「そういえばクロムウェル殿下は一時期忌み付き王子と呼ばれていらっしゃったとか」
……はいいいいいいいい?いきなり何を言い出すこの王太子!おらぁ!エストレラにケンカ売ってんのか!クォーツにケンカ売ってんのか!?いいいいいいいや、でもここで怒ったらダメ。絶対エリック父上様お父様御御御御父上様に怒られる!こういう時は……こういう時は……。
必殺クォーツ公爵!はレベルが高すぎるから……そうだ父さんだ!俺には父さん(※ヨシュア)がいるじゃないか!俺も父さんの息子だ!同じ血が流れてるんだ!よし、イケる!!いくんだ……クロムウェル!!!
「随分懐かしいお話をご存じなのですね」
にっこおおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!!!喰らえやあぁっ!!!必殺……(ヨシュア)父さんスマイイイィィィィィッッルゥッ!!!!!
「……」
おい、何故黙っている王太子。
「……ぷっ」
何故笑った王太子!
「いやぁ、ごめんごめん。君がどういう人なのかが気になってね。おかげでよくわかったよ。君、面白いね」
は、はい?
「王太子殿下、どうぞそれくらいに」
「すまなかった。シュテルン公爵。気を悪くさせてしまったかな。これからもよろしく頼むよ。それからクロムウェル殿下。君の兄上、エルヴィスにもよろしく伝えておいてくれ。ではそろそろ失礼」
な、何だったんだあの王太子。王太子ってどこでもあんな感じなのか……?エストレラはまだ王太子決まってないからなんとも……。
「クロ……顔」
「ひっっう!?」
「何だ、その『ひう』って」
「ご、ごめんなさい。あいさつ回り!どんっどん行きましょう!」
し……しかめっ面になってた。……笑顔、笑顔、王子スマイル!にっこおおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!
「……く、クロ……お前」
何だろう?エリック父さんが一瞬凍り付いたような……?氷魔法は使っていないんだけど。よし。大丈夫。無敵の(ヨシュア)父さんスマイルで乗り切るぞー!
――――しかし俺は知らなかった。俺が無敵の(ヨシュア)父さんスマイルを放つたびに、周囲が、会場が恐れ慄き、凍り付いていたことを……。
――――あいさつ回りから解放され、俺は会場の隅っこでヴェイセルと南部連合料理に舌鼓を打っていた。
あぁ、おいしい。ちょっと辛めの味付けだけどスパイスがキイていておいしい……!お米料理もあるっ!これはこれでいいかも~。
「クロ、コレもおいしいよ」
「ありがと、ヴェイセル」
「クロムウェル殿下」
「はひ?」
突然名前を呼ばれて、振り向くとそこにいたのはあの時飲み屋で出会った彼だった。
「スバル?どうして……」
あ、そういえば領地を治めてるって言ってたし貴族なのか?スバルは明るい藍色の丈の長いシンプルな軍服調のトップスをベルトで固定しており、腕には肘まである長いローアンバーの手袋の上に手首までの銀色のガントレットはめている。
そして、下はトップス同じ色のズボンに銀色の装飾のついたダークブラウンのブーツを合わせている。さらに肩の部分に金色の装飾のついた濃い藍色のマントを羽織っていて、はっきりいってカッコいい。ヴェイセルのマントは全く憧れないが、スバルはカッコいいなぁ。
俺的には結構デキるザ・ファンタジーの冒険者!……と言う感じの服装だ。
「クロ、何かお兄さんちょっとマントがむず痒い。お兄さんのマントカッコよくない?」
誰がお兄さんじゃいっ!あと読心術やめろ。ヴェイセルをスバルから見えない位置からズクシッ!!!
「ごあいさつが遅れて申し訳ありません。南部連合王国第4王子スバルと申します」
ん……?王子……?第……4……?
「お……っ王子いいぃぃぃぃ――――っ!?」
思いっきり絶叫してしまった。やっべ。スバルまできょとんとしてるよ!
因みに従者と思われる少女まで。周りも一斉に『何だ?』と顔を向ける。やばい……めちゃくちゃ目立ってしまった!またエリック父さんに授業科目を増やされてしまう……っ!
「クロ、笑顔」
あ、そうか。ナイスアシスト。ヴェイセル。よし。にっこおおおおおおぉぉぉぉぉっっ!!!
「……えと……」
「ひうっ!……す、スバル……や、やばいぞこの王子!」
あれ?従者さんが何か言ってる?でも周りは一斉に目をそらしたし……正解だよね?
「スバル。クロは別に怒っているわけじゃないよ」
そりゃそうだよ、ヴェイセル。
「これは単なる社交スマイルだから」
と、ヴェイセルが続けて付け加える。
「そ、それなら……」
ん……?何だか納得してくれたようだ。
「あ、ごめんなさい。俺は……」
「クロムウェル王子。昨日ヴェイセルと一緒にいたので、もしかしたらと思いましたが。一般の民衆がそばにいたので」
「あぁ……確かに。えっと、クロでいいよ。改めてよろしく。スバル」
「俺もスバルでいいよ。よろしくね、クロ」
すっと握手を求めるスバルに、俺も続いた。……あれ?スバルが第4王子ってことは……。
「えっ、えすえ……」
「クロ、そうだけど……ここでは……」
はう……っ!
「よろしければ今度是非ウチの領地に遊びに来てください」
「え……っ!行ってもいいんですか?」
「はい、是非」
あ、でも一応エリック父さんに断っといた方がいいかな。ヴェイセルを一瞥すると。
「大丈夫だよ。元々そのつもりで来たんだし」
そっか、なら……。
「まぁ、俺もスバルの領地に行くのは初めてだから楽しみ~~」
ヴェイセルがへらへらと笑む。相変わらず緊張感のない剣聖め。
しかしその時曲が変わったことに気が付く。これってダンスレッスンで聞いた曲のような……。
「クロ、踊ってこないの?気になったご令嬢でも誘っといで。一曲くらいは踊らないとエリック様にまた言われるよ?」
「ぎくっ」
いや、そんな……。でも女性を誘わなきゃいけないなんて……無理だ。俺には無理だ。ダンスのレッスンはやったけど女性の誘い方なんて知らないよ!
クォーツの祭で輪になってアリスや隣になった子とくるくる踊ったことしかないよ!!エメラ姉さーん!女性ってどう誘うの――――っ!
「では、ウチのクララはどうかな?」
その時スバルが隣にいた従者の少女を示す。クララさんは小麦色の髪をポニーテールに結んでおりエストレラの竜人族とは違う小さく短い竜角がついている。格好は軍服調の立襟の服をベルトで締めた騎士風の格好でとても踊るような恰好には見えないのだが。
「だからドレスにしたらって言ったのに」
「……動きやすいから。ダンスもこちらの方が動きやすい」
「エメラ姉さんみたいなことを……」
「エメラルディーナ王女殿下!」
……あれ?クララさんの目が輝いている?
「クララはエメラルディーナ王女殿下のファンなんです」
エメラ姉さんに憧れる女性は多いからな。女性をダンスに誘うなんて絶対朝飯前である。外国にまでファンがいるとは。でも中身はド天然だぞ。
「クロ、誘わないと」
「あ、うん。クララ様、私と踊っていただけますか?」
「……エメラルディーナ王女殿下の弟君なら……特別」
エメラ姉さんが人気者で助かった~~。こうして無事に舞踏会デビューを果たした俺だったが、エリック父さんには微妙な顔をされた。
――――しかしながら式典を無事終えた俺はヴェイセル、紅消、リョクタ、たんたんの5人で魔の森前に集合している。
エリック父さんは南部連合王国城で他の予定が入っているようで別行動だ。
「……」
「どうしたの?クロ。早く行こう」
「……魔の森?」
「うん、そうだよ」
しれっと言ってきやがるなこの剣聖!
「……何!?そのやばそうな森!」
「スバルの領地に行くにはこの魔の森を突っ切っていけば早いから」
「大丈夫なの!?」
「普通は遠回りして海辺沿いの街道を行きますね」
と、たんたん。
「魔の森通るなんてよっぽどやばい奴らしかいないですね」
と、リョクタ。地元民ですらそう言ってるよ!?ヴェイセルのゲートで……いや、初めて行くって言ってたっけ。
「危険は……ないの?」
「危険っすよー。A級冒険者でパーティー組んでも難しいっすね」
えええぇぇ―――――っ!?ヴェイセルはSS級だけど。紅消はそれくらい楽勝って言ってた気はするけど!たんたんも近衛騎士隊副隊長である以上かなり強いと思うけど!
「街道……行かない?」
「レベル上がるよ?」
レベルよりも、安全性。
「街道を進むと丸2日かかります」
と紅消。かかっても……いいけど?
「ほら、クロ経験値バンド」
「あ、でも……そしたらヴェイセルのレベルが下がっちゃう……」
「……大丈夫!もしもの時は炎の精霊魔法浄化の炎で魔の森ごと消滅させるから!」
『さぁ、クロ殿下!参りましょう!!』
「だ……ダメ―!森林破壊ダメ!絶対!大雨とか降ったらどーすんの!!!」
森はそういう時に頼りになる……んだった気がする!
――――魔の森、恐いモンスター、瞬殺。
――――魔の森、恐いモンスターの大群、瞬殺、撃退、討伐。
俺のレベルは……712に上がった。
「今、森のどのあたり……?」
「地図からすると、中腹くらいでしょうか」
たんたんはサーチ能力もあるようで地図を見ながらこまめに印をつけている。
「殿下、何か……匂いがするっす」
へ……?何だ!?俺か!?昨日シャワーは入ったけど!?因みに南部連合王国には温泉はない。シャワーだけだ!でもスバルの領地にはあるらしいから……楽しみだ。
まぁヴェイセルのゲートでいつでもエストレラの温泉に入りに行けるんだけど、旅先での温泉にこそ意味がある!!
「何すかね……多分、ひとがいるっす」
「こんな魔の森の奥地に……?」
ヴェイセルが視線も合わせず襲い掛かるモンスターを薙ぎ払いながら怪訝な顔をする。
「スバル王子じゃないんですか?SS級冒険者でしょう?」
「紅消さん、匂いが違うっす」
そういえばエストレラの獣人族も鼻がよかったっけ。それも狼系は特に鼻が利くらしい。
「……カロクさんでもないっすよ」
「でも……かすかに……これは……魔人族……みたいな?」
「え、分かるの……?」
「……上手く言えないんすけど、魔力には匂いみたいなのがあって……それが濃いんすよ」
それは初めて知った。でもここに魔人族……?
「ならきっと……魔族だろうね」
「えぇ。ここに魔人族がいるとは考えられません」
ヴェイセルとたんたんの顔が険しくなる。
「避けていけば大丈夫だよ。リョクタ、どの辺りにいるかわかる?」
と、ヴェイセルが問えば。
「いや、すぐそこ……」
え……?
ガサ……ッ
草を掻き分けてひょっこり顔を出した男の頭には、鴇子ちゃんやイグリさんと同じ白く短い歪んだ角が2本生えていた。
は、ははははははは早く言ってえええぇぇぇぇぇぇっっ!!!!!




