【76】クロ殿下と南部連合王国道中
――――それは何気ない呟きであった。
「俺と同い年でSS級冒険者かぁ……すごいなぁ」
といっても俺は今年の極夜祭で14歳になるのであちらはもう既に14歳だろう。因みに俺の今のレベルは610。主にエル兄さんの氷魔法スパルタ特訓のせいだ。冒険者ランクはヴェイセルや紅消と祭壇のお仕事の暇を縫って些細な依頼をちょくちょくこなしていたため、今ではC級に上がった。相変わらずギャラリーは多いんだけど……。
そういえばこの間、クォーツローカルのテレビクルーもついてきてたな。単なる素材収集だったんだけど。
「どんな人なのか会ってみたいかも」
「そう?紹介したげるよ。同年代の友だちが中々できないのが悩みみたいだったからきっと喜ぶよ」
「俺、王子だけど平気かな?」
「うん。そこは大丈夫。あっちも王子だから」
「……へ?」
「南部連合王国の第4王子だからね」
「えぇ――――っ!!?」
衝撃の事実を知ったのだが。まさかの王子……しかも第4王子仲間かよっ!
※※※
――――と、言うわけで。
「……もう一度」
「は、はい……っ!」
俺はエリック父さんの厳しい監視の下、舞踏会用ダンスのレッスンにいそしんでいた。足が痛い。体の節々が痛い。くぅ~~っ!クォーツのお祭りダンスなら完璧なのに!
「それにしても……その歳で舞踏会が初めてか」
「小さい頃にお披露目で参加してるのでは?エリック様」
俺の筋肉痛をよそにヴェイセルがさらりと問う。
「あんなのは参加に入らん。それにあの時は……」
「大丈夫ですよ。あの時クロの悪口を言った連中なら、全員エル兄が制裁を加えましたから」
「……あいつが裏で動いていたらしいという噂は知っている。やはり真実だったか。く……っ!やはりフィーアの血を引いているか」
「それ、俺も引いてます。エリック様」
そんな2人の会話を聞きつつ、俺はへなへなと崩れ落ちた。
「はぁ……はぁ……もうダンスやだぁ~~」
「お気を確かに、クロ殿下。こちらを」
ダンスレッスンから一旦解放されて、俺は紅消に差し出された水を飲み干す。
……。
……。
「ぐはっ!紅消ナニコレ!」
「はい。クロ殿下のために疲労、筋肉痛、憂鬱に効く薬草を用い作りました特製栄養ドリンクです」
いつの間にそんなものを……っ!すっげぇ苦い……。超絶苦いけれど……すごい効いた。でもせめて普通の水もくれ。
「がんばってるね~~、クロ。か~わ~い~い~!」
このショタコン剣聖め!一人高みの見物しやがって!
「ヴェイセルは……踊れるのか?」
「え、俺?」
ヴェイセルは少し考えこんだ顔をした後、軽やかな足取りで俺に歩み寄り俺の手を取り華麗にステップを踏み出す。
え……?
え……!?
鮮やかなリードについつい身を任せてしまう。あれ俺が踊らされているのって男性パートじゃないよな?てことは……女性パート!?というか……。
「何で踊れんの!?」
「ん?俺、一応クォーツ公爵子息だし」
そういえば公爵子息だった。ちょっと離れたところで先ほどまで俺のダンスレッスンを担当していた先生(貴婦人)までヴェイセルのリードにきゃぁきゃぁ言っている。
「そうだ、シュテルン公爵!クロに姫の格好させて参加させては?」
「はいいぃ!?」
「……エストレラの王子として赴くのに無理に決まっているだろう」
うおぉっ!エリック父さんの目の奥が鋭く光って恐いぃ……。でも助かった。しかしながらエリック父さんの眼光が超ギラギラしているのにこの能天気最強剣聖はいつまでもへらへら笑みを浮かべていた。
……なんか強烈にクォーツ公爵を思い出す!!!(イラッ)
――――ところで何故こんなことになっているかというと。ヴェイセルと一緒に南部連合の王子に会いに行く話をエル兄さんにしたところ、他国の王族に会いに行くのならエリック父さんに事前に相談したほうがいいということだった。
そして運悪く南部連合王国への訪問が予定されていたのである……。
そんな中ふと聞こえたエリック父さんとたんたんの会話だ。
「しかし……奴は本当に信用できるのか……?」
「大丈夫ですよ、エリック様。エルヴィス殿下からのお墨付きです」
たんたんも近衛騎士副隊長として南部連合王国訪問に同行しているのだ。
「……だから別の意味で懸念があるのだが……」
それはどういう意味なのだろうか?しかしながら旅路はトントン拍子で進んでいく。
南部連合王国までの長い道のり……というのはほぼなく、例年訪問している都市をヴェイセルの空間魔法で転々としながら移動していく。
俺とエリック父さんに同行しているのは補佐官や近衛騎士隊たんたん副隊長を中心とした近衛騎士たち。
たんたん副隊長の兄だという巨人族のオーヴェさんも近衛騎士隊員だという。巨人族の男性は初めて見たのだが、大きさで言うとシズメさまなど天人族メンズより少し大きい程度なので俺は割と見慣れたサイズだった。
そしていつものメンバー……ヴェイセルと紅消と共にもう一人……。
南部連合王国出身で現地情勢に詳しい碧狼族のリョクタがついて来た。彼はかつてクリスタで動乱を引き起こそうとした碧狼族たちの一味であったが、真面目に刑に服し刑期を終えたらしい。
ほかの碧狼族たちも刑期を終え、主に慈善活動などにいそしみ真面目に日々の生活を営んでいるらしい。何はともあれ更正しているようでよかった。
ただ一つ、旅立つ前にリョクタが碧狼族の仲間たちとのやり取りが気になる。
「必ずやクロ殿下のお役に立つのだ!」
「この身に代えても!
……などと言っていたのだが。いやそこまで……?大袈裟では?まぁ慕ってくれてるっぽいのは伝わってきたので王子冥利にはつきるけど。
リョクタは碧狼族というのがばれないようお耳が隠れるキャスケットをかぶり、着丈の長い薄手のコートでしっぽを隠している。因みに緑色系の髪はこの世界で種族に関係なく結構いる。エリック父さんもオリーヴ色の髪色なので緑系統だし目立たない。ついでに南部連合王国はあったかい国なので、コートもシャツもノースリーブだ。
紅消は相変わらずの黒ずくめ忍者ファッションだがヴェイセルもいつもの冒険者装束の半袖バージョンである。
相変わらずマントは羽織っているが暑くないんだろうか。いやでも冒険者のチャームポイントでもあるわけだし。
かくいう俺も半袖!!南部連合王国に入ったら半袖になりました!!トルコ帽風のくすんだオレンジ帽子をかぶり、半袖で立襟、長めの白シャツにローアンバーのベストをまとめて橙色の帯で締めている。黒いゆったりしたズボンにぺたんこ靴。
クォーツは夏でも涼しく、薄手の上着を着るくらいだったから新鮮だ。とりあえずこれが南部連合王国のここいらの標準ファッションらしい。
因みにこれはヴェイセルがちゃっかり用意していた。
「クロ殿下。おみ足に豆ができてるっす……っ!すぐに治療を……」
「あ、いや、ダンスのせいだから別にいいけど」
「いけません。クロ殿下。痛くなる前にこちらの塗り薬を」
べ……紅消が2人に増えた……!?前半がリョクタで後半が紅消なのだが。そして紅消増えた感覚に見舞われながらも旅の道中、ダンスレッスンとかたっ苦しいあいさつ回りばかりでは気が滅入るだろうと、エリック父さんが特別に街を見て回ることを許可してくれた。ヴェイセル、紅消、リョクタが一緒だ。
エストレラ東部の港町にも似ている活気だが、南部連合王国の港町は服装や建物などの違いから異国情緒を感じる。例えるのならエストレラ東部の港町はヨーロッパ風、こちらは東南アジア風。服はなんか違う地域風な気がするんだけど。
「クロ、ここの飲み屋に入ろう。常連なんだ」
ヴェイセルに案内されて入った飲み屋は活気にあふれ、おいしそうな料理がたくさん出されていた。ウェイターとも知り合いらしく、あまり目立たないけれど風情のある一席に案内してもらえた。
「あれ、ヴェイセルさん?」
その時ヴェイセルに声をかけてくる黒髪、黒瞳の少年がいた。俺の服と同じように立襟の長めの白いシャツに黒のベストを赤い帯締めで止めており、その下は白のゆったりとしたズボンに黒いブーツを履いている。
後ろには緑の髪にターバンを巻いた背の高い男性がいる。ノースリーブの着丈の長い黒いコートを羽織っており、シャツは立襟で胸元のはだけたデザインで、スバルと似たデザインのズボンに黒のブーツを履いている。
顔立ちは大人びているけれど何となく雰囲気がリョクタに似ている気がした。
「やぁ、スバル。スバルは何してるの?よかったら座って」
ヴェイセルが俺に了解を取って席に案内する。
「ありがとうございます。任された領地が近いので今日は市場の食材の買い付けに来たんです」
「へぇ……そういえばそんな話を聞いたね。今度お邪魔してもいい?」
「えぇ、もちろん」
「うーんとヴェイセル……どういう知り合いだ?」
「あぁ、ごめんごめん。紹介が遅れたね。冒険者仲間のスバルだよ。えっと、隣の彼は初めてだけど……」
「俺の従者のカロクです」
従者……?さっきも領地を任されてるって言っていたし、スバルさんって貴族……だよな?でもヴェイセルの冒険者仲間でもある。しかしヴェイセルも貴族(しかも最高位貴族の公爵家)で冒険者(しかも最上位ランク)だったっけ。
「クロ殿下。スバル殿って……童顔ですね(ひそひそ)」
べ、紅消!?そういえば、確かに……。大人びていてしっかりしているけどかわいらしい感じのあどけなさが残っている。そういえばさっきのウェイターも童顔。旅先の知り合いもだいたいショタつながりなのか!?コイツ!
――――そうしてスバルさんたちと町酒場を楽しみ、町探索を終えて宿屋(※最高級)に戻ってきた俺たち。ラズーリの王室御用達VIPルームもすごかったがこちらもすごい。ベッドが広すぎる。物寂しくてシズメさまを抱っこしたい気分だ。
シズメさまー。
……はっ!
呼んだら来ちゃう!加護授けてくれた精霊には届いちゃう!
「きっと喜ぶと思うけど?」
「むっぎゃああああぁっ!!!ヴェイセル!?いつの間に俺の部屋に?鍵かけたよね!?」
「ゲートで自由自在。一応何もないかどうか事前に部屋もチェックしているし……んふふ」
ぐぐぐ……っ!こいつがいたら警備も鍵も意味をなさない……っ!どうすればこいつから身を守れるのか……!?
「ご心配なく。クロ殿下。常にその変態の監視はしております」
紅消!
「クロ殿下。シズメさまが恋しいんすね……俺のしっぽで良ければ……!!!」
な、なななななっリョクタの……ふわもふしっぽ……!
「い、いいの?」
「はい!クロ殿下にふわもふっていただければ種族としての大いなる誇りとなるっす!」
それは大袈裟では?でもお言葉に甘えることにして、リョクタのしっぽをふわもふする。黒狼族や茶狼族に比べてボリュームは少なくほっそりしているが、毛並みは絹のようにつややか軽い。あったかい南部連合王国出身だからか夏毛のような感覚だ。
因みにエストレラの黒狼族、茶狼族は夏毛と冬毛の生え代わりがありそろそろその時期だ。
「冬とか……寒くない?」
「……確かにエストレラは寒いっす。特にクリスタは北方区域群っすから」
エストレラで最も寒い地域を北方区域群という。それは主にユキメ領、クリスタ領、タイタン領などの地域を指す。ユキメ領、クリスタ領は、西部辺境でもあるのだけど、その中でも北の部分に位置するのだ。
「でも衣服も温かいものをもらえますし、1日3食の温かいご飯が出るんです。クリスタの刑務所は南部連合内の暮らしよりも素晴らしかったです……!!!」
え……えええぇぇぇぇっ!?け、刑務所での暮らしを素晴らしいって。確かにエストレラの刑務所は見たことあるけどこぎれいで、刑務官も中の治安もきっちりだった。
ついでにヴェイセルを見たら、エストレラ国内でもそこは州内にお任せ、国によってはうふふふふっと言っていたので悪いことはしたくない。うん、しないようにしよう。できるとも思えんけど。しかしリョクタ……お前この国でどんなすさんだ暮らしをしてたんだ。
「あ、でも今は刑務所の外でもしっかり働いて、慈善活動して、アニキたちと生計立ててますから!もう戻りませんけどね!」
「あぁ……うん……」
それは何よりだ。
「でも結局皆来ちゃって……」
「ふん、この紅消を差し置いてクロ殿下と2人っきりになろうとは片腹痛いわあぁぁぁぁっっ!!!そんなことは私の目が黒いうちはさせん!」
「……」
あれ、皆気付いてない……?
「あの、紅消差し置いてさっきまで2人きりだったよな……?」
「……俺と?」
「いや、そうじゃなくて……」
紅消とヴェイセルが驚いて俺の視線の先を見据える。
「たんたん!」
「たんたん副隊長!」
「いえ、タイタンです」
警護の目的でエリック父さんがたんたん副隊長を俺の部屋に配備させていたのだ。……絶対ヴェイセル対策だ。
「近衛騎士すげーっす」
いや、リョクタ。こんな芸当ができるのは多分たんたんだけだ。




