SP:エストレラ王国公認王室チャンネル(エメラルディーナ編)
――――俺はクォーツ祭壇でいつものように王室チャンネルを見ていた。
『テレビの前の皆さま、こんにちは!リポーターのセシリーです!エストレラ王国王子王女の皆さまを週替わりで取材するこの番組。本日はスペシャル企画を立ち上げちゃいました!その名も……エストレラ王子王女の皆さまの普段は叶えられない願いを叶えちゃおう大作戦!』
「へぇ……こんな企画やってたんだ」
いつの間にか新企画が立ち上がっていたらしい。
「あ、それ俺のところにも取材来たよ」
と、どこからともなくエル兄さんがやってきた。
そうなんだ……因みに俺のところにはまだ来てない。
「へぇ、エル兄さんは何をお願いしたの?」
「たまに司祭をやりながらわふさんとちび竜精霊たちとたわむれ温泉入って、コタツで寝っ転がりながら、ミカン食べながら1か月くらいだらだら過ごしたい」
……それ、前に聞いた。エル兄さんの隠居願望まんまじゃねぇかっ!しかも何か前に聞いたのよりもダメになってる!!
「でも他のにしてくれって懇願されたんだよねぇ。何でだろう?素晴らしい願望と思うんだけど」
素晴らしいだらけっぷりだけど、俺もそんな生活したいけどっ!……それ、テレビ的に画にならない。あとそれ、ただのダメ人間だから。テレビ局側が王子贔屓しないで却下してくれてよかった。
『さて、早速本日のゲストを紹介しましょう!姫王子の愛称で女性陣から絶大な人気を誇る……エメラ殿下ことエメラルディーナ王女殿下です!!』
『うむ。今日はよろしく頼む』
え、エメラ姉さん!?企画の第1弾、エメラ姉さんなの!?うわ……しょっぱなからものすごい展開になりそう。
『早速ですがエメラ殿下の叶えたい願いとは……何でしょう!』
『うむ、ある場所に行きたい。しかし側近から反対されてしまってな……』
側近って副官のレナートさんのことかな……?
『もしや、危険が伴う場所でしょうか……』
『側近はそういうのだが大丈夫だ。エストレラ王国のアイドル・セシリー殿は私が絶対に守る!』
『エメラ殿下……っ!!男前すぎて……私、つい惚れちゃいそうですっ!は……っ!つい本題を忘れるところでした!』
いやいや、忘れたらこの企画終わっちゃうから!ゲストがエメラ姉さんである以上確実に終わっちゃうよ!?違う次元に行っちゃうよ!?気ぃ抜いたら3秒後に異次元に突入しちゃうからっ!!!
『そのある場所……とは?』
『うむ、ここだ!』
ば――――ん。
――――バー・女の勘
ん……?下町のバーか?普通のバーみたいに見えるけど何が危険なんだ?てかバーの名前が女の勘て……ネーミングセンスっ!!
それともこの世界のバーは俺の知っているバーとは違うんだろうか。中でサバイバルゲーム実施中とかだったらやだなぁ。
『では、早速お邪魔しまぁ――――す!』
『いらっしゃい!』
『ヤダ、生の姫王子ちゃんとセシリーちゃんよ!』
ん……?
『早く入って、入って!』
『こちらへどうぞ~』
『やだセシリーちゃん、キレイな色の髪ね~!ほれぼれしちゃうわっ!』
『姫王子ちゃんも髪つやっつや!どこのシャンプー使ってるの?知~り~た~い~』
あの、えと……。エメラ姉さんとセシリーさんはアゴの青いオネエさんやマッスルなオネエさんたちに囲まれて接待されていた。
「えと……エル兄さん、このひとたち……おと……」
「クロ、ダメだよ。ちゃんとオネエさんって呼ばないと怒られるよ」
遠い目をしているエル兄さん。えっとエル兄さん、怒られたことあるの?あのサバイバルバー、体験したことあるの!?
「前に……アスラン兄さんが昔の騎士仲間が働いてるバーに行こうって誘うから……」
顔に両手を当ててうつむくエル兄さん。え?昔の騎士仲間って?
『聞いたところによると、マリアンヌさんはアスラン殿下と交流があるとか』
セシリーさんはマッスルなオネエさんの1人に話しかけていた。
『えぇ。昔、騎士隊にいた時によく一緒に稽古したり任務にあたったりしてたわ。アタシが退役した今もよく遊びに来てくれるのよ。この間なんてあの超イケメン・エル殿下を連れてきてくれたのよ~』
『まぁ、エル殿下も!?』
『えぇ。一度生で見て見たいって皆で言ってたのよね~』
『『『ね~っ!!』』』
うおぉっ!てか、ここエル兄さんが連れていかれたサバイバルニューハーフバーかいっ!!というかアスラン兄さんの顔が広すぎてやばい。それよりもマリアンヌさんは何故騎士隊に所属してたの?
『ごるぁっ!てめぇらぁっ!』
突然、画面から怒号が聞こえてきたっ!?
『な、ななな、何事でしょう!?』
『今日こそは落とし前つけさせてやる!先日はよくもやってくれたなぁ……っ!』
取材現場に何か悪そうなひとが乱入してきた!?
『なによっ!アタシたちのこと本体はおっさんとかいったのはそっちよ!』
『そうよ、心は乙女なのにっ!』
『えーと、どうやらいざこざのようです。一体どうなってしまうのか……っ』
『そうだぞ!乙女に向かって暴言を吐くのは度しかたい!』
その時エメラ姉さんが叫ぶ。
『まぁっ!エメラちゃんっ!!』
エメラ姉さんと仲良くなったのか、いつの間にか呼称がエメラちゃんになっている。
『エメラ……?あ!テレビで見たことある!アンタ王女殿下!?姫なのか王子なのかよくわからない王女殿下!……ちくしょう……奴らの仲間だったか……』
あの、姫なのか王子なのかよくわからないのは愛称の方でしっかり王女殿下って言ってんだけどこのひと。
『乙女たちを傷つけることは私が許さん!』
『いや、でも……明らかに見た目……男でっせ』
『どこからどう見てもステキで可憐なオネエさまたちだろう!』
エメラ姉さんは見た目ではわからない心の目で彼女たちを見ているんだ。うん、そうだきっと。
『やだっ!可憐だなんて……エメラちゃんったら』
『エメラちゃん、ステキ!』
『く……っ!こりゃかなわねぇ!覚えておけ!!』
エメラ姉さんのド天然ぶりは悪漢をも撃退するらしい。
『今回はどうなることかと思いましたが……』
セシリーさんがホッとしたように告げる。
『エメラちゃんのおかげよっ!ありがと!』
ウインクを飛ばしてくれるオネエさんに、エメラ姉さんはスマートに応じる。
『礼には及ばない。しかしあのような輩がいては女子が安心して街をあるけまい』
『やだっ!エメラちゃんったらアタシたちこのと、女子だなんてっ!』
さすがは女性陣の心をわしづかみにするエメラ姉さん。オネエさんたちの心もすっかりわしづかみにしている。
『王都騎士隊にここらの警護を強化するよう要請しよう』
あ、このバー王都にあったんだ。マジでか。
『では後半に続きます!』
まさかの1時間スペシャル!!!
……因みに、通常は30分番組だ。
――――そして、後半。
『さて、予期せぬ乱入もありましたが無事取材を終えることができました~』
再びエメラ姉さんとセシリーさんがバーの前で締めの挨拶をしていた時だった。
『てめぇらあぁぁぁ――――!さっきはよくやってくれたなぁ――――っ!』
いきなりの怒号に番組が宗全となる。
『きゃあぁっ!今度は何でしょうっ!?』
なんとそこにはエメラ姉さんのド天然により撃退……いやあきらめて逃げ帰った先ほどの悪漢の仲間たちが押し寄せていた……!?
『下がっていろ、セシリー殿。セシリー殿は私が守ると約束しただろう?』
『やだ……っ!エメラ殿下……っ!』
「きゃあぁっ!エメラ殿下ったら!」
「私もあんなセリフ、言われたいわ~」
いつの間にか俺たちの後ろにいたミンお姉さんたちまでエメラ姉さんにうっとりなんだけど!?どんだけ女誑し(本人無自覚)なの!?エメラ姉さん!!
『はああぁぁぁ―――!!!』
悪漢たちに立ち向かい、ばっさばっさと悪漢を蹴散らし倒していくエメラ姉さん。ド天然な姉だが剣の腕だけは烈剣姫の名に恥じない。
『く……っ!参ったぜ……姫王女さんよ』
いや、悪漢のボス。それはある意味正しいんだが姫王子だから。大事なトリの場面で噛むな!と言っても大体そういう場面って噛むけど!
『これを使え』
エメラ姉さんがボスにポーションセットを差し出していた。
『これは……俺たちに、くれるのか……?あんたに拳を向けた……俺たちに?』
『あぁ、一度拳を交えて本気で渡り合えば、誰とでも打ち解け合えるのだ!我々は本気で拳を交えた。だから同志だ』
いやエメラ姉さんは剣だったし、悪漢たちの中にはこん棒とか手裏剣振り回してたやついたんだけど。あ、でも手裏剣は剣ってつくから、剣かもしれない。……というか手裏剣!この世界に……てかエストレラに手裏剣があったとはっ!!!入手先を後でエメラ姉さん通して確認しないとっ!
『ありがてぇ……こんなならずものだらけの俺たちにまで……真剣に拳を交え、しかもポーションまでお恵み下さり同志として扱ってくださるたぁ……』
『『『一生ついていきやすっ!!!姐さん!!!』』』
エメラ姉さんにまた新たな愛称が増えたらしい。その光景を祝福するかのように空がうっすら白み始めていた……。
「そういえば……母さんも前にああいう柄の悪い連中に姐さんって呼ばれてたな……」
「……え?」
「昔はやんちゃしてたけど、今は改心して王都騎士隊員やってんだけどね?」
まさかの母さん(注※女王陛下)からの遺伝!姐さん遺伝!というかウチの母さん(注※女王陛下)、一体何してたの!?というか王都騎士隊員もっ!今度コワモテの隊員探してみよう。
『それでは皆さ~ん、またお会いしましょう~!』
『あぁ!またよろしくな!』
うぉっといつの間にかエンドロールに!?つかセシリーさんとエメラ姉さんの後ろでオネエさんたちと元悪漢たちが和解の握手をし笑顔で一緒に手を振ってるんだけど。
――――撃撮エストレラ王室深夜2~3時【完】
途中からタイトル変わってんじゃねぇかぁぁぁぁ――――っ!!!
――――後日。
エメラ姉さんに手裏剣の入手先を聞いてみたらエメラ姉さんから手裏剣の詰め合わせが届いた。……というか手裏剣って詰め合わせで売ってるんだ。
「紅消、プレゼント」
「私にですか?ではありがたく頂戴いたします。しかしこれはどのように使うものなんでしょうか」
クナイは使うのに手裏剣は見たことがないのか……?
「ヴェイセルみたいな変態が現れた時に投げて撃退する武器だよ」
※むやみに他人に向けて投げてはいけません
「それは便利ですね」
ぱああぁぁっ!紅消が珍しく見るからに喜んでる。手裏剣を投げる紅消……きっと様になるだろうなぁ。見た目忍者っぽいし。
――――その夜。
「紅消さん、何で俺を被写体に手裏剣の素振りしてんの?」
「もしもの時のためにお前に命中させるためだ。ヴェイセル」
「ええぇ~っ!?こっわ!めっちゃこっわ!というかそれ本人目の前にしてやるぅっ!!?」
隣部屋のそんなやり取りを知るよしもなく……俺はアスラン兄さんとエル兄さんからも手裏剣の詰め合わせをもらったので、早速にプレゼントしに行くのだった。




