【68】クロ殿下とイヴ姫のクッキー紀行(後)
――――さて、イヴとのクッキー配り。続いては……。
その2:第1王配マティアス父さん
マティアス父さんなら近衛騎士隊の演習場だろうか。警備とかに出ていたら難しいだろうけど。……と考えていたらいいところにいた!
「たんたん!」
黒い髪、黒い瞳。端正な顔立ちに雪のように白い肌の青年がそこにいた。
「これはこれは……クロムウェル殿下、イヴ姫殿下」
「久しぶり」
「お久しゅうございます」
「……たんたん……?……あ!近衛騎士隊副隊長のレイヴンさん!」
こら、ヴェイセル。指を指すなって。ヴェイセルが思い出したように告げる。
「どうも、剣聖殿」
「わぁ~~、影が薄くって中々見つけられないって評判なのに~!今日はラッキーだね!」
うおおおぉぉぉいっ!それは本当だけど!何故かこの人影が薄くて、佇んでても大体皆気付いてないけど!!!それ……言っちゃだめじゃね!?一番容赦ないのはヴェイセルじゃね?
「目立つ剣聖殿がうらやましいですー」
たんたんは特に怒っておらず、へらへらしながらヴェイセルと握手している。
「ににさま?」
「イヴ。この人はマティアス父さんの部下で近衛騎士隊のレイヴン・フォン・タイタン副隊長だよ」
「……たんたん?」
「うん」
「たんたんふくたいちょさん?」
「そう、たんたん!」
何故かイヴとたんたん合唱をしてしまった。
「……てか、何でたんたんなの?レイヴンさん」
ふとヴェイセルが疑問を口にする。
「タイタンだから……でしょうかね?殿下方からいただいた大切な愛称です」
そうそう。そうなんだよ。イヴはちっちゃかったから覚えてないっぽいけどね。
「たんたん、クッキーあげる。イヴね、ににさまと作ったの!」
「これはこれは……ありがとうございます。姫殿下。ところで殿下方はどうしてこちらに?」
「あ、そうだった。たんたん。マティアス父さんを探していて……びくっ」
俺は俺は気付いてしまった。たんたん副隊長の影に……。
「たんたん……」
「へ……?」
たんたん副隊長が振り向く。
「お前にイヴはやらああぁぁぁぁっっん!」
「はいい!?いきなり何をおっしゃっているんですか!マティアス隊長!?」
本当だ。いきなり影から飛び出して来て何を言い出す。この親父は。
「……冗談だ。冗談!あっはっはっはっは~」
あ、相変わらず破天荒で豪快だ。マティアス父さんは茶狼族と呼ばれる狼種の獣人族だ。茶色の毛並みにわふたんお耳、ふっわもふしっぽを持っている。
「あ、ノーキンとおさま!」
……ん?のーきん?
「ん?イヴったら今日もかわいいな~」
「クッキーあげるね。ににさまと作ったの」
「そっかそっか。とおさま嬉し~ぞ~」
「ノーキンとおさま。お仕事頑張ってね!」
「あぁ!ありがとな~」
……の……脳筋!?やっぱりそうだよね!?イヴウウゥゥッ!?どこでそんな言葉を!?
「イヴ……脳筋はちょっと。せめてふわもふとおさまとか、おおかみとおさまとかどうかな?」
「酒豪!」
「乱心!」
「破壊神!」
うおおぉぉぉぉいっ!!!悪ノリして推挙するないきなり現れる近衛騎士隊員!!!
「もう、お前らったら~そんな褒めんじゃねぇよ~」
……褒めてんのか?マティアス父さんは相変わらずへらへらしていた。
その3:第3王配エリック父さん
エリック父さんはオリーヴ色の髪に琥珀色の瞳を持つメガネの父さんで、内政も外交もぱぱっとこなすスーパー超人である。
しかしエリック父さんを捕まえるのは大変そうだな。ここは実の息子のジェイド兄さんを頼るか……?
でも俺はジェイド兄さんとはそんなに会ったことがないんだよな。いきなりエリック父さんどこ?とか聞けないしなぁ。
そうして歩いていると、遠くから誰か歩いてくる?
「メガネとおさま!」
「……メガネ!?」
あ……いや、メガネならまぁ……セーフか?じゃなくて!エリック父さんは今来客中では!?偉そうな人と話している。
「イヴ、ににさまとクッキー焼いたの!」
ひょいっとクッキーを差し出すイヴ。それを呆然と見ているエリック父さんと……お客さん?
「獣人の子か?」
「こんなところに獣人の子が……汚らしい」
あぁっ!?こんなかわいいイヴが汚いってなん・じゃぁワレ!?
「……あぁ、ありがとう。後で食べよう」
エリック父さんは跪いてイヴからクッキーを受け取り後ろにいる客人たちに鋭い眼光を浴びせる。
「ウチの娘に……何か?」
『ひいぃぃっ!何でもありませぇん!!!』
「ではな……」
「ばいばい、メガネとおさま!」
どうやら客人たちとのやり取りに影響はなかったようだ。良かった。
その4:コーラル母さんと第5王配テイカ母さん
「クロ、朗報だよ。今、コーラルディーナ陛下とテイカ様が公務の休憩にお茶してるって!お茶菓子代わりにクッキーを持っていけばきっと喜ぶよ」
「でかした!ヴェイセル!」
「うん、母さまたちにクッキーあげる!!」
※※※
「それでね~」
「あらあら……いいじゃない!」
きゃっきゃうふふとお茶会にいそしむ2人の美女がいた。ひとりは銀色の見事なストレートヘアを持つ美女。俺たちの母親であり女王陛下である
コーラル母さん。もうひとりは第5王配で後宮を取りまとめるテイカ母さん。
イヴにそっくりな薄い金色の髪に天人族の長羽耳とふわもふしっぽを持つ美女。いやテイカ母さんはほんとは美人。王配だから本来の性別は男である。
は……っ!何かテイカ母さんがめっちゃ笑顔でこっちを見てる!?読心術!?テイカ母さんも使えるの!?
「(クロ、あれは女の勘。女じゃないけど)」
うっおお――――い!!!ヴェイセル、それ言っちゃめ!!!その証拠にヴェイセルめがけて鋭くとがったかんざし飛んできたよ!?ヴェイセルったらごく当たり前のように華麗にキャッチしているけど!
「コーラルかあさまー、ていかかあさまー!イヴ、ににさまとクッキー作ったの!」
「あらあら、おいしそう~」
「ありがとうね~!」
イヴからもらったクッキーに舌鼓を打ちつつ、母さんズがイヴにふわふわのお菓子をあ~んしていた。
「そういえばテイカ母さん、ウチのヨシュア父さんって今どこにいるか知らない?」
ウチの父さんなら多分後宮で一緒に生活しているテイカ母さんが一番詳しい気がする。
「あら、ヨシュアちゃんなら夜には帰ってくると思うけど。日中は難しいかもねぇ」
そっかぁ、残念だけど仕方がない。母さんたちに「またね」をして、一旦後宮に戻ることになった。
「イヴ、ヨシュア父さんは夜には帰ってくるって言うから……」
「クッキー渡しにいきたい……」
「でも今日は忙しいみたいだよ」
「……うん」
い、イヴ……。昔から聞き分けはいい子だったけど、だからこそ!お兄ちゃん心としては何とかしてやりたくなっちゃうんだよな。
その5:第4王配ヨシュア父さん
「ところでクロ……」
「どした?ヴェイセル」
「どこに行くの?」
「どこって一旦後宮に……」
はっとして周囲を見渡すと、そこは薄暗がりの見覚えのない回廊だった。
「後宮に向かって歩いてたんじゃないの!?」
「……俺はずっとクロの細くしなやかな腰の括れを見つめていました!」
「男に括れなんてねえぇぇぇぇっょ!」
どこみてんじゃワレぇっ!
「えっ!父さんとエル兄にはあるよ!?竜人族って男でも括れがあるし……きっとクロにも」
俺、竜人族じゃないから。というか竜人族って括れあるんかい!因みにエル兄さんは竜人族。ヴェイセルの父親であるクォーツ公爵は見た目は人族だが、そのお兄さんが竜人族なのであのひともその血を引いているのだろう。
「ないからっ!んもう、イヴの前でそんな話すんな……って、イヴは?」
「……はぐれた?」
「い……イイイイイイーヴゥッッ!!!!!」
「しょうがない……ロリショタサーチを使うか。さすがに姫殿下が行方不明じゃぁねぇ……」
おい、ヴェイセル。今、何て……?
ロリショタスコープは真の名をロリータ&ロリショタスコープ(すごくどうでもいい)と言い対象にロリータも入っているのだ。そしてそれを……サーチ?
「おい、ヴェイセル。サーチって何?」
「お気に入りに登録したロリータ&ロリショタっ子をいつでもどこでもサーチできる機能だよ?」
「……そうか。お前のストーカー癖の根本はそこにもあったか。しかもいつウチのイヴを登録した!?やっぱりお前ロリコ……」
「違うよ!クロ!信じて!俺は断じてロリコンじゃない!ショタコンです!ロリータとショタは似て非なるもの!!!」
そうか。そこまで言うならロリコンではないというのは信じてやらんこともないが……ショタコンを豪語されても困る。
「それにイヴ姫殿下を登録したのはエル兄から何かあったときのためって頼まれたからであって……そうでなければロリっ子は登録しません!」
そうか、なら安心……できるかいっ!結局ショタは躊躇いなく登録してるってことじゃん!あ~~もうっ!後でエル兄さんにも念のため確認しておこう。まぁ今回は助かったし。ヴェイセルに続いて薄暗い回廊を進んでいく。黄昏時の夕陽が差し込んでいて、影になっている部分が不気味だな。
「クロ、止まって」
「んな……何?」
夕暗がりから誰かが歩いて来る。けれど足音がしない。……気配がない。唯一影だけが……こちらに向かって来る。
ヴェイセルが微動だにしない。この緊張感、嫌な感じだ。影がさらにこちらに向かって来る。そして次第に夕闇の中から夕焼けに照らされて、その人物が姿をさらす。
「えっと……紅消の……?」
「シャドウ三つ子の兄弟のひとり?」
それは紅消にそっくりな顔、格好をした青年だった。更には彼の腕にイヴが抱かれている。
「ににさまー」
「イヴ!無事だったんだ!紅消のお兄さんと一緒だったんだね」
「うん、イヴ、ヨシュアとおさまを探してみたの。そしたらいつの間にかににさまいなくって……困ってたら助けてくれたの」
「そっかぁ……ありがとうございます!」
「……」
む、無口だなぁ……。紅消も今はいろいろとしゃべるけれど、昔は本当に無口だった。
「あの、ヨシュア父さんを見ませんでしたか?イヴがクッキーを渡したいみたいで……」
ダメ元で紅消の兄ちゃんに聞いてみる。
「……こちらへ」
えっ!知ってるの……?案内してくれるらしい。俺たちは紅消の兄ちゃんにとある個室に案内された。紅消の兄ちゃんが部屋を出て行って暫く経った……。
「クロ、イヴ?」
「ヨシュアとおさまー!」
「父さん!」
「探してくれていたんだって?遅れてごめんね」
「ううん、こっちこそ……忙しいのにごめん」
「いいよ、クロとイヴが会いに来てくれたって聞いて早めに片づけたから!」
満面の笑みの父さんを見て、一瞬ヴェイセルの顔が引きつったのは気のせいだろうか。
「とおさま、クッキー焼いたの。ににさまと、イヴで!」
「わぁ、ありがとう。イヴ。とっても嬉しい!」
「うん!」
そういえばウチの父さんだけ変な愛称つけてないな……?俺が普段、本当の父親のヨシュア父さんを父さん、他の父さんを○○父さんって呼んでるのと同じか?テイカ母さんは呼称が母さんだから、実質イヴの父親代わりはウチの父さんなのかもしれない。
「父さんはお仕事の後始末がまだ残っているから、ヴェイセルくんのゲートで後宮へ帰りなさいね」
何故だろう。夕陽を背にした父さんの影に、何か角のような……?
「さ、帰ろうか」
ヴェイセルに促され、はっとしてもう一度影を見ても、そこにはいつもの優し気な父さんしかいなかった。
「うん、気を付けて帰ってきてね」
「またあとでね!とおさま!」
「うん、また後でね~」
イヴは俺とのお菓子作りを気に入ってくれたようだ。次は黒猫アニキの親父さんにワッフル用の型焼き機でも作ってもらおうかな……?




