【64】クロ殿下と忘れられた祭壇
――――突如西方荒野に降り立った3人のうちのひとりが口を開く。
「やぁ、お困りのようだね諸君!」
その声、口調!一度会ったら決して忘れない!
「クォーツ公爵!!?」
「父さん?」
そこには灼熱の大地に似合わない色白美人がいた。だがやはり灼熱の大地が肌に合わないのか日傘をさし、サンバイザーの上から黒いストールをかぶって首元を覆い日よけ用の黒い手袋をはめている。因みにサンバイザーの上にはサングラスも乗っていた。……この世界にグラサンあったんだ。
エリック父さんもメガネかけてるしそりゃぁあるか。そしてその後ろには2人控えている。
一人はギョクハンさんによく似た竜人族の男性でギョクハンさんと同年代に見える。しかしギョクハンさんのように眼帯はしていない。そしてもう一人は……何と暗鬼さんだった。
そういえば暗鬼さんの角はヴェイセルと同じ……ってことは暗鬼さんも大鬼族なのだろうか。
「本物……ですか?」
つい、聞いてしまった。
「ぼくの偽物がいるのかい?相も変わらず、クロ殿下は面白いね!ぼくは本物だよ?」
まぁ偽物がいたらいたでエリック父さんの眉間のしわが増えたりうちの父さんの笑みが恐ろしく黒くなる気がするので困るけど。
「さて、クロ殿下。話はついたようだから早速移動しようか」
「移動……?」
でも空間魔法は使えないし……だけどクォーツ公爵たちはさっき転移して来なかったか?むしろ転移しないと突然来られないよね?
「暗鬼、お願い」
「はい」
暗鬼さん?暗鬼さんが地面に手をあてると、赤土色の荒野に黒い波紋が広がる。その魔法陣に描かれた文字はどこか漢字に似ている気がした。光に包まれ目を開けると……屋内にいた。
ここはエストレラ……?天井がとても高い、祭壇に似た建物の中。俺、ヴェイセル、いつき、いつきのお兄さん、クォーツ公爵ご一行の前には祭服の女性がいた。彼女はきょとんとした表情であっけにとられていた。
六角形の星のエンブレムをつけているので司祭様だろう。金髪に緑の瞳の美人さん……なのだが気になることが……。
「……クォーツ公爵?これは一体……」
「やぁ、リディア司祭。ごきげんよう」
クォーツ公爵!こんな場面でしれっと紳士のご挨拶を……この人、ほんとスゴイ。しかしクォーツ公爵と並び立った司祭様を見て、やはり俺の目がおかしくなっているわけではないと悟る。その美女はクォーツ公爵よりもかなり背が高い。シズメさまの本性くらいあるのでは?つまり天人族の男性たちと同じくらいのサイズ。いやクォーツの天人族で慣れているけど……天人族の女性は通常のサイズなので違和感があった。しかしこのような特徴の人族には覚えがあった。
「えっと、その……司祭様って【きょじんぞく】の人?」
ヴェイセルにこそっと聞いてみるとヴェイセルがそうだと頷く。
「では、私はこれにて」
「うん、ありがとう。暗鬼。じゃぁね」
ちょっ!暗鬼さん帰っちゃうの!?暗鬼さんは先ほどとは違う青白い光に包まれ姿を消した。あれはエル兄さんと同じ精霊魔法の転移だ。
「大丈夫だよ、クロ殿下。ここ、もうエストレラ国内だから」
エストレラ国内……ということは。
「ここって、タンタン領ですか?」
あれ、何か違った気がするけれど、エストレラで巨人族がいるのは通常エストレラ北方区域群に位置するその領のみで他領ではまず見かけない。
「クロ、タイタン領」
……たんったん!間違った!よく似た名前の人がいるから間違った!あ、いや……その人の本姓もタイタンだった気がする。
「ここって近衛騎士隊の……たんたん副隊長の実家!?」
俺にとっては幼い頃から見知った近衛騎士でマティアス父さんの部下であるはず。
「その……たんたんというのは?というより、クロ殿下なの?」
司祭様が俺の顔を覗き込む。
「はい」
「やだっ!本物!?皆にも見せびらかさなくっちゃ!」
いや、待って!司祭様ミーハーなの!?俺、王子だけどアスラン兄さんやエル兄さん、エメラ姉さんと比べてそんなに人気じゃないんじゃ……。むしろ、クォーツ以外ではがっかりされるのでは?
「いつもクォーツローカル見てます!!」
クォーツローカル?
「クォーツ州や西部辺境連合で放送されているローカルテレビ局だよ。クロの特集とかよくやってるよ」
え……聞いてないよ?そんな特集。本人に無許可?いや王子だからそこ、ルールが違うのか?それよりも……。
「ここってユキメ領やクリスタ領と同じ北方区域群だけど北部だよね?西部辺境関係ないよね?」
「ええ、確かに。ですがクォーツ公爵と領主様一族とのご縁で放送しているのです」
何とっ。知らなかった。……というか、さっきもクォーツ公爵と親しそうだったけど、遠くのローカルまで放送するってどんなご縁!?
「シュテルンローカル引くよりましです」
ん?シュテルンて確かエリック父さんの実家では?そういえばここタイタン領はシュテルン州だったっけ。何故地元のシュテルンローカルよりクォーツローカル?
「クロ、タイタン領はシュテルン州だけどアンチシュテルン公爵だから」
「それ、いいの?」
「先代シュテルン公爵のせいらしいけど……エリック様はその過去の負の遺産もあって泳がせてるらしいから」
先代公爵のせいで不仲で違う公爵と仲良しこよしだとは。エリック父さん、苦労してるな。
「それとリディア司祭、その前に彼らを」
クォーツ公爵がいつきたちを示す。
「……あなたたち」
いつきはお兄さんにきゅっと抱き着く。お兄さんも身構えているようだ。
「……精霊様?あぁ、いえでもふたりいるわね。どうなっているの?」
リディア司祭様はクォーツ公爵を見る。精霊様ってどういうことなんだろう?
「この子らは鬼族です」
く……っクォーツ公爵直球うぅぅぅぅっっ!?
「まぁ、先祖返りなのね。ウチの領にもたまに出るのよ」
え、出るの?先祖返り?
「そうそう。でも彼らは魔族筋」
「えっ!魔族にもいるの!?」
「そうそう。だけどこれは内緒。ここにいる人族と同様に扱ってくれるかい?」
「えぇもちろん。精霊様と同じ姿をしているなら歓迎するわ。元々は同じ子孫を持った民族だもの」
「同じ子孫……?」
「ここ、タイタン領で暮らす人族の一部は、昔、人族と鬼族の戦いから逃れてきた鬼族とこの地に元々住んでいたとされる大鬼族を祖先としているの。だから先祖返りでたまに鬼族の白の3本角の姿の子どもや、大鬼族の黒の2本角の子が産まれるの」
ま、マジでか。え……?でも鬼族と大鬼族が祖先の人族ってどう言うことだ?
それに鬼族と人族は対立していたはずでは。
「争いから逃げてきた人族と鬼族が手を組んで、大鬼族の治める地で隠れてひっそりと暮らしたという伝承が残っているの。その証拠か、ここにはかつて鬼族と大鬼族の姿の精霊がいたの」
はへっ!?確かにそこに住んでいる種族と同じ姿の精霊がいることは少なくないけれど。竜人族の多いクォーツには竜人族の姿のフブキさまがいるし、キララちゃんも昔から黒狼族と暮らしてきたって聞いたしなぁ。
「あれ……でもその、今はいないんですか?」
「えぇ。今は……そうね。今は、どちらもいないわ」
ではどちらかはいることがあるってことかな?
「それでも私たちはひっそりと祭壇を守ってきたのだけれど、先代シュテルン公爵に祭壇として認められないと宣告されたの」
もしかしてシュテルン州を忌避している理由はそこか?確かにクォーツもシズメさまの祭壇を壊されたらきっと暴動が起きるだろうけど。
「クエストレラ国内でも最古の祭壇なんだけどねぇ」
歴史的建造物!地球だと絶対世界文化遺産とかに登録されそう!先代シュテルン公爵、何やってんの!?もったいない……。
「でも、いなくなった精霊たちをいつまでも祀っているこの祭壇は……タイタン領の外では忘れられた祭壇と呼ばれているのよ」
リディア司祭はとても寂しそうに目を伏せた。




