【7】sideクロ殿下と兄王子
――――side
エストレラ王国には5人の王子と2人の王女がいる。第1王子はアスラン、第2王子はエルことエルヴィス。第3王子はジェイドで第4王子がクロことクロムウェル。第5王子がその双子の弟のヨルことヨルリン。
第1王女はエメラことエメラルディーナ、第2王女が妹のイヴである。
第1王子のアスランはエストレラ王国国内の巡察やさまざまな王国事業の指揮をとっており国内の各地を飛び回っていることが多い。今はどこでお仕事してるのかな?クロが後宮の歩き回れる区画を散歩していくと最近お気に入りの中庭が見えてきた。
因みに立ち入り禁止のところに入ろうとするとどこからともなく現れる紅消に止められる。
夜中に実践しても失敗した。一体いつ寝ているんだろうとクロは思う。
心地よい木漏れ日の揺れる中庭には先客がいた。茶色の毛並みに狼耳、しっぽを持っている青年だ。
精悍ながら全体的にすらっとしている茶狼族特有の身のこなしのワイルドアニキ系イケメンが木陰ですやすやと寝息を立てていた。
「アスラン兄さん」
いつの間に帰ってきていたんだ。
「お疲れさま」
そう言ってアスランのつややかでふわもふしたしっぽをやさしくなでる。相変わらずの毛並みの良さだ。もふもふ、なでなで、もふもふ、なでなで。
「あの……殿下?」
クロがハッとして後ろを振り向くとそこには豹族の青年がきょとんとして立っていた。確かアスラン兄さんの部下のひと。名前はリアンさんだったよねと思い起こす。
エストレラの隣国には白い豹耳、混ざり毛のない銀色に輝く髪に白い豹のしっぽを持つ種族白豹族という種類の獣人族がいる彼らはその隣国を治める王の一族らしい。
しかし目の前の青年は耳が黒く、銀色の髪の左側ひと房が他の髪よりも少しだけ長くて黒い。そしてしっぽは太めの白と黒の縞模様でもっふもふだ。クロが真っ先に思い浮かべたのは雪豹だがあいにく雪豹族はいないそうだ。
こんなにもっふもふで上質な毛並みなのだがエストレラにいる豹族は目の前の青年のように混ざり毛が多い。そのため見た目はそっくりなのに、何故か隣国の白豹族の王たちから白豹族と認められず仕方なく豹族を名乗っているそうだ。
「あの、僭越ながら申し上げます。その……獣人族のしっぽや耳を触るのはマナー的に褒められたことではありません。人族もいきなり他人の耳やお尻を触らないでしょう」
「……」
獣人族とは、茶狼族や豹族のような獣のような耳としっぽを持つ種族で、狼系、豹系の他にも様々な種族系が含まれる。自分の耳やお尻。今、唐突にクロにじりじりと這いよるヴェイセルの姿が浮かんだのは気のせいだろうか。
「差し出がましいことを申し出ましたね」
「い、いえ。ご、ごめんなさい」
てくてくと走り去っていく『殿下』を見つめながらリアンはそっと呟く。
「あれはヨル殿下だろうか。病弱と聞いていたが、わりとやんちゃなところがあるようだ」
「いや、あれはクロだよ」
不意に下から声が聞こえた。
「アスラン!?起きた……いや、起きてたのか?」
「ああ。せっかくの午後の至福の時間が……もうあれはもふりに来ないだろうな」
「至福の時間って……好きでもふられてたのか?でもどうせ明日からまた遠出だろうに」
「そうだ。だから帰還後の楽しみに取っておきたかったのだが。」
「それはすまんかった」
「いいや、マナーとしては大切だからな。クロが他の獣人族に見境なくもふっていたらお兄ちゃんとしては嫉妬しちゃうし」
「はぁ……お兄ちゃんって。あんたそんなにもふられたかったのか?」
「クロのもふりは最高だぞ。それにかわいいだろう?あの狼耳コス」
リアンは先ほどのクロムウェルの服を思い出す。
フードに狼耳のついたパーカーに、ブラウス、半ズボン(後ろには狼しっぽ付き)だったか。
「お前の趣味か?」
「いや、ヨシュア様がどこからか用意した」
「まんざらでもないだろ」
「はっはっは!」
アスランが笑う。
「ま、そんなかわいい姿を見られるだけでもお兄ちゃんは嬉しいからな。さて、任務の準備だ」
アスランは立ち上がればサッと着衣を整える。これからまた離れ離れではあるが、小さな弟の健やかなる成長のために。
「長男として、このエストレラを守らにゃぁなぁ……」
アスランは弟たちの笑顔を思い起こしながら優しく微笑むのだった。