【61】クロ殿下と荒野の友だち
謎の荒野、ヤバそうな魔物。
どうすればいいんだろう。試しにカードに入れてもらった通信機能を立ち上げるがまさかの圏外だ。
「――――……――――……」
……ん?その時ひとの声が聴こえた気がしたのだ。こんな荒野に……?恐る恐る岩場から顔を出してみると。
「待て!この鬼め!」
「いやっ!」
「大人しくしやがれ!俺たちが忌まわしい鬼を退治してやる!」
鬼?残念な勇者伝承に出てきたあの鬼か……?種族の多いこの世界でも鬼という種族は伝説上の種族であり、公式の種族とは認知されていないはずだ。見ると2人組のハンターっぽい男が白い髪の儚げな美少年を追いかけまわしていた。さらに頭には3本の短い白い角が生えていた。
助けるべきか……。
うん、ヴェイセルなら『イエス!ショタっ子!』とか言って助けに行くだろう。俺はショタコンとは一切何も関係はない。……関係はないが、人道的な面から鑑みてやはり助けるべきだ。
……でもどうやって?
「……」
マジックバッグの中を探ってみる……あった。前に紅消が持たせてくれたマッドヒーリング班の特製ポーションを……喰らえ!
俺は美少年を追っかけまわす2人の男にそれを思いきりスパーキングした。そのポーションをかぶった男たちは、悶え、苦しんでいる。
……よし。
「……こっち!」
俺は美少年の手を引き、その場を後にした。適当な岩場を見つけ美少年と共に腰を落とす。マジックバッグに入れておいた携帯用のカップを取り出し水魔法で水を注ぐ。灼熱の気候下のためか魔力をごっそり持ってかれた気がするが……美少年にそれを差し出す。
「……」
美少年は恐る恐るそれに手を伸ばし口をつける。そして俺に残りを差し出してきた。俺の分も後から注ぐつもりだったのだが何ていい子なんだ。
こういうのって、仲良くなるためには飲むのが正解だよな。俺も水で喉を潤す。
……あぁ、水がのどにしみる。水、素晴らしや。灼熱の荒野ではかくも美味いものだったとは。
「えっと、俺はクロ」
改めて美少年を見やると、やっぱり完璧すぎる儚げな美少年!白い髪に銀色の瞳をしており、肌も透き通るように白い。さらに両頬には青い逆三角形の模様が描かれている。そして何より特徴的なのが白い3本の角。額の左右に白い短い角があり、額の中央には左右の2本よりも少し小さい角が一本生えている。角を持つ種族は竜人族と魔人族、魔族くらいだったはず。それも全ての種族で共通して2本のみだ。……3本の角。竜人族、魔族、魔人族どの種族の角とも似つかない。先程の男たちが言っていたように、彼は鬼?服装は半ズボンが似合いそうなのに、あの夢で見た黒く長い2本角の少年のような古代日本みたいな着物を着流していた。着物の両横にはスリットが入っており、美少年の白いか細い脚が見て取れる。……そして裸足だった。
そういえば俺は部屋にいたはずなのに、靴を履いている。エストレラでは一般的に室内で靴を脱ぐ。祭壇や後宮以外の城の中など公の場では靴を履くのだが。
「足、大丈夫?痛くない?」
「……」
美少年は黙っている。まさか言葉が通じない!?ジェスチャーか、ジェスチャーで語るか!?
「……へいき、なれた」
……しゃべったー!!よかった。よかったよ言葉が通じて!
「でも、熱いし……布巻く?」
「……いいの?」
「うん」
俺はもしもの時のためと紅消に持たされた救急グッズの包帯を取り出し美少年の足に巻いていく。儚げな体躯には不釣り合いのごつごつしてやけどのような傷跡が残る足の裏だった。慣れたって言ってたけどこの子は長らくこの荒野に暮らしていたのだろうか。
――――どうしてこんな荒野に?でもさっき他に人もいるようだし、人の往来はあるんだろうか。
「ありがとう」
「いいよ、別に。それより君の名前は?」
「……いつき」
いつきくんかー。何か日本風の名前?
エストレラも名前西洋風なのにデザインが和風だったり、たまに和風な名前の人がいる。テイカ母さん、紅消なんかはその例だ。そういえば日本風の名前と言えば暗鬼さんもかな?いやあの人暗部だし、紅消のシャドウのようなコードネームの可能性もあるよな。
あれそういえば暗鬼さんもどの種族にも当てはまらない、黒く長いまっすぐ伸びた2本の角を持っていたなあぁそれよりもまずは目の前のことだ。
「いつき……」
「……クロ」
よろしく、と手を差し出すといつきも手を伸ばしてくれた。
はい、握手。どうやら仲良くなれたみたいだ。
「それにしても、いつきはどうしてここへ?」
「……角があるから……ここ、いる」
「角があったらだめなの?」
「……人間の、……違う?」
ん?何か耳慣れない言葉が聞こえた気がした。
……そうだ、人間?そういえばフブキさまにそう言われた時にも感じたけれどこの世界ではあまり人間という言葉を聞かない。
人族とか魔人”などと~~族という言い方が多い。クォーツの場合は~人族だけれど。それよりも敵ってどう言うことだ?
残念な勇者の伝承に出てきた鬼族は人族の天敵だったけれど。あれ、そういえば伝承には鬼族、人族、大鬼族しか出てこないな。他の獣人族や魔人族はどこへ?
「人間って何?」
いや、知ってますよ。知っているけれども、この世界の言う人間が俺の知っている人間の概念と違ったらあれなので一応聞いてみる。
「……」
いつきは俺を指す。フブキさまにもそう言われたけどとりあえ人族は人間の内に入るらしい。
「でも俺といつきはもう友だちだろ?なら敵じゃないよ」
「……ともだちってなぁに?」
「えっと、俺といつきみたいに仲のいいヒトのことだよ」
「……いつき、ヒト?」
ん?違う……のか?そう言えば鬼とヒトは違うようなことを言っていた。
「……細かいところは気にしない!友だちは友だち!」
「うん!」
何ていい子だ。俺に合わせてくれるいい子なんだ。きっと気が合うだろう。
「さっき、何なげたの?」
さっき?あぁ、あの男たちに投げつけたポーションね。
「効果倍増!超ヒリヒリポーション!」
マッドヒーリング班が発明した、治癒効果は出るけどその代わりに激しい痛みに襲われるという恐ろしいポーションである。
いやそれもはやポーションと呼んでもいい代物なのだろうか。劇薬だよね?完全に劇薬だよね?役には立ったからいいけど。何かそれを携帯している自分が恐くなってきた。
「……?……クロ、とってもすごい」
ちょっと分からなかったんだろうがいつきは俺に合わせてくれる。やっぱこの子ちょーいい子じゃん!
こんないい子が荒野で追われながら暮らしているなんてっ!しかも一人で……?
「いつきは誰かと住んでるの?」
「……お兄ちゃん」
あぁ、お兄ちゃんがいるのね。こんなはかなげな子が一人で暮らしていくには過酷な環境だもんなぁ……。
「お兄ちゃんはどこへ?」
「はぐれた」
「一緒に探しに行こうよ」
「いいの?」
「もちろん!」
もしかしたらいつきのお兄さんからもっとこの荒野に関する情報を得られるかもしれない。俺はいつきと慎重に荒野を進んでいく。
しかし灼熱……熱い。水を精製しつつ日陰で休みながら進んでいく。
しかし……詰んだ。
俺たちの目の前には明らかに多いモンスターの群れがいた。これシズメさまの結界で防げるか?劇薬ポーションを大量に……いやあのモンスターの群れには足りない。
一匹の雄たけびを皮切りにモンスターの群れが襲ってくる……!逃げられそうな場所は走ればあるけどその前に追いつかれる!?よしシズメさまの槍で結界を作って、その隙に!俺は結界を作り近くの岩陰までいつきの手を引き走る……!走る……!!
バリイィィンンッ
身体に衝撃が来る!結界が破られた……!やばい間に合わない。どうしよ!
【……が呼ぶなら、いつだって】
どうしてか突如蘇るその言葉。ここは賭けるしかない……か?
「ヴェイセル!」
来い来い来い来い、ショタコーン!!!頭の中で叫ぶ。
……ダメか。迫りくるモンスターの群れ。俺はいつきと身を寄せ合い、どうでもいいから劇薬ポーションひたすら投げまくる作戦を敢行しようとした時だった。
「……クロ!」
待っていた声がする。え……?本当に?呼んだら……来た?




