【59】クロ殿下とラズーリ温泉
――――騒動が一通り去り、俺は領主のルビーさんにお詫びに夕食に招待され会食が終わってから温泉宿へと戻った。
あぁ……やっとお風呂に入れる。個室露天風呂最高だ。前世ではこんなの絶対体験できなさそうだったもんなぁ。あぁ、至福の時。月がきれいだ。
「ふぉ~」
「ふおぉ~?」
聞き覚えのある鳴き声がしたかと思うと、小さな風呂桶に温泉を入れぷかぷかと浸かっている温泉のちび精霊りゅいときゅいがいた。
「……きゅい、りゅい……どうして?」
「やっぱ温泉はいいよな~」
……え?
何と炎の精霊までも露天風呂に浸かっていた。
「よっ!」
「ほむらさん、何故ここに?」
「温泉の精霊はな~。ラズーリの好きな温泉にいつでも好きに入れんの」
まぁこの温泉の恩恵はこのちび精霊ズのおかげなわけだしかわいいから歓迎しちゃうよね。
「ほむらさんはどうして?」
「俺はラズーリの守護精霊だから。……あ、でも男の姿だから男湯または男性としか入らないよ?倫理的な面あるし」
そっか。倫理的な問題は考慮しているとはいえ自由だな……ラズーリの精霊。
「クロ殿下、私もご一緒に」
「おまたせー、クロ殿下」
紅消とローも準備を終えてやってきた。
「相変わらず精霊に大人気だな、クロ殿下」
「そうかなぁ?」
確かに周囲に精霊がいることが多いかも。シズメさまとはだいたい一緒だし。
「ところでヴェイセルは?」
あいつのことなら喜んでウキウキして来そうな気がするんだが。2人っきりは嫌だけど、皆一緒ならまぁ入ってやらんこともない。
「公衆用の風呂に行くと」
……へ?
「どうして?」
「さぁなー、ヴェイセルならクロ殿下と入りたがると思ってたんだけど。……というかラズーリに到着したばかりの頃は」
入りたがってた気がするよな?ヴェイセルに何が?
※※※
ひとまず先に風呂から上がった俺は浴衣に着替える。しかし何故浴衣があるんだろう。温泉宿のつくりは後宮みたいな和風だけど人名は西洋風だ。
ひとりで考えてもしょうがないのでとりまヴェイセルを探しに行くことにした。そういえば今更だが、俺王子だけど勝手に出歩いてよかったのか?一応誰かについてきてもらった方が……あれ、俺どっちから来たんだった!?部屋番号覚えてないよ!
確か何とかの間だった気がするけれど……王族御用達VIPルームどこですか?……とか聞くの恥ずかしい!大浴場を探すのが先決か。その方が聞いても平気だ。
「……クロ?」
「へ?」
見知った声に振り向くとそこには……。
「アリス!?どうして……」
「私はヒーリング魔法の修行のご褒美にってお兄ちゃんたちに連れてきてもらったんだよ。クロは……?」
「えっと慰安旅行的な……」
まぁ、似たようなもんだろう。
「そうなんだ。偶然だね。あ……クロも飲む?」
アリスが冷えたフルーツ牛乳を1本俺に差し出してきた。
「うん、ありがと」
俺はアリスと近くのベンチに座って涼むことにした。あれ、そういえばさっき……。
「ねぇアリス、さっきお兄ちゃんたちと来たって言わなかった?」
「ん?うん」
「ヒュイさん以外にもいるんだよね」
「うん。アーサーお兄様が一緒だよ。一番上のお兄ちゃんなんだ」
「あ、アーサーお兄様!?」
あの例の……いろいろと話題に出てきた最強お兄様!
「あ、でもラズーリ祭壇で司祭やってるお兄ちゃんがいて、今日いろいろ忙しそうで会えなかったから今部屋に遊びに来てくれてるんだ」
「ヴィーノお兄様!!!」
ついついお兄様呼びしてしまった。
「クロも知ってるんだね」
「うん、昼間に祭壇にお邪魔したから」
「祭壇に……騒ぎがあったみたいだけど大丈夫だった?」
「うん、ヴィーノさんのお母さんや光の勇者って呼ばれているロイドさんも来てくれたから」
「ヴィーノお兄様のお母さまね。光の勇者……すごい人がいるんだね」
「うん、ほんとすごい」
魔人王と渡り合うんだよ?ヴェイセルもそうだが周囲に超人が多すぎる。
フルーツ牛乳を飲みながらまったりしていればアリスが思い出したように問う。
「ところで……クロはどこへ行くところだったの?」
「俺?大浴場へヴェイセルを探しに……あ」
そういえばずっとアリスに聞きたかったことがあったんだ。
「ヴェイセルとアリスって兄妹じゃないかな?」
「……え?」
「あの……ヴェイセルはアーサーお兄様とヴィーノお兄様の兄弟だから」
「……えっと」
「あ、アリスもフィーアさんの……娘さんだよね?」
「……」
……あれ?もしかしてフィーアさんの話題はダメだった?まさか2人の間には父娘の確執が!?
「うん、他人の空似だよね。いや……名前の空似」
どうしたんだ?一体何を……。
「あ、私も会ってみたいかも。実はお兄ちゃんに聞いたら、まだ会ったことのない兄姉がまだまだいるっていってたから」
……え?今俺が把握してる以上いんの!?
一体どんだけ……ってか、フィーアさああぁぁぁぁっっん!!!!!唐突に夜空に向かって叫びたくなった俺だった。
「アリス、こちらにいたのですか」
その時アリスを呼ぶ男性の声がした。
「アーサーお兄様!」
振り向けばアリスがそう呼ぶ。しかし……あ、アーサーお兄様!?そこにいたのはくすんだ金茶の髪に紫のつり目の青年で、何故か服装はアオザイに似たデザインだ。
「おや、クロ殿下ですね。直接お会いするのは初めてです」
「あ、はい」
そういえば昔、後宮でヴェイセルの目を通してあったんだっけ。恐そうなイメージだったけど優しそうな人だな。
「クロ殿下はどうしてこちらへ?」
「ヴェイセルを探しに大浴場へ行こうかと……」
「あちらは人も多いので何かあったら大変ですよ。こちらで待っていれば通るはずですので。ここはVIPルームに続く専用ラウンジですからね」
「へぇ……ここ専用ラウンジ……」
あれ!?迷ったと思ってたけど違った?
「あ、あの、因みに部屋って……」
「あちらへ歩いて行って左が王族御用達、右がクォーツ公爵家御用達です」
「ドアがいっぱいありますけど」
「専用の使用人、護衛などの部屋です」
マジでか!別のお客さんとかがいるのかと!
「こちらには宿泊関係者しか出入りできませんよ」
じゃぁ悩むこととか無かったじゃん!!!ここがVIP専用ラウンジだったなんて……ちょー広いんだもん!!!
「あ、てことはクォーツ公爵家御用達の方
はアーサーさんたちが宿泊してるんですね。……というか王族とフロア兼用なんですね」
「まぁあまり日程がかぶることはありませんからね。僻地なので王族の方が訪れるのもエルを除いては稀ですし」
「あ、そう、ですよね……」
「でもクロ殿下ならいつでも大歓迎なので今後もいらしてくださいね」
「あ、はい、それは……是非」
ラズーリは温泉もあるし魔人王四天王のみなさんも地元のみなさんも親切で温かい。ヴィーノさんたちも優しいしなぁ。
「えぇ。またいつでもお待ちしております。……では私たちはこの辺で。ヴェルもそのうち来るはずですので」
「うん!またねー、クロ!」
アーサーさんと部屋に戻るアリスに手を振り、俺はラウンジでヴェイセルを待つことにした。
※※※
みょ~ん。
でろ~ん。
ごろごろ~ん。
とりあえず前世では絶対できないラウンジをだらだらと満喫してみた。……と思えば、あ。目が合った。
「……」
「……クロ?」
そう、ヴェイセルと。てかそうだ俺、ヴェイセル待ってたんだ!そりゃぁヴェイセル来るよね!?むしろ俺がいなかったら紅消らへんが探しに来るよね!?
しまった~!見られた時のことを考えておくべきだった~!
でも俺まだ12歳、今年の年末13歳!まだ……許されるはずだ。
俺はソファーの背の反対側で上半身をぶらぶらさせ、腕をみょ~んと垂らした体型で必死に考えていた。……ど、どうしよう。
どういうセリフが適当なんだ……!?
「何してるの?」
「……起こして。一人じゃ起きれない」
現状を素直に報告することにした。
「ほら」
ヴェイセルに抱えあげられ、ソファーの正しく座らされる。
「ありがと」
「ううん、早く部屋に戻らないと」
「待って」
俺はとっさにヴェイセルの浴衣の裾をつかむ。
「お前、何か隠してるだろ」
「えっと……」
目が泳いでる……。
「何か、様子変だったし。今も1人で大浴場に行っちゃったし」
「それは……」
「俺の騎士、嫌になった?」
そんなんだったら嫌だけど、そういわれたらどうすればいいのかわからないこと聞いちゃったけど。あぁ、どうしてこんなこと聞いちゃったんだ、俺。
「そんなことっ!俺がクロを嫌になるわけないじゃん!むしろ一生どこまでもついて行きます。例えクロが嫌がっても!」
……俺が嫌がってもって、オイ。ヴェイセルらしいけどな。俺も何だかんだでこのショタコン騎士のことを理解しているのだ。……何か悔しいけど。
「じゃぁ何で?隠し事は嫌だ」
「クロ……」
「ほら、素直に言え」
「いいの?」
「いいよ。主従の関係ってそういうの大事じゃないのか?もしもの時その隠し事が致命的なミスになったら困るだろ?」
「……うん、そうだね。……じゃぁ」
ヴェイセルは俺の隣に腰を下ろし真剣な面立ちで俺のことを見つめて来る。
「クロのステータスにアニキ萌えが追加されたんだ」
お……おんどれはその真眼で何をみてんじゃあぁぁぁぁぁっっ!
「何、そのアニキ萌えって」
「アニキ、お兄様、お兄ちゃんをキュンキュンさせる技」
チャームの対象がアニキ、お兄様、お兄ちゃんバージョンか?
「ヴィーノやほむら含め、ラズーリはいいお兄様、アニキ肌体質がいっぱいなんだもん!!!」
確かにそうだけど、アニキーズ体質はひしひしと感じだけど。
「つまりお前……妬いてたのか?」
「……だってクロがアニキーズに夢中でお兄さんなんていらないのかなって」
妬くよりも厄介なルートだった!
「いやそんなことないって。そりゃアニキーズかっこいくって、強くって憧れるけど俺の騎士はヴェイセルなんだから。いらないなんて思うわけないだろ?俺が騎士に選んだのはヴェイセルだけだ」
「……クロ」
だからほら、元気出せ。
「うん!クロ、俺一生クロの騎士だからね!」
「わかった、わかった」
しかし俺はその時気が付かなかった。ヴェイセルが抱えてい本当の問題に。
そう……そしてラズーリからクォーツ祭壇に帰った後……ヴェイセルは出かけて来ると言ったきり一向に帰ってこなかった。




