【58】クロ殿下と剣聖の怒り
――――初めて見るヴェイセルの本気の怒りの表情。これがレベル9999の剣聖の本気の怒り。しかしそんな剣聖を前にも女勇者は止まらない。
「その赤髪……。剣聖とは名ばかりの赤髪の悪魔だな」
何だ、赤髪の悪魔って……。それに剣聖とは名ばかりってどう言うことだ?ショタコンなところとかははっきりゆってどうかと思うけど剣聖の腕は一流だぞ?
「魔族の手先でありながら剣聖を名乗る悪魔め!この私が退治してくれよう!」
「いや、だから魔人族だって」
……と、ロイドさん。うん、そうなんだよなぁ。
しかしその刹那。
「ぎやぁぁぁぁぁっっ」
女勇者が一瞬にして吹き飛ぶ。何あれ。漫画みたいな吹き飛び方したぞ、おい。
「だいじょーぶ、勇者の加護でHP1は残ってんじゃないかなぁ?……ふふふっ」
吹き飛ばした当人はそう嗤う。
「……いや、お前、その……やりすぎでは?」
クォーツ公爵ゆずり悪戯っぽい笑みに加え、またクォーツ公爵が絶対に浮かべないような凄惨な笑みを浮かべている。ヴェイセル……お前やっぱり様子が……。
「アイリーン!しっかりして!」
そして魔法使い少女が勇者にポーションをかけたり、東洋風のお祈りを捧げたりしている。
「アイリーンを傷めつけた鬼畜外道め!」
戦士が怒ってヴェイセルに向かって来る。だがそれもヴェイセルがあっさり剣で吹き飛ばす。戦士がアイリーンにぶつかって気絶する。
「いやあああぁぁぁぁぁっっ!!!!!」
魔法少女が絶叫する。
「こんなこんなひどいことをしてっ!ロザリア帝国が黙っていませんよ!?我らがロザリア帝国にかかればこんな辺境の野蛮国エストレラなど軽く捻りつぶせるのですよ!?」
いやさっき勇者が同盟国とか言ってなかったか?そっちから一方的に攻め込んできて勝手すぎないか!?
「つまりお前たちはロザリア帝国としてラズーリに攻め込んできたということか?」
ヴィーノさんの表情からクォーツ公爵譲りの笑みが消えひどく冷たい目をしていた。
「そうです!私たちはロザリア帝国の勇者パーティーとして、魔族どもを駆逐しに来たのです!私たちは負けない!魔族どもをすべて滅ぼすまで!」
「これはどう見る?おっさん」
「まぁ、悪くとればロザリアからエストレラへの侵略、宣戦布告だろうが……単にこの嬢ちゃんたちがバカと見なす手もあるだろう」
ヴィーノさんの問いに答えるロイドさん……率直すぎ。バカで救われることもきっとあるんだろうけど。そんな中、魔法少女だけがわんわん泣きながら錯乱していた。
――――そんな中。
「ヴィーノ様、けが人の治療全て終了しました。また土魔法使いが城を修復しております」
魔人族の男がヴィーノに報告をしていた。よかった……入口の方が気になっていたけど、とりあえず皆無事そうだ。
そしてバタバタと魔人王城の中庭に騎士と思われる集団が到着する。先頭にいたのは黄色がかった茶色の髪に紫の瞳、浅黒い肌の魔人族の美女だ。
「それらが賊か」
「あぁ。何だ、来たのか。母さん」
「ラズーリの一大事だ。領主として当然だ」
ん……母さん?ヴィーノお兄様の母親ってことは、先代魔人王ルビーさん!?
「で、コイツらどうすんの?ロザリアからの侵略者か?」
「いやいや、違うな。こ奴らは不法入国者。即刻強制送還だ」
ヴィーノさんの言葉にルビーさんが答える。
「勇者が攻め込んできたのにそれでいいの?何ならもっとコテンパンに……」
いや、もうよせヴェイセル。それ以上何をする気だ!
「大丈夫だ。多分もう勇者は名乗れない」
ロイドさんが静止する。そして先代魔人王がクスクスと笑う。
「そうね。タイミング、とっても悪かったようだし」
……タイミングって?すると周囲にどよめきの声が沸く。黒い艶やかな髪をなびかせ、颯爽と歩いて来る美女。あの人、確か前にどこかで……?
「これはこれは、ロザリア帝国皇后ヴィクトリア殿。我らが魔人城へよくおいでくださった」
ヴィーノお兄様の口調は丁寧だがセクシーワイルド魔人王バージョンはそのままだ。
ん……?
はぇ?
帝国の……皇后?
「義理とはいえこのバカ娘はロザリアに連れ帰りしかるべき処置をとらせましょう。皇族の一切の地位権力は失うものと考えていただいて結構です」
「そんなァっ!皇后さまっ!?」
いつの間にか起きた女勇者が叫ぶ。そういえばあの人皇女だったっけ。
「おだまりなさい!いいですか。あなたのバカな行いのせいであなたの母君も同様に罰を受けるでしょう。城を追い出され平民に戻されることも視野に入れなさい」
「そんなぁっ!せめて私だけでも!私は皇帝であるお父様の血を引いているのだから!」
み、見苦しい……見苦しすぎるこの勇者、いや皇女。魔法少女もあんぐりと口を開けている。
「ひ、ひどい……私だって同じパーティーじゃぁ……」
「貴様など知らん!勇者の私さえいれば事足りるのにわざわざついて来たのはお前らの方だ!この平民どもめ!」
うっわぁ。だ、ダメな皇女兼勇者。……いいや、異世界でダメな人の見本じゃねーか。魔法少女はもう声も出ないよ。戦士はまだ気絶してるし。
「剣聖殿、バカ娘の度重なる無礼な言動の数々をお詫びいたします」
もう皇后面倒くさくなって無視してるよ。
「いえ、少なくとも父のような情け容赦のないことはやりませんので。ご安心を」
皇后ににっこりと笑い、そして女勇者に凄惨な笑みを向けるヴェイセル。こ……恐えぇぇっ。
「ただ、またのこのことこのエストレラの地を踏めば……わかるね?」
「ひいいいぃぃぃっ!!!」
ヴェイセルがこの世の物とは思えない怒気を向ける。
……皇后より恐えぇぇぇっ。
「ヴェイセルは絶対怒らせちゃいけない怒らせちゃいけない……」
「クロ殿下は心配ないでしょうに」
そ、そうかな。紅消。ぐすん。
――――その後聞いた話では、皇女の母は平民へ降格。でもとても反省しているようなので皇后が最低限の生活は営めるよう手配したらしい。
だが皇女は奴隷の烙印を押され、牢にぶち込まれたらしい。彼女が平民となじったパーティーの2人よりも下の身分へ落された。これから苦労しそう。いや、すべきか。傷害罪とか住居侵入罪とか、入国管理法違反とかいろいろ罪状はつくよね。地球と罪状名が同じかどうかわからないけど。まぁ他の勇者パーティーの2人は平民であったため皇女からのパワハラで同行させられたことも事実として認められ、皇女ほどの罪にはならず平民として刑に服しているとか。
やはり責任ある身分だとそれだけ果たすべき責任も重いらしい。――――というかこの世界に奴隷身分とかあったのか。エストレラにそういう制度ないから無いもんだと思ってたよ。
――――外国、恐えぇ。




