【57】クロ殿下と勇者の襲来
――――その後の魔人王城では鴇子ちゃんが帰った後も魔人王へ挑戦に来る冒険者や腕自慢の騎士たちの力比べが行われていた。
そんな中やって来たのは驚きの人物であった。
「よっ!おめぇらっ!」
「えぇっ!?ロイドさん!?」
なんとエステラ大祭壇の光の精霊士長にして光の勇者ロイドだったのだ。
「さて、楽しもうぜヴィーノ!」
「ロイドさんが相手とは……気が抜けないな」
え……?まさか2人とも本気モード!?その後の対戦は……すごかった。ヤバかった。
ひ……ひええぇ。
しかし当のロイドさんはと言えば。
「いやぁ、久々に楽しかったわー!」
いかにもな大技を決めたロイドさんは爽快そうに叫ぶ。そしてそれを受け止め大技で返したヴィーノお兄様。互いの攻撃が拮抗し合い、ものすごい衝撃で思いっきり髪が逆立った。
「おっさん、本当に本気で来んなよ」
「いいじゃねぇか。魔人王もさすがだなー、ヴィーノ」
「今日はもうお開きだ。挑戦状終わり」
ヴィーお兄様は疲れたと言う感じで告げる。
「どうせ俺はトリだろ?」
そりゃ魔人王VS光の勇者だもんな。その対決が終わったらエンドロールだ。
2人して中庭の雪の上で寝転んでるラストはなかなかないけれど。
「お兄様、お疲れ様です」
「んー」
ディオさんがヴィーノお兄様を膝枕し嬉しそうになでなでし始めた。……ディオさん?
「いいなー、いいなー。ルビーちゃん来てないの?俺に膝枕して――――」
ロイドさんが漏らす。ルビーさんって誰だ?そう思っているとヴェイセルが教えてくれた。
「ルビーさんは先代魔人王でラズーリの領主。ヴィーノの母親ね」
せ、先代魔人王!しかも領主……ヴィーノお兄様のお母さん!!!びっくりトリプル連発だよ!そして先代魔人王に膝枕してもらいたがる勇者ってどうなんだよ。
「さーてお開きだー宴会の準備すっぞー」
「よっしゃー、まだまだ騒ぐぞー」
いや、もう充分騒いだろ。観衆や精霊士たちが宴会の準備に移る。クォーツ州の人々は相変わらずのお祭り好きだ。俺もローやヴェイセルに促され、宴会の準備に加わろうとしていたのだが。
――――ドゴオオォォォォンッッ!!!
な、なんだ……!?音のした方向を見ると、入口のあたりで煙が上がっていた。そして向こうから傷を負った魔人族の精霊士が走ってくる。
「大変です!魔人王様!勇者が来ました!」
えええぇぇぇぇぇっっ!!?勇者!?
……勇者、今そこで魔人王と寝っ転がってるけど!!
「何人だ!」
傷を負った精霊士にアレクアニキが駆け寄り、イェディカお姉さんがポーションを飲ませる。
「3人パーティで……」
「負傷者は……」
「俺の他にも何人か……」
「すぐ行くぞ!」
アレクアニキや闇の精霊士たちが走っていこうとすると、煙の向こうから3人の人影がやってきた。
先頭を歩いて来るのはいかにも勇者という格好をした青髪の少女。長い髪をポニーテールに結っており勇者っぽい聖剣っぽい剣を握っている。
後ろには魔法使いっぽい白のローブを羽織った
薄紫色のショートヘアの少女。
そして戦士っぽい格好で背の高いツンツン金髪頭の長身の少年。3人とも人族だ。
すると先頭の青髪の少女が口を開く。
「私はロザリア帝国第1皇女にして勇者のアイリーナ・レ・ロザリアである!同盟国であるエストレラ王国に蔓延る魔族を討伐しに来た!」
勇者軍団が攻めてきた!?しかも皇女って言わなかった?
「あ……えと……」
「クロ殿下はさがって」
ローが俺を背後に庇う。
「いえ恐れながら第1皇女殿下。我が国には魔族はおりません。いるのは魔人族だけです」
おお、ヴェイセルがあの名台詞を!そういえばコイツ、言い出しっぺのクォーツ公爵の子孫だった。ヴェイセルを見た青髪の少女は一瞬顔を顰める。
こんなイケメンなのにか?イケメン嫌い?はたまたショタコンを見抜いたのか?でも何となくヴェイセルの髪の色を見ていた気がした。
「それが魔族だというのだ!魔族が己の素性を偽ってエストレラ……いやラズーリを侵略しておるのだ!」
「第1皇女殿下、我が国にいるのは魔人族と先々代ロザリア皇帝も認めております」
いつの間にか立ち上がっていたディオさんが告げる。見るとロイドさんとヴィーノお兄様も身構えていた。
「いいや、ひいおじいさまは騙されたのだ!私が真実を暴く!」
だめだこの皇女。聞く耳もたねぇ。
「魔族は一匹残らず滅ぼすのだ!」
「どうしてそんなひどいことを……」
魔族だからって……いやここにいるのほとんど魔人族だけど、産まれもった種族を理由にどうして滅ぼされなければならないんだろう……?
「クロ殿下」
いつの間にか後ろにいた紅消。コードネーム【シャドウ】の通り、影の一部のように気配を消していたのだろうか。
「クロ殿下?」
何か考えるようなそぶりの後、女勇者はその緑色の瞳でキッと俺を睨む。
「そうか。あなたはクロムウェル殿下か。あなたは一国の王子でありながら魔族の味方をするのか。見損なったぞ。忌み付きというのもあながち間違ってはいなかったようだ。人族にあだなし魔族に味方をする忌み付き王子め!」
「……」
何か……ムカつくんですけど……!?
「俺はエストレラ王国の第4王子です。エストレラ王国は人族、魔人族、それ以外のすべての種族を含めエストレラ王国民と定めております。この王国の王子として、人族であろうと魔人族であろうと、それ以外の種族であろうと守る義務があります」
「愚かな……」
な、何でそうなるよ!?王族として当然のことを言ったまでだ。自国民を守ることを宣言して何が愚かだ!
「クロ、もういいよ……俺がやる」
ヴェイセルが俺を腕で後ろに追いやる。
「ヴェイ、セル……?」
ちらりと見えたその横顔には今まで見たこともない怒気が浮かんでいる。




