【54】クロ殿下と魔人王
――――魔人王城の中は城と言って遜色ない豪華な見た目と裏腹に、中は質素ながら神秘的な祭壇らしい作りになっている。
「クロ殿下、お久しぶりです!本日はようこそ」
そこにいたのは爽やかお兄さんのディオさんだった。
「ディオさんも精霊士を……?」
格好は光の精霊士だ。
「ええ。氷の吹雪のメンバーは皆ラズーリ祭壇の精霊士ですから」
な、なんですと!?そういえば、クォーツ祭壇のアニキたちも冒険者登録してるって聞いたしパーティーとか組んでるんだろうか。
「レミとティンも光の精霊士ですね」
あれ、武闘派はアレクアニキだけ……?だけど確かエステラ大祭壇のロイドさんも光の精霊士で勇者だから武闘派光の精霊士もいたりして。
「ディオさんは魔人王の補佐やってんだ」
え?ロー、今なんて?魔人王の補佐?側近中の側近!?氷の吹雪って魔人王の側近ばかりじゃん!……やばい、氷の吹雪。
あれ、そういえば紅消はどこ行った?
「フィン精霊士長がイェディカ殿によろしくと申しておりました」
「まぁまぁ、ご丁寧に」
「こちら新作です。是非ラズーリの皆さんにも」
「あら、ありがとう」
そんな2人の怪しいやりとりに……。
「まぁ、とっても効きそうね」
「さっそく試しましょ」
いつの間にかティンさんとレミさんも来ていた。しかし紅消が彼女らに差し出したバッグには、
怪しい色の危険マークのついた小瓶がたくさん入れられている。
ま……マッドヒーリング班!?ラズーリにも支部があったのか!?
戻ってきた紅消は拳を握り、珍しく興奮しているようだった。
「ラズーリのマッドヒーラー・イェディカ殿に出会えて幸甚でした」
うおぉぉっ!イェディカさん、マッドヒーラーだったぁっ!!!
――――衝撃の事実を知りつつもここは魔人王城。魔人王城と言えばここである。
「ここが魔人王の間だぜ」
おぉ、ついに来たか魔人王の間!魔王城で言えば魔王の間!しかし荘厳な扉を開くとそこはだだっ広い書斎で、一人の魔人族のお兄さんが頬杖をつきながら執務をしていた。
――――あれ、玉座は?
「……何だお前らか。ん……?ヴェイセルもいんのか?」
あれ、ヴェイセルを呼び捨て……?ヴェイセルを見ると微妙そうな顔で答えてくれた。
「……同い年」
あ、誕生日の関係でヴェイセルが年上なわけね。
「んで、そっちはイェディカのマッドヒーラー仲間か……」
「紅消です」
紅消!?もうマッドヒーラーになっていたんだ。いや、もしかしてとは思っていたけど。うすうす勘づいてはいたけど!
「それと……クロ殿下か?」
お兄さんが俺を見た。黒い魔人族の角に金色の髪、紫色の瞳で浅黒い肌の持ち主だ。黒いコートの中に着ている白いシャツのボタンは大きく開いており、ほっそりしているのに見事な胸筋がちらりと見える。
そしてその妖艶な微笑!クォーツ公爵譲りなその妖艶な微笑!それにワイルドさとセクシーさがプラスされていて……お兄さんというより……お、お兄様だ。例えるならば、そう、お兄様。
椅子から立ち上がってこちらへ歩いて来る際の動作はその長い指先まで妖艶で、脚もめっちゃ長くてしなやかだ。ど、どうしよう。男の人相手なのにどきどきするこの気持ちはぁぁぁぁっ!
「初めまして、クロ殿下。ラズーリ祭壇司祭兼魔人王のヴィーノだ」
ヴィーノお兄様が俺の前に跪き、俺の顎にそっと手を添えて微笑む。うおおおぉぉぉっ!フェロモン!フェロモン半っ端ないよ!前世の乙女ゲームに出て来た南国のフェロモン過多王子!
――――王子は俺の方だけど!
「く、クロ!戻ってきて!これはかわいい弟を誑かす魔性の男だから!」
おい、いきなり何を言い出すショタっ子を誑かそうとする変態剣聖。つか弟って……?クォーツ一家の弟……タシさんやヒュイさん?どちらも誑かされそうには見えないけど。むしろヒュイさんの方は掌の上で弄びそう。
「精霊たちには挨拶してくのか?まぁクロ殿下だからな。好きに見て回るといい」
「あ……ありがとうございます!」
何だか歓迎してくれているようで……相変わらず妖艶で酔いそうだけども……!
――――こうしてヴィーノさんへの挨拶を済ませお言葉に甘えてラズーリ祭壇の精霊たちに会いに行く事にした。今回はラズーリ祭壇にも詳しいローが案内してくれる。
「ラズーリ祭壇には音の精霊、静寂の精霊、炎の精霊、温泉の精霊たちがいるんだ」
そしてまず俺たちは炎の精霊の元を訪れた。
「ヴェイセルが加護を授かった精霊だよね」
「ん……うん」
何だ?何故かヴェイセルの歯切れが悪い気がする。
「ふおぉ?」
「ふおー」
……何だ?鳴き声のようなものが聞こえたと思ったら俺の目の前に小さな精霊たちが姿を現した。
1匹は赤髪に黄色のメッシュが入っており、もう1匹は黄色の髪にオレンジのメッシュ。2匹とも頭には竜人族の角があり、背中の翼でぱたぱたと空中に浮きながらしっぽをぱたぱたさせている。服装は……フブキさまに似ているな。竜人族のちびっ子を手のひらサイズにした感じだ。
「赤髪に黄色のメッシュの方がりゅい。黄色い髪にオレンジのメッシュの方がきゅいだぜり温泉の精霊」
ローが紹介してくれる。温泉の多いエストレラの中でもクォーツ州には特に温泉が豊富だ。
――――というのはラズーリに温泉の精霊がいるからだという話だ。
つまり俺が温泉を楽しめるのはこの子たちのおかげともいえる。
「かわいいかも」
「きゅいとりゅいにも気に入られたようだな」
「さすがはクロ殿下」
ローと紅消が褒めてくれる中……。
「……」
何かヴェイセルがひとり黙っているんだけど。
「ヴェイセル?あいさつしなくていいの?」
「……えっと」
ヴェイセルが迷っていれば、刹那。
「おぉっ君がクロ殿下!」
不意に後ろから抱き着かれた。
「へっ!?」
「ほ~ら、いい子いい子~!」
「あ、あの……っ!」
振り返ってみるとそこには……もう一人のヴェイセルがいた。
……。…………。
「ぎやああぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」
「クロ殿、落ち着いてください。ヴェイセルなら私が!」
べ、紅消がヴェイセルに短剣突き付けていてヴェイセルがそれ攻防してて、ローは何故か楽しんでる!?
「だいじょーぶ?」
ヴェイセルに似て……るけど、違う。このひとは精霊だ。炎の精霊……か?
茶髪をベースにしているがその髪は炎の色に輝いており、髪型はヴェイセルのようなざんばらだが左のひと房が長い。瞳はヴェイセルと違う炎の色で、顔立ちは似ているもののくったくのない笑みを浮かべている。格好も黒のノースリーブにダークグレーのズボンを穿いている。精霊らしくない。街とかに普通にいそうなお兄さんだ。
「クロ、炎の精霊のほむら兄さんだぜ」
とローが紹介してくれた。やっぱり炎の精霊!
「俺の事、嫌?」
「ショタコンでないなら好きです」
「ほんと?うれし~」
「んもうっ!クロったら恥ずかしがり屋さんなんだからっ!」
ヴェイセルは何で喜んでるの?
「まぁ、かわいいわねぇ。シズメさまの言ってたとおり!」
するとシュガーブラウンの髪にキャラメル色の羽耳、しっぽを持つお姉さんが現れ俺の頭をなでなでしてくる。宝石のような黄緑色の瞳はまるで引き込まれそう。
「シズメと並べたら似合いそうだ。今日はシズメ、来ねぇのか?」
もうひとり、俺の瞳を覗き込んでくるアニキ風の青年が現れた。黒髪に黒い羽耳しっぽ、瞳の色はサファイアブルー。しなやかな身のこなしだが、力強そうな体格をしている。このふたり……両方とも精霊だ。
「クロ、音の精霊のかがり姉さんと、静寂の精霊のシジマ兄さん」
まさかラズーリ祭壇3トップの精霊たちにいきなり会えるとは。シズメさま効果か?
「こ、こんにちわ」
ひとまず、ご挨拶。
「こんにちわ~。ヴェイセルくんがご迷惑かけてない?」
とかがり姉さん。
「フィーアのような変人っぷりだからな」
とシジマ兄さんが笑う。精霊にまで知れ渡ってんのか。あいつの変人っぷり。ついでにフィーアというのはクォーツ公爵の名前だ。




