【53】クロ殿下と魔人族
――――それはまだクォーツに来てばかりの頃。
イヴのためにクッキーを作りながら、ヴェイセルに祭壇でのお勉強の話をしていた時の事だった。
「そういえばこっちの世界では魔族じゃなくて魔人族がいるんだよね」
「うーん……クロ、魔人族と呼ぶのはエストレラだけで国外では魔族と呼ぶんだよ」
……え、いんの?魔族。
「まぁ、魔人族自体はクォーツ方言なんだけど」
またクォーツかいぃぃぃっっ!!!
「その昔ラズーリ領は、ラズーリ魔王国といって魔族の国だったんだ。クォーツ州はその当時から魔王国と交流を持っていたから、クォーツ州には魔族も多く暮らしていた」
マジか。昔は魔族だったんかい!
「でもいつしか彼ら彼女ら魔族は魔人族と呼ばれていたんだって」
「何故【人】を入れたのかが気になるんだけど」
「クォーツ州には天人族、竜人族、獣人族がいるからね。合わせたんじゃない?」
適当すぎんだろクォォツゥゥゥッッ!!!
「魔族の皆さんから反発なかったの?」
「そういう方言だと思われてたらしい」
うん、薬草名も独特だもんなクォーツ。
「でも当時西方魔族とモメてたロザリア帝国に『お前らどっちの味方だ』といちゃもんつけられたんだよ。ついでにラズーリ魔王国が攻め込まれる寸前」
それめちゃくちゃピンチじゃない!?
――――どきどき、はらはら。
「エストレラ王国国王はクォーツ州を治めるクォーツ公爵を呼び出して魔族について問いただしたんだ。クォーツ公爵は『我が領土に魔族はおりません。いるのは魔人族だけです』と言った。すると国王は『そうか、魔族ではなく魔人族であれば問題ない』と言った。そしてクォーツ公爵の言葉に感銘を受けた当時の魔人王はクォーツ公爵の元に自ら下り、ラズーリ魔王国はラズーリ領になったってわけ。そしていつの間にか魔人族が正式名称みたいになっちゃって。その後エストレラ憲章にも魔人族って載せてしまったんだって」
国王もクォーツ公爵もふたりともフィーア・フォン・クォーツ公爵に思えてきた!!
「でもそれ、ロザリアは納得したのか?」
「してはいないと思うよ。でもロザリアはエストレラに借りができたから」
「借り?」
「ロザリア帝国の放った召喚勇者軍団が西方魔王国にケンカ吹っ掛けてぼろ負けしてね、クォーツ公爵が魔人族を通して西方魔王国と交渉して何とか休戦に持ち込んだんだって」
クォーツ公爵一体何したん?でもあのフィーアさんの祖先なら……うん、きっと何かとんでもなくすごい奇策をやってのけたのだろう。
――――そして、現在。
昨年末に無事12歳を迎えた俺はエストレラ国内でも魔人族たちの聖地……別名温泉の聖地と呼ばれるラズーリ領にやってきた!……魔族的な言葉に【聖地】使っていいのか?
……まぁいいか。魔族ではなく魔人族だから。かつてのクォーツ公爵も言ってたし、当時の王様も認めたのだから。
「温泉、楽しみだなぁ~」
「ラズーリは本場だかんな~」
エストレラは温泉大国だがその中でもラズーリ温泉は別格で有名らしい。今日は冬休みを兼ねてエストレラ王族の保養地でもあるラズーリ温泉郷に来ている。
年明け早々なので寒いし雪もこんもり降り積もっているが、人々が往来している通路はきれいに除雪されいている。やはり冒険者たちがクエストで除雪してくれたんだろうか。ありがたい。
さらに本日ののメンバーはラズーリ領に詳しい魔人族のロー、お世話係の紅消と、オマケで剣聖ヴェイセルの4人だ。
周囲を見てみると魔人族の人も多いけど、竜人族や獣人族、人族も結構いるなぁ。
「宿に荷物置いたらさっそく祭壇にあいさつ行こーぜ」
「うん、ロー!」
やっぱりそこは精霊士としてのマナー的なものかも。日々精霊たちと触れ合っている面でも、その土地の精霊たちにあいさつもしないといけないし。
そして魔人族の仲居さんに案内された宿の部屋は何故か豪勢な気がするのだが。
「やっぱすげぇー!王族御用達VIPルーム!個室露天ぶろ付きだぜ!」
とローがはしゃいでいる。な……なんですと!?
「え、あ、ヴェイセル……王族御用達とかちょっと……」
「え?でも、クロ王族でしょ?王子」
……そーだったあぁぁぁぁっ!!!
王子っぽい経験とかこととか全然してないから忘れてた――――っ!いや、忘れちゃいけないんだけども!
「エストレラ王族のお方がお見えになられるのは、エルヴィス殿下が昨年来られた以来でしょうか?ラズーリは僻地ですから」
と、案内してくれた仲居さんが告げる。エル兄さんも来てたんだ!
「エル兄は毎年来てるよ」
……毎年かいっ!常連かよ!
まぁ、転移使えるからいつでも来られるんだろうけど!むしろ他の王族がなかなか来られないから、それは保養地に対して申し訳ない的な理由っぽそうだけど!
「でもクォーツ公爵御用達VIPルームも使用しないと悪いからって、俺も付き合わされるんだけど」
……そっちのもあったか。まぁここはクォーツ州だもんな。
「ヴェイセルはそっち使わないの?」
「そうだぞ、ヴェイセル。せっかくだ使わないと宿に失礼だ」
と紅消。
「……ふふふ。残念ながら、クォーツ公爵御用達VIPルームには先客がいるからね!残念!なので俺はクロと一緒の部屋です!」
「いるっつったって、また兄弟じゃないの?いいじゃん兄弟水入らず」
「いやー!俺だって個室露天でクロとイチャイチャしたいもん!」
「しねーよ!」
「そうだぜ、ヴェイセル。ヴィーノアニキに怒られるぞ」
その時ローがしれっと告げれば。
「……はい」
何か、また大人しくなった!?ヴィーノさんと言う名に!?ヴェイセルを大人しくさせるヴィーノさん……というかクォーツ一族全体的にすごい。
「いい子にしてるならおんなじ部屋に泊まるのは許す!」
「そんなっ!クロ殿下!」
紅消が悲鳴を上げる。
「わーい!残念だったね、紅消さん。うっふふ~」
「くっ」
悔しがる紅消、勝利のポーズをするヴェイセル。……でも残念だったって何が?
――――そして荷物を置いて早速やって来たのが……。
「ついたぜー!ここが魔人王城!」
そこにあったのは、いまにも魔王城……のような感じではなく、よくある異世界ものの乙女ゲームにでてくるようなメルヘンなお城だった。どうしてそんなのを俺が知っているかというと、俺がやっていたわけでは断じてない。よくある前世の妹がよくやっていた……という理由である。断じて攻略を手伝わされたわけではない。イケメンの甘々ボイスやセリフなんて覚えてないからっ!そういえばヴェイセルによく似た赤髪のイケメン……妹はまる攻略できなかったのに俺はすぐ攻略でき……いやいやいや何でもない。ラズーリの赤髪のイケメンたちが汚れてしまいそうな気がしたからもうよそう。
「ねぇ、ロー。ラズーリ祭壇行くんじゃなかったの?」
「何言ってんだ?クロ殿下。魔人王城とい・え・ば、ラズーリ祭壇だろ!?」
そんなの初めて聞いたよ!!!
「クロ殿下。ラズーリ祭壇は代々司祭を魔人王が務めているので別名魔人王城と呼ばれているのです」
司祭様が魔人王やってんの!?紅消!
「かつての魔王城でもあり……魔人王城は領主邸な。領主邸はわりと普通の豪邸」
豪邸な時点で普通ではない気が。
「祭壇つくるときにさ、どうせならラスボス感のある魔人王城作らね?ってなってこんな外観になったらしいぜ」
「いやラスボスっていうか……メルヘン?」
俺はヴェイセルを見る。
「東方魔王城も中世メルヘンだったよ」
「……!?」
東方魔王城に行ったことがある時点でびっくりだけど……!ラスボス系じゃないんだ。
「今の領主さまは魔人王じゃないんだ」
てっきりラスボス=魔人王って偉い=領主かと。
「今の領主さまは先代魔人王だったけど?」
え……先代の?
「でもさすがに司祭と魔人王と領主の掛け持ちは難しくって息子に譲ったんだよ。あ、それが俺の弟のヴィーノ」
ヴェイセルの弱点のヴィーノさんなわけか。
「ついでに領主一族は魔人族の王族だけど、魔人王はジョブ魔人王の中から選ばれることが多いな。だからたまに領主一族に適任者の魔人王がいないときはそうじゃない代もあったっけ」
適任者ってとこが気になるんだけど。本人の資質とかによるんだろうか。
そして魔人王城もとい祭壇に入れば懐かしい声が呼んでいた。
「おー、クロ殿下!ひっさしぶりー!」
そこにいたのは黒髪にインディコブルーの瞳の魔人族……。
「アレクさん!」
「おうよ!それに何だ、今日はローも一緒か?」
ローとアレクさんは知り合いみたいだな……?
「アレクさんこそどうしてここに?」
「何でって……」
アレクさんが苦笑する。
「クロ殿下、アレクアニキの事知ってんのに知らねーの?」
ローが意外そうにしている。
えっと、氷の吹雪って魔人王城に何か縁があるのかな?まぁ魔人族だし。
「俺はここで魔人王四天王やってんだ」
……へ?
「私も魔人王四天王をしております。クロ殿下」
次に現れたのは同じく氷の吹雪のメンバーで竜人族のイェディカお姉さんだった。氷の吹雪って魔人王四天王2人も在籍してんの!?てゆーかイェディカお姉さんは魔人族じゃなくって竜人族じゃぁ……?首をかしげているとヴェイセルが解説してくれた。
「四天王は魔人王に従う四天王だから別に魔人族である必要はないんだ。必要なのは実力」
まぁ、確かにそうかも。
「因みにに魔人王が司祭なように四天王はラズーリの精霊士長やってるよ」
……!?まぁ、確かに系列図では魔人王の次だから祭壇で言うと司祭の次の精霊士長にはなるけれど。
「ま、俺ぁクォーツの精霊士だけどな」
確かにローはそうだよな。
「どうしてクォーツにしたの?」
「……リオが、わふさんのいる祭壇がいいって言うから。あいつ一人じゃ心配だろ?」
「……そうかも」
しっかりもののローがいるから安心できるしなー。俺もローとリオと出会えてよかったし、クォーツ祭壇を選んでくれてよかった。
「ちげーって。ローはな、リオのふわもふがないと生きられないからな」
「リオちゃん大好きなのよね~」
アレクアニキとイェディカお姉さんが俺にこそっと告げて来る。
「おい、そこ!聞こえてっから違ぇからっ!」
こんな照れてるローが見られるとは……眼福、眼福。




