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【6】クロ殿下の秘密


――――三日後。


エメラ姉さんが悔しげにそう漏らす。

「くっ!はぁ……参りました……」

今日も2人は決闘をしていたらしい。


「また、明日来る。明日は私が勝つからな!」


「うん、楽しみにしてるよ~姫殿下」

ヴェイセルの全戦全勝であるが、エメラ姉さん負けず嫌いだかんな。


「エメラ姉さん」

決闘の後、後宮の中庭で敗戦の悔しさを紛らわすかのような素振りを一通り終えた姉さんに声をかける。


「チーズケーキを焼いたので一緒にどう?」

「クロか。む、チーズケーキを焼いた?クロが作ったのか?」

エメラ姉さんの目が輝いている。姉さんはこうみえて大のスイーツ好きなのだ。本人は隠しているつもりらしいが。


「あ、うん。最近はお菓子作りをよくしていて」

「そうなのか!それにしてもおいしそうだな!私もお菓子作りにチャレンジしてみようか?」

いーやいやいや!ダメ、ゼッタイ!今度はダークマターなお菓子ができてしまう!ゴーシュとおさんにまた災難が降りかかる!!


「い、いやエメラ姉さんは剣の鍛錬や公務で忙しいでしょう?俺はまだ子どもで剣や公務でお手伝いできないからせめておいしいお菓子で姉さんを応援したいので!」

どうだダークマター危機回避!!必殺弟萌えキュンロールケーキ!!


「クロ……うむ。姉はとっても嬉しいぞ!私はその、甘いものはそんなにだが……クロのスイーツならなんぼでも食べられるからな!今後も作ってくれてかまわんぞ!」

どうだ、見事隠れスイーツ好きツンデレ姉さんが顕現した。


「うん、おいしい。」

そう言ってエメラ姉さんは幸せそうにチーズケーキをほおばるのだった。


「時にクロ。剣聖はどうだ?」

「どうって……ここ最近は俺がオーダーした料理をヴェイセルに食材を調達してもらって作ってもらってるよ。最近ではヴェイセルが作ってくれた煮物料理を後宮内で侍女たちが真似して作ってる」

「くっ!胃袋をつかむ作戦か。小癪な!」

胃袋をつかむって今度はまた逆の方向にずれている気が。


「あやつが空間魔法を使えるのは知っているか?」

エメラ姉さんが不意にまじめな表情になる。


「う、うん。空間魔法を使って遠くでしか取れない食材を調達してきてくれるんだ」

しかもマジックボックスでためおき出来る。超便利。


「この前、後宮に賊が侵入しただろう?後宮は魔法除けの結界があるし、近衛騎士隊が守っているから簡単に賊が侵入できるところではない。しかしあやつは空間魔法で結界をものともせず入り込めた。あやつなら空間魔法で賊を招き入れることだってできる……」

エメラ姉さんは、何を……?


「タイミングがよすぎると思わないか?」

「タイミング?」


「クロのピンチにすかさず駆けつけた。何故そんなことができた?あやつが後宮にいたこともおかしい。後宮に用があるとも考えにくい」

「でも、たすけてくれたよ?」

誰も助けてくれなかった。手を貸してくれなかった。俺を忌み付きだと蔑んだ。そんな中、ヴェイセルだけが俺を……。


「わざと襲わせ危ないところを助けて懐に潜り込んだとは考えられないか?」

「それはっ」

ヴェイセルは後宮もともといたわけではないだろう。突如現れたと言っていい。忍者のように、魔法のように。それが空間魔法と言われるものなんだろうか?でもどうしてあのタイミングで突然現れることができたのだろうか。確かに不自然に思える。


「ふしだらな男がよく使う手だ!私はそのように女性を誑かし、金を奪えば行方をくらます!私はそのように行方をくらました男どもを追いかけ、二度と女性を誑かそうとできないよう調教してきた」

いや姉さん調教て。ヴェイセル以上に姉さんも不自然な流れに乗っかってる気がするんだが。


「でもエル兄さんの紹介だし弟だよ?エル兄さんが大丈夫と言うのなら信頼できない?」

「確かに。だがエル兄上はあのとおり超へらへらのほほん天然系だ。弟に騙され誑かされているのかもしれない」

いや天然は姉さんだから!!エル兄さんはそこそこしっかりしていると思いますー!!!


「だからお姉ちゃんは、あんな男との交際は認めません!」

いやっぱずれたー!!!


「交際って」

この世界では主人と騎士の関係を交際っていうんだろうか。いやいや違うだろう。この姉は何かとんでもないことを誤解していないか!?


「クロ、お姉ちゃんは心配なんだ。お姉ちゃんとヨシュア様しか知らない秘密だけど……クロは女の子なんだぞ!」

思考が一瞬停止した。今何分立っただろう。


ちょ、ちょちょちょちょちょー待て!今度はどこに話を持ってく気だこのド天然姉は!!!いくら何でもわかるよ!?だって前世からずっと男の子だもん!!!それともこの世界の男女の基準は地球と違うのか!?異世界連合認定公式基準じゃないのか!?しかもとおさん入れてなかった!?俺を女の子だと勘違いしている仲間にとおさん入れなかったか!?


「あ、あの俺は男の子です。俺、王子だし」

「それは当然だ!国家機密だからな。だから公式にも王子となっているのだ」


――――それは遡ること6年前。エメラ姉さんは語るりエメラは御年2歳になった双子のもとへ遊びに来ていた。赤ちゃんの服を着てきゃっきゃと笑う愛らしい双子。何故か双子の被っているフードには狼耳がついている。


「水色の服がヨル、ピンクの服がクロだな。それにしてもそっくりだな。さすがは双子だ」


「あい、ねーね」

「……う」

エメラに積極的にかまってくるクロと、恥ずかしそうにヨシュアの影に隠れるヨル。


「ふふ、ヨルもかわいいがクロは女の子のようにかわいいな」

「エメラ、それは……」

ヨシュアが口の前にひとさし指をあてて微笑む。


「内緒だよ」


――――そして6年後(現在)。


「つまりはクロが女の子だが秘密にしてくれということだ」

「何でそうなるの!!」


「むぅ、ならばクロ。服を脱げ」

「え?」


「大丈夫だ。女同士である前に姉妹なのだから!恥ずかしがることはない。こういうのを教え導くのも姉としての責務なのだ!」

いやいやいや、その前に性別違うしお姉ちゃんに見られるなんて弟として無理――――っ!!!しかし肩をつかんでくるやる気まんまんな姉。やばい、逃れられない。さすが武人の気迫。


しかしその時救世主の声が降ってくる。

「エメラルディーナ王女殿下。そのくらいになさってください」


「紅消!」

いたの!?ずっとそこにいたの!?間一髪なピンチを救ってくれたのは嬉しい。けどもっと早く止めてえぇぇぇぇっっ!!もう俺、涙目だからぁっ!!!


「クロムウェル殿下は男の子ですよ」

「いいや、私はヨシュア様から聞いたのだ」


「湯あみの際にお背中をお流ししておりますので間違えることなどありません」

「そんっな」

愕然とする姉さん。


「私だって、まだクロとお風呂に入ったことないのに!」

え、そっち?紅消はお世話係だしエメラ姉さんとお風呂はちょっと恥ずかしい。だって、俺だって男の子だもん!!!


「ヨシュア様にもお聞きになられては?」

「そ、そうだな!行こうか!」

姉さん右手と右足同時に出てる。


――――そして。


「クロは男の子だよ」

一通り事情を伝えるととおさんがサラっと答える。


「し、しかし……6年前に内緒だよと」


「男の子に女の子みたいと言うのは多感なお年頃の子にはちょっと……」

多感ってその当時の俺2歳いいぃぃぃぃっ!!!


「とおさん、それ思春期だから!思春期の男の子のことだから!」

「クロったら、もう8歳だけど難しい言葉を知っているね。えらい、えらい」

そう言っていつものように俺の頭をなでなでなで。だめだ、このひともずれてる!!!


「そんな……クロが男の子?」

どんだけショック受けてんだエメラ姉さん。


「すまない、私は剣士としてまだまだ未熟だった」

剣、関係なくない?しくしくと涙を流す姉さん。


「こんな姉を許してくれるか?」

「う、うん。怒ってないから。今後は弟としてよろしく」


「うん、クロはいい子だぁぁぁっ」

号泣して俺に抱きつく姉さん。でも、痛い。筋肉系の抱擁超痛いからぁぁぁぁぁっ!!!


「仲直りできてよかったね。エメラ、クロ」

うん、別に姉弟けんかしてない。姉さんが盛大な誤解をしていただけで。その後しゅーんとなった姉さんにチーズケーキのおかわりを出し、迎えに来たゴーシュとおさんに連行されていった。だけど去り際に俺の耳元でささやいた。


『あの男は何かを隠している。気をつけろ』

何かを?確かに今まで何かを言おうとしてごまかしたりはしていた気はする。でも何故か……胸の中に残った妙な靄は晴れなかった。



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