【52】番外編:イヴ姫のお茶会
――――あぁ、今日もイヴがかわいい!
「イヴはかわいいなぁ~」
「ににさま、じょうずにできたよ?」
「うんうん、イヴはかわいいなぁ~」
「ににさま、オーブン準備できたよ?」
「あぁ、イヴかわいぃっ!!」
ほんとマジでかっわいいっ!!
「……クロ殿下、先ほどからイヴ姫様かわいいしかおっしゃっておりませんが」
その時横から紅消の声がした。
「へ?紅消、そうだったっけ?」
今は新年のあいさつでエストレラ各地の貴族、要人が集まっている。その中には王都を訪問している貴族、要人の子息令嬢いて、同じ年ごろの子女たちとお茶会をすることも恒例となっているらしい。まぁ俺はほとんどこちらに寄り付かないので貴族王族のお茶会とかはよくわからないけど。やるとしても祭壇でホームパーティーくらいだからなぁ。――――俺、王子なのにいいんだろうか。
そんなこんなで今回はイヴはお茶会用のお菓子を作ることにしたらしく、俺はそのお手伝いをしている。
今回のお菓子は……皆大好きチェッカークッキー。ココアとバニラの定番チェッカークッキーの他、赤や紫のベリーを使って紫チェッカークッキーや、ピンクチェッカークッキーも作った。
「おいしそうだね、ににさま」
「そうだね。でもイヴが作ったんだからきっとおいしいぞ~!」
「ににさまが手伝ってくれたからだよ」
「うぅ……っ!イヴううぅぅぅっ!!!」
今日も……いや今現在進行形で妹がかわいいっ!
「……クロ殿下」
「少し甘やかしすぎではないか、紅消」
「……兄さん」
あれ、いつの間にか紅消の兄ちゃんがいる!
「クロ?そろそろイヴ姫殿下、準備だって」
あ、ヴェイセルが呼んでる。
「あぁ、うん。イヴ。後は俺がバスケットに入れて持っていくから。準備しておいで」
「うん、ににさま」
「さぁ、イヴ姫様、行きましょう」
「うん、サララ」
イヴ付きの天人族の侍女サララさんが迎えに来る。そして俺はサララさんに告げるのだ。
「目一杯、かわいくしてやってくださいっ!!」
「はい、クロ殿下!めちゃくちゃキュート&ラヴリィに仕上げて見せます!」
「任せたぞっ!」
敬礼っ!!!
「サララ、ににさまとなかよし」
「えぇ!クロ殿下は私たちの名誉顧問ですもの!」
イヴはサララさんとお茶会の準備に向かう。……何か名誉顧問とか聞こえた気がするんだけど?
しかしながら今はこちらの準備だ。俺はイヴのおめかし姿を楽しみにしながらチェッカークッキーを小袋にまとめ、バスケットにきれいに並べていく。
「それにしても変わったクッキーですね。初めて見ました」
「一口食べてみる?ほら、紅消。あ~ん……」
「……」
しまった、紅消口蓋していた!!口蓋している人にあ~んて……失敗した。
するっ
紅消がふいに口蓋を下に下げればほのかに桃色な色っぽいくちびるが顕現した。
ぱくっ
ささっ
そしてクッキーを口に含めば一瞬のうちに口蓋を元に戻したのだが。
「べ……紅消が口蓋外した!?ヴェイセル、今の見た!?」
「ずるい!俺もクロにあ~んしてもらいたいっ!」
そこどうでもいい!それよりも紅消の素顔!素顔だよっ!?
「とてもおいしゅうございます」
もぐもぐもぐ。
「べ……紅消」
「はい、クロ殿下」
何かすごい美人だった。何かすげぇ悔しいんすけど。
「お、お兄さんも……どうかな?」
俺は恐る恐る紅消の後ろにいた紅消の三つ子のお兄さんを見る。
「兄さん」
「……後でヨシュア様といただきます」
紅消の視線にお兄さんがやれやれと頷く。
「そ、そうだねっ!父さんにもあげといてっ!」
「はい」
俺から包みを受け取るとお兄さんはすっと姿を消した。口蓋の下については触れてはイケなかっただろうか。
「クロ、紅消さんとお酒飲むときは普通に外してるよ?」
「えぇ。お見せしたことはなかったでしょうか」
そりゃ食事の時とかはそうだよねっ!?お酒を飲むときもだろう。
「……まさか、クロ。紅消さん、ネクラで地味なのに無駄に整った顔立ちだから惚れ……」
「……ヴェイセル、俺にそんな趣味はない」
ヴェイセルの煩悩をバサリと切り捨て、俺はお茶会に向かう。お茶会は城の一郭のパーティーホールで行われるらしい。
周りをきょろきょろと見ていれば……。とすんっ。
「あ、クロ!大丈夫!?」
今、誰かとぶつかった気が!?俺の方はヴェイセルが受け止めてくれたけど、相手は見事にしりもちをついていた。
「あ……ごめ……」
銀色の髪にエメラルドグリーンではない新緑色の不思議な目の女の子だ。ドレスを着ているからには、お茶会の参加者だよな?
「うぅっ」
げっ、涙目!?
「ご、ごめん!これあげるから、泣かないで!」
「……」
「チェッカークッキー!おいしいよ」
「これクッキーなの……?……かわいい」
俺が差し出した袋からクッキーを一つ、ぱくりと食べた女の子は次の瞬、目をキラキラさせて俺を見上げてくる。城のシャンデリアの光が緑の目に反射して輝いていて、まるで木漏れ日みたいだなぁ。
「おいしい」
「よかった」
ほんとよかった。泣くのは防げた。子ども……それも女の子を泣かせたらさすがに王子としてというか男の子としての面目が。
「ありがとう」
「ううん」
女の子は軽く会釈をしてぱたぱたと回廊の先へ駆けて行く。その先にライトグレーの髪の長身の青年の後ろ姿が見える。
女の子は後ろから彼に抱き着くと、青年も女の子をなでなでしながら2人はその場を後にした。顔は見えないが似たような人を知っている気がするんだけど……?しかしあの子のお兄さんかな。お兄さんが一緒ならもう大丈夫か。
「ヴェイセル、紅消。俺たちもイヴのところへ行こう。クッキー渡さなきゃ」
「はい、クロ殿下」
「イヴ、きっとかわいいだろうな~」
今からでも楽しみだっ!
「またクロがシスコンモードに……」
別にいいじゃんイヴはかわいいんだから。俺は再びルンルン気分でイヴの元へ向かったのだった。




