【51】クロ殿下と氷の吹雪
――――文字通り氷の吹雪を操るイケイケなアニキはならず者たちを氷漬けにするとニカッと笑って告げる。
「さ、行こうぜクロ殿下!」
「あの……あの人たちは?」
氷漬けのままだとかわいそうなので一応聞いてみる。
「ギルドに引き取り依頼したから。そのうち輸送してくれるぜ」
「クロ殿下ったらお優しぃ」
「うぅ……っ」
泣くな、他のパーティーメンバー。
※※※
雪道を道なりに歩いていくと森が見えてきた。雪野原に雪国によくあるクリスマスツリー型の大きな木がたくさん生えている。
氷の吹雪のメンバーは5人。魔人族のリーダー・アレクさんと爽やか好青年の人族のディオお兄さんは周囲のモンスターの警戒。
兎耳族のレミお姉さん、たれ耳黒狼族(黒狼族の女性はほぼ、たれ耳である)のティンお姉さん、竜人族のイェディカお姉さんは俺と一緒に薬草探しだ。
「クロ殿下、こちらにあるのが例の薬草です」
早速レミお姉さんが見つけてくれる。
「わぁ、本当に生えてた!」
そういえばこの薬草の名前聞きそびれたな。
「あ、こっちにも……」
「大量ですね~ハーパンソウ」
……ん?ティンお姉さん、今何て言いました?
「クロ殿下~!ハーパンソウ、いっぱい持って帰りましょ~ねっ!」
やっぱりいぃぃぃっ!イェディカお姉さんも当たり前のように……。
「それ、クォーツ方言ですか?」
せめて標準語は普通であって欲しい。
「クォーツ州周辺以外ではとれないので方言ではないかも……」
とレミお姉さん。
「ユキメ領とかでもクォーツと同じ呼び方をするんですよ~!」
ティンお姉さんが教えてくれる。つ、ついにクォーツ語録を他州領にまで広げやがったあぁぁぁぁっ!!!
――――と、そんな時だった。
「お、いい女じゃねぇか」
「俺たちと遊ぼうぜ」
な、なんだ!?そのイタいナンパ冒険者キャラは!
しかしその刹那、男たちは凍り付いていた。
「クロ殿下をナンパすんなんて許せねぇ!」
いや、アレクアニキ。オレジャナイ。
「ひどいですー!クロ殿下をナンパしていいのはお兄様だけです!!」
ディオお兄さんのお兄様?全っ然心当たりないんですけど。
「俺たちだってがまんしてんだぞ!」
「クロ殿下と冒険したかったのにー!!!」
周囲から続々と人が集まってくる。魔人族や獣人族がかなり混じっているし、装備的にクォーツ人たちだ。え?皆ついてきてたの?そこら辺にいたの!?
「うおらあぁぁぁぁっ抜け駆け禁止じゃあぁぁぁぁ!!!」
く、クォーツのアニキたち恐ええぇぇぇ。アニキたちがナンパ男たちをタコ叩きにしていく。ひいいいぃぃぃっ!
「クロ殿下、私たちもいっぱい集めたんです~」
そんな戦々恐々とした状況でしれっと他のパーティーだと思われるお姉さんたちも集まってきた。
「もう~っ私たちが一緒にクエスト中なのに~」
「いいじゃない、ティン。皆でわいわいやるのも楽しいし」
イェディカお姉さん。後ろ、わいわいじゃなくて怒号飛び交ってんだけど。
そんなこともありながら無事、薬草採取を完了した俺。ギルドへ戻りデイルさんに薬草を差し出した。
「おめでとうございます、クロ殿下。この調子でどんどんクエストをこなしていきましょうね」
「おっしゃ、次は何受ける?」
なんかすんなり入ってきたアレクアニキ。
「氷の吹雪ばっかずりぃぞ。俺らも参加させろー」
いや、参加しなくても勝手についてきてません?何か他のパーティーのアニキたちまで出てきてない?
「多数請け合いのクエストにすればいいんじゃない?」
とイェディカお姉さん。
「あ、それいい~」
「でも、それ高難度じゃない?」
他のパーティーのお姉さんたちまで加わってない?
「クォーツっ子の意地見せっぞ~」
『お~!!!』
そこぉっ!そこ何で意気投合してんの!?
「多数請け合いでしたら……」
ちょっ!デイルさん!真剣に依頼探さないで!!!
「あ、あの……俺、そろそろ祭壇のお仕事が……」
「そうでしたか……ではまたお時間のある時に是非!」
「俺たちも一緒に行くからな!」
い、いえ。アレクアニキ。……次はヴェイセルか紅消とで内緒でこっそり行きたいです。
「ヴェイセルさんはまだ帰ってこないんでしょう?なら祭壇までお送りします」
え、いやディオお兄さん。祭壇すぐそこだし。ここから祭壇までは庭園を抜ける時間を含めて徒歩3分である。
「俺も!」
「私も!」
待て待て待て、全員ついてくる気か!?やめて!冒険者軍団とわいわいやりながら祭壇に帰ったら……帰ったらっ。……奴らなら一緒に悪ノリしやがりそうっ!!!
しかしその時救世主が現れた。
「クロ~、迎えに来たよ~」
後ろを向くとエル兄さんがいた。
「ヴェル、今お使い行ってるんでしょ?アーサーお兄様にきいたから代わりに迎えに来たよ」
うわああぁぁぁんっ!エル兄さあぁぁぁっん!!!
「エル殿下」
「エル殿下なら安心だな!」
「エル殿下~、今度クロ殿下がクエスト受けるときは我々もご一緒にお守りしますんで~」
「うん。頼んだよ、アレク」
アレクアニキと知り合いなんだ。エル兄さん。
「氷使い仲間なんだ」
そういえば2人とも氷魔法の使い手だった。
――――そして俺はエル兄さんと祭壇へ帰還した。帰還したら仮の姿のシズメさまがちょこんと待っていたのですかさずぎゅーしてふわもふした。最近は本性のおっきいシズメさまばかりだったから久々だ。もちろんおっきいシズメさまとのふわもふも大好きだ。あぁ……この感じ。帰ってきたなぁ……。
※※※
――――3日後。
「た、ただいま……」
ヴェイセルがすごいへとへとで帰還した。すげぇ。レベル9999の剣聖がへとへとになってらぁ。
「大丈夫か?ヴェイセル」
「く、クロ……俺……ショタ成分が足りないっ」
俺に両手を祈るように組みすがってくるヴェイセル。こんな時にまでぶれねぇなこの変態剣聖は。あ、そうだ。
「……ハーパンなら」
「い、いいの!?クロのハーパンめっちゃ欲しい!」
「ほら。ハーパンソウたっぷりの栄養ドリンクだ」
「……」
沈黙するヴェイセル。しかしそこに紅消現れる。
「クロ殿下が直々に採取してくださった薬草で作った栄養ドリンクだ。飲まねば許さん!シェル司祭様に飲んだか飲まないかの報告も求められているからな!」
うおぉ……っ、紅消。最後に絶対拒否できない一言つけたしてきたぁぁぁぁっ!え、えげつなっ。
「……く、クロの特製栄養ドリンク……大丈夫、クロの味、クロの味」
いや俺の味じゃなくってハーパン味だから。
「んくっ!」
ヴェイセルは一気にドリンクを喉に流し込む。
――――3秒後。
「にっっっっっぐわぁっっっ!!!」
ハーパンソウを入れた栄養ドリンクは雪国の厳しい冬を乗り切れるほどの効果が出るが……ものすっごく苦いのである。
あの時のしかめっ面は、この味を思い起こしていたのかも。俺は一口飲んでギブアップした。それを小瓶1杯とは……レベル9999の剣聖の名は伊達じゃない。
……しかし寝る前にはスープをこしらえて……っと。もちろん苦くも辛くもないマイルドテイストだ。紅消もいるだろうが、ショタ成分欠乏症ヴェイセル対策に念のためシズメさまにもついてきてもらい部屋をノックした。
「あれ、紅消は?」
部屋にはラフな部屋着に着替えたヴェイセルだけだ。
「ん?フィンさんたちと怪しい薬作りに行ったよ。月明かりの元じゃないと作れないんだって。今夜は久々に晴れてるから」
な、何?怪しい薬って。真冬でもマッドヒーリング班は絶賛活動中らしい。
「……」
マッドヒーリング班には関わるべからず、突っ込むべからず。これ重要。テストに出ます。
「それより、ほら。口直し」
俺はヴェイセルにスープを差し出す。
「クロの手作り!?」
目が輝いてやがる。
「さっさと飲め。冷める」
俺はヴェイセルの隣に腰を下ろしシズメさまを抱っこする。
「うん、おいしい。クロの愛弟料理なんて嬉しい!」
「いや、なんだその意味不明な料理」
そういえばお菓子作りは俺担当だけど料理はほとんどヴェイセルが作ってたもんな。俺がヴェイセルのために料理してあげたのって初めてかも。――――だからと言って変な意味ではない。これは主人から騎士への正当な福利厚生だ!ショタショタ言わなければ文句のつけようがないイケメン最強剣聖なんだけどなぁ。そんなことを思いつつ俺はヴェイセルがスープを飲み終わるのを待って自分の部屋へ戻り、いつも通りシズメさまと床についたのだった。