【50】クロ殿下と冒険者ギルド西部辺境クォーツ本部
――――俺はこの日ついに……ついにファンタジー世界の王道であるギルドにやってきた。
「おおっ、ここがギルド……!」
ここクォーツのギルド本部は西部辺境と呼ばれる地域をまとめる本部となっているらしい。2階建ての白塗りの外壁、赤いおしゃれな屋根……に見事な庭園?
「なんかすごい庭園だね」
まるで中世の古城にありそうな庭園である。
「うん、古城をリフォームしたからね」
ヴェイセルが教えてくれる。いや古城リフォーム!?なんつーところに建ててんの!?そういえば赤い屋根に混じって赤いとんがり屋根がいくつか見える。庭園にはザ・冒険者という感じの人だけではなくカメラやガイドブックを持っている観光客っぽい人までいる。え……ギルド本部、観光地!?元お城の豪勢な扉を開けると中もきらびやかで広々としていた。
「もっと喧騒としている酒屋みたいなの想像してたんだけど」
「ん?まぁ国によって違うよ。酒場みたいなイメージだとシルヴァリー共和国あたりのが近いかな。ロザリア帝国は……市役所」
し、市役所……まさかの市役所。発券機の場所とか窓口がどこだったか毎回迷うんだよなぁ。広々としたロビーは高級ホテルのロビーのようで冒険者でごった返しているわけでもない。ソファーで休憩していたり立ち話をしていたり……観光客も混じってる。……子どもも遊んでるし。異世界物でよくあるカウンターがいくつか並んでいて、その隣に買取カウンターなどもある。ここら辺はおんなじなのか?
「あ、デイルさん。久しぶりー」
そしてヴェイセルは美人のお姉さん軍団のカウンターではなく、濃い茶髪の男性職員のいるカウンターへ向かっていく。周りから「またデイルさんばっかりずるいー」とか「たまにはこっちにも来て欲しいですー」という美人のお姉さん軍団の声がする。ファンタジー世界のギルドと言えば美人の受付嬢。美人のお姉さんたちのカウンターには長蛇の列ができてるのにヴェイセルめ。ひょっとして女性に免疫がないとか……?いや祭壇のお姉さんたちとは普通に接しているから単にすいてるからか?うん、そうかも。その方が建設的だもんな。
「久しぶりだね、ヴェイセルさん」
あ、仲もよさげ?単純に気が合うからなのかもしれない。……何となくデイルさんって童顔だなと思っていたら、突然とある可能性を思いつい……いやいやいや。まさか。
「今日は依頼を受けに?」
「いや今日はこの子のギルドカード発行に来たんだ」
「新規発行ですね。ではこちらに記入を」
俺は出された記入用紙に記載していく。
「君が紹介なんて珍しいね」
「そうかな。でも、一応クロの騎士だし」
「クロ……?ヴェイセルって確か、王子の騎士に……」
そう言ってデイルさんが俺の書いた名前と顔を見て驚愕する。
「く……クロ殿下!?」
その声に他のギルド職員や冒険者たちが振り向く。
「クロ殿下!」「クロ殿下だ!」
そう言って主に獣耳、魔人族のお兄さんたちが俺をわっしょいして盛り上がり始めた。えええぇぇぇぇーっ!?なにこの展開はぁ!!!
――――数分後。
「ではクロ殿下のギルドカード、登録完了です」
カード画面を見るとステータスとギルドカードが表示されていた。ギルドカードをタップしてみると、俺の冒険者情報が表示された。
―――
クロムウェル・リィン・エストレラ(12)
ランク:E
スキル:もふり上手
ジョブ:もふり師
隠しスキル真のロリショタはちゃんと隠れてる。良かった。因みにランクは新人なので一番下のEだ。今更だけど……冒険者として役立ちそうにないスキルとジョブだけどよかったんだろうか。デイルさんに聞いてみた。
「大丈夫ですよ。依頼はたくさんありますから。
エストレラならではの雪かき、雪下ろしクエストもあります。これらは若さがあればどうにかなります」
た、確かに……!
「でもクロ殿下にはまだ雪下ろしなどは難しいと思いますので採集とかはどうでしょう?」
それなら簡単そう。でもなかなか見つからなかったり普段はでない凶悪なモンスター何かが襲ってきたりしないだろうか?よくあるよね。異世界物でそういう展開!
「木の根などに生える薬草で……あ、こちらですね」
デイルさんが写真を見せてくれる。
「ちょうど今材料が不足しているようでクォーツ祭壇から依頼があったのですよ」
ん……?クォーツ祭壇ってことはお薬の材料か?俺も祭壇の一員だしここは俺が頑張って皆をびっくりさせてみたいなぁ……。
「じゃぁそれやってみたいです」
「では受注しますね」
デイルさんがサクサク処理をしていく。すごい。書類が流れていくようだ。ヴェイセルを見ると一瞬顔を顰めていたようにが見えたのだが……すぐにいつもの調子に戻っていた。
「じゃ、早速一緒に……」
「あ、ヴェイセルさんにはこちらの依頼を」
「へ……?」
デイルさんが分厚い用紙ヴェイセルに手渡す。
「クォーツ公爵代理アーサー様よりクォーツ州の発展と領民たちの生活を守るため、存分にこき使いなさいとお達しをうけているから。ついでに指名料と依頼料は全額前払い。クォーツ公爵のポケットマネーから徴収済みだよ」
ま、まさかの公共事業クエスト!?しかも公爵のポケットマネーって……州の予算からとかじゃないんだ。
「新年だからね。これはクォーツ州領主からの領民たちへのサービス事業なのでしっかりやってくるようにって」
「……いや、でも俺クロのクエストにつき添わないと……」
「大丈夫。その心配はないから」
「えぇ?」
ヴェイセルが困惑する。まさか一人で!?いきなり独り立ち!?
「クロ殿下、一緒に行ってやるぜ」
「私たち、採取クエストは得意なの!一緒に行きましょ?」
しかしその時魔人族のお兄さんたちや兎耳族のお姉さんたちが話しかけてきてくれる。
「じゃ、氷の吹雪さんと一緒に受注ってことで承りました」
「ずりぃー!」
「俺たちだってー」
デイルさんの決定に不満の声が響いてくる。そんなに俺と一緒に行きたかったのか?いやいや薬のためだもんね。
「おれたちゃぁ何せSランクパーティーだからな!」
「そうそう!」
氷の吹雪さんたちが豪語する。
「くーっ!年末にもっと雪おろししておくんだった!」
「雪かきの量が足りなかったかー」
周りの冒険者たちが悔しがる。あの……エストレラって雪下ろし雪かきでランク上げんの?
てか今氷の吹雪さんたちがSランクパーティーとか言わなかった?それってすごいパーティーなのでは?しかし俺はもっとそのパーティー名について、深く考えておくべきだったと今にしては思う。
「むー」
「後は任せて、公共事業頑張れよ~剣聖!」
不満げなヴェイセルにリーダーと思われる魔人族の青年が告げる。
「後でクロのマル秘ブロマイド1枚につき、金貨1枚で買い取る(ボソッ)」
おいヴェイセル、ボソッと言ったけど聞こえてんぞ。隣にいんだから。何しれっと隠し撮り要求してんだ。
「ヴィーノに言いつけっぞ」
「びくぅっ」
ヴェイセルが凍り付いた。またクォーツ一族だろうか。
「じゃ、行ってくらぁ」
俺は氷の吹雪のお兄さんお姉さんたちと森へ向かったのであった。そしてヴェイセルはしぶしぶ公共事業に赴いて行った。まぁあいつも領主一族の一員だからなぁ。頑張れ。
「ところでヴィーノさんって一体……?」
「ヴェイセルの弟だよ。魔人族」
リーダーの魔人族アニキが教えてくれる。お、弟!魔人族かぁ……かっこよさそう。しかしあいつ弟にも弱いのか。でも少し前にヒュイさんにも弱そうだったから……ぶっちゃけ兄弟が弱点なのかもしれない。
「それにしてもクロ殿下はかわいいな~」
「ほんとにね~」
いやその、道中ずっと猫かわいがりって……。俺はギルドを出てクエスト場所までの道中、保護者として連れてってくれている氷の吹雪メンバーズに
ひたすらこれでもか……というほどにかわいがられていた。通りすがらにひそひそと声が聞こえて来る。
「おい、あれだろ?忌み付き王子」
「本当にクォーツにいんのな……俺らも早く引き揚げねぇと」
「あぁ……巻き添え喰らったらやだもんな」
外国の冒険者だろうか?妙に着込んでるしなぁ。だってエストレラの冒険者は着込んだりしない。動きにくいから。代わりに防寒用のスーツ、鎧や、防寒具、防寒魔法具などを身につけるのだ。
「おいてめぇ!俺らのクロ殿下の悪口言ってんじゃねぇぞ!」
その時リーダーの魔人族アニキが俺のことをひそひそ言っていた冒険者たちにつかみかかる。
「ひいぃぃっ」
「あ、あの……俺、別にいいですから」
慌てて仲裁に入ろうとするが……。
「いいえ、許せないです!あなたたち、クォーツ冒険者の心得をご存じないのですか?」
と兎耳お姉さん。冒険者の心得なんてのがあったのか?知らなかった。
「クォーツの守護精霊シズメさまをけなしたり侮辱したり虐める輩にはクォーツ冒険者の総力を以って、天誅を下します!」
何その心得!?いや、クォーツの皆がそれほどまでにシズメさまを愛してくれてるのは嬉しいけど!……それ俺に関係ある?
「クロ殿下はシズメさまがお選びになったお方!そのお方を侮辱することはシズメさまを侮辱しているのと同じ!」
まぁシズメさまの加護はざずかったけど。
「さらにクロ殿下はかつてシズメさまをお救いになりクォーツを救ってくださったのです!!!」
いやそんな大それたことは……。
『天誅!』
氷の吹雪のメンバー5人がハモる。
おお、さすがSランク冒険者パーティー、息ぴったりだ。
「な、なんだよ……お前ら」
「こいつらやべぇ……逃げるぞ」
「逃がさん!」
リーダーの魔人族アニキが右腕を伸ばし構える。
「アイスブリザ――――――ッド!!!」
するとものすごい勢いで氷の粒が男たちに襲い掛かり瞬時に氷漬けにしてしまった。こ、氷の吹雪。それはその名の通り……氷の吹雪を操るアニキのパーティーでした。




