【38】クロ殿下と狼族
――――ゲームの中ではこの世界と同じように様々な種族がいた。中でもウルフ族と呼ばれる獣人種族がいたのだが2足歩行だけど顔や体は狼そのものだった。さらにウルフ族はこの世界の狼族と同じように、主に3色に分かれておりそれぞれ灰緑、茶、黒だった。
灰緑の毛並みのグラスウルフは魔法が得意で狡猾。
茶色い毛並みのサンドウルフは武闘が得意で勇猛。
2つの種族は互いににらみ合い犬猿の中である。……どっちも犬っぽいけど。
そしてその2つの種族の天敵が魔法も武闘も得意で、獰猛な暴れ者。……黒い毛並みのダークウルフ。
「やぁ、クロ殿下。君とヴェイセル兄さんの策なんだって?面白いことを考え付くね」
そしてヒュイさんが俺たちの前に現れる。その向こうには黒狼族軍団におびえている碧狼族。やっぱりこれって種族的な本能なのか?
人族にもそういう対象の種族がいたりして。よくある人族が魔族に恐怖を覚える……みたいな?魔人族は別に恐くないけど。……コワモテと悪ノリ以外は。
この世界は剣聖ヴェイセルの見た目とか、エストレラ王国やロザリア帝国に似たた国名などゲームと似たようなところもあるが、違うところだらけだ。
ウルフ族の見た目しかり剣聖ヴェイセルの健全さ不健全さしかり。
だけど彼らがダークウルフと同じ黒い毛並みの黒狼アニキたちに怯えているような、アニキたちがたくさんいる場所を避けているような気はしていたのだ。
まさかそこに急襲を仕掛けてくるとは思わなかったが……黒狼アニキズを増援してもらえて助かった。
「それでシズメさま。いいところに」
「……」(よっ!)
ヒュイさんの言葉にシズメさまがかわいらしく手を挙げて挨拶をする。
「ではさっそくクリスタを覆う外殻をぶっ壊そうかな」
え、ヒュイさんできるの?
「君がシズメさまを連れてきてくれたからね」
「……」(ドヤッ)
ヒュイさんにとってはまるで予測できていたかのような展開みたいだ。そしてシズメさまのドヤ顔かわいい。
「うん、いい加護持ちのようだね。ではさっそくクロ殿下、槍出して」
あ、はい。いつの間にか元の円筒に戻ってた槍のスイッチを押す。ヒュイさんが俺の手の上から手をにぎりすとんと床に落とした。
シズメさまが元の姿に戻り、何かが波動で伝っていくような気がする。
そして……何かが割れた気がした。
「そ、そんな……外殻が、破られた……?」
碧狼族が呟く。
「……さて、ヴェイセル兄さん。ぼくは魔力使いまくって疲れたから。……あれ、クォーツ祭壇につなげて」
「あ、はい」
おい、ヴェイセル。お前弟に対してやけに素直だな。ヒュイさんに弄ばれているだけなのかも知らんけど。
ゲートがクォーツ祭壇につながると、そこからクォーツ祭壇の黒狼族のアニキ軍団が押し寄せクリスタの黒狼族アニキたちと一緒にさくっと賊を縛り上げて始末してしまった。数人が何かを叫んで暴れようとしていたけれど黒狼アニキたちに睨まれシュンとしていた。
「おんなじふわもふなのに、何か悲しいなぁ……」
思わず本音が口からこぼれただけなのだが。……しかし俺はもっと発言に注意すべきだったと思う。やっぱり子どもとはいえ一応王子なんだし。
――――まさかこの時の発言を後悔することになろうとは。この時は思っても見なかった。
「……ん」
その時、狼アニキが俺の頭にぽふりと手を乗せてくれる。今日も顔が恐いけどかっこいい。
「狼アニキたち、どうして……?」
「ヒュイから……通信、入ってたから」
「……ヒュイさん?」
外部と通信できてたんですか?
「さっき外殻壊したときに、一緒に流したんだ」
すげぇ。いつの間にそんな芸当を。
「どうやって外殻を?」
「シズメさまの能力の一つに結界があるんだよ。外殻の中に入れたからね、内側からその結界を張ったんだよ」
中から結界を張って外の結界を壊したと?
「すごい、そんなことできるんですね」
俺にもできるのかな?
「一緒に結界の核石も壊さなきゃならないから膨大な魔力量必要だよ?」
核石とは……?俺の疑問を見透かしたのかヒュイさんがくすりと笑う。
「ダンジョンの特殊な空間魔法を構成しているコアの事だよ」
「壊しちゃったの?あれすっごく貴重なのに」
ヴェイセルが苦笑する。
「人の手にあってもろくなことにはならないよ」
ヒュイさんはそう言って、仮眠してくる~といってどこかへ行ってしまった。
そのマイペースさは……やっぱりクォーツ一族だ。
※※※
クォーツ祭壇やクォーツ州から物資や人員を派遣してもらい、クリスタ領では後始末に追われていた。俺も物資の運搬、整理などを手伝っている。
――――そんな中不意に妙な人影が見えた。何だろう?何か違和感がある。
ヴェイセルやリオ、ローたちは忙しそうだし、ちょっとつけるだけなら……。俺は横でお手伝いしてくれているシズメさまを抱っこし様子をうかがいに行く。
――――祭壇の奥の方まで来たな。雰囲気としてはキララちゃんの部屋みたいな感じだ。クォーツ祭壇のように精霊のために用意された部屋かな。さらにその先には見知った赤髪の少女と白い毛並みの猫耳しっぽの女性がいた。
彼女は仙女のような衣装をまとっているからかいっそう神秘的な雰囲気を醸し出している。そんな2人に先ほどの怪しい人影が迫りくる。
「あ、アリス!」
見知った赤髪の少女の名を叫べばアリスがこちらを振り向き、怪しい人影が魔法陣を繰り出すのが見えるっ!
ま、間に合わないっ!
―――その刹那、アリスの胸元が青く輝く。
それは俺がアリスに渡した精霊石のペンダントだった。人影の放った魔法からアリスたちを守っているようだ……!攻撃が通じないとわかった人影は次は俺をターゲットに変えたようで、俺に……向かって来る!?
ど、どうしよう!
こ、攻撃しないと……え、えっと……っ。
だが人影が俺の方に迫りくることはなく何か黒いものに巻き付かれ、動けなくなっていた。




