【37】クロ殿下とお揃い
――――慣れ親しんだこの優しい温かさ。俺が大好きな温もりだ。
「……呼んだ?」
「……シズメさま?」
見上げれば頭の上にシズメさまの顔がある。
「……呼ばれた。クロ。こんなとこいた」
おっきいシズメさまがそこにいた。
「まぁ、シズメさま!」
「ナマよ!生シズメさま!」
お姉さんたちもミーハー?
「クリスタに入ってこられたの?」
地脈かな。
「龍脈進んできた」
……ち、地脈じゃなかったぁっ!
「地脈、声届いた。けど行くの難しかった。だから龍脈」
「龍脈も進めたんだ」
「フブキの力借りた」
フブキさまって竜人族の姿だから?竜つながりで龍脈進めるってこと?じゃぁエル兄さんも使えたりして。
「けど、破れる。中から」
「どうやって?」
「まず森、抜ける」
そだね。ついでにもう一つ。
「シズメさま、抱っこサイズになって」
「……?」
ぽむっ!首を傾げつつも抱っこサイズになってくれるところは相変わらず優しいなぁ。そしね抱っこサイズになったシズメさまをイチゴちゃんに抱っこさせようとする。
「ほ~ら、ふわもふだよ~」
「……っ!黒い天人族っ!?」
イチゴちゃんの顔が再び恐怖でひきつっている。
え……何で?
「あのらクロ殿下?一般的にエストレラ国外の天人族は黒を忌避します」
「そのため、その風潮が他種族にも及んでいるといいます」
「……そんなっ」
まじでかー!逆効果!?
「えっと俺の名前も黒だけど、恐い?」
「……ううん」
イチゴちゃんがふるふると首をふる。
「俺の名前と同じ……だから大丈夫だよ」
「……」
えっと、こじつけすぎたかな?ど、どうしよう~。そう思っているとイチゴちゃんはそっとシズメさまに手を伸ばす。シズメさまも片手を伸ばし2人の手のひらが重なり合った。
「……」
「……」(うむっ!)
どうやらシズメさまを気に入ったらしいイチゴちゃんは、シズメさまを抱っこして満足げに歩いている。よかった。仲良くなって。やはりふわもふは偉大だ。
――――イオさんに続いて森を出ると、そこにはヴェイセルやアスラン兄さんたちの他に金茶色狼耳しっぽの少女が立っていた。
「レベッカさん……?」
確か祭壇にいたはずでは……?
「スタンピードが落ち着いたというからヒュイ殿にゲートでつないでもらったのだ」
そっかヒュイさんも空間魔法を使えるもんな。
「皆、無事でよかった。……その子は?」
俺や兎耳族のお姉さんたちの様子を確かめ、次に見慣れぬ兎耳の少女に目を向ける。
「……かみ」
イチゴちゃんは不安げにシズメさまをぎゅっとする。シズメさまは大丈夫と言うようにイチゴちゃんをあやしているようだった。
「そうか。エストレラ国外から来たのだな」
レベッカさんは瞬時に事情を悟ったようだ。
「大丈夫だ。私は君に危害を加えたりしない。助けに来たんだ。だから安心してほしい」
イチゴちゃんにやさしく手を差し伸べるレベッカさん。その面差しはミミさんの柔和な雰囲気そのもののように思えた。イチゴちゃんはレベッカさんに差し出された手にそっと触れた。そうしてレベッカさんに手を引かれジオさんたちの待つ場所へ向かう。不安そうにしているイチゴちゃんにレベッカさんは告げる。
「大丈夫だ。茶狼族は兎耳族を守ってくれる勇敢な騎士なのだ」
「そうだよ、だから私たちは安心してここで暮らせるの」
「皆優しくて頼りになるのですよ」
兎耳族のお姉さんたちもイチゴちゃんを安心させようとしてくれているみたいだ。イチゴちゃんは不安げにジオさんを見上げる。ジオさんはしゃがんでイチゴちゃんと同じ目線になりわしゃわしゃと頭をなでなでしている。イチゴちゃんもどこか恥ずかしそうだけど……嬉しそうで。茶狼族アニキーずのわしゃわしゃってどこか安心するんだよなぁ。アスラン兄さんからのわしゃわしゃに俺も安心させられるから。
もしかしたら兎耳族が茶狼族の多く住むクリスタ領に南下したのは、勇敢でかっこいい茶狼族に惹かれたからなのかもしれない。ついでにミーハーな兎耳お姉さんやジオさんたちにシズメさまは順番にふわもふられていた。ファンサービスを終えたシズメさまを抱っこし、俺はイオさんのところへ向かう。
「あの、イオさん」
「いーよ、俺ぁ慣れてる」
「国外に行くとな、たまにあるんだ」
アスラン兄さんが戸惑いながら告げて来る。アスラン兄さんは外交で国外にも行くからな。
「イルハンは崇められるけどな」
竜人族だもんな。何故かクォーツの竜人族は外国へ行くと崇められる。外国にも竜人族はいるが、クォーツの竜人族とはかなり姿が違うらしい。
「我が王子をけなす輩は血祭りにあげますが」
「大丈夫だって、俺ぁ気にしないから」
はっはっはっとアスラン兄さんは軽く流してるけど……今イルハンさん、恐ろしいことを口走らなかった?
そうこうしているとイチゴちゃんがレベッカさんに手を引かれて歩いてくる。そしてイオさんの前でとまる。
「……さっき、ごめんなさぃ……ありがとう」
「……」
イオさんは驚いたようにイチゴちゃんを見ている。
しかしなかなか答えを返さないイオさんに痺れを切らしたのか……。
「おらっ!女の子が礼述べてんだ!何か答えくらい返せ!」
ドッゴォォォッ!レベッカさん!?イオさんの腹にグーパンチしたよ!!?ものすごい音がしたけどイオさんはケロッとしている。
「……別に、いーよ」
「……うん」
イチゴちゃんはイオさんをじーっと見つめてる。興味があるのかな?そういえばあのおとぎ話の兎耳族のお姫さまも助けに来てくれた青年に恋をして……ってまさか……?イチゴちゃんは俺より年下だしイオさんはアスラン兄さんと同年代だろうし。
和やかな雰囲気になっていたその時。
「ひっひっひ……スタンピードを止めたからって調子に乗るなよ!」
「あぁ、尖兵はもう一つあったんだよ!馬鹿め」
縄で縛られていた碧狼族がニヤニヤと呟く。
「知ってる……?あたし、四天王時代はおとしのドロシーって言われてたの」
その時彼らの前に現れたのは……その名乗りのとおり、ドロシーさん!?なに、おとしのドロシーって!
「全部吐くまで……帰れないと思いな」
ドロシーさん、キャラ違くない?
「お、懐かしいな。四天王時代の嫁さんだー」
と、夫のジオさん。
「母ちゃん、スタンピード戦のせいでスイッチは入っちまったなー」
さらに息子のイオさん。
「……」
呑気に眺める父と兄にローは遠い目をしていた。
「そうだ尖兵って……」
もしかして予想通りかな?
「そこは多分大丈夫」
ヴェイセルがゲートを祭壇へつなぐ。ヴェイセルと俺とシズメさまは祭壇へ移動した。さらにそこに碧狼族が押し寄せているのが目に入った。
――――しかし碧狼族たちの顔が引きつっている。
彼らの前には……黒狼族の恐い顔のアニキたちが立ちはだかっていた。




