【32】クロ殿下と事件
路地の方を見ると兎耳族の女の子を無理やり引っ張る男がいた。狼耳のようだが耳は小さめで、しっぽは狼族に比べてボリュームがない。髪、耳もしっぽも深緑色でしっぽの先が白い。
「大人しくこっち来い!」
「やめて!」
大変だ……!
「行ってくる!」
ローが飛び出し、素早く男をなぎ倒し、少女を救出する。
「くっ!くらえ!魔法弾!」
「……!」
男が魔法を放つとローは素早くバリアを出し、
男が放った魔法弾が一瞬にして反射して男に襲い掛かった。やはりローは無詠唱魔法が使えるんだ!反射バリアなんてかっこよすぎる!
「ぎゃあぁぁぁっ!そんな、茶狼族どもの弱点は魔法じゃぁ!?」
まぁ一般的に武芸に秀でて魔法は苦手って言われてるからな。
「いや、俺ぁ魔人族だし」
「……あ、やべ」
おいいぃぃぃっ!この男バカなのか!?天然なのか!?そうこうしているうちに騎士隊が駆けつけてきた。
「何事だ!」
茶狼族中心のふわっもふ集団。でも顔とか身のこなしは猛者である。そして兎耳族の少女を保護し、あっという間に男を捕縛した。騎士隊の一人がこちらへ向かってきた。
「ドロシー殿、ロー殿。ご協力感謝します」
「いいえ~、ローのおかげね」
「いや……そんな」
『くそーっ!魔法の使えない茶狼族なんて魔法があれば……』
などと男がわめいていたのだが人族の騎士に思いっきり頭をたたかれていた。
『うっさい。だから俺らがいんだよ!』
確かにこの猛者ぞろいの茶狼族には他種族の魔法職要員は必須だ。クリスタ領は武闘派の茶狼族が多めで、魔法系・文系は兎耳族などの獣人族、人族などが務めている割合が多い。魔人族はラズーリに多く、天人族や竜人族はクォーツに多いためクリスタには少ない。
「では我らはこれで」
「いてーよっ!」
男はまだ騒いでいるようだ。
「……め」
「ひっ!」
何故かクリスタでは茶狼族との比率で比べるとわりと珍しい黒狼アニキに睨まれ、さっきまでの威勢がどこに行ったのかのごとく震えていた。
確かに黒狼アニキってコワモテで無口だけど……ふわもふだし大体素朴で優しいのに。俺が慣れてるだけか?何か引っかかった。確か今朝見た夢に何か関係があったような。うぅ、思い出せない。そうこう悩んでいるうちに、騎士たちはドロシーさんに一礼し去っていく。
――――こうして無事に事件を収めて帰宅したわけだが。
「え、そんなことが?」
ヴェイセルが驚く。
ドロシーさんの夕飯支度をお手伝いしつつ俺たちは食卓に着く。
「うん。でもあの人、クォーツでは見ない獣人族だった。何て言う種族なのかな」
見慣れない種族なのか、シュアンさんのような雑種なのか。
「あれは碧狼族って呼ばれてんだよ」
と、ロー。へきろうぞく?碧色の狼族?
「ま、リオたちよりも痩せ気味で魔法が使えるけど基本的にクォーツ州の狼種とは犬猿の仲だぜ」
クォーツ州の狼種とは主に茶狼族と黒狼族でこの2つの種族は他の国ではほぼ見かけないらしい。
「エストレラの外にはよくいるらしいよ。一般的に見れば、碧狼族の方が知られているんだよ」
狼といえば黒とか灰色のイメージなんだが。狼族になるとこちらの世界では緑が主流なんだろうか。
「まぁ確かにね。何度かあったことあるけど狡猾な感じだったし」
さすがヴェイセル。剣聖はあちこち世界中を飛び回っているからそういう知識も豊富だ。地球風フードの材料調達もお手の物だし。
「でも、なにより……ロリショタっ子兎耳族を追いかけまわしていたのは許せない!!」
いや兎耳っ子を追いかけるのはダメだと思うけど、お前もロリショタっ子常に追っかけてんじゃん?変わんなくね?
「あいつら兎耳族をウサギだから獲物っつって追っかけまわすんだよ。意味わかんないし」
狼族だから狼ってわけじゃないし、猫やわんこにカカオはダメだけど猫族や狼族は平気だ。さらに兎耳族はいろんな国や地域に分散していて耳の形が国や地域によってばらつきがある。あのふんわりウサギ耳はエストレラ限定だ。冬が寒いからか?色はだいたい白か金、薄いベージュ系なんだけれど。
「母ちゃん、父ちゃんとイオ兄は?」
「イオは到着が遅れそうですって。父ちゃんは領内でゴタゴタが起こって今日は遅くなるって」
「やっぱ、さっきのか?」
「えぇ、そうね。ロー。立て続けに兎耳族が狙われたらしくって……でも大丈夫よ。父ちゃんたち、強いからね。あ、今は剣聖もいるし」
「まぁ、必要なら手を貸すよ」
「うん、ありがと」
クリスタ領は茶狼族も多いが次に兎耳族が多いと言われている。だから被害者が兎耳族に偏っているのか、それとも敢えて兎耳族を狙っているのか。そして夕食が終わり片付けをしていると不意に玄関とは別のドアが開く。
「ドロシーちゃん!今、剣聖が来てるって本当!?」
金色の見事なさらさらストレートロングヘアに前髪は斜めに流し、エストレラ特有ふっくら兎耳、金色の瞳のナイスバディの美女が入ってくる。え、だれ?
「ミミちゃん!本当だけど……何かあったの?」
「急ぎ、呼んで欲しいのだけれど」
「ええ、待ってて」
ドロシーさんがぱたぱたと駆けて行って、後には俺とミミさんが残された。
「あなた……お客様?」
「えっと、はい。クロといいます」
「クロ……今剣聖が来ていて剣聖は殿下の騎士……まさかクロ殿下!?」
「え……は、はい」
「まぁ!お会いできて光栄です。私、クリスタ領主夫人のミミです。以後お見知りおきを」
「あ、はいっ!」
……って領主夫人!?つまり隣の領主邸から来たってこと?家つながってるんかい!!!そりゃつながってれば有事の際便利だけど!
「ミミさん、お久しぶりです。今日は一体どうしたんですか?」
おっと、そうこうしているうちにヴェイセルも来たようだ。
「ちょっと厄介なことになってね。ヴェイセルくん、今空間魔法でクリスタ領の外につなげられる?」
「ちょっと待ってくださいね」
ヴェイセルがゲートを出すのだが。
「クリスタ領の中なら行けそうですけど、外は何かにふさがれていて行けないですね」
な、なんと!ヴェイセルの空間魔法が通じない!?後宮の魔法結界だってものともしなかったのに……これじゃまるで……。
「ダンジョンの時みたい」
「確かに。でもダンジョンの空間魔法はかなり特殊だからね。おいそれとあれと同じものが街で使えるとは……」
「空間魔法だけではなくて通信もできないの。
王都はもちろん、クォーツ領やユキメ領にも通じない」
「そんなっ」
するとヴェイセルは目を閉じて何かを呼び掛けている?
「炎の精霊を呼べない。転移も使えない」
そういえばヴェイセルは炎の精霊の加護を受けていたっけ。
「クロ、シズメさまを呼んでみて」
シズメさま?どうやって……?
「頭の中で、名前を呼んでみて」
ヴェイセルの言うように目を閉じて呼んでみるのだが。
【わふたん】
はい?シズメさまのでもない俺のでもない、かわいい子どもの声が聞こえた気がした。
「あの、違う声がした」
「……オゥ、ソレチガウ」
ヴェイセル、何で外国から来た人みたいな反応になってんの?
「……今の、何?」
「ロリショタスコープが告げている。ソレチガウ」
ヴェイセルが顔に右手を当てて俯く。だから何だったんだ。今の。真眼ロリショタスコープの対象内なのは不服だが、真眼なので見えているものは正しいはずだ。
次にヴェイセルは手のひらに炎を出したかと思うと、それが青くなり最後には緑色を帯びた白い炎が発生し、ふっと消える。
「精霊から授かった力は使える。いざとなったらクロもシズメさまの力を使えるだろうね」
「でも、使い方なんて……」
「大丈夫。いざとなったら、ゲームのコマンドみたいなの出て来るから」
まじかよ。ドロシーさんたちがゲーム?コマンド?などと言っている。やはり転生者同士の解説だとわかりやすい。
「クリスタ領内での移動ができるなら、通信も領内ならイケますか?」
「ええ」
「では陸路と空路は」
空路というのは、主に竜人族と天人族が飛んで移動するルートだ。
「陸路と空路はダメね。領外へ出ようとすると中に戻されてしまうの」
「誰が、何のために」
「父さんが仕掛けたのならきっと意味があるけれど多分そうじゃない。父さんの魔力の波動を感じないから」
クォーツ公爵ってこと?てか魔力の波動で分かるの?……レベルの差かな。
「ともかく今、領民には外出禁止令を出してるの。騎士と闇の精霊士、冒険者が協力して街の警備にあたっている。狙われているのは日中頻発した事件からも恐らく兎耳族だから、今クリスタ祭壇で保護をしているの。どうしてか祭壇にいた兎耳族の娘たちは無事なのよね」
祭壇だけ……何かあるのか?精霊様の加護とかコワモテ闇の精霊士が恐いとか……?
「とにかくその保護の手伝いをお願い」
「碧狼族が関わっていると?」
ヴェイセルが顔をしかめる。
「恐らくね」
「でも兎耳族を攫ったからといって、自分たちも逃げられないのでは?」
「自分たちだけの移動手段を確保しているか或いは何か別の手段を企んでいるか」
「でしょうね。とにかく保護に協力します」
「助かります」
移動手段も通信手段もないか。……そういえばもう1つあるかも。
「ねぇ、ヴェイセル。アーサーお兄さんとは連絡取れないの?」
「あれ空間魔法」
……そうだったのか。
「お兄様の目とずっと連動していればもしかしたら……だけど今はね。クロとイチャイチャデートなんてしようもんならどんなお仕置きされるか」
だからそんなデートはしねぇよ。男同士で。そこら辺はアーサーさんにお仕置きしていただいてまったくもって構わない。
少し悔しがっていたヴェイセルだったが、ミミさんに促されドロシーさんと領主邸へと向かった。途中でローが起きてきたので、俺はひとまずローとリオとちび双子と寝る準備に向かう。
「大丈夫かな。もしかしたらイオさんもクリスタに入れないとか?」
「可能性はあるかも。でもさっき連絡はとれたからクリスタにいるかも」
確かにドロシーさんが連絡を取っていた。
「ま、何か野暮用かもしれないよ。皆と警備にあたってっかもしんないし」
「……だね」
「とりあえず、俺らは寝よ!」
「そうだぞーくろでんか、背ぇのびないんだよ」
「えいえんのろりしょたっこってヴェイセルがゆってたー」
おのれ、ヴェイセルめ。いたいけなハーパンっ子に何を教えてんだ。……怪力だけど。




