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【3】クロ殿下とエル兄さん


――――異世界転生ってのは仲間が増えると途端に頼もしくて、ワクワクするもんだよなぁ。俺は爽やかな目覚めと共に……凍り付いた。


「おはようございます。クロムウェル殿下」

「おはよう……ヴェイセル」

朝起きるとそこにはヴェイセルがいた。さらにヴェイセルにクナイを突きつける紅消がいた。やっぱり忍者みたいだな、紅消……ってそれはともかく!!!


「紅消、何してるのっ!?」


「クロ殿下の寝所に不審者が侵入しましたので。討伐許可をください」

「不審者じゃないよ?エル兄公認ですー」


「空間魔法で殿下がお目覚めになる瞬間に忍び込んだ貴様のどこが不審者ではない」

忍び込んだって……っ!?


「それは、とうsh……いやクロり……クロムウェル殿下への愛故にできる特殊技能だよ。そういう紅消もいつも殿下が目覚める瞬間に顕現するよね?」


「それはプロのお世話係の成せる技だ」

プロのお世話係というより忍者だけど。紅消の忍者っぷりはともかく、また俺の名前を呼ぶときに何か言いかけなかったか。いやその前の『とう何とか』って何だ。透視……?それとも盗さ……いやいやいや。ないないない。あれ?でも他に何か引っかかることを言っていたような……。


しかしながら賑やかになった俺の周囲、仲間たち。さらにヴェイセルは色々とこの世界のことを教えてくれそうな気がするのだ。

だからこそ、俺は転生してからずっとやりたかったことをやってみることにした。それに必要なのがお菓子作りの本。この世界にも地球と同じように様々なお菓子がある。でも前世と違うのはお菓子作りに魔法を使用したり、魔力や魔石で動く器具を使えることだ。これは是非やってみたい。


「ヴェイセル。魔法って俺にも使えるかな」

こう、異世界転生チート主人公のようにこうパァ――――……ッとさ!


「うん、使えるよ。魔力あるし」

「ほんと!?使いたい!教えて!」

ついつい目を輝かせていたら、後ろから紅消が割り込んでくる。


「殿下にはまだ早うございます。それに魔力測定やステータス鑑定も行っておりません」

魔力測定にステータス鑑定!やっぱりあるんだ!!


「ステータス!見たい!」

「いえ、それは12歳になってからと決まっております。エストレラ王国では12歳になる年に魔力測定とステータス鑑定を行うのです」


「鑑定じゃなくて、見るだけなら問題ないでしょ。俺の真眼でなら見られる。まぁ使用には特殊な条件があるけど」

やっぱり真眼ってステータスも見れるんだ!でも特殊な条件ってなんだろう。


「分かりました。……だが嘘言ったら許さんからな」

紅消が能面でドスの聞いた声を放つ。恐ぇよ。


「言わないよ~」

しかしヴェイセルはへらへらと笑っている。こういうところはエル兄さんと間違いなく兄弟だと納得できる。まぁ俺もエル兄さんの弟なわけだが。


「レベルはいくつある?」

「1だね」

1か。うん。いきなり10とかあったら恐いけど。


「特殊スキルとか、ある?」

「特殊スキルは真のロリショ……いや、もふり上手」

今、真のロリショ……って言いかけなかった?

ロリショ……ロリショタ?いやいやまさか。ていうかこの世界にそういう言葉あるのか?


「なぁ、もふり上手って何?」

ここは確かなところから攻めていこう。

「もふるのが達人級っていうスキルだよ」

何そのスキル!この世界のスキルってみんなそうなの!?そういう系なわけ!?


「じゃぁ、紅消は?」

「使用条件を満たさないから見えない」

使用条件?俺は見えて、紅消は見えないってことは子ども限定ってことかな。子ども……ロリコン……いや、なんつー言葉思い浮かんでんだ俺!


「やはりデタラメか貴様ぁっ!」

「紅消、落ち着いて!!」


「ちがうよー!じゃあ、ヨシュア様のスキル!ヨシュア様のスキルはねー、あんさ……」

「言うな!国家機密だ!」

国家機密なスキルって何だよ!あ、(あん)さん?でも、とおさんのスキルがわかるなら使用条件は大人か子どもかじゃぁないみたいだ。


「何か楽しそうだね?」

するとエル兄さんが悪戯そうな笑みを浮かべてやって来た。


「エル兄さん、シャドウが俺の真眼信じてくれないんだよ~~」

「エルヴィス殿下。いくら弟君でいらっしゃるからと、甘すぎるのではないですか。こいつは不審すぎます」


「仲良くなったみたいで何よりだよ」

「はいっ!?」

こんな取り乱している紅消は珍しい。何故だかここ数日で紅消の表情が柔らかくなっている気がするんだ。


「クロムウェル殿下にはまだ魔法は早いという話していただけです」

「クロ、魔法使いたいの?」


「その……お菓子を作りたくて」

「お菓子?侍女たちに言えば用意してくれると思うけど」


「違うの!自分で作りたいから!」

そう伝えればエル兄さんも紅消も微妙な表情をしている。えと、男がお菓子作りとか言い出したからか?日本でもお菓子を作れる男性は少数派かもしれんが自炊ならそこそこいるはずだ(と思う)。でもこちらの世界では珍しかったりするんだろうか。


「エル兄さんや紅消は作らないの?料理とか」

「うん、一応王子だから」

ですよね!!王子だもんね!!普通しないよね……あ、俺も王子だ。


「森で狩りをして丸焼きにして食べるくらいです」

紅消、割とワイルド!!後宮のお世話係がそんなワイルドなことができるとは!!


「俺はあちこち旅したり、野営したりするから普通に作るよ」

ヴェイセルが答える


「ヴェイセルの料理はプロ級だよ。小国連合とかに行って珍しい調味料を仕入れていて味付けも一味違うし」

「小国連合?」

「エストレラのずっと南にある小さな国家の集まりだよ。珍しい調味料……しょうゆとか、味噌とかがあるんだって」

何と……本当に和風調味料のある国家があったんだ!

因みにエストレラは北方の国で主食はパンやイモ中心。味付けはバジルやバター系が多いかな。でも紅消の衣装は和風だし、後宮は靴脱ぐスタイルで日本っぽい。やはり異世界……似てる部分もあれば違いもかなりある。あれ、じゃぁ紅消って和風調味料のある小国連合の出身とか?ああでも、とにもかくにもそこら辺の疑問は一時置いておいて。しょうゆや味噌が恋しい。ヴェイセルの料理……食べてみたいな。


「食べたい」

その思いが強すぎたのか、俺の口からはついついそんな言葉が漏れでていた。


「味噌汁と肉じゃがが食べたい」


「何ですか、それ?」

紅消が首を傾げる。


「あ、味噌汁は知ってる。いももちが入ってるやつ。昔ヴェイセルに作ってもらったから」

ダメ元で言ってみたけどこの世界にも味噌汁があったとは!でもいももちって何だろう?


「いけません殿下。味噌汁はともかく危険な代物だったら……」

「大丈夫だよ。肉じゃがおいしいよ?ねぇヴェイセル、作れる!?」


「うん、いいよ~~。ちょうどみりんもあることだし」

みりん!!お菓子作りをしようと思ったらいつのまにか脱線していた。けれど楽しみだ。これで米があれば……。


「米はないの?」

「米?ロンド州でとれる穀物ですか?」

エストレラ王国南部にある州だったっけ。比較的寒冷な国だけど、王都エステラに比べればまだ温暖な土地らしい。だから米も育つのか。しかし国内で米栽培をしていたとは。


「米か……。炊飯釜は実家にあるから実家で炊くか?」

「却下だ。外で調理したものを後宮に持ち込むとは安全性が確保できない。しかも怪しげな調味料や出どころ不明な食材を使用することも許可されるはずがないだろう」


「え――――、大丈夫だよ。実家に忍び込むような度胸のある人なんてそうそういないよ?魔動要塞並みだもん」

とヴェイセル。つかどんな実家だよ!!あと魔動要塞ってなんだ!ああ、せっかく和食が食べられると思ったのに……王子とは不自由だ。


「あらいいじゃない。おいしそう!」

その時唐突にハスキーボイスが響いたのだ。


「あ、テイカ母さん。ごきげんよう」

エル兄さんがにこりと挨拶をする。

「え……?テイカかあさん!」

なお、女王である俺のかあさまではない。


「ごきげんようエルヴィちゃん、クロムちゃん」

そこに現れたのは薄い金色のふわふわした髪に金色の瞳をした美人。美女ではない、美人だ。彼女(と言わないと多分怒る)はエストレラ王国第5王配テイカ(※男)。魔人族(まじんぞく)天人族(てんじんぞく)それぞれの血を引いている。魔人族のような角はないが天人族の長めな白い耳が人族の耳と同じ位置から伸びている。

天人族の耳はロップイヤー風で耳のふちは花びらのような形をしている。


そして天人族の服装はくるぶしあたりまである長めの色鮮やかな着物を帯でとめ、着物の隙間からゆったりめのズボンが覗いているというスタイルだ。着物の下からはわずかに天人族のふわもふしっぽがのぞいている。


ちなみに侍女たちの間でもこのスタイルが流行っていて、後宮の侍女のほとんどが天人族風の装いだ。そういう意味では紅消の服装も色は地味だが天人族風と言えないこともない。紅消のはどう見ても忍者に見えるけど。


「ね、お昼ご飯はそれにしましょ?イヴも連れてくるから」

「しかし、テイカ様」

紅消慌てる。

「いいじゃない、シャドウ。侍女には獣人族の子もいるもの。獣人族は鼻が利くから危険なものがあったらすぐ気づくでしょ。それにヴェイセルちゃんはフィーアちゃんの息子だもの。問題ない」

クォーツ公爵の名前はフィーアと言うらしい。でもどこか聞きなれない響きの名前だな。


「テイカ様が仰るのでしたら。しかし監視はさせてもらいます」

「ふふふ、お好きになさいな。侍女たちも珍しい調理には興味津々だから嫌でも監視体制ね」


「えー、緊張するなぁ」

そう言いつつもヴェイセルはへらへらしている。


「あ、あの……俺も手伝っていい?」

「クロムちゃんも?」


「お菓子作りに興味があるみたいなんだ」

とエル兄さん。

「まぁ、ステキ!イヴもお菓子は大好きなのよ?ににが作ってくれたお菓子ならきっと喜ぶわ!是非是非チャレンジしてみなさいな」


「まぁイヴが喜ぶなら……しょうがないか」

おおっ、エル兄さんが折れた!俺は良き妹をもったらしい。さすが俺たちのかわいい妹。妹さまさまだ。


「それじゃさっそく。俺は昼食準備するから、クロはお菓子作りね。お菓子作りの魔動機器やなんかは侍女さんたちが詳しいと思うよ」


「うん!!」

よーし、早速お菓子作りだ!



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