【24】クロ殿下と極夜祭
――――極夜。1日中お日さまの昇らない日が続く期間。年末年始の時期に王都エステラから西の地域に発生するそうだ。
お日さまが昇らない……というのは1日中朝日が昇る直前のような状態になるということで、おおむね1週間続き極夜明けに新年のお祝いをする。
しかしここクォーツ地方は最西端にあるせいか、その極夜がおおよそ10日間続くという。始まりと終わりの3日間が通常の極夜、間の4日間に空が本当に真っ暗になる暗夜がやってくる。
そして……クォーツに来て初めての暗夜がやってきた。
「はい、クロ。極夜祭のおみやげ」
ヴェイセルから御焼きのようなお菓子を受け取り、俺はシズメさまとベッドの上で半分こして頬張る。
「極夜祭……ちょっと興味があったのに」
極夜が始まると祭りの準備、暗夜に入ると極夜祭がスタートする。極夜祭は暗夜の最初の3日間に開催され、暗夜最終日は家でゆっくり過ごす。暗夜が明けるとそのお祝いをしたり、そ新年の準備をしたりする。そして極夜が明けたら新年のお祭りだ。
何故またお祭りにしたと率直に感じたが、真っ暗な空の下でお祭りというのには少し興味があった。
しかし俺は冬にやってくる地球で言うインフルのようなものにかかっていた。熱は落ち着いたのだが大事をとって今日はお留守番だ。
「極夜祭はクォーツローカルテレビが中継してるよ」
ヴェイセルがテレビをつけるとクォーツ州のクリスタ領が映っていた。
「真っ暗なのにキラキラしててきれい」
町中にある煙突のような白い塔から星のような輝きが溢れていて、イルミネーションのようにキラキラと輝いていた。
「極夜祭は星の精霊のお祭りだからね」
クリスタ祭壇に祀られている星の精霊。
「星の精霊が真っ暗な暗夜を照らしてくれてるんだよ」
テレビの向こうでリポーターのセシリーさんが幻想的な風景やグルメの映像を中継している。
「さて、俺はそろそろ……」
「どっか行くのか?ヴェイセル」
クォーツ公爵家の子息だから祭りで何か役目があるのだろうか。鎮守祭の時みたいに。
「うん、極夜祭の暗夜期間は忙しくって。傲魔たちが来るから」
ごうま?何だろう?
「冬になるとクリスタ領のさらに北……ユキメ領の先からやってくる特殊なモンスターどもです、クロ殿下」
紅消が湯飲みを持って現れる。
「殿下。はい、お薬」
そういって紅消が差し出してきた湯飲みの中にはどろっどろの紫色の液体が入っていた。
……の、飲みたくない。でも効くんだよなぁ。だけど光の精霊士たちが用意していた異世界版インフルのお薬はもっと正常な色をしていた気がする。
精神を統一し、一気に飲み込む。ぐぉぉっ!しかし飲み込んだ瞬間、のどに強烈な苦みがぁっ!
「……」(ぽむぽむ)
お疲れ、とシズメさまが俺を慰めてくれる。うぅ……それだけで俺、幸せ。苦さもへっちゃらだ。
「で、その特殊なモンスターって?通常とは違うの?」
「えぇ。あれは月の精霊の力を借りないと倒せない代物なのです。まぁあとは剣聖やクォーツ公爵の火力でぶっ放すくらいですかね」
「ヒュイもできると思うけどね」
ヒュイ?どこかで聞いた名前……あっ!
「その人ってクォーツ公爵によく似た水色の髪と瞳の……」
「うん、会ったことあるの?弟」
やっぱりクォーツ一族!!!あれ、てことはだ。
「アリスもヴェイセルの妹?」
アリスがあの人をお兄ちゃんと呼んでいた。
「アリス……?新しい妹かな」
あ、新しいって……その可能性を想定できるの!?もうクォーツ公爵の底が知れねぇっ!!
「最近、兄弟会行ってないんだよねぇ~~。今度行ったら新しい弟妹が増えてるかも」
けろっとしすぎ!!!そんなさらっと言っちゃうの!?普通驚愕しそうなのに。な……慣れ?慣れなのか!?クォーツ公爵……っ!!!
「じゃ、行ってくるね」
そう言ってヴェイセルは出したゲートの先へ消えていく。
「そうだ。さっきの話の続き……月の精霊が出てきたよね」
月の精霊はエストレラで古くから祀られている精霊だ。月の精霊は闇の精霊の中でも別格。属性精霊と並ぶ……いやそれ以上の力を持つ大精霊で光の大精霊でもある太陽の精霊の対となる存在だ。エストレラで闇の精霊を普通に祀っているのもそれが発端と言われている。
「傲魔は月の精霊の宿敵と言われています。エストレラのこの辺境がやつらから守られているのは月の精霊のおかげといわれています」
「ふぅん。やっぱりすごいなぁ、大精霊」
――――そう俺が感心していたその頃……。
――――side
「おーい、月の精霊!」
エストレラ西部辺境の北部クリスタ領の更にその北のユキメ領の果て。一面の銀世界の中に部分鎧に身を包むガタイのいい白髪の青年が佇んでいる。
赤髪の剣聖が呼びかけると闇のようなその瞳を向ける。
「……剣聖か」
「お待たせ。多分、他もすぐ来るよ」
「……あぁ」
ヴェイセルが月の精霊と合流した頃。
――――クォーツ祭壇・クロ殿下視点
「……傲魔って、何?」
「ヨシュアさまに昔聞いた話ではモンスターのランクはSS級を超え、光だけでは倒せず闇だけでも倒せない。太陽の精霊の力をその身に与えられた月の精霊の力のみが抗えると言われています」
「じゃぁ、ヴェイセルたちの力は通じないってこと?」
「確かに普通に行けばですね。まぁ、ヴェイセルの火力でいけばイケるかもしれませんが。まぁともかく、その時のみ共闘する剣聖たちに月の精霊が一時的に加護を与えます。そうすると攻撃を加えることができるようになります」
じゃぁヴェイセルはその時、精霊の加護2つと言うことだ。普通は1つでもすごいのに。今でさえすごいのにもっとやばくなるってことか。
――――あ、変態の方じゃないよ?剣の腕と魔法の方。
「昔はクォーツ公爵も参戦したり、名だたる闇の精霊士が参戦したりしておりましたが。今はSS級冒険者どもの無法部隊ですね」
SS級?まさにファンタジーの世界!
実際会ったらどんな猛者何だろう?てか無法部隊って、何?
「だ……大丈夫なの?あのヴェイセルがそんな人たちと……」
クォーツ公爵系テンションで怒られそう。
「ヴェイセルはSS級冒険者です」
へ……?あのロリショタ、ロリショタ言ってるヴェイセルが!?強いと思ってたけど……剣聖だけど!隣にいつもSS級がいたとは襲われたら逃げられな……いや、何を考えてるんだ。俺。
「なのでヴェイセルが他のSS級冒険者を誘って皆で共闘……やりたい放題ぶっ放す部隊を編成したそうです」
……何か恐ろしそうな部隊なんですけど……てか、皆?
「SS級大集合!?」
「えぇ」
「暗部とどっちが強いの?」
「……」
もしかしてコレ聞いちゃいけなかった!?暗部ってエストレラの機密っぽいもん!!!
「あ、そうだ!紅消!他のSS級って、どんな人たちなのかなっ!?」
こういう時は話題を変えてみる!うわぁ、紅消の目が据わってるよぉ……早く戻って。
「……」(ぽむぽむ)
そんな俺を見かねてシズメさまがぽむぽむして慰めてくれた。シズメさま、癒される。ぎゅーしてあげよう。
「そーそーたるメンバーだよー、クロ殿下!」
「普通指名依頼ってなったら、莫大な金額がかかるんだぜ」
その時リオとローが食べ物をたくさん持って部屋に入ってきた。リオが紙袋を持ってやきいものようなものを差し出してくる。中が赤い……地球では南国で採れるものでは?
「じゃぁ、お金たくさんかかってるんだね」
大人の世界はシビアだからな。
「いや、タダだぜ」
そうそう、そんなにかかって……ん、タダ?
「何で!?月の精霊の加護のおかげ!?」
「いやいや。あのメンツが思いっきりやれる機会ってそうそうないから、ストレス発散のために皆喜んで参加してるらしいぞ」
……ストレス発散って。
「確か世界に4人……最近5人になったんだっけ?」
やっぱりSS級って少ないんだな,その内の一人がヴェイセ。そしてヴェイセルは俺の騎……何か、いつの間にかすごい騎士を任命してしまっていた?……変態だけど。
※※※
――――side
「……ではお前たちに加護を」
月の精霊が目を伏せ、青白い光が白銀の世界に満ちていく。
「よっしゃ、やる気出てきた!今年もやっぱりコレやらねぇと物足りねぇからな!」
少し短い竜角を持つ竜人族の戦士ソーマが拳を打ち合わせてニマリと笑う。
「ちょっと暑苦しい。せっかくの冬景色が台無し」
白く短い歪んだ角を持つ魔族の女性サウメがふぅっとため息をつく。
「スバルは初めてでしょ?緊張してる?」
「あ、はい」
剣聖ヴェイセルに話しかけられた少年は恥ずかしそうにはにかむ。
「うぅ……スバルたんかわいい……あ、いや、何でもない」
「ヴェイセルさん……?」
顔をそむけるヴェイセルを不思議そうに見上げる黒髪黒瞳の少年はまだその顔に幼さを残している。
「んーと、ちびは今年何歳だったか」
「9歳です」
ソーマの問いにスバルが答える。
『きゅ……9歳』
「……ん」
ずっとそばで無言でいた獣人族の青年シュアンがスバルの頭をわしゃわしゃする。
「シュアンさん?」
「初回は総攻撃。その後基本は交代制で交代中にメシ、休憩」
「ちびは無理すんなよ」
ヴェイセルとソーマの言葉に。
「……はい」
スバルが緊張した面持ちで頷いた。
「……そろそろ来る」
月の精霊が呟くと地平線の向こうに黒い影が浮かぶ。
「がぁぁぁぁぁっ」
獣の声が響く。それと同時に月の精霊とヴェイセル、ソーマが先陣を切る。
それにシュアン、サウメ、スバルが続いていく。




