【20】クロ殿下とポーション作りのコツ
――――クォーツ祭壇での暮らしは毎日が新鮮で……とにかく祭りが多い。まさか一年中祭りとかやってないよね……?と思いつつも今日も今日とてクォーツ祭壇は賑やかだ。
「クロ殿下、魔法爆竹作ろーよ」
そう言ってリオが何かを手渡してくる。
「なぁに?魔法爆竹って」
「魔力に反応して、ばちばちする爆竹」
何、その危険物!!!
「何に使うの?」
「え、何ってクォーツ州全土で開催する最大のお祭り!」
やっぱり祭りかよぉっ!クォーツううぅっ!!
『その名も鎮守祭!!!』
ローもやってきて、リオと一緒にハモってくる。ええと、鎮守祭?
「……」(ぽっ)
突如ちったいシズメさまが俺の横に顕現しぽむぽむしてくる。かわいい。
※ちったい=小さい
「もしかしてシズメさまに関係あるの?鎮守の精霊だし」
こくり、とシズメさまが頷く。
「このクォーツの象徴シズメさまのお祭りだよー!!」
「3日間にわたって、盛り上がるんだぜ」
ん?盛り上がるの……?名前の響きからしてもっと厳かで静かなお祭りのイメージなんだけど。
「ほれ、クロ殿下も真似してみ?」
ローが見本を見せてくるのでしょうがない。作るか。何たってシズメさまのお祭りだもの。そして魔法爆竹をあらかた作り終えたので休憩がてらヴェイセルと紅消を探しに行く。
薬草調合室では光の精霊士のお姉さんたちがポーションづくりをしていた。
「あら、クロ殿下。こっちに来てやってみます?」
「え、いいの?」
「ええ、もちろん」
ちょっと興味があるのでお誘いに乗ることにした。
「こちらが材料の……」
兎耳のかわいいラビアンお姉さんがポーションの材料を説明してくれる。
「ガンツケ、ナン・ジャワレ、コワモテ」
……!?何その恐い名前!!
回復アイテムなのにその名前の材料でいいの!?
「あ、ラビアン。それはクォーツ方言だから」
「あ!そうね。こちらではこれが普通なのですけど」
え?何その方言。クォーツ恐えぇ。
「シロナズナ、ヒーリングベリー、コワモテソウです」
コワモテ……コワモテそのままじゃねぇぇぇかぁぁぁっ!!!
「でも王都の方ではコワモテソウの代わりにハートリーフを使いますね。クォーツは雪深い土地ですので植物生態が違うのです」
猫耳のかわいいミンお姉さんが解説してくれる。
「それではポーション作り歌を歌いながら作りますので、クロ殿下も」
「あ、はい」
えーと田植え歌とかそんな感じ?
『せーの』
ガンツケ、ゴキコギ、ガツンガツン
ナン・ジャワレ、チギッテ、ホウリ~コムゾ~、
コワモテ、ブッコミ、ドロッドロ~
グツグツ、グツグツ、デキア~ガリ~
(作詞作曲:作者)
「……」
こ……恐えええぇぇぇぇぇっ!!!
「全体的にさらさらしてきたからポーション専用小瓶に詰めて、冷ませば完成!」
そうかわいらしく教えてくれるお姉さんたちは終始楽しそうに歌っていた。
「小瓶に詰める用の歌もあるの。一緒に歌ってみる?」
「い、いや……いい」
もうこれ以上かわいいお姉さんたちの恐怖ソング聴きたくない。
「ツギコミ~」
何か隣から低い声で歌う声が聴こえてくる……?
「ツメタレバ~モウオワ~リダ~」
ひいいいぃぃぃっ!!!
「あ、お上手です!紅消さん!ポーション煮るのも上手なのに詰めるのもお上手ですね!」
めちゃくちゃテンション高くて満面の笑みの兎耳トールさん。そしてその隣で不気味な歌を歌うのは。
「べ、紅消……?」
「クロ殿下。こちら私が作成したポーションです。是非、ロ殿下にお差し上げしたくて」
そうイキイキした声で紅消が言って来るのだが。
「そ……そう?」
でもさっきのポーション作り歌聴いた後じゃ何か別の恐ろしいものに見える!!この緑色が別の物に見える!!!
「あ、あの……紅消がこういうの上手って意外だね」
「はい。毒薬作りには解毒剤作りができなくては話になりませんので。ポーション作りは工程が似ておりますし」
ど……毒薬?何に使うんだそんなの!?あっ、暗部の仕事用か!?
「まぁ毒は薬にもなるって言いますものね~」
紅消を囲んで笑顔で談笑するお姉さんたちとトールさん。あの毒薬作りの件には触れないの?何で平気で談笑できんの?何か背筋がぞくりとくるんだけど。
「あの、俺……そろそろ休憩終わるから。戻るね」
「あ、でしたらクロ殿下。ついでにこちらを」
何故かどくろマークの付いた小瓶を紅消が差し出してくる。
「これは?」
「あのバカ剣聖が大人しくなる薬です。なかなか材料が揃わず困っていたのですがクォーツで運よく手に入れることができました!」
「……」
こんな楽しそうな紅消は初めてかも……。あ……しまった。しまったぁぁぁぁ!!!つい受け取ってしまった!普段無表情の紅消があんなに楽しそうに差し出すからぁっっ!!!
リオとローの元に戻る廊下で我に返り、沈黙する。ど……どうしよ、これ。
「ん?どうしたクロ殿下」
闇の精霊士長・ギョクハンアニキが俺がどくろマークの小瓶を持っているのを見て渋い顔をする。
「貸してみ」
「け、けど危険物だったら」
あのヴェイセルが大人しくなる薬。何なんだろう。何か恐ろしい薬な気がする。
「大丈夫だ」
そう言ってギョクハンアニキがしゃがんでその大きく逞しい掌で俺の頭をなでてくる。
「マッドヒーリング班の開発した危険物の処理なら手慣れてっから」
マ……マッドヒーリング班って何!?
「クロ殿下。エストレラの祭壇で一番逆らっちゃぁならねぇのは武闘派の闇の精霊士じゃぁねぇ」
ギョクハンアニキが遠い目で語る。
「闇の精霊士が武闘派なのはやつらが出てくる前に俺らが片づけるためだ」
「……」
うん。光の精霊士には逆らわないようにしよう。
俺はギョクハンアニキに小瓶を渡す。
「んじゃな。今のことは内密に」
「うん」
何も見なかった、聞かなかった、受け取らなかった。うん。
そ知らぬふりをして立ち去ると、廊下の先に見慣れた赤い髪が見えたのでとてとてと駆けて行く。
――――side
「……ったく、ま~た変なもの開発しやがって」
ギョクハンはいつものように闇魔法で怪しい小瓶を安全に適正に処分していた。
「ギョクハ~ン?」
「ぐえっっフィン!?」
「叡智の結晶に何てことを……」
ベージュの毛並みの天人族が名残惜しそうな目をしていた。
「暗黒結晶の間違いだろう」
「むーっ」
光の精霊士長・フィン……またの名をマッドヒーリング班首領フィンがぷくーっと頬を膨らませるのであった。