【18】クロ殿下と猫祭り
――――何故。何故こんなことに……っ!
俺の前にはかわいらしいお姉さん軍団。その前でもじもじする俺……だって男の子なんだもん。
「やーんっ!クロ殿下ったら、かっわい~い!」
お姉さんたちの歓声が巻き起こる。
――――俺は、猫耳しっぽをつけられていた。えっと……俺は司祭様から祭りの準に呼ばれたのではなかったか。
しかし猫耳しっぽ。俺は猫耳しっぽである。さらに俺の目の前にいるのはシュガーブラウンの天然猫耳しっぽ、セミロングの髪のミンお姉さん。
そして金色の兎耳しっぽに前髪や腰のあたりまである髪をぱっつり切り揃え、もみあげを姫カットにしたラビアンお姉さん。このお姉さん2人に俺はおめかしさせられていた。ついでに二人とも光の精霊士だ。
「クロ……っ!猫耳ロリショタ……くっ」
朝、仕事から戻ったヴェイセルが俺の猫耳しっぽを見ながら鼻血を出している。
「ほら、ヴェイセル様も猫耳猫耳!」
そしてその隙にミンお姉さんが最強の変態剣聖ヴェイセルにも猫耳しっぽを装着している。
「あの、お祭りの準備じゃ……?」
「そうですよ~クロ殿下!猫祭りですから!」
ね、猫祭り?……にゃんこまつり?…………ねこさんまつり?
「もちろん別の獣耳でもオッケーなので、私は生来の兎耳です!」
両手で兎耳をきゅっとつかんではにかむラビアン姉さん。猫耳もかわいいけど王道だけではない!う、兎耳もかわいい!!
「今日は私たちとまわりましょ?」
「えーっ俺もクロとお祭りデートで踊りたかったのにー!」
踊るって?盆踊り的なものだろうか。というかお祭りデートって何?そんなものしないからこの変態め。
「ヴェイセル様は祭りの警備のお仕事があるでしょう?ほら行った行った!」
お姉さんたちがゴーインにヴェイセルを叩き出す。そして扉のそばにいた黒猫アニキとオリーヴ色がかった暗色の黒狼族のアニキ……狼アニキに引きずられていく。
「あと踊りも簡単にやってみましょ?簡単だから」
あぁ、さっき言ってた踊り?
「お祭りの広場でみんなで男女ペアになって踊るんですよ~」
ラビアンお姉さんとミンお姉さんの踊りに合わせて手足を動かす。どこか地球のフォークダンスに似ている。しかし猫耳しっぽでお祭りの広場で踊るって祭りの全容がいまだつかめん!何せ猫耳しっぽだし!
猫祭りはヨーロッパ風の町中に露店が並んでおり、所々に6色の鮮やかな長方形の旗が青・白・赤・緑・黄・黒の順に並んで吊り下げられている。地球で言うチベットのタルチョ……に似ているが何か色が一色多い気がする。それぞれクォーツ州を含む西部辺境と呼ばれる地域を象徴しており、西部辺境を守護する精霊に感謝を示すものだと聞いた。
青が空、白が雪、赤が太陽、緑が森、黄が月、黒が大地を表しているそうだ。
街の中央の広場では軽快な音楽に合わせてみんなが輪になってくるくる踊っていた。やっぱりふぉ……フォークダンス?
「ほ~ら、クロ殿下も!」
俺もお姉さんたちに促され輪の中へ入る。最初はお姉さんたちと交代で踊っていたのだが、お姉さんたちが猫耳しっぽのお兄さんたちに誘われ踊り始める。
「クロ殿下も女の子誘って踊って~」
え~っ!?いきなりハードル高っ!!!どうしようか困っていると目の前に見覚えのある赤髪の少女が見えた。
「あ、アリス?」
「あ、ドーナツの!」
そう、あの時ポーションのお礼にとドーナツを渡した俺である。
「えっと、踊る……?」
お、女の子を踊りに誘うとか……緊張する……っ。
「はい、喜んで!」
しかしアリスは飛びっきりの笑顔で答えてくれる。よ、良かった……っ!やっぱりアリスはイイコだな。アリスに会えてよかった。不慣れながらもステップを踏んでいく。
「あらあら、青春ね~」
「女の子を上手くエスコートするのがコツよ~」
きゃっきゃとするお姉さんたちの声が聞こえる。
き、緊張するからぁ~!
「えっと、不慣れで……ごめん」
「私も、こういうお祭りで踊るの初めてで……」
「おそろいだ」
「うん、おそろい」
曲に合わせてお互いに順番にくるくる回っていく。そしてまた向かい合って踊る。
「そういえばまだ名前、聞いてなかったね」
「えっと、そうだったね。あのね、クロだよ」
「クロ……?クロ殿下の愛称とおんなじだね」
ギックッ。
「え……っと、そだね」
何かごまかしてしまった――――!!でも自ら俺が王子ですとか言うの恥ずかしいもん!!
「クロ、今日はありがとう。またね!」
「うん、また!」
踊りの曲ロールが終わり、互いに挨拶をして手を振る。
「クロ殿下~!どうだった?」
ひとまず踊りの輪から外れお姉さんたちと合流するとやけににまにましてる。
「かわいい女の子でしたね~、ヴェイセルとおんなじ赤髪!」
「赤髪はクォーツでよくある色だけどね」
そういえばヴェイセルと同じ同じ赤髪だったな。でもラビアンお姉さんの言う通り、クォーツではよくある色だ。祭壇でもたくさん見掛けるのだ。
――――しかしその時だった。
「おい、嬢ちゃん。俺らと踊ろうぜ」
「いや……ちょっと……っ」
な、何だ?何かテンプレなナンパ師みたいな声と困っている女の子の声である。
そこには茶色い猫耳しっぽの少女がガタイのいい男たちの要求に困っている様子で、その少女よりも小さな白い猫耳しっぽの少年がいた。姉弟だろうか。あれはまずい……っ!