SP:第1回エストレラ王国王配会議
――――ここはエストレラ王国城の会議室。そこに神妙な面持ちで揃った一堂の中で真っ先に堰を切ったのは美女に見えなくもない美人である。
「さぁ、今日もよい会議日和ね!さっそく始めましょうか。エストレラ王国王配会議のお時間です!」
「会議に日和なんてあるか!」
エストレラ王国王配テイカの言葉に真っ先にツッコむ声が響く。
「なによ、そんなだから王配のくせに独身貴族の星とか言われんのよメガネ!」
「て、テイカ!お前こそ男か女もわからんくせに!……っこの私が!国家間会談の交渉時どんだけ苦労していると思っている!」
テイカにメガネと呼ばれた男が叫ぶ。
「あんったねぇ!今言っちゃいけないこといったなぁ、ゴルアアァァァッ」
「もう、おやめください。テイカ様、エリックさま!」
その時シュガーブラウンの髪に同じ色の瞳、魔人族の角が左側片方だけについた青年ローウェンが止めに入る。
――――メガネ、もといエリックと呼ばれた男はオリーヴ色の髪に琥珀色の鋭い目をしておりべっ甲色のフレーム眼鏡をかけている。彼はエリック・フォン・シュテルン公爵。このエストレラ王国五大公がひとりにして第3王配。内政も外交もそつなくこなすオールマイティである。
「黙りなさい、ローエンちゃん。これは男と男の決闘よ」
「いえ、私の名前はローウェンですが」
うわーこのひとNGワードでぶちぎれといて自分で男っと言っちゃってますよー……と、この国の宰相ローウェンはため息をつく。
「ああ、だから嫌だったんです。こんなよくわからない会議の議長するのは。……でもなんだかんだでコーラルディーナ陛下に押し付けられてしまいましたし」
「まぁ、ちっせぇこたぁいいじゃねぇか!メガネが国同士の会談をセッティングして、国王会談の傍らテイカちゃんが相手国の妃たちと仲良くなる。俺たち他の王配にゃぁできねぇことよ」
そう豪快に言い放ったのは濃い茶色の狼耳、しっぽを持つ茶狼族のワイルド系美中年。眉は力強く眼差しも穏やかながら、内にほのかな鋭さを帯びる。何を隠そうアスラン第1王子の父親で第1王配のマティアス・フォン・クリスタである。
「うっさい、脳筋!お前はもうちょっと頭を使え!いいか、お前は第1王配だ。他国で言えば正妃、皇后!」
「おい、メガネ。ちょっと……気持ちわりぃぞ。…………俺ぁ男だ」
「そういう意味ではない。やっぱりお前は脳筋だ」
「んぁ?」
マティアスとエリックのいつもの息の合ったやり取りを見つつもふとハッとするローウェン。
「そういえばそこらへんきちっとしときたいのですが。正妃や側室など……他国では線引きをしています。これは外交にもかかわる重大な問題です」
「つまり誰がコーラルちゃんの正妻で、側室かをきめるってことね」
「妻?なら、それぁローウェンじゃね?」
テイカの言葉にマティアスがピシッと告げる……が。
「マティアスさま、私は王配ではなくただの宰相です」
「でも姫さんがローウェンは私の女房役なの~~って言ってたぞ」
因みにマティアスの言う姫さんはコーラルディーナ女王陛下のことである。
「……それは相棒という意味で、夫という意味ではありません。恐れ多いのでやめてください」
「えーじゃぁ、どうすんだ?」
「まぁ順番で言えば第1王配の脳筋……いやお前に務まるとは思えん」
「そーかぁ?もうメガネったら照れるじゃねーか」
「褒めてねぇ!」
「落ち着け。マティアス殿は……無理だろう。近衛騎士隊長なのだから……常にコーラルに付き従わなければならない。……他国の王妃対応など……無理だろう……性質的にも」
次に述べたのはゴーシュであった。
「そーかそーか、さっすがゴーシュだな!」
「ゴーシュさまも褒めてませんよ、マティアスさま」
ゴーシュの言葉にカッカと笑うマティアスにローウェンはツッコミを入れる。
「その、第2王配はゴーシュさまですが」
「私は……その、無理だ」
「確かにこのネクラでは他国の賓客の対応はできん」
エリックがばっさりと言い放つ。
「ちょっとメガネ。それは言い過ぎよ。ネクラに謝んなさいよ」
「……ネクラ」
テイカがフォローしつつも結局ネクラと呼ばれ落ち込むゴーシュ。
「ゴーシュさま、元気出してください。我が国の魔法事業はあなた様によって支えられているのですから!」
「俺はどうせ……」
ローウェンが頭を抱える。あぁぁっっ!だめだ。ゴーシュさまが完っ全にネガティブモード入っちゃったぁぁぁ!!!残る希望はヨシュアさま!助けてください!私とおんなじ平民上がり仲間なんですから!と、ローウェンがヨシュアを振り返れば。
「……」
ヨシュアはひとりのほほんとお茶をすすっている。そのにこにこ笑顔がちょっと恐い。
「じゃぁ第3王配のメガネがやるってこと?まぁ、外交交渉得意なんだしいんじゃない?得意でしょ、そういうの」
「外交交渉やる正妃はおらん!皇后もだ!」
「得意なのは否定しないの?メガネ」
「仕事ならパーフェクトにこなす。それがプロだ」
「くっっ!正論に聞こえるところが憎いのね」
悔しがるテイカ。その時マティアスが声を上げる。
「でもよ、今まで他国の妃たちの相手はテイカちゃんがやってただろ?テイカちゃんでいいんじゃね?」
……と。
「私はだめよ」
「お前、この前の気にしてんのか?連合王国での『獣人ごときが相手を?』ってやつ」
エリックがテイカに問う。
「何よ、メガネの馬鹿っ」
「私のどこが馬鹿だ。私は秀才だ!」
ローウェンは内心嘆く。何なんですか、この痴話げんかみたいなの。珍しくエリックさまがテイカさまを心配するように気遣ったと思いきやテイカさま……えーとこういうの何でしたっけ。そうだ、ツンデレだ。確か剣聖が言ってましたね。
「そうだぞ。すかさずメガネが言い返したじゃねぇか。『いえ、テイカは魔人族と天人族の混血です。一国の王妃ともあろう方が相手国の王配の種族名もまともに覚えられないのですか』って」
「全くマティアスさまったら。いつもケンカばっかりしているのにこういうところは息があっているんですよね。ケンカするほど仲が良いということでしょうかね……」
「そうね。そこはちょっと見直したけど」
「そういえばこの前ロザリア帝国での魔法士長会談の折、皇后とお会いしてな。『あのメス、ちょこっと虐めておいたの。うふふ』と……テイカへの伝言を……頼まれた……」
ゴーシュが思い出したように告げる。
「まぁ、ヴィクトリアちゃん?メスって?誰かしら」
「そのくだんの王妃ですよ!!!まぁ、そういうところが気に入られているんですが。全く、テイカさまは妙なメンツにモテていらっしゃる」
ローウェンはため息を付きつつも何だか微笑ましさを覚え始めていた。
「そういえばこの間の後宮のごたごたの不始末、ロザリアはなんと言っている?ゴーシュ」
先ほどのテイカとの痴話ゲンカが嘘のように真剣なまなざしを見せるエリック。
「あずかり知らぬこと……と。まぁ、首謀者が……前ロザリア筆頭魔法士長だから……魔法士長間でやり取りはしたが……国同士の交渉になるなら、俺は……」
「分かった。後はこちらで動いてみる」
エリックがこくんと頷く。
「しっかし、あの女。今更でてきて手ぇ出そうとはな。来るならそん時に気やがれ!」
「来るかぁっ!今更出てきたのは、手勢と力を溜めとくためだろうが、脳筋!」
しかしマティアスの能天気な熱血により、再びじゃれ合いモードへ移行するエリック。
あぁ、少し王配会議っぽくなってきて、かっこよかったのにとローウェンはガックリ肩を落とす。
「もうおふたりとも、ヨシュア様の前で……少しは気を使ってください」
「おう……っ悪ぃ、ヨシュ」
「そうだな、王子らは無事だと聞いたが、様子はどうだ?」
そして皆でヨシュアに目を向けるのだが。
「……」
((寝てる――――っ!?))
「ん……何ですか?ふぁ~~、騒がしいですね。昨日は寝たの朝の5時なんですけど。途中でフィーアもでてきてその後は後始末……むにゃ」
すーすーすー。
『後、始末……』
4人の王配と宰相ローウェンは震え上がった。
ヨシュアの言う『後始末』。その意味を彼らは知っているのだから。
「あ……結局今日決まりませんでした……」
ローウェンはひと知れず、ため息をついた。




