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【改稿作業中】クロ殿下と剣聖ヴェイセル  作者: 夕凪 瓊紗.com
始まり編

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【13】side剣聖の回顧録


――――side:ヴェイセル


――――空虚だった。


ここは俺の知っている世界とは違う。前の生で願った通り大切な人を守る最強の力を得ても、その人がいない世界に意味などないのに。


何故、そんな記憶を持ったままこの世界に転生したのだろう。寂しい、苦しい、辛い……。


俺は、空っぽな世界で生きている。


――――――


「ほう、まだ10歳でその実力は惜しいな。どれ、手合わせしてみよう」


王都エステラクォーツ公爵邸。濃い茶色の狼耳、しっぽを持つワイルド系茶狼族が声をかけてきた。


「おっさん、誰?」

「ん……?通りすがりの茶狼族だ」

いや、通りすがりで公爵邸に来るか?夏休みだから遊びに来いと兄がしつこいから王都に来てみたものの……変なおっさんに絡まれた。やっぱりクォーツで野山を駆け回り温泉三昧するべきだったか。

キン、キン、キンッ!!!

公爵邸に剣の音が響く。うぐっ!このおっさん、まだ10の子どもに容赦なっ!!


「うるぁぁぁぁーっ!!!」

10の子どもにどんっだけ本気で気合ぶつけてくんだこのおっさん。剣をはじかれてぶっ飛ばされたのは久々だ。最近は大人相手にも負けてなかったのに。クリスタのおっさんといい、このおっさんといい茶狼族はばかぢからすぎるな。


「は~~っ!久っ々にちょい本気だしちまったな~~、あっはっは!」

ちょいだけなのかよ、あれで。


「な、城に見学に来ねぇか?」

「お城?」


「将来は近衛騎士隊とかどうだ?」

「えーやだよー俺はてきとーにクォーツでモンスター倒しながら、温泉三昧して暮らすんだー」


「何だそりゃ。俺の義息子もそんなこと言ってたか?まぁ、お前にとっても兄ちゃんか」

「エル兄のこと?」

俺たちは腹違いの兄弟は母親はたくさんいるが、父親が複数いる兄弟は少ない。その中で茶狼族の義父がいるとすれば次兄だろう。


「おっさん……王配の?」

次兄の義父の中で茶狼族ならエストレラ王国の第1王配兼近衛騎士隊長だ。


「まぁ、成り行きでな~~」

「成り行きでなるもんなの?」


「ま、とにかく行くか」

「ちょっ!」


「あ、そういえば炎の精霊の加護もってんだろ?転移してくれ」

「城はいったことない。あとゲート使えるから」


「そうだった、フィーアの息子だもんな。転移よりゲートか。あっはっは!」

まったく、やかましいおっさんだ。


――――エストレラ王国エストレラ城


「ヴェル、マティアス父さんと一緒だったの?」

「うん、この脳筋おっさんどうにかならない?」


「どうにかなったらエリック父さんが苦労しないよ?」

エリック・フォン・シュテルン公爵。脳筋おっさんと同じこの王国の王配。確か第3王配だったっけ。内政も外交もできるオールマイティーだったっけ。


「エル、どうだ?弟は。将来は近衛騎士隊が向いてると思うんだが」

「向いていたら、エリック父さんとローウェン宰相がウチの父さんの扱いに苦労しないよ?」


「そうか?フィーアはシェルと長男に任せれば大丈夫だろ」


「マティアス父さん、何でその対策法知ってんの?」

この脳筋おっさん、脳筋のふりをして実は爪を隠してるのか?エル兄が驚愕してんだけど。


「ん?ヨシュが前にそう言ってたぞ。フィーアに嫌がらせするときに使えるぞって」

「ヨシュア様」

ヨシュア・シュヴァルツ。この王国の第4王配。エル兄、何で第4王配だけ様づけ?ていうか、嫌がらせって。どんなひとだ。


「わふたん」


ん?


「わふたん」


いつの間にか、俺の横にちびっ子いた。

狼耳のついたフードをかぶり、俺の腕をちょんちょんしてくるちびっ子。


「わふ」

「お兄ちゃんはわふたんじゃないよ。むしろ……」

わふたんはそっち。わふたんというのは地元のクォーツ祭壇に祀られている氷の精霊に従う精霊狼のことだ。クォーツではわふさんと敬意をこめて呼ばれているが、ちびっ子や同じくクォーツ祭壇で祀られている生命の精霊はわふたんと呼ぶ。そのせいかクォーツ州のちびっ子は狼をわふたんと呼ぶ。


しかし何で王都で……それも城の中でわふたん?

「うぇいせぅ」

……今、俺の名前を呼んだ?


「……?」

ちびっ子が首をかしげている。


「くろ、そばにてあげぅ」


「……え?」


「しゃみしくなぃ、いいこ、いいこ」

なでなでしたいのだろうか、腕をフリフリしてる当然ながら届いてない。顔をぷくーっとふくらましてる。まんまるで愛らしい青い瞳はキラキラしていて、またきゃっきゃと笑い始めた。ちびっ子ってわかんない。


とりあえずわふさんにやるみたいに頭をなでなでしてみる。なでなでなでなで。ちびっ子は首をかしげながらも俺にぎゅーしてくる。


きゅんっ。


何だ、今の?


――――真眼ロリショタスコープが開眼しました


は?頭の中に声が響くと、眼前にポップアップみたいのが開く。


クロムウェル・リィン・エストレラ(2)

エストレラ王国第4王子

Lv.1

スキル:もふり上手、真のロリショタ



突っ込みどころ満載なんだけどっ!!!

ていうか第4王子……エル兄の異父弟か。

しかしもふり上手:もふるのが上手。……これ何かの役に立つのか?


真のロリショタ……永遠のロリショタとも。もうちょーかわいい。半ズボン適合度100%。成長してもかわいさと半ズボンの適合度100%は変わらない。

おぅ……っ。


「ぅえいせぅー」

「ヴェイセル」


「エイセル―!」

「ヴェ・イ・セ・ル」


「ヴェルでいいよー、クロ。長いから」

エル兄がこちらに気付いて向かってくる。


「や、うぇいせぅ」

「何だ、お気に入りか?クロ」


「ん、うぇいせる!」

惜しい。でも、花満開の笑顔に思わずまたきゅんときてしまった?


「てゆーかクロ、また後宮抜け出してきちゃったの?シャドウ」


「常に控えておりますので」

クロの後ろにすっと顕現した、黒装束の少年が答える。


「まったくいいのか?こんなにゆるゆるで」

「マティアス様がいらっしゃるところであれば、危険などないかと」


「まぁね、じゃ、クロお願い」

「はっ」

シャドウがちびっ子を掲げ上げると、ちびっ子がぱたぱたと手足をばたつかせる。


「あ、やー、ぅえいせるー」

「ほら、クロ。ヨシュア様が心配してるよ?また会えるから」


「うー」

涙目で俺を見つめるちびっ子。


「また、会いに行くよ。呼んでくれたら、いつでも行くから」


「……う」

納得したかのようにぴたっとぐずるのをやめてキラキラした瞳で見つめてくるちびっ子。まるで水面にキラキラ反射する光みたいにきれいだった。シャドウに抱えられながらばいばいしてくるちびっ子。俺が手を振るとまた満面の笑みを浮かべる。


寂しさも、苦しさも、辛さもすべて飲み込んでいくようなきれいな瞳。あの子に、もう一度会いたいと思った。


※※※


――――エストレラ城コーラルディーナ女王陛下の即位記念日祝賀会


「やぁ、ヴェル!ヴェルが参加するなんて、珍しいね」

「エル兄……お兄様についてきただけだよ。どうせ夏休みはこっちにいるし」


「ウチのかっわい~い双子ちゃんに会いに来たんだよね。わかってるよ~」

そういえばクロムウェル殿下は双子ちゃんだったな。


「今日はダブルでかわいいよ」

エル兄、でれでれになってる。孫自慢みたいになってる。でももう一目でいいから見てみたい。エル兄がゴーインに腕を引いて前の方に歩いていく。


「赤髪……」

「燃えるような不吉な赤髪よ。おぞましい」

「何故、エルヴィス殿下がご一緒に?」

できれば隅っこでじっとしていたかったんだが。この世界の不条理のせいで。


「気にすることないよ。エストレラ人にはよくある色だ」

確かに赤髪はエストレラの魔人族によくある色で魔人族以外にも赤毛が少なからずいる。しかしこの世界の不条理は赤髪を忌避する。

かつて人族を救った英雄である勇者を屠った赤髪の大鬼を連想させるから。


「俺が横にいるのにいい度胸だ。顔と名前は憶えているからね、後でいたずらしよう」

いや、やめろよ。一国の王子が。シャレにならない。ほんと、そういうところ父さんにそっくりなんだから。


前の方……といっても隅っこに縮こまるちびっ子双子を見つけた。


「どっちがクロでしょう」

しょーもな。いや、お約束だけどさぁ。


「ひとみしりをなでなでしてる方」

「あたり!よくわかったね!」

ロリショタスコープのおかげだ。

ふぅとため息をつくとまた声が聴こえてくる。


「おお、あれがヨルリン殿下」

「お姿をお見せになるとは珍しい」

「光の精霊に愛された祝福の王子だぞ、ありがたや、ありがたや」

光の精霊に愛された祝福の王子?何を言っているのだろう。だってあの子は……。


「おい、隣にいるのは忌み付き王子では?」

は……?


「あの噂、本当なの?」

「産まれた時に花や草木が枯れ果てたって」

「その後、ヨルリン殿下の光の祝福の力で大輪の花が咲き誇り呪いは浄化されたっていうけれど」

「東部で繰り返し起こった災害も噂では忌み付き王子が原因だと」


「まずい流れになってきたな。こんなところで堂々とそんな噂を言うなんて……アスラン兄上に言ってそろそろ下がらせてもらうか」

父さん譲りで兄弟の呼称もテキトーなエル兄だが(この前アスラン殿下をアスランおにぃーとか呼んでたし)、公式の場ではしっかり兄上と呼ぶ。


「そうだ!その忌み子は、世界に混沌をもたらす忌み付き王子だ!」

「現に、エストレラ東部は天災により壊滅被害を受けたではないか。これは始まりに過ぎない!」

「なんと本当か」


「あの方はロザリア帝国筆頭魔法士長殿だ。あの方が言うならば間違いない!」

「もしかして我が国での凶作もあの忌み子の」


「まずい、ちょっと行ってくる」

エル兄が行こうとすると貴族たちに囲まれてしまう。


「エルヴィス殿下」

「今のは本当なのですか」


「おやめなさい」

その時凛とした声が響く。

「そのような幼子に、そのような力があるとでも?女王陛下の御前で不敬ですよ」


「……皇后陛下」

「ロザリア帝国ヴィクトリア皇后陛下」

ぽつりぽつりと、そう呼ぶ声がある。腰のあたりまである長い黒髪の美女が真っ赤な口紅が何となく不気味だと思った。不気味なほど凛としていて、きれいなひとだった。


「あなたたち、あの魔法士長をとらえなさい」

「皇后陛下!妾はロザリア帝国いえ……エストレラ王国を含めた世界のためにっ」


「女王陛下。我が帝国の魔法士長が大変失礼を申しました。即刻、皇帝陛下にあの者の罷免を申し立てます」


「妾を罷免すれば、ロザリア帝国はっ」


「おだまりなさい。(あの唐変木フィーアに比べれば、あなたごとき失うことなど痛くも痒くもありません)」

最後に皇后が何かを言った気がするが、俺には聞こえなかった。そしてそのやり取りに隠れてちびっ子双子は兄姉や近衛騎士隊たちに連れられてその場を後にしていた。マティアス近衛騎士隊長がコーラルディーナ女王陛下に何か声をかけていた。その後聞いた話では皇后と女王陛下が上手く仕切りなおしたらしい。


しかしかくゆう俺はちびっ子を探していた。どこからか子どものぐずる声がする。


「ん?赤髪……お前、ヴェイセル・フォン・クォーツか」

あの脳筋隊長とよく似た茶狼族の少年。


「アスラン殿下。祝賀会はよろしいのですか?」

「うん、エルとジェイドを囮に逃げてきたからな。大丈夫だ」

弟たちにぶん投げして何やってんだこのひと。


「ちょっとこっち来てみな」

アスラン殿下が部屋の中へ手招きするので中を覗いてみると、真っ赤に目をはらしたちびっ子がいた。


「クロムウェル殿下だけですか?」

「ヨルはなぁ、ちょっと体調崩してエメラにまかした」

だよねぇ。だってヨルリン殿下は……。


「それよりもクロ、見事に泣き止んだな」

あ、ほんとだ。泣き止んでる。

真っ赤に目をはらしてうるうるしながらも、キラキラした目で見つめてくる。


「お兄ちゃんのふわもふしっぽで何とか号泣はふせいでたんだけどなぁ」

もふり上手なだけにふわもふしっぽはお気に入りらしい。


「恐いオバサンに大きい声出されて恐かったな、うん?」

ロザリア帝国筆頭魔法士長をオバサンとは。まぁすぐに元になるだろうけど。なでなでしてやると、恥ずかしそうにしてるちびっ子。


「クロ」

ふと、名前がこぼれる。名前を呼ぶと嬉しそうに笑った。


「ヴェーセぅ」

Vの発音ができるようになったか。もう少しだ、うん。


「じーっ」

アスラン殿下が見つめてくる。


「はっ!申し訳ありません」

ついつい、クロムウェル殿下を愛称で呼び捨てにしてしまった。何故かその呼び方が妙にしっくりきたから。


「いーの、いーの。仲良しで何よりだ。はははははっ」


……空虚だった。目的もない。やりたいこともない。


何のために前世の記憶を持って、この世界に転生したのかわからなかった。


けれどこの世界で目的を、やりたいことを見つけた。



何のためかはわからない。でも、俺は……。



――――side


エストレラ城・女王の書斎


「コーラル」


「なぁに、ゴーシュ」

美しい銀色の長い髪に同じ色の長いまつげ、愁いを帯びたエメラルド色の瞳の美女が呼びかけに顔を上げる。


「あの例の……ロザリア帝国筆頭魔法士長の件だが」

その瞬間美女のエメラルド色の瞳に鋭い光が灯る


「……っ!あんの魔法士長れせっかくヨルの体調がよかったら双子ちゃんに癒されようと思って連れてきたのに許さない!」


「……そのことは……大変だったな……俺はそばに……いられなかったから……大丈夫か」

「いいの、マティアスがそばにいたし……ヴィクトリア様もテイカちゃんと仲良しだから。慰めてくれて……」


「……そうか」

「で?くだんの魔法士長は?」


「罷免された……。皇后を怒らせた上に……今、帝国はエストレラとの関係悪化は……望まない」


「西方の魔族問題に南部連合王国の問題があるものね」

「しかし……」


「何か気になることでも?」


「いや……あれだけの魔法士……魔族問題があるのに帝国が……みすみす手放すとは……な。魔族を相手にするには魔法が不可欠だ……から」


「確かにねぇ」

コーラルは頬杖をつき、窓の外を見上げる。


「……そういえば剣聖くんの噂、聞いてる?」


「……あぁ。めざましい……活躍で世界に……剣聖の名をとどろかせている……とか。最近、また冒険者ランクを上げた……」


「あの子の傍にいるためにがんばっているのね」

コーラルはそう呟き、微笑ましそうに窓の外に広がる空を見つめるのだった。



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