【12】クロ殿下とクォーツ公爵
――――月明かりの下、待ちに待ったとおさんとの再会だった。
「クロ!大丈夫だった?」
「うん!ヴェイセルや紅消、紅消の兄ちゃんたちも……暗鬼さんも来てくれたし、大丈夫」
「よかった。フィーアが大丈夫というから任せたけど……もしクロを恐がらせたり、泣かせたりしたらどうしたものかと」
フィーア?その聞きなれない響きの名前……確か。
「だから言ったろう?ぼくの計算に狂いはないよ」
もうひとりが口を開いた。とおさんの向かいに座っていたのは、まるでこの世のものではないようなきれいな男性だった。青みを帯びたプラチナブロンドの髪はもみあげが少し長めで、後ろは襟までに切り揃えている。艶めかしい目じりに空色の瞳、肌は透き通るように白く薄く笑みを浮かべている。んっと……エル兄さんに少し似ている?
「だぁれ?」
「挨拶くらいしたら?父さん」
と、エル兄さんが告げる。
とおさん……!?この超絶美人が!?エル兄さんとほとんど歳変わらないように見える!むしろ兄と言われたほうがしっくりくるんだが。そういえば司祭様もそんな感じだったけど、クォーツ公爵家の血筋か何かか?そういえば血筋と言えば……ヴェイセル、とおさんのスキル知ってなかったか?
あいつの真眼はロリショタ限定……まさか、とおさんも!?
「クロ?」
「いや、その」
とおさんが俺を見つめてくる。
「そういえば、君は昔っからかわいい顔してるよね。ヨシュア」
ちょっ!クォーツ公爵、何言い出してんのぉっ!?
「まぁ、それはさておき」
さておくなぁぁぁっ!とおさん、微妙な顔してんじゃん!責任取ってよ!何このひと……ついてゆけない。
ぜーぜーぜー……。
「クロムウェル殿下、フィーア・フォン・クォーツ公爵と申します。以後お見知りおきを」
「は、はぃ」
微笑みが美しすぎるっ!突っ込みを入れさせないかのごときこの眩しい微笑み!!くっ!
「と、とおさん」
ああ、とおさんの優し気な微笑みに癒される。
心が洗われるようだ。とおさんが抱きしめてなでなでしてくれる。ここにはとおさんとエル兄さんと俺だけ。そう、クォーツ公爵は幻!
「ぼくは、幻じゃないよ。本物のクォーツ公爵だよ、殿下」
何で!?このひと他人の心の声がわかるのか!?
「残念ながら、他人の心の声まではわからないんだけどね」
紅茶カップを片手に微笑みかけるクォーツ公爵。ほんとかよ。
「あ、あの……とおさんとはどういう……?」
き、聞いてしまったー!!直球!!直球すぎたか俺!!
「腐れ縁だよ」
とおさんが答える。
「大親友だよ」
クォーツ公爵のは嘘くさい。
「クォーツ公爵はどおして……」
いや、本人に直接聞くことでもないかも……とおさんの前だし。
「い、いえ……」
「王配にならなかった理由かい?」
……!!何でわかったの!?
「王配になったら毎日公務、後宮暮らし、退屈すぎるじゃないか」
「はぁ……」
「それにコーラルディーナと結婚したら、他の子と結婚できない」
はぁ!?いきなり何ぶっちゃけるんだこのひと!!因みにコーラルディーナは俺のかあさん……つまり女王陛下のことである。まさかこのひと……女好き、遊び人、ダメな大人!?
「ぼくは別に女好きとか遊び人ではないけどね。毎日あちこち行ったり来たり。お仕事で引っ張りだこだから。領地は弟を代官にして押し付けて、王都の屋敷は長男に公爵代理を押し付けなくては手が回らないほど多忙なんだ」
いやいやいや、面倒ごと弟と息子に押し付けているだけでは!?
「あとお母さんがいっぱいいます」
え、エル兄さんがまた衝撃発言を。いや、この世界一夫多妻制だけど!かあさんは女王だから、王様時代の慣習王妃は5人まで(立場・国家予算上の問題らしい)に習って夫5人いるけど!貴族は制限ないけど……奥さん、何人いるんだろう。き、聞いてみたいけど……。
「ぼくはね、愛する女性はすべて正妻だと思っているんだ」
……は、はぁ。通常は正妻と側室にわけられるのだが。何言ってんだ。このひと。
「クロ、フィーアの話を真面目に聞いてるとダメな大人になるからやめなさい?」
どこか黒い笑みを浮かべているとおさん。はい。真面目に聞くのやめます。
「さて、そろそろ行かないと」
クォーツ公爵は腰を上げる。
「もう行くの?フィーア」
「ぼくは多忙だからね。あ、そうだクロムウェル殿下」
「はい?」
「ロリショタって……」
いきなり何の話する気だ今度は!俺はロ、ロリショタの何を語られるんだ!?
「あれはこの世界の言葉ではないよ。地球の言葉だ。じゃぁね」
きょとん。
ひらひらと手を振り、優雅に立ち去っていくクォーツ公爵。一瞬、それが何の話か分からなかった。……え、地球の言葉?
「地球って、何?」
エル兄さんが首をかしげていた。
「それって……」
ヴェイセルが地球の言葉を知っているってこと?でもそれならエル兄さんも……。
「ねぇ、エル兄さん。ロリショタって誰から聞いたの?」
「ん?ヴェルだよ。あの子、いつも突拍子もないこと言いだすから。ほんと父さんそっくりでしょ?」
それはあなたもです。……ってことよりもその言葉を知っているのなら俺がオーダーした地球の料理、食べ物もひとつ残らず知っていて、調理、調達してきた。それってつまり……?
「ねぇ、エルくん。ロリショタってなぁに?」
「ぎくぅっ」
とおさんの黒い笑顔に、エル兄さんの笑顔が歪む。
そんな微妙な空気の中……。
「たっだいまぁ~俺の愛しのクロ~」
カカオを携えて、戻ってきたヴェイセルが黒い笑顔のとおさんに迎えられ、笑顔が凍り付いた。
小さな悲鳴が聞こえたのは気のせいだろう。気のせいだよね?
さてひと眠りしたら、さっそくお菓子作りだ。
――――side
「それにしても、自分は隠れ家に隠れて魔眼で他人に乗り移ってエストレラに入り込むとはねぇ。どうでしたか?あれの末路は」
跪いた暗鬼は報告を始める。
「はい。奴の隠れ家……ロザリア城に放った手勢が確認いたしました」
「それで?」
「見事に魔眼は破壊され、まともに受け答えもできない状況です」
「あの厄介な絶大な魔力はどうしました?フィーアの10分の一もないですが、仮にも前ロザリア帝国筆頭魔法士長ですからね」
「魔眼に食われたかと」
「ふふふ、そうですか。これでロザリアに嫌がらせできましたよねぇ。あの時あの女がクロに放った言葉は許せませんし、彼女を解任したと嘯きウラで飼っていた愚行も許せません。徹底的にロザリアのスパイを掃討しなさい」
「はっ」
その合図とともに暗鬼の背後の数人の影が一斉に散っていく。残りは暗鬼とその男。
「あ。ところで、剣聖のことですが……ロリショタコンのこと黙っていたのですか?暗鬼」
いつもならぴくりとも動かない暗鬼の表情が歪む。
「その、ええと……」
「別にかまいませんよ。別途お仕置きしましたからね~」
暗鬼の前で、男は周囲一帯が一瞬で凍り付くような笑みを浮かべる。
「……」
珍しく暗鬼が顔をそらす。
「やはりフィーアの子はフィーアの子。扱い方もお手のものなんですよ?」
「お、お手柔らかにお願いします」
「暗鬼にはしませんよ?暗鬼はいい子ですからね」
「……はっ」
「では私は最後に後始末してきますので。指揮は任せました」
「お任せください。長官」
長官と呼ばれた男はにこにこと笑みを浮かべ闇に消えていく。
※※※
――――クロ殿下視点
お菓子が焼きあがるまでの間、俺はヴェイセルとふたりになった。紅消にそうお願いしたら、射貫くような視線をヴェイセルに送っていたが……。
「あの、話さなきゃいけないことがあって」
「なぁに?ふたりっきりでお話だなんて、お兄さんムラムラしちゃう」
ぐはっっ!!!やめろ、何だムラムラって。そういう話じゃないから!!
「俺、転生者なんだ。地球という星で、日本という国で育った記憶がある」
「……」
恐らく、ヴェイセルもまた……転生者。
「うん、知ってる」
「……」
「……」
「はぁぁぁぁっっ!!??」
何だそれ!何で知ってんだ!今振り絞った俺の勇気とメンタルをかえせやあぁぁぁぁっっ!!!
ケロっと言いやがってぇぇぇっっ!!!
「その、どうして分かった」
「ステータスに書いてあるからね。転生者って」
「……」
ステータス!ステータスってそんなこと載ってんの!?
「あ、でも12歳で見られる公式ステータスには反映されないから。これは真眼限定!」
そういやそんな便利能力を持ってたか。
「俺は……その、前世で剣聖ヴェイセルと出会ったんだ。お前と同じ姿……ヴァーチャルゲームオンラインで……ヴェイセルは、AIだったけど」
「えーあい?」
AI知らない?ヴェイセルは転生者じゃなかったのか?
「いや、俺、本人だけど」
「いやいや、お前は本人だけど、俺の前世ではゲームのAI!システムが用意したキャラクターだったんだよ、架空人物!」
「いやいやいや、俺ほんとに本人だよ?剣聖ヴェイセルは俺の作ったアバターだから」
「はあぁぁぁぁっっ!!?何、どういうこと!?」
ヴェイセルはAIじゃなくて人間が操作しているアバターだったってこと!?
「……クロ、クロたんが生まれたのは、西暦何年?」
「え、20××年生まれ」
だけど、お前、今、俺のこと何て呼んだ?そういえば以前にも変なもの付けてなかったか。(怒)
「俺が産まれたのは半世紀前だよ」
「半……世紀?」
「ふふ。あの頃はいろいろゲーム上で伝説残してたりしたからねぇ。いつの間にか運営から剣聖の二つ名とかもらってたし」
「……」
剣聖ヴェイセルが実在するプレイヤーのアバターだった。
「運営が、残したかったのかもねぇ。ねぇ、クロが見てた剣聖ヴェイセルはどんなんだった?」
「……たから」
「ん?」
「会えたから。……本物に。だから……」
寂しかった。地球での俺は独りきりで。ずっと誰かにそばにいてほしいと願っていた。だからヴァーチャルゲームの中に逃げて、例えAIでもそばにいてくれて嬉しかった。だけど本当にはいないのだとわかってもいて……空虚だったんだ。
「今度はほんとに冒険がしたい。本物のヴェイセルと。俺に一生忠誠を誓ってくれるんだろ?」
「うん、もちろんだよ」
ヴェイセルがにこりと微笑む。ほんと……お前はこう言うところでだけ、ちゃんと俺の騎士なんだから。
「それじゃ……次はクォーツ祭壇に行くぞ!」
「はーい!」
「紅消。紅消も来るよね?」
ドアの向こうに待機していた紅消を呼ぶ。
「はい、クロ殿下」
「うん」
「ふたり旅じゃないの?」
「私の目の黒いうちは許さん!!!」
「ええぇぇぇーっっ」
そして俺たち3人はクォーツへの門をくぐった。




