【96】クロ殿下と獣王のご落胤
「病に臥せっている私の元に、懐かしい我が子が会いに来てくれてな。第1妃は反対したが、次いつ会えるかもわからぬ身。私が無理やり通したのだ」
あれ……我が子?獣王の子どもはメローナとクロウ殿下だけでは……?ふと獣王様がリアンさんの方を向いているのに気が付く。
「リアンは私がかつて第1妃として迎えた妻との子だ。しかし混じり毛を持って生まれたリアンを理由に、今の第1妃の実家の大貴族から圧力がかかってな。私に迷惑をかけたくないと、人知れず我が妻は去って行ってしまった……」
獣王様が悲しそうだ。しかし再び顔を上げる。
「その息子が私が病床に臥したと聞き、会いに来たくれたのだ。そして素晴らしい薬師を連れてきてくれた」
薬師……?
「私とイルハンはエル殿下の供として同行しました。表向きはエル殿下の訪問。しかし病床に臥した獣王陛下に会うことは難しい。それで獣王様のご落胤である私が秘密裏に会いにきたということにいたしました。エルヴィス殿下には他にご弟妹が同行されました」
それってもしかして……。
「そのお一人が薬師のアリス殿でした。彼女は私付きの侍女として付き添った」
やっぱり……アリス!
「まだ幼さの残る少女だったが、彼女は私の病は病ではなく呪いだと言い当て、呪具の場所を明らかにしその犯人を言い当てたのだ」
何と!アリスって、名探偵?それとも他に何かスキルを持っているとか……?
「原因を絶ち、首謀者を捕らえたところ私の病状は一気に回復した。彼女には感謝してもしきれない」
「アリスは今どこに!?無事なんですよね……?」
「あぁ、今はヴェイセル殿たちと共に来た近衛騎士隊副隊長殿ともう一人の精鋭殿と共におる」
それってたんたんと紅消!?そういえばこちらに来ていないと思ったら。
「ま、兄上殿たちも一緒にいるはずですので。危険はないでしょう」
とリアンさん。
「ウチの弟2人が護衛についてるからね~」
笑顔で語るエル兄さん。うおぉ……クォーツ公爵一族、ぬかりねぇ。多分ヴィルさんの言ってた猫族のタシさんと闇の精霊士のお兄さんだろう。
「そういえば俺、牢から出されてすぐ獣王様たちとここに来たからまだアリスに会ったことないなぁ」
「え、そうだったっけヴェイセル」
そういえばアリスと一緒の時にヴェイセルはいつもいなかったかも。
「リアン……獣王国に戻り暮らす気はないか?この国もだいぶましになった。アスラン殿下の優秀な補佐として付き従うお主なら、この国をよい方向に導いてくれるのではないか……?」
獣王が真剣なまなざしでリアンさんを見据える。
「……ここで白豹族の血を受け継いだ私がこの国に戻れば、またいらぬ王位争いを生むでしょう。クロウ殿下や私が望もうと望むまいと。白色絶対主義の連中が混ざりものでも白豹族の血が現れている方がましだといい持ち上げだしたらキリがありません。それに私はアスラン殿下に忠誠を誓ったのです。この国に戻る気はありません」
「……そうか」
獣王は寂しそうに言う。
「しかしアスラン殿下がこの国を訪問するときは私も付き従いましょう。その時はゆっくりお話ができると嬉しいです」
「……!そうか……リアン……約束だ!」
「えぇ……獣王陛下」
リアンさんは結局獣王様を父と呼ぶこともなく、クロウ殿下に軽く頭を下げ、去って行ってしまった。
「あの、俺……」
「……あぁ。後は大人の話だからな。行っておいで」
アスラン兄さんが背中を押してくれる。
「エル、お前はこっちな」
「……えー」
エル兄さんは大人の話に加わるらしい。アスラン兄さんが逃がさぬようがっちり捕まえていた。
そして俺は廊下の先にいるリアンさんを捕まえた。
「リアンさん!」
「クロ殿下……」
「あの……」
「ひょっとして、気にされているのですか?」
それは……だって実の父子で、クロウ殿下とは異母兄弟で……。
「陛下はきっと私の意志を試されたのですよ。私はご落胤とはいえ王家の血を引き、この国では継承位を破棄する手続きを踏んでいませんから。クロウ殿下の下、民も家臣も心を一つにしています。作戦とはいえ私は獣王陛下のご落胤としてこの国を訪れました。私にこの国の王位を引き継ぐ意思があれば無駄な混乱を生みますので」
確かにそうだけど……何か、悲しいなぁ……。
「ま、引き継ぐも何も……私の母は病弱ですでに他界しています。その頃まだ幼かった私は他家の養子に入り、母の姓も捨て獣王国の戸籍も捨てています。この国の王族とは何も関係がない、白豹族でもないただの豹族です」
「リアンさん……」
「ゆきひょうなの!」
ん……?たまがいつの間にかリアンさんの足元にいたのだ。
「えっと……この子は?」
目を丸くするリアンさんに対し……。
「リアンさん……この子は……リアンさんのご落胤です。真面目な顔して……んもうっ」
おいおい、何てこと言い出すんだヴィルさん!?
「リアンったら隅におけなぁいっ!」
イルハンさんまで悪ノリしないで!
「……精霊様ですか?」
しかしリアンさんは2人の悪ノリを気にもせず告げる。
「たまなの」
「たまさまですね」
「いっしょにゆきひょうなの!」
「ゆきひょう……?」
リアンさんが驚いたように反芻する。
「リアンさん!エストレラ豹族の、新しい種族名にしましょう!」
とヴィルさん。
「ゆきひょうのなかまふえるの!」
「何を言って……」
リアンさんの溜め息を尻目に、ヴィルさん、イルハンさん、たまの3人は盛り上がり始める。
「……クロ殿下」
それを遠目に眺めながら、ふとリアンさんが口を開く。
「はい?」
「昔、クロ殿下がアスラン殿下のしっぽに触っているところを咎めたことがありましたね」
「あぁ……うん」
そんなこともあったな。
「申し訳ありませんでした。いつか謝罪したいと思っておりました」
「え……!?何で謝るの!?それにリアンさんが教えてくれなかったら、俺、だれかれ構わずふわもふりまくってたかもしれないし!むしろ教えてくれてありがとう!」
アスラン兄さんのふわもふは我慢してたけど、これからはうーんとふわもふれるし!
「クロ殿下……お優しいのですね」
「そ……そう?」
その日俺は滅多に見られない仏頂面リアンさんの微笑みを見ることができた。
「りあんー」
「はい、たまさま」
「だっこなの!にゃっ!」
リアンさんに抱っこをせがむたまがかわいい。
「あのね、リアンさん。たま、エストレラに連れて帰っちゃだめ?」
「たま、一緒にいくの!」
「え……!?精霊が住処を変えるというのは……ちょっと。国の勢力も変わってしまいますし……」
「よいぞ。たまもやっと行きたいところを見つけたのじゃ。それをはばみたまをなかせるのなら、我がゆるさんのじゃ」
エレンがしっぽをはふはふしながら俺に抱き着いて来た。
「雪の精霊様とのお別れは寂しいけれど……」
「でも、ファトマさん。ほかならぬ雷の精霊の意思だからね」
クロウ殿下まで……?
「はい。雪の精霊をどうぞよろしくお願いします」
「もちろんです!ね、リアンさん!」
「……まぁ、精霊の意思は大切ですし」
そう告げたリアンさん、ちょっと照れてる……?
※※※
――――雷の精霊エレンにお墨付きをもらったこともあり、ルタ獣王国から帰国した俺たちはユキメ祭壇を訪れていた。
「……と言うわけで、たまもここに住んでいいかな?」
ユキメ祭壇はフブキさまの助祭壇がある。因みにクォーツ祭壇にあるのが本祭壇。
俺はエル兄さん、ヴェイセル、リアンさんとたまとユキメ祭壇を訪れ、フブキさまにお伺いを立てていた。
たまは緊張しているのか、リアンさんに抱っこされながらきゅっと抱き着いている。か、かっわいい……!!!
「いいんじゃない?もっふもふだし……もふっていい?」
「うん……なの!」
フブキさまは威厳はあるんだけど、やっぱり中身はエル兄さん似だった。その後たま用にユキメ祭壇に雪の精霊用の教壇を用意してもらった。たまがフブキさまと一緒の部屋がいいと甘え、フブキさまも別にいいよーとなったので、同じ部屋を使っている。
当のユキメ領の人々は大喜び。ユキメダンジョンからも、冒険者たちがたまを一目見たいと連日やってくるらしい。
たまはだいたいリアンさんがデスクワークの際に書斎でお膝の上に座りまったりしているので、城の執務室やクリスタの執務室でも見かけることができる。というか……いつも一緒にいない?まぁ、たまかわいいし。たまもリアンさんが気に入ったみたいだからいいけど。
何より癒される!!!
因みにヴィルさんが冗談で言ったと思っていた雪豹族だが、正式にエストレラで種族名として登録されていた。
「アスラン兄さん、いいの?」
「まぁ、精霊様がそう望んでるし、現地民もそれで納得……むしろウェルカムだからな。精霊様にエストレラにいついてもらうためにも、しっかりサービスしないとな!」
精霊ファースト。精霊から様々な恩恵を受けるこの世界では精霊ファーストは大事なのだ。




