【95】クロ殿下と背景の戦い
――――安全のためたまをファトマさんたちに預け、俺はアスラン兄さんたちやディアーナさんを筆頭に武装した狐耳族の人々に続き決戦場へ向かう。
というかディアーナさん。深窓のご令嬢かと思っていたのに武装もめちゃくちゃ様になってるんだけど。
――――森の開けたところで両軍がにらみ合っていた。そして左右の白銀の髪を奈良時代のひとみたいにひょうたん型に結い長い後ろ髪を風になびかせている白豹族の美少女がいた。
年齢はエメラ姉さんと同じくらいだろうか。……エメラ姉さんのほうが美人だけど。
しかしその佇まいや白いバラのアクセントのついた鎧や豪勢な装飾品からして、あれがメローナ第1王女殿下か?
そして向かいに佇む黒い毛並みの狐耳族の青年がクロウ殿下なのだろう。
全体的に黒でまとめた鎧装備がシックでカッコいい。
でもクロウ殿下含め、クロウ殿下側がだいぶ疲弊しているように見える。急ぎディアーナさんやディアーナさんが率いてきた狐耳族たちが加勢に入る。
「いい加減降参しろ!王族の血を引いていることに免じて堂々と市井の前で処刑してやろうというのに!往生際が悪い!」
おいおいおいおい……!何恐いことを言い出すんだこの王女殿下は!やっぱり同じ王女ならエメラ姉さんがいいっ!この王女殿下恐えぇっ!!
「雷の精霊を封じられている今、お前に打つ手はない!」
そんなやり取りを見ていると、ニマに声をかけられた。
「クロ、召喚を」
「うん、ニマ」
危ない、俺たちの本題はこっちだった。
「クロムウェル・リィン・エストレラが命じる。
傲魔・スイラン。我が召喚に応えよ!」
翡翠色の光が生じ、魔法陣からスイランが顕現する。
「お呼びいただき光栄の極み。クロ殿下。お加減は?」
「大丈夫。この間はありがとう」
「いいえ、こちらこそお役に立ててなにより。今回はいかように?」
「雷撃を……雷の精霊を目覚めさせるほどの雷撃を呼んでくれ」
「……お身体にご負担がかかるかと……」
「大丈夫」
「それでは……クロ殿下の御身を第1に考え最大限の雷撃を放とう」
「……ありがとう、スイラン」
「では参ろう」
スイランが4本脚で地を蹴りその手を天に掲げる。
「リョクタ!ニマ!」
「あぁ!任せろ!対象を破壊!」
「ヒート!」
リョクタがあの力を起動し、ニマが炎魔法を地にそそぐ。ヒートは初級魔法だが、レベルの上がったニマが魔力を全力で込めるのならばきっと相当な魔力が注がれるだろう。
「来い!黒雷破!」
スイランの叫びと共に翡翠色の嵐が巻き起こり、天から黒いまがまがしい雷が轟音をたて落とされる。
どごおおおぉぉぉぉぉぉぉんっっ!!!
向こうで両陣営が驚愕に目を見開いている。
「まぁ、とっても大きな雷が落ちましたね~!うふふ~っ!」
あぁ……ディアーナさんのめっちゃわざとらしい大袈裟リアションのよく透る声が遠くに聞こえる……。
しかし……。う……っ!衝撃が……!
ぽふんっ
あ……俺の身体をアスラン兄さんが支えてくれてる。雷の精霊……答えて……頼む。やっぱり……ダメなのか……?
「炎槍弾!」
「雷竜召喚!」
その時聞き覚えのある2つの声が響く。俺は鉛のように重い身体をかろうじて動かし、その声の方向を見る。そこにいたのは見知った赤髪の剣聖と氷の王子だった。地面にありったけの炎の槍を打ち込みまくる災害級SS級冒険者ヴェイセル。そして東洋風の電気を纏った細長い竜を召喚する氷の竜王子エル兄さん。エル兄さんの指示で雷竜が地面に雷を落としていく。雷魔法は使えないけれど召喚獣の雷は使える。あの竜も理の外にあるのか?
そしてその中にいつの間にかシュアンさんも混ざり雷玉を地面に打ち付けていた。雷玉とは投げると電撃を放つ武器である。
「ん……俺が雷玉……買いに行ってる間に戦局、すごい……変わってた……」
(……しょぼーん)
「えっ!いないと思ってたら買いに行ってたの!?……なしてっ!!?」
鉛のように重い身体なのにツッコミだけは安定して口からこぼれるようだ、俺。SS級冒険者のシュアンさんが一緒ならクロウ殿下たちが劣勢にはならないはずだし……?でも何故雷玉を買いに……。
「……冒険者……勘!」
いやいやいや、マジで!?マジなの!?マジで冒険者の勘で雷玉買いに行ってたの!!?結果的に雷の精霊を目覚めさせるいち勢力になったんだからいいんだろうけど……明らかに雷玉大量すぎないっ!!?シュアンさんが電撃に隠れ始めてんだけど大丈夫!?
「ふぅん……雷の術はそんな感じなのか。よし……黒雷破っ!!!」
そしてエル兄さんはスイランと同じ技名を放つ。……え?それって鬼道の術では……!?
どっごおおぉぉぉぉぉぉぉっっんっ!!!
「ほう、見ただけで真似るとはすごいな。氷の王子よ」
スイランが感心している。
「まぁねえ。これでもお兄ちゃんだし、頑張らないと」
クスクスとエル兄さんが微笑む。
そしてその時だった。
――――我を目覚めさせるのは誰かや?
誰かの声がする。
もしかして雷の精霊か?大地が電撃を帯びていき、その光の中から狐耳もっふもふしっぽの精霊が現れる。背丈はたまより少し大きいくらいか?白銀の髪に、群青色の瞳。かわいらしい整った顔をして……もふもふ厚手の着物に袴をはいたかわいいちびっ子だ。因みにしっぽは……6本ある!
「ふっかつしたのぢゃ」
「え……っ、雷の精霊?……ぐはっ!!!」
ヴェイセル、特にダメージはないはずなのに頽れた。頽れたぞ、オイ。
「が……眼福……っ!」
鼻血出してやがるし。でもさすがにエル兄さんにぺしゃりとはたかれていた。きょとんとしていた雷の精霊だが、不意に俺の方を振り向く。
「……」
えっと……なんすか?
「……もふってくれるとゆったのじゃ」
へ?言ったっけ。ふわもふかな~的なことは言ったけど……?
「もふってくれないのかや?」
あ、いや……もふりたいけども。でも身体が重い……けど……しっぽふっわふわだよ!?ふっわふわ6連打だよ!?
「心配ない、雷の精霊よ。今は少し疲れているがもふもふしてやってくれ。回復するぞ」
ちょ、アスラン兄さんったら。そして雷の精霊も俺にふっわもふしっぽを押し当ててくる。ん、あれ、リョクタも?
「クロ殿下、俺も疲れたっす。ふわもふして欲しいっす」
「クロ殿下、ん」
さらにシュアンさんまで!?しかもアスラン兄さんまで!?
ザ・ベスト・オブ・ヒーリング・ふわもふ……っ!!!
し、幸せ……。
「アスラン殿下、クロ殿下大丈夫ですか?」
遠くからヴィルさんの声が聞こえる……大丈夫。俺今すっごい幸せ。すべてのパワーが回復されている気がする。あぁ……何となく前方を見てみたら両陣営がこちらをみて驚愕していた。まぁ、そうだよな。にらみ合っている最中皆で後方で魔法ぶちまくってたんだから。
「クロ殿下、すごい。魔力体力がものすごい勢いで回復してる」
スイランまでやってくる。
「あ、ニマ~!見て見て。エル兄も俺らの兄弟。母方が女王なんだけど」
「よろしくね~、ニマ!」
「え……はぁ……」
あっちはあっちでしれっと生き別れの兄弟の再会やってるし!
「アスラン殿下、ただいま戻りました」
「交渉成功!皆無事保釈になったよ~」
「おぉ~!イルハンにリアン!お帰り~」
どうやら別行動の2人も戻ってきたようだ。イルハンさんは騎士なので帯剣はしているが、交渉官役だったからか鎧などはつけていない。ヴィルさんやイオさんたちも喜んでいる。
――――そして、向こう側。
「さて……私の雷魔法も復活したようだ」
クロウ殿下が告げる。
「な、何……!?」
驚愕するメローナ。
「さんざん好き勝手してくれた報い……受けてもらうぞ」
その瞬間クロウ殿下が手を天に向け、一気に振り下ろすと同時に盛大な雷撃が落ちる。
「クロウめ。盛大にやりおったの。まぁあの小娘のせいでふわもふを我慢せざるを得なかったのはムカつくから盛大にお仕置きしてやってよいが」
ちょおおおぉぉぉっっ!?雷の精霊くん。キュートなお顔して恐いことを……というかふわもふ待ってたの……?
どおおぉぉぉぉぉおっっん!!!
「ぎゃああぁぁぁぁっぁぁっっ!!!???」
第1王女のギャグマンガのような悲鳴が聞こえた……。
「両陣営、そこまで!」
森に厳かな声が響く。そこには白い毛並みの白豹族の男性が立っていた。逞しい顔つきに鼻の下にずっしりとしたヒゲを生やしたダンディーと言ったところか。服の上からも鍛え抜かれた肉体をしているのがわかる。そして何よりものすごい威厳を感じた。
「父上、呪いで臥せっているはずでは?」
メローナ王女が父上と呼ぶのならこの人が獣王陛下だ。あれ今、呪いって言わなかった?
「私は病で臥せっていたのだが……お前、何故呪いだと知っておる」
「そ、それは……っ!いち早く知らせを受けて……」
「このこと極秘に処理した。お前の耳に入るのは不可能だ。何故知っていた。応えよ、メローナ!」
「ひ……っ!」
「すでにお前の母は捕らえておる。呪いを仕込んだ主犯格としてな」
「そんな、母上が口を割ったとでも!?……あ、いえ……」
「証拠は挙がっている。そして今ここで私はお前の自白を聞いた」
「そ、そんな!私は何も……!」
「もう終わりだ。メローナ。お前に与した者たちも謀反罪で全員捕らえ、投獄する。追って沙汰を待つがよい」
「そんな、私は……っ!私がいなくては王家の跡取りが!白豹族の王族は我が国の伝統なのです!」
「そんなものは色や種族による差別を撤廃した時に捨て去った。そんなものは関係ない。それよりも、色も種族も越え民はクロウを支持している。それが民の反乱にも現れている。この国の王太子はクロウ。獣王かわ後継者として認めるのはこのクロウのみ。メローナ。お前は今をもって王族ではなくなった。者ども!謀反人どもを捕らえよ!」
『は……っ!』
獣王の後ろに控えていた騎士やクロウ殿下の騎士たちがメローナご一行を捕らえていく。何だかすごい雷撃の王子が復活したおかげで皆歯向かう気も起きないらしい。雷撃の王子クロウ殿下は雷の精霊の加護を得ているのか。
「うむ、我があたえたのじゃ」
「なんかすごいなぁ」
あの黒でシックに統一した鎧装備とかカッコいい。
「剣聖お兄さまと氷の王子もすごいぞ?」
「まぁ……確かに……」
あの追撃魔法ラッシュはすごかった。エル兄さんが雷竜を召喚解除したのと合わせ、俺もスイランにお礼とまた会いに行くと約束し召喚を解除した。森の掃討を終了させ、俺たちは一旦狐耳族の里へと戻った。里に戻るとたまが俺に引っ付いて来た。かわいい。
「たまというのか。なまえをもらってよいのう」
「雷の精霊は、何て名前なの?」
「我は雷の精霊じゃ。雷の精霊という呼び名しかないのじゃ」
「そうなのか。あ、加護を授けたクロウ殿下にもらうのはどう……?」
「うむ、よい考えじゃ!行ってくる!」
ぱたぱたともっふもっふしっぽを揺らしながら雷の精霊はクロウ殿下に引っ付く。あ、今……獣王様と真剣な話してた……?しかし雷の精霊の呑気な声が響く。
「なまえー、なまえをしょもうするのじゃー」
まずいことしちゃったかな……?と思っていたらその様子に獣王様もクロウ殿下も苦笑し、和やかなムードになっていた。やっぱりふわもふは最強だ。
「くろ―!なまえもらったぞ!えれん!」
「よかったねー、エレン」
エレンは嬉しそうに手を振っている。




