【93】クロ殿下とふわもふ精霊
――――翌朝
ふわふわ……もふもふ。これは初めてのふわもふだ。ゆっくりと目を開ければそこに白と黒のふわもふしっぽがあった。これって……ユキヒョウのしっぽ
確かこの世界には雪豹族はいないはずでは……?まさか野生のユキヒョウじゃあるまいし。でも……。
「わぁ……幸せ……」
そういえばアスラン兄さんの部下のリアンさんもこういうユキヒョウしっぽだったなぁ。その人は豹族だったけど。
「むにゃ……」
ん……?てことはそれともアスラン兄さんの部下のリアンさんのしっぽ……?いやいやそんなバカな。
「……にゃっ!?」
「……にゃ?」
……ユキヒョウの鳴き声って『にゃっ』だったっけ。そこにはちったいリアンさんよりも愛らしいちびユキヒョウっ子がいた。髪はリアンさんに似た白地に黒いメッシュ。豹耳の裏側は黒色で目は瞳孔が縦長で銀色をしている。肌は雪のように白く、マフラー、半纏の下には和服と袴を穿いている。手と足はもふもふ肉球ぷにぷにのユキヒョウの手足だった。そして白と黒の縞々で、もっふり太めのユキヒョウしっぽが生えている。
「……こんにちわ」
とりあえずご挨拶。
「にゃっ!こんにちわなの」
……あ、いや今、朝だった。でも合わせてくれるなんていい子だ。
「きみは……だぁれ?」
「……にゃぁなの?」
にゃぁって何だろう。ただかわいいのはわかった。
「俺はクロ。お名前は?」
「にゃぁにはないの。……にゃぁのおなまえなぁに?」
これはえっと俺がつける……的な?
「……たま」
「……」
安直すぎたか?にゃぁって鳴くから猫っぽくしてみたのだが、こっちの世界では猫の名前の王道ではなかった。
「にゃぁ、たまなの!」
ぱあぁぁぁっ!どうやらとっても気に入ったらしい。
「たま」
「たまなの!」
うわあぁぁぁぁっっ!かっわいいんだけど!猫カフェでにゃんこに癒されてる気分!
「……クロ?」
その時ニマが訝し気に覗いているのに気が付いた。
「その子は……?」
「たまだぞ」
「たまなの!」
「……近所の子?」
「いや……精霊だ。ユキヒョウの精霊!」
この子は精霊だ。なんだか最近そういうのがわかってきた……気がする。
「たま、ユキヒョウなの?」
「……違ったか?やっぱ、白豹なのか……?」
く……っ!せっかくユキヒョウ精霊に会えたのにユキヒョウじゃぁダメなのか!?
「ううん、たま、白豹じゃないの。だから、わからないの」
それを聞くと何だか複雑に思える。エストレラのユキメ領に多く暮らす豹族は本来であれば白豹族なのだが、リアンさんのように黒い毛が混じったり純白の毛並みではなかったり、ベージュ、灰色だったりして、ルタの白豹族からは同族だと思われていない。白豹族と名乗ることすら嫌煙される傾向にある。
「でもユキヒョウなの!」
おぉっ、ユキヒョウ!やっぱりユキヒョウだ!だってほんにんが言ってんだし!
「ところで、何の精霊なの?」
「……」
それを問うとたまは俯いて悲しそうな顔をする。知られたくないってことか……?
「嫌わない、なの?」
「もちろん!たまみたいなふわもふっ子、俺は大好きだから。その上ユキヒョウっ子なんて大大大好きだ」
「……だいだい……だいしゅきなの?」
うるうる目でもじもじと見上げてくるたま。わぁ、かわいんですけど。猫カフェで慣れてくれたにゃんこが俺を見上げてきてる気分っ!
「たまは……雪の精霊なの」
雪……?氷の精霊がいるくらいだからいそうな気はしたけど。雪の精霊がどうして嫌われることになるんだろう?
「雪は素晴らしいぞ。遊べるし、食料保存に使える。何より雪解け水は温泉には欠かせないからな」
「……雪、たくさん降ったら大変……じゃない、なの?」
「もちろん!雪は好きだぞ」
「俺も好きだよ。雪かきは大変だけど冬に雪が降らないと物足りなくって寂しいもん」
ニマは地球でも雪国っ子だったのかな。俺もエストレラ国民なんだから雪国っ子なんだけど。
「……たまも……クロ、だいしゅきなの」
ぐっはぁっ!恥じらいながら、もじもじしながらたまは俺にぴたっとくっつく。ゆ……ユキヒョウ、かわいすぎる。
その時だった。黒豹族のヴィルさんがたまをいきなり後ろから抱きかかえてぎゅーしだす。
「わぁ、ちっちゃいリアンさん!?かっわい~い!ふっわもふ!」
「にゃっ!?」
ああぁ、たまぁ~~っ!?でもヴィルさんもその魅力を分かってくれたようだ。ついでに黒豹族も本来は正式名称ではない。種族上は白豹族の黒化型である。でも黒狼族の血も引いている。多分。
「……まさか、ほんとにリアンさん!?」
後になってその可能性を考え、ヴィルさんの顔が青くなる。
「いえ、たまです」
「たまなの!」
「たまちゃん……?近所の白豹族の子?ルタにも混ざり子がいたのか」
混ざり子とは純白の白い毛並みとしっぽに黒や他の色が混ざっている白豹族の子どものことである。
「たま、ユキヒョウなの」
「ゆきひょう……?何?それ、初めて聞いた」
「ヴィルさん。ユキヒョウはたまみたいに白地に黒い模様があるかわいい猫……いや豹の仲間です!」
「なの!」
「まじで?俺、毛の生え際は白いんだぜ」
まじで!?ヴィルさん、生え際白いの!?
「おそろいだな!ちびっ子!」
「……仲間なの!」
「うん、あとねーリアンっていうたまの生き別れのアニキがいるんだー」
「たまのお兄ちゃんなの!」
え、まじで?そういう設定?
「何、リアンの弟か?似てんなー」
アスラン兄さんもやってきて、たまの頭をわしゃわしゃしている。アスラン兄さんもその設定ノるの?
「よし、兄弟の再会のためにさっそく準備にとりかかるか」
「にゃっ」
そういう設定なの?
『にゃっ!』
やっぱそういう設定なの!?
――――しかしその時だった。
「大変です!第1王女の軍勢が森に!」
その一報を受け里に激震が走った。




