【91】クロ殿下とふわもふ兄さん
もっふもふ。わぁ、リオのふわもふしっぽみたい。俺確皆とスイランとダンジョンを抜けたはず。ここはクォーツだろうか。ダンジョンの先がクォーツだったとか。でも何となく違う気がする。
しかし幸せな夢だなぁ……。
ふわもふ……ふわもふ……ふわ……もふ……っ。
んにゅぅ……。
あ……れ……?
……夢じゃ……ない?
俺の顔には茶色いふわもふが当たっていた。リオの銅色の毛並みとは違う、茶色いふわもふしっぽだ。まるでアスラン兄さんのふわもふしっぽみたい。
ん……?アスラン兄さん!?
はっとして顔を上げると、そこには茶色い狼耳の、勇敢で優しい兄の顔があった。
「アスラン……兄さん?」
「よう、クロ。目が覚めたな」
そこは恐らくどこかの森の中と思われる。俺はあったかい寝袋に包まれ、アスラン兄さんのふわもふしっぽを枕代わりに寝ていたらしい。
そういえば、服も変わっている……。確か半袖を着ていたはずなのに、今来ているのはフード付きの厚手の着物みたいなデザインのコートだ。地味目な明るいカーキ色で、着物の袷のついたコート。腰の横の部分で帯のようなリボンを結んである。
コートと同じ色のズボンも夏用の薄手の物ではなく、厚手のゆったりとしたデザインに変わっている。寝袋の外に用意してあったごつめの黒いブーツも冬用だ。アスラン兄さんが用意して、着替えさせてくれたんだろうか……。
しかもここ、エストレラじゃないよな……?少し肌寒さを覚える空気は今時期のエストレラと似ているが、何となくエストレラの空気とは違う気がした。服のテイストも違うし……。
地域にもよるが少なくともクォーツは、シンプルなデザインながら刺繍などをあしらったカラフルなものが多いのだ。
「クロ、目が覚めた?」
「何か食べれそうっすか?」
続いてニマにリョクタがやって来た。2人も南部連合王国での半袖、薄手のデザインの服から、俺と同じような地味目な色のコートとズボン、ブーツに変わっている。
「ん……うん。……あれ、ダンジョンは?」
「抜けたっすよ。クロ殿下の身体に負担がかかるっすから、スイランは先に召喚解除して帰ったっすけど。クロ殿下のこと心配してたっす」
スイラン……途中で気を失って悪いことしちゃったな。またユキメダンジョンへ、会いに行こう。
「ここは……?エストレラじゃない……よね?」
「ここはルタ獣王国だ」
と、アスラン兄さん。ルタ獣王国……?確かクリスタと山脈を隔ててるっていう隣国だ。
「どうしてそんなところに……」
「ダンジョンの出口がルタ獣王国につながっていたのです」
セナさんがお水を持ってきてくれた。セナさんも俺と同じデザインの装いだ。そしてその隣には……。
「ヴィルさん……?」
アスラン兄さんの騎士をしている黒い豹族のヴィルさんもいた。ヴィルさんも……そういえばアスラン兄さんも俺たちと同じようなデザインの装いながら、帯の代わりにベルトを締め帯剣している。
「そういえば、クロ。今は食糧調達に出てるが、イオも来ているぞ」
リオのお兄さんのイオさんも!?
「てことは、イルハンさんとリアンさんも?」
2人もアスラン兄さんの側近のはずだ。
「2人は別行動だが、いずれ合流できる」
アスラン兄さんが頭をぽむぽむしてくれる。嬉しくてつい、枕代わりにしていたアスラン兄さんのふわもふしっぽを抱きしめていた。
「あ……ごめん、俺、つい……」
「いいんだよ。クロがふわもふしてくれんならお兄ちゃん嬉しいぞ?」
そ、そうなの……?
「むしろここ数年はふわもふしてくれなくて、お兄ちゃん寂しい」
アスラン兄さん!?そんな弟がお兄ちゃんに甘えるみたいに……!!
「そうだぜ、クロ殿下。弟にふわもふされて嬉しくない茶狼族はいねぇから」
そう言って、どうやらしとめたらしき獣を担いで持って来たイオさん。イオさんもアスラン兄さんたちと同様に武装している。
「……イオさんも?」
「もちろん。ウチの弟たちもかわいいかんな~~。だけど俺は逆にもふる派だ」
な、なんですと!?まさかの同志!?
「イオはずぼらだからな。ふわもふ度が足りない」
「毛がぱっさぱさなんですよ。弟君たちがなかなかもふってくれないので、自分でもふることにしているんです」
うおぉ……アスラン兄さんからヴィルさんまで。確かに毛並みが……。
「な……っ!何てこと!こんなに痛みきったふわもふがこの世に……っ!よよよ……っ!!」
せ……セナさぁ~ん!!!セナさんがよろけたのですかさずリョクタが支える。セナさんはすすり泣きながらリョクタのしっぽをふわもふしている。
「だって、めんどくせぇんだもん」
い……イオさん……。魔法使えばあっという間なのに。茶狼族は魔法が苦手な種族だが(アスラン兄さんは得意だけど)、エストレラはふわもふをキープするための便利魔法グッズも豊富だ。
何でもそれらの類のグッズの多くはクォーツ発祥だとか。さすがクォーツ!素晴らしいぞクォーツ!あぁ、クォーツが恋しい……。
「そういえばどうしてアスラン兄さんたちがここへ?」
「エリック父さんの知らせを聞いてな。ちょくっとフブキさまに協力してもらって、天山山脈を越えてこちらに来たんだ」
へ……?通常越えるのがかなり難しいと言われてきたあの天山山脈を……?そういえば前にシズメさまが龍脈を渡ってきたときも手助けしてたし、フブキさまっていろいろとすごいな。さすが属性精霊。
「フブキさますごかったっすよね」
「こら、ヴィル。そりゃ、企業秘密だ」
「は~い」
ちょ……っ!どうやって!?そこすっごく気になるんだけど!
「あの、ヴェイセルたちの方は……?」
「そっちはエルが行っているから大丈夫だ」
エル兄さんまで来てるの……!?
「エストレラの竜人族はよそん土地じゃぁ、神聖化されるからな。ルタでの評判もいい。だからエルが赴いた。イルハンたちはその供にな」
そっかぁ……竜人族だもんな。えっとそれじゃぁ……。
「リアンさんも……?」
リアンさんは白豹族だがルタからしたら黒の混ざり毛があるため白豹族とは認められなかった。他のエストレラの白豹族と同じく豹族を名乗っているはずでは……?
「あいつは特別だからな。獣王陛下は今病床だが、リアンが一緒なら会える可能性がある。ま、これは秘密だぞ」
どうやらリアンさんにも何か秘密がある様子。
「アスラン、クロ殿下。飯できたぞ。まずは肉食え、肉」
「は……はい」
イオさんが串焼きにした肉をくれる。
「病み上がりにいきなり肉って、大丈夫ですか?」
と、ヴィルさん。まぁ、確かに……。
「木の実やフルーツもあるっすよ。ほら、フルーツ剥いたっす」
リョクタからフルーツを受け取り、串焼きをほおばる。あぁ……おいひい。アウトドアって何かわからないけど、普通に家で食べるのとは違うおいしさがあるよな。お肉とフルーツを少しずつ食べ、久々の空腹を満たした。
ダンジョンでは常に節約しながらのご飯だったからなぁ。久々のまともなアウトドア飯に舌鼓を打ち、一通り腹ごしらえをすます。
「クロ殿下、はい、お薬をどうぞ」
「ありがとう、ヴィルさん」
「それ、近くの街で調達してきたんすよ。エストレラ産ポーション。闇魔法の強い人が弱っているときは普通のポーションは害になるんで」
そうなんだ……知らなかった。因みにマジックバックには紅消がくれた変わり種ポーションは残っているのだが、普通のポーションはダンジョンでほとんど使ってしまって空っぽだった。
「よく手に入ったっすね」
「えぇ。実は前にクリスタ動乱の際に出会った薬師の子に偶然会いまして」
あの時の……?
「ほう、偶然だな。てことはエストレラ人か?」
「そうです。俺は覚えてなかったんすけど向こうは覚えてくれてて、向こうから声をかけてくれたんすよ」
「ま、俺ら目立つからな」
イオさんは尋常じゃない強さだしヴィルさんも珍しい黒い毛並みの豹族だからな。
「赤髪の羽耳族の女の子でした。なんでもお兄さんたちの用事について来ていたそうで」
赤髪の、羽耳族……?それってもしかして……。
「へぇ……今はルタも大変な時だが大丈夫か?」
「はい。闇の精霊士と猫族のお兄さんたちとご一緒で、アリスと呼ばれていましたね」
アリス!やっぱりアリスだ!俺、またアリスに助けられたんだ……!猫族のお兄さんは多分タシさんだと思うけど、闇の精霊士のお兄さんってヴィーノさんじゃないよね……?多分精霊士の資格も持ってるけど、司祭で魔人王だし。
「へぇ、アリスちゃんか。良かったな。クロ。いつか会ったら礼を言わないとな」
「かわいい子でしたよ」
「クロ殿下ったら、まるで運命の出会いまでのモノローグみたいですね!」
あ……いや、もう知ってるんだけど。知り合いだけど。……でも、また今度会えたら、お礼を言おう。俺はアリスに助けられてばっかりだな……。アリスからもらったという薬を飲むと、何だか身体の不調が改善した気がした。ひょっとしたらまたこの状況にマッチしたポーションだったのかもしれない。
「さてと……腹ごしらえもしたし、薬も飲んでクロが元気になったからな。早速移動するぞ」
「どこへ行くの?」
まさか、早速密出国か!?
「狐耳族の里だ」
きつねみみぞく……?コンコン鳴く狐さんの獣耳しっぽってこと……?
「だが、ひとつ確認したいんだが……セナ……と言ったな」
「えぇ」
アスラン兄さんがセナさんを見やる。
「あんた……狐耳族だろう?」
へ……?
「アスラン兄さん、セナさんは瑠璃色の狼種の雑種では……?」
「いえ……その……」
セナさんがもじもじしている……?
「ほら、セナさん。クロ殿下は大丈夫っすよ。俺が碧狼族でも変わらずふわもふしてくれんすから」
まぁ、何狼族でもふわもふに変わりはないが。
「その……実は……狐耳族です」
な……何ですと!?た、確かに……狐耳……に見えなくはない。しっぽもどちらかというと、狐しっぽと言われればそう見えなくもない。
それにしても……。
「……獣人族って、何で耳を入れるのかな?しっぽもあるのに」
「狼しっぽ族、猫しっぽ族って、言いにくいからじゃない……?」
た……確かにニマの言う通り、耳を入れた方が言いやすいな。
きつねみみぞく……7文字になるとちょっと言いにくい気はするんだが……。
つでにもう一問。
「因みにしっぽは皆1本なの?」
「雷の精霊なら複数本あるらしいですが、狐耳族は通常1本かと」
な……雷の精霊って複数本あるの!?というか狐耳しっぽなの!?是非……お会いしたい!!!
「そこなのか?クロ」
「複数本あると、何かあるんすか?」
「ふわもふ度が……上がる!……9本くらいあるかな……」
「クロ、9本あるのはちょっと」
ニマ、何でそんな?きっとすっごいふっわもふだよ?
「もちろん1本でもセナさんのふわもふ耳しっぽは大好きだよ!」
「クロ殿下!」
「わっ!!!」
セナさんが俺に抱きついて来る。
「大好きです!一生付いて行きますね!」
「う……うん……?あ、ありがと」
「相変わらずクロはモテるなぁ……」
アスラン兄さん?俺、女の子にモテたことすらないんだけど。
「お兄ちゃんちょっと寂しい」
いや、アスラン兄さん!?そんな寂しそうに見つめながらしっぽしゅんとさせないで!何かふわもふ待ってるリオみたいでかわいそうだから!!!しょうがないので、アスラン兄さんのしっぽをなでなでしてあげたら笑顔になった。
「……狐耳族にはな、ある伝承があるんだ」
すっかりご満悦になったらしいアスラン兄さんが急に表情を引き締める。
まさか……良くない伝承じゃぁないよな?
「その昔、瑠璃色の毛並みを持つ狐耳族は、彼らの王と言われ、崇められていたと……」
え……王族……?てことはセナさんは。
「私は、そのような身分の者ではありません。ただのしがない瑠璃色の毛並みの狐耳族です。他の種族にも珍しい色ではないでしょう……?」
俺はあんまりセナさんみたいな見事な群青色の毛並みは見たことが無いのだが。
「連合王国にも結構いるっすよ」
とリョクタ。
「エストレラは赤髪が多いからなぁ……」
とアスラン兄さん。他にも白系や黒系様々ではあるのだが。特に他の国ではあまり見かけない赤髪率が高いかも。ヴェイセルやアリス、ローや祭壇の魔人族アニキズとか。
「私はクロ殿下のお傍なら、どこへでもついて行きます」
「セナさん……」
「よい仲間ができたじゃないか。クロ」
「うん!」
アスラン兄さんの言葉に頷けば、ニマとリョクタがじーっと見つめるので2人もだよと言ってあげた。
「狐耳族の里はひっそりとした場所なんだが……
先に俺の部下が交渉に行っている」
「ウチの部隊は種族色豊かだかんな―」
「因みにウケのいい竜人族と、交渉役の人族でバディ組んでます」
ひ……人族!黒狼アニキの通訳したり、今度は交渉役買って出たり……。エリック父さんもそうだけど、そこらへんしたたかな種族に見えてきた。いや俺も人族だけど。そんなしたたかじゃないけど。そこは個人差ってことで。




