SP:スバル殿下と竜の里の竜人族
――――side:スバル
東北砦の一件が片付き、領地に戻ってあまりやりたくない執務にいそしんでいた俺の前にそのおっさんはやって来た。
「よう、ちび!今、ヴェイセル来てんだって?」
「ソーマさん。ヴェイセルさんならもう帰りましたけど」
「な……なにぃっ!?」
驚愕して項垂れているこのおっさんはソーマさん。竜の里の竜人族だ。エストレラの竜人族を見たことがあるが、彼らとはずいぶんと容姿が異なる。エストレラの竜人族はほっそりしておりスタイルがいいのだが、こちらの竜人族はガタイがいい。更には角も小さく短く、しっぽは細長い。エストレラの竜人族のしっぽはずっしりしており、身長と同じくらいの長さがある。こちらの竜人族は付け根から伸ばしても床には届かない。
またこちらの竜人族は翼も小さくエストレラの竜人族のように空を飛ぶことができない。けれども力が強く、魔法も得意なのでかなり優秀な種族ではあるんだが。
「せっかく竜の里でくつろいでるとこ無理してきたのに……」
このおっさん、実はSS級冒険者なのだが、クエストがない限りは竜の里でぐぅたら。もしくはどっかでモンスター相手に暴れているだけである。
しかし同じSS級冒険者とやり合うことも少なくない。たまには発散させたいらしいが周囲に甚大な被害が及ぶので、空間魔法使いのヴェイセルさんとくらいしか堪能できないらしい。
ヴェイセルさんは空間魔法でバトルフィールドを周囲から隔絶することができるから。
しかしヴェイセルさんがエストレラにいるときは容易には勝負を挑みに行けないらしい。
SS級冒険者は国に1人いるだけで頼りにもなるが脅威にもなるから。自国以外で活動しようとすると不便な部分も多いのだ。
シュアンさんは頻繁にエストレラのクォーツ地方に遊びに行っているらしいが、それは単にクォーツ公爵が気にしていないかららしい。
いやむしろSS級冒険者よりも強いかもしれないと言われているからである。SS級冒険者の1人や2人、どうとでもなるのだろう。さらにはあのヴェイセルさんの父親だ。
それならソーマさんも……と思うだろうが容易には行けない理由があるのだ。クォーツ地方含む西部辺境はエストレラの竜人族が多く住む土地。エストレラの竜人族と竜の里の竜人族はすこぶる仲が悪かった。
極夜祭のごく限られた期間ならまぁ大目に見てもらえるのだが、それ以外の時期だと十中八九絡まれるとか。それに乗っかって喧嘩でもしようもんなら大変なことになるし、外交問題にもなりかねない。
以前、エストレラの竜人族のエルヴィス殿下が来られた時は竜の里の竜人族を訪問し、おっさんとも仲良くやっていたのだが。
「ソーマさん、そういえばエストレラの竜人族と竜の里の竜人族ってどうして仲が悪いの?」
「なんだ、ちび。知らねぇのか?」
全く……相変わらずちびはやめろよおっさん。これでも以前より背はだいぶ伸びたのに。
「クォーツにほら、氷の精霊がいんだろ」
「あぁ……うん。クォーツ祭壇だよね?」
「そう。その精霊は昔南部にいて、度々吹雪や雪害を招くとして昔の人々が追いやったんだ。そして北方に流れ居着いたんだが……」
……てことは昔は南部連合王国にも雪が降ったのか?国内で雪が積もっているところとか降ったこととかを見たことがないけれど。
「その精霊によく似たエストレラの竜人族を南部の連中がよく思うはずもなく、また奴らが竜人族を名乗ることに里の竜人族が難癖付けて亜竜族呼ばわりしたんだよ」
「そっから確執が産まれたんだ……」
「まぁその呼称については、クォーツ人はあんま気にしてねぇけど……」
「え。そうなの?」
「でもなぁ、クォーツと同じ西部辺境のカンナギの竜人族に火ぃつけちまって、もう一触即発だな」
「確かカンナギ州も竜人族が多い土地でしたっけ」
しかも年末の傲魔タイトルマッチは、カンナギ州の一部のユキメ領で行われる。
「しかも決定的になったのは……エストレラの竜人族の方が竜に外見が近いとして神格化や神聖視されたことかな」
「それ自業自得なんじゃ……?氷の精霊を追いやったのは南部連合王国の人々なわけだし……」
「まぁ大昔の人々がやったことだし、今はそんなに確執も多くはねぇよ。ただなぁ……遺伝的に受け継がれた竜の血が騒ぐのよ」
「確執を理由にケンカがしたいだけでは?」
今は穏やかに逞しく暮らす竜の里の竜人族だがケンカっ早いものも多いらしい。
「はっはっは」
話濁しやがったこのおっさん。
「スバル、資料の追加を……」
タイミング悪く、おっさんと同じ竜の里の竜人族のクララが書斎に入ってきてしまった。
「……何してんの、おっさん」
「おっさんはねぇだろ。昔はソーマおじちゃんって言ってかわいく駆け寄ってきてくれたのによ」
「昔の話だ。またスバルにケンカを挑みに来たなら……」
領地が大変なことになる。
「ちげぇよ!ヴェイセル探しに来ただけだって!」
「ヴェイセル殿たちならもう帰ったけど。早く帰れ。竜の里に」
「ったく、つれねぇなぁ……昔はおむつも替えたことあんのに」
「ちょ……っ!変なこと言うのは禁止だっ!」
クールなクララが慌てふためいている。ソーマさんはクララの伯父さんだったりする。世界って狭い。
じゃれ合っている2人を尻目に、俺は続いて入ってきた碧狼族のカロクの腕をつかみ、北部砦にいる兄上に会いに転移した。
「あぁぁぁぁぁ――――――!!!スバル!?まさかまた逃げ……っ!」
「はっはっは!やられたなぁ~~、クララ!」
「ソーマさんのせいだから!手伝ってもらうから!」
「はっはっは!」
転移の間際、そんな賑やかな2人の声が聴こえた。




