【89】クロ殿下とダンジョンの先
――――side:リョクタ
通信機に映ったのはシュテルン公爵エリック様とクォーツ公爵であった。
『リョクタか。何やら増えてるな……』
シュテルン公爵が口を開く。恐らくそれはセナさんとニマのことだろう。
『あ、この子はウチの息子~』
と、いつものおどけた調子のクォーツ公爵。前にふらっとクリスタ祭壇に現れて、クリスタ領主兼司祭様のエリアス様とお茶してたのを見たことがある。
「俺です」
ニマが手を上げる。
『またクォーツ家か!』
シュテルン公爵が盛大にクォーツ公爵にツッコミを入れていた。クォーツ家って何かあるんだろうか。それとも公爵家同士、仲がいいだけか?
『ところでクロはどうした』
「クロ殿下なら、こっちっす」
ぐったりしたクロ殿下を画面に映す。
『何があった!ケガをしているのか!?』
「いえ……ケガは無いのですが、召喚魔法に負担がかかったらしく……」
『召喚魔法だと……?』
「闇ダンジョンを突破するために、傲魔を召喚したっす」
『傲魔だと!?あれはSS級をも越えるモンスターだぞ!?そんなものを召喚したら、いくらクロのレベルを上げても……っ!』
傲魔……スイランがSS級以上!?
『でもエリック。あのダンジョンはヴェイセルの報告を聞いてもぼくが入った時よりもパワーアップしている。恐らく他の闇ダンジョンを吸収しているんだろうね。ヴェイセルと離れ離れになった以上、傲魔を召喚でもしない限り突破は難しいよ』
『それは、そうだが……ポーションは?』
「それが、エストレラ産ポーションはクロ殿下のマジックバックの中なんすよ」
『通常のポーションでは無理か……回復魔法は?』
「私も扱えますが光魔法系なので、今のクロ殿下には……」
『闇魔法が強いのも考え物だな。フィーア、空間魔法でどうにかできないか』
『ヴェイセル印でリンクのあるマジックバックもクロ殿下がいなくては開けられないし、正確な現在地が不明だからゲートを出せない。ヴェイセルのようなロリショタサーチ能力はぼくにはないからね』
ろりしょたサーチ能力……?よくわからないけどヴェイセルはいろいろと規格外だし、そういう便利能力を持っていても不思議じゃない。
「そういえばヴェイセルたちと連絡はとれたんすか?」
『あぁ……一応ヴェイセルたち4人もダンジョンを突破した』
「それなら……!」
どこかで落ち合えば……。
『しかし。まずいことになった。ダンジョンを突破した先で衛兵に捕まり今は牢の中に軟禁されている』
へ……?軟禁?でもヴェイセルの実力なら簡単に出られそうだけど。
空間魔法も使えるし、たんたんさんも気配を消すのは得意そうだし。
『その突破した先の国が問題なのだ。SS級冒険者がクエスト依頼もなくいきなり国内に現れたら警戒される。奴らは災害級の惨事すら容易に引き起こせるからな。それにヴェイセルはエストレラ人だ。国と国同士の関係もあって下手に空間魔法で姿を消したりすれば、密入国やスパイなどと疑われかねない。タイタンは近衛騎士隊だ。エストレラ王家が関与しているとも疑われかねない。タイタンは認識されていない可能性もあるが』
まぁ、確かにたんたんさんなら……。それにしても……。
「この場所に心当たりがあるんすか?」
『あぁ……恐らくお前たちがいるのもヴェイセルたちと同じ国だろう。後ろに塔のようなものが見えるだろう?』
後ろにも、そこかしこに茶色い文様の入った細い塔が建っている。
『あれはその国特有の建造物で避雷針の役割を持つ。その国は雷の精霊のお膝元だ』
雷の精霊……!属性精霊のひとつだ。そんな精霊がいる場所は世界的にも有名だった。北方の国で雨や雷が特に多い土地。その雷は時に精霊の怒りの象徴ともとられる国。
「……ルタ獣王国っすか……!?」
『……そうだ。獣人族の獣王が治める国。人族はもとより良く思われてはいないが。リョクタ……碧狼族も同様だ』
「……そうっすね」
碧狼族をよく思わない国は多い。それは他種族からの碧狼族への嫉妬が迫害となり、それから逃れるために数々の犯罪に手を染めねば生き残れなかった。
今ではスバル殿下の領地や、クリスタではそれほど偏見を持たれず。皆、足を洗って慎ましやかに生活してるけど……。
連合王国のスバル殿下の治める領地外やエストレラ以外の土地では相変わらずイメージが悪い。尤もルタで碧狼族の印象が悪いのはそれだけが理由ではないけれど。その昔の黒狼族との確執が原因で、狼種がよく思われていないと聞いた。もちろん黒狼アニキたちのせいなわけないし、アニキたちのせいにされるのも嫌だけど……。
『で、ひとつ確認したいんだが……リョクタの横にいるのは……狐耳族か?』
ん……?俺の横にいる……セナさん?
「セナさんは瑠璃色の狼種の雑種っすよ。ね?セナさん」
「……えぇと……」
『銀色なら問題なかったんだが……』
銀色って……?どうして……?
『狐耳族は白に近い色が好まれ、黒に近い色は嫌煙される』
「……えぇ」
セナさんが俯き、深刻な顔をしている。
やっぱりセナさんは狐耳族?
『それはもともとルタを治める獣王が白豹族で、白い混じり毛のない毛並みを重視してきたからだ。しかし獣王が代替わりして、そのような風習もだんだんと薄れていった。けれどとある問題が起こってな……』
問題……?
『獣王が病に伏し、王位争いが勃発した。黒い狐耳族の第1王子と白い毛並みの白豹族の第1王女との間でな』
今、王子が黒い狐耳族って言ったか……?
『第1王子は優秀な方で獣王も種族に関係なく後継者として認めており、国民にも慕われていた。しかし獣王が病に倒れ、第1王女とその母親の妃が純白の毛並みの白豹族こそが獣王にふさわしいと訴え、毛並みと種族を理由に王子を追い出したのだ』
「そんな……毛並みと種族だけでそんなことできるの?」
『代々そこを重視してきた王族貴族たちの集まりだからね。古参の貴族の中には今の獣王の方針や王子を快く思わないものも多いんだよ』
『とにかく……今は第1王子の居場所もわからん。ヴェイセルたちの方はこちらで対策を立てるから……お前たちはとにかくギルドを頼り、保護を求めろ。ギルドはどの国であろうと公平だ。但し祭壇には行くな。ルタの祭壇は雷の……光の祭壇だ。闇の精霊士であるクロが行くのはまずい』
『ニマもね。ジョブが黒魔法士だから』
『ギルドについたら、また連絡をよこすように』
「分かったっす」
先立つ不安ばかりだが、とにかく近くの街を目指しギルドを探す運びとなった。
「その、ごめんなさい……黙っていて……」
「いいっすよ、セナさん。何か理由があったんっすよね?セナさんはもう俺らの仲間なんすから、今更っす」
「リョクタくん……!」
セナさんは目を潤ませ、クロ殿下をおんぶしている俺の狼耳をもふってきた。
「でも2人の容姿……どうする?そのままじゃ……」
「でも変装できるものも持ち合わせてないっすよ」
暑い南部連合王国の気候に合わせて薄着だし、ヴェイセルのマジックボックスもあったので持ち物も最低限だ。
「変身魔法や幻術が使えたらよかったのですけど……」
狼種、暗めな毛並みの狐耳族、人族。この組み合わせはルタ獣王国内では不穏な予感しかないのだが。




