そして船の上
半開きのカーテン。テーブルの上に広げられたポテトチップス。
もう湿気ってしまって美味しくはないだろう。
寝ている日夏(21歳)を照らすテレビの光。
テレビの奥では芸人がただひたすらにボケている。
突然、インターホンがなり、何事かと飛び起きる。
「はーい、どちら様でしょうか?」
インターホン越しに問いかける。
「白黒宅急便です。お荷物をお届けに参りました」
どうやら宅急便のようだ。印鑑片手に扉を開ける。
帽子を目深にかぶっているせいか、顔がよく見えない。
「こちらにサインと、印鑑をお願いします」
[植木 日夏] と書き印鑑を押す。
「それではよい旅を」
「えっ」
次の瞬間、首筋への強い衝撃をうけ意識が遠退くのがわかった。
ただその時見えた帽子の奥は笑っているように感じた。
「日夏、ジュース買ってこいよ」
そう、悟志君はいった。
「嫌だよ」
僕はそう答えた。
「何でお前、俺の言ったこと聞かねえんだ?お前に拒否権はないんだよ。早く買ってこいよ」
僕は仕方なく買いにいく。悟志君は起こるとすぐに殴ってくるからだ。
弱い自分が泣けてくる。半分泣き出していた後ろで声がした。
「ひなつをいじめるんじゃねぇ!」
振り返ると、顔面を蹴られ、泣きながら走り去る悟志くんと走り去る悟志くんに舌を出している女の子がいた。
「ひなつ。あぁ言う奴の、言うことは聞いたらダメだよ。強く断るんだ」
「……うん……」
泣き出してしまっていた僕の頭に手をのせながら、言った。
その女の子はほどよく日に焼けていて、笑顔がとっても似合う女の子だった。
体が気持ちよく揺れ、暖かい。耳をすませばカモメの鳴き声が聞こえる。
ボォー、っと船の汽笛のような音に目を覚ます。
「ここは、つっ……」
叩かれたであろう、首筋に激しい痛みを感じ優しく撫でる。
光の差し込む窓の向こうに見える景色はただ青い海で、1つ言えることは、ただの船に乗っての旅行なんかではなく、意図してつれてこられたことで、逃げ場のない海の上に閉じこめられたのだ。
「なんなんだよこれ……」
何かの間違いであってくれ。そう願って頬をつねるが返ってくるのは痛みだけ。
痛みを感じると言うことは、やはり夢ではないようだ。
一度落ち着いて部屋のなかを見渡す。
ベットと小さな机と椅子。机の上には字のかかれた紙が置いてある。
机の上に置かれた紙を持ち上げ読む。
[おはようございます。植木日夏様。
お目覚め早々、失礼では御座いますが、
部屋を出て向かって左、突き当たりにあります、
ダンスホールへお集まりいただきますよう、
お願い致します。
ルーニー]
そう書いてあった。
なんの情報もないこの状況、罠の可能性があっても行くべきだろう。
なんらかの情報が得られる可能性とお集まりいただきますようということは他にもここへつれてこられた人がいるはずだ。
扉を開け、左へ進む。通路は紅いカーペットがしかれフカフカしている。
突き当たりに扉が見えた来た。
扉に手をのばし恐る恐る開ける。
そこにはこちらを見てくる、12人の人たちがいた。